第05話「少女、八神はやてについて」

「…まだ秘匿情報になってるものもあるからみんなには秘密な…」

そう前置きしてからはやては話し始めた。

「ヴィヴィオを私役に選んだ理由は…そやな…私と似てるからかな…」


 はやては幼少期にある事故に巻き込まれ両親を失った。
 その時彼女も巻き込まれていたのだが幸か不幸か既に闇の書の主として資質を持っていて彼女だけが生き残ってしまった。
 当時、両足が全く動かないという状況もその事故が原因だと思い込んでいた。
 退院して暫くは両親を失った悲しさと動けない辛さから生活の全てを病院が紹介してくれた人に頼っていたが当時父の古い友人であるギル・グレアムが自立するまで支援したいと言ってきてくれて自分を知ってくれて応援してくれる人がいるのを知り自立を目指した。
 1人で出来る事、衣食住くらいは1人でする。
 そう心に決めてからそれ程時間もかからず車椅子ながら1人で生活出来る様にはなっていた。

 病院と図書館と家を行き来する生活が暫く続いたある日、誕生日に闇の書が覚醒して夜天の主を守る守護騎士ヴォルケンリッター、シグナム達が目の前に現れた。
 闇の書の力は魅力的だったけれど沢山の人に迷惑をかけてまで使う力より、一緒にご飯を食べてたり買い物に行ったり笑いあえる家族が出来た事の方が嬉しいし、1人で暮らしていて冷たく辛かった家の中が温かく華やかになった。
 彼女達が今まで戦乱の中を戦い生きてきたのを知り、荒んだ彼女達の心を癒す安らぎの場として自分が主の間だけでも楽しく暮らせたらいいと思っていた。
 しかしそんな楽しい日々も長くは続かなかった。両足のマヒは事故の影響ではなく闇の書が浸食して起きたものだとシグナム達は気づいてしまった。そして闇の書の主として覚醒すれば浸食は止まり再び安らかな日々が訪れると信じ、はやての命令を破った4人は闇の書の完成を目指した。
 その中で同じ海鳴市で暮らしていた管理局嘱託魔導師、高町なのはをヴィータが見つけ遭遇、戦闘が起こり闇の書事件は始まった。

 時を同じく支援してくれていたグレアムははやてを闇の書ごと永久凍結する為に彼の使い魔リーゼ姉妹を動かしていた。だが凍結前にクロノに知られ彼の計画は失敗した。

事件が終わって暫く経ってからグレアムが前回の闇の書封印を指揮していて、彼の部下としてクロノの父、クライド・ハラオウンがその事件で犠牲になったのを知った。



 ヴィヴィオは静かにはやての話を聞いていた。
はやても1人だった。
 ヴィヴィオにとってなのはやフェイトという家族が居るのと同じで彼女もシグナム達が居たからここにいる。
 そしてクロノやリンディは家族を殺された忌むべき存在を主ごと封印するのをよしとせず、あくまで法と秩序を守る時空管理局の執務官・艦長としての責務を全うした。でもその時の苦悩は計り知れない。

「闇の書封印であったグレアム提督の件は管理局の不祥事になるから解除されず秘匿のままや、だからこれから作られる闇の書事件の記録映像は私の知ってる闇の書事件と違う話になる…でもな、私も私の家族もなのはちゃんやフェイトちゃん、グレアムおじさんもクロノ君達もあの時あの場所に居たんや。」

 記録映像はあくまで実際にあった事件を元にする。関係者にとっては懐かしさを感じる者も居れば苦痛を感じる者も居る。
 吐き出す様に言ったはやての言葉からは辛さしか感じない。

「そんな辛い事があったのなら映像にしない方が良いんじゃないですか? そのまま秘匿制限をかけたままにして貰えないんですか? 今解除しても誰もいいって思わないです。」

 そう言うと彼女はソファーから立ち上がってリビングの端に置いてあった封筒を持って来てヴィヴィオに見せた。

「リンディ提督からの手紙。読んでいいよ。」

 メールで済むのにどうして手紙なんてと思いつつ封筒を手に取り中に入っていた手紙を広げる。

『はやてさん、今まで闇の書で色々苦労もあってきたけれど、シグナムさん、シャマルさん、ヴィータさんも目指す道を見つけたのだから、そろそろ背負ったもの下ろしても良い時期だと思うの。家族の為にもはやてさん自身の為にも過去じゃなく未来に目を向けた姿をリインフォースさんも見たいと思うわよ。』

 背負ったもの、それはヴィヴィオにもわかる。彼女が本局ではなく地上本部に居る理由…

「闇の書事件で私やうちの家族に色んな風に思われてる。秘匿情報になってるから仕方ないって言えばそれまでやけど…。でも今はシグナムは首都航空隊に、ヴィータは教導隊に、シャマルは医療班、みんなそれぞれ目指す道を見つけて進んでる。償いはもういいんちゃうかなって。」
「私の為に消えた子も居るし、新たに生まれた子もいる、家族に加わった子もいる…古代ベルカの魔法もせやけど私とヴィヴィオ、似てるやろ?」
「それがヴィヴィオを私役に選んだ理由や。ヴィヴィオ、私役、八神はやて役受けてくれへん?」

守護騎士ヴォルケンリッター、先の事件では襲われた人も数多い。本人・家族・友達…憎む局員は更に多い。彼等彼女等から見ればはやて達は憎むべき存在。
 でもそんな茨の道を彼女達はあえて歩いて来た。
 そのおかげでヴィヴィオはここに居る…大好きな家族や友達に囲まれて笑っていられる。

(私を選んだ本当の理由…これなんだ。)

「…わかりました。はやてさんの役、私します。」

 その言葉を聞いて力強く首を縦に振った。



 それから数日後、全てのスタッフが決まって集まり、その場で5月から撮影が始まると連絡を受けた。
 秘匿情報を含んだ事件の映像化の為、公に解除されるまでは何も出来ないらしい。
 ヴィヴィオはアリシアが前に持っていたのと同じ本局直通ゲートの認証キーを受け取った。
 撮影が終わるまでの期間限定だけれど、地上本部を介さずに無限書庫へと行ける様になってヴィヴィオは喜んだ。
 一方で台本が届くまでの間、ヴィヴィオは八神家で役作りを始めた。


 当時のはやては下半身がマヒしていて車椅子生活を送っていた。ただ車椅子に乗るだけだと考えていたヴィヴィオだったが、それ程簡単なものではなく…

「右足に力が入っている」
「あっ…」
「もっと力を抜いて車椅子に体を預けたほうがいい。」
「そうだね…」

 座ったまま手の力だけで動く機械、ちょっとバランスを崩すと無意識に足が動いてしまう。でも拘束魔法を使うと足に力が入っているのが判ってしまうから慣れないと難しい。
 ザフィーラの横で車椅子と格闘する日々が続いていた。

「ヴィヴィオ、そっちはどう?」

 ある日の教室でヴィヴィオはアリシアに声をかけられる。

「うん…ちょっと苦戦中…アリシア達は?」
「私達も…ちょっとね」

 彼女も言葉を濁し苦笑いした。アリシアとなのは役の少女の役作りも既に始まっていた。2人はコアを使って飛行訓練をしているらしい。
 ほとんど魔法戦が無いヴィヴィオとは違い空戦魔導師が驚くレベルで空中戦を行わなければならない。しかも相手がシグナムとヴィータだ。
魔力資質の差は大きく魔力攻撃の差も埋められないけれど、それなりに飛べなければ頑張って作る映像も残念な結果になってしまう。

「この子は素直な良い子なんだけどね。私が上手く出来ないから…」

 そう言ってポケットから金属のプレートを取り出す。

「まだ時間もあるんだから一緒に頑張ればいいじゃない。ね、バルディッシュ♪」
【Yes Sir】

 映像化が決定した時、アリシアとなのは役の少女はそれぞれデバイスを貰った。
 資質を持たなくてもデバイスに組み込まれたコアから魔力を受けて動く初のインテリジェントデバイスらしい。
 アリシアのは前回バルディッシュとの相性が良く、彼女が以前から持っているデバイスと干渉しないデバイスが要るからとプレシアがフェイトのバルディッシュ・アサルトを元にデバイスを作っていた。なのは役の少女のデバイスにもマリエルが製作し、なのはとレイジングハートも協力したと聞いてるからRHdの兄弟機とも言える。1度会ってみたい。



 バルディッシュは出来上がってから何度か話しかけたけどあまり答えてくれない。無口なのは親に似たのか製作者に似たのか…
 2人して苦笑していると

「ヴィヴィオ、アリシア~次教室移動だよ~」
「一緒にいこう。」

リオとコロナが声をかけてきた。

「うん、一緒にいこか」
「「えっ?」」
「あっ、うん、一緒に行こう♪」

 思わず彼女の話し方が出てしまい慌てて言い直す。

「クスッ…ヴィヴィオも頑張ってね」



そして、撮影開始目前となった4月末

「懐かしいな~」
「本当です~」
「すごい…本当にセットですか?」

 ヴィヴィオとはやて、リインの3人はクラナガン郊外にある住宅地に来ていた。

「ええ、撮影に使う部屋以外はハリボテですが実際に生活も出来ますよ。中も見ますか? 八神司令からお借りした画像や映像を参考に出来る限り再現しました。」

 広報局員の言葉に力の入れようが感じられる。目の前にあるのは海鳴市で何度か見た八神邸の姿。遂にセットが出来たのだ。

「ちょっと前に見た気もするんやけど…懐かしいな」
(そっか…はやてさんとリインさんの記憶、曖昧になっちゃってるんだ…)

 砕け得ぬ闇事件に関わったはやて達には異世界から来たアミティエから貰った機械で当時の記憶は曖昧な状態に書き換えられている。彼女達の喜びようが逆にチクリと胸に刺さる。

「ヴィヴィオ、こっちに来て下さい。ここに私の部屋があったですよ。」

 嬉しくてたまらないのかリインは家の中に入ってすぐに寝室に行きヴィヴィオを呼ぶ。
はやてと2人クスッと笑い彼女の後を追いかける。

「でも、はやてちゃんの読んでいた本とかベッドやぬいぐるみとかあるのに私の部屋は無いです。まだリインが生まれてないですから当たり前ですよね。」

 少し落ち込むリイン、彼女が居る場所には棚があるだけだった。彼女が生まれるのは事件の後だから用意されてないらしい。

「いいえ、まだ届いていませんが八神司令に聞いて当時と同じ物を用意していますよ。撮影が終わればお持ち帰りください。」
「本当ですか♪ ありがとうです~♪」

 文字通り飛び跳ねるリイン。

「はやてさんはママ達みたいに外部協力とかスタッフなんですよね? 今のお仕事も大変って聞いていますし。」

 なのはとフェイトは当時の状況をアリシアとなのは役の少女に伝えたり、シナリオ作成のアドバイザーとして参加している。はやてもシナリオ作成にも関わりつつプレシアから教えてもらったマリアージュ殲滅作戦の指揮もしている。この上更に参加するとなると…倒れるのではないかと心配する。

「まぁそっちの方は何とかなってるし、ヴィヴィオが私役してくれたら全面協力するって約束したからな。すみませんアレ出来てます?」
「ええ、こちらに…」

 はやては彼から少し大きめの箱を受け取る。

「ヴィヴィオ、ちょっとだけ目瞑ってて」
「?」

 何をするつもりかわからないが、言われた通り目を瞑る。箱を開けて何かを取り出す音が聞こえる。
 柔らかい物?

「もうええよ、こっち見て」
「…わぁあああ♪」

 目を開いて思わず感嘆の声が出た。

「似合いますか、我が主?」

 目の前に居たのは銀色の髪の女性、はやてやリインと深く繋がっている彼女。余りにもそっくりで…

「リインフォースさん」
「はい、ヴィヴィオ。一昨日シナリオの打ち合わせが終わりましたから近日中に台本が出来上がります。一緒に頑張りましょうね、我が主♪」
「はい!」



~コメント~
 もしヴィヴィオの時間でMovie2ndA'sが作られたら?
 AgainStory3を書くにあたり悩まされた1つにはやての出生があります。
 なのはなら高町家の末っ子として生まれ育っていますし、フェイトはMovie1st等であった様に生まれ育っています。でははやてはどうだったのでしょうか?
 両親は既に他界していることと唯一誕生日のあるキャラクターだということ…それ以外、出生については触れられていません。そこであえて今話の様な独自解釈を付けさせて頂きました。
 バルディッシュについてはアリシアにもデバイスがあれば…という風に考えていてタイミングも良かったので出しました。今のところRHdみたいに色々化けさせる予定はないです(苦笑)

 これからのAgainStory3ですが、実際に劇場版のシーンと重なる部分が多数出て来ると思います。もし劇場版をご覧になられてない様でしたら先に見てください。

 先週コミックマーケット83の当落が発表されました。
 鈴風堂もおかげさまで当選しており3日目東メ-14bでサークル参加を予定しています。

 生憎私は参加出来ませんが、その分静奈さんが頑張ってくれるそうなので応援しています。
 新刊については「AffectStory~時の移り人~」と「AgainStory3コミカライズVol3」の順に仕上げると決まりました。
(今回もなのはGODで勝負しまして、圧勝させて頂きました。)
 

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