第06話「レアスキル」

『なのは、ちょっといい?』
「ユーノ君、どうしたの?」

 闇の書事件映像化の打ち合わせを終えてミッドチルダへ帰ろうとしていた時、なのはの端末にユーノが連絡してきた。

『うん…この前借りたレリック、そろそろ返さなきゃいけないんだけど…いいかな?』
 何の話だろう? 借りた覚えのないなのはは隣にいたはやてとフェイトの顔を見る。2人も知らないらしく首を横に振った。

「…レリック? RHdのコアの?」
『ううん、完全体の方。ヴィヴィオの調査で使うからって僕から借りて欲しいって…本当に覚えてない?』
「ごめん…ヴィヴィオの調査、帰ったらヴィヴィオに聞いてみる」
『わかった。できれば今週中に返したいからよろしくね。』
「うん。本当にごめんね。」

 そう言うとユーノとの通信は切れてしまった。

「レリックなんて私、何に使ったんだろう?」

 ヴィヴィオのデバイスRHdとアリシアのデバイスにはゆりかごで回収されたレリックが入っている。でもそれらはなのは達が譲渡許可を貰ったものだ。わざわざレリックを借りる理由が思いつかない。でも頭の中ではぼんやり借りたような気もしている。

「そうだよね…プレシア母さんに聞いてみようか? 何か知ってるかも知れないし…」
「お願い。でもここじゃ邪魔になっちゃうから…」
「そうやね…じゃあ近くのカフェにでも行こうか」

なのはは頷き2人と共に近くのカフェへと向かった。



『レリック? ユーノ司書長から借りた?』

 カフェで飲み物を頼んだ後、フェイトがプレシアを呼び出した。レリックの話をするがモニタ向こうの彼女も覚えが無いらしく首を傾げる。

「はい、ユーノはなのはに頼まれたから貸し出し許可を貰ったそうなんですが、なのはも私達も覚えてないんです。」
「ヴィヴィオについて調べるのに使うって言ってたみたいなんですけど、プレシアさん何か知りませんか?」

 そう言うとプレシアは暫く俯き何かを考えた後

『ああ、思い出したわ。レリックね…例の魔法を調べるのにあなたの名前を使ってヴィヴィオに頼んで借りていたのよ。話すのを忘れていたわ、ごめんなさいね』

 聞いて安堵する。

「いいえ、じゃあプレシアさんが持ってるんですよね。明日取りに行ってもいいですか?」
『ええ。いいけれど、もう持っていないわよ。レリックは今RHd、ヴィヴィオのデバイスに入ってるわ』
「「「ええっ!?」」」

 3人は思わず身を乗り出して驚いた。



「…どうしよう…」
「……ごめん、わからない…」
「………」

 ミッドチルダへの帰路の中、なのは達の顔は沈んでいた。

『ヴィヴィオとRHdが作り出す騎士甲冑、彼女があの姿になった時にヴィヴィオとRHdの魔力相互増幅機能によってSSランク相当まで爆発的に上昇する。気になって調べてみたら彼女達はその時、暴走状態にあったのよ。』
『騎士甲冑を纏った後起こるヴィヴィオのリンカーコアの異常とRHdのメインフレーム破損が証拠ね。次使えば壊れてしまうかも知れない危険な暴走、でもそれをコントロールする方法があったの。ヴィヴィオに適合する完全体レリックがあれば彼女は魔力を制御し、RHdの負荷もなくなる。』
『デバイスに組み込まなくてもいい、彼女が騎士甲冑を使う時持っていれば。』
『それがわかったから司書長に頼んで適合番号のレリックを借りて、封印状態でヴィヴィオに持たせたのよ。』

 3人はヴィヴィオが暴走状態だった事にも驚いたがそれよりも今後どうすればいいのか頭を悩ませていた。

「時空管理局に所属する者はロストロギアを発見した場合、速やかに報告して遺物管理部の指示に従い、適切な封印、管理をしなければならない…」
「借りても譲渡してもらっても管理義務はつくからな。しかもレリック完全体やと…遺物管理の資格ないと…流石にな…」

 知ってしまったなのは達もロストロギアを発見した場合と同じ義務が発生する。ヴィヴィオからレリックを返して貰って返却しなければならない。いくら封印状態とはいえ彼女がこのままレリックを持ち続けると罪に問われかねない。
 でも彼女からレリックが無くなれば次に騎士甲冑を使うと彼女が危ない。暴走した結果何が起こるのかは想像もできないけれど大怪我で済むはずがない。
 騎士甲冑モードを使えないようにすればいいのか?

「……あっ! なぁ、なのはちゃん、フェイトちゃん。ちょお荒技やけどこんなんどうかな?」
「はやてちゃん、何か思いついた?」
「うん、ちょっと耳貸して」

 そう言うと2人に顔を近づけ小声で話した。



「ライセンス更新? ちょっと前にしたよ?」

 ある日の夕方、八神邸でヴィヴィオが車椅子の練習をしているとなのはとフェイト、はやてがやって来た。練習を見に来てくれたのが嬉しくて車椅子に乗ったまま彼女達の所に行くと3人とも神妙な面持ちで

「ヴィヴィオ、大切なお話があるんだ…」

と言われて黙って頷いた。

「今ヴィヴィオは自分の魔導師ランク知ってる?」
「うん、総合A。他の魔法を覚えたらもっと上も目指せるから頑張りなさいって言われちゃったから。」
「そうだね。ママとヴィヴィオが使うスターライトブレイカー、集束魔法は魔導師ランクSSになってて一定以上の魔導師ランクが無ければ使っちゃいけない。ちゃんと制御できないと危険だからね。その最低限のランクが総合Aランクなの。」
「うん、試験の時教えて貰った。」

 魔導師ランクの試験を受けた時教えて貰った。
 当時の事を思い出す。
 元々ヴィヴィオは魔導師ランクを持っていなかった。初めて取ったのは管理局製のデバイス【レイジングハート2nd-RHd】を持つ為で登録はしたけれど試験は受けず、勿論ランクも取らなかった。
 当時は戦技魔法が嫌いで司書として検索魔法をもっと覚えたいと思っていたから。
 でもチェントの事件があってからなのはとフェイトに更新しなさいと言われた。シグナムとの模擬戦で見せた騎士甲冑と拡散型スターライトブレイカー、魔導師ランクを持っていないと使ってはいけないらしい。
 それを聞いて魔導師ランクの試験を受けた。試験時に『1番強力な魔法を使ってください。』と教導官に言われ、ヴィヴィオは騎士甲冑を纏ってスターライトブレイカーを使った。
 周りの魔力密度が低くて拡散出来るまで集まらず威力は強い砲撃魔法程度にしかならなかった。それでも試験会場に張られた3つの結界を全て壊してしまい、教導官が目を丸くしていたのを覚えている。

「ママ達はAランクでも十分だと思ってる。ヴィヴィオは司書で士官候補生じゃないからね。でも…ちょっと状況が変わったんだ。」
「状況が変わった?」

 どういうことだろう? 聞き返すとなのはとフェイトは言いにくそうに互いの顔を見ている。

「デバイスの中にレリック入ってるやろ? RHdのコアじゃなくて完全体の方。それをヴィヴィオが持ってると色々マズイんや。ロストロギアを権限もない1人の司書が持ってるなんて異常やろ? 規約覚えてる?」
「あ……」

 言われて思い出す。局員にはロストロギアを発見した時の義務がある。司書になった時教えて貰っていた。

「デバイスに入ってるレリック片とジュエルシードは特別、レリック片はRHdのコアやし譲渡許可も貰っててな、RHdを作った時なのはちゃんとフェイトちゃん、ユーノ君が責任者になってる。」
「ジュエルシードは本来取り外して封印処理せなあかんけど、RHdの1部になってて外すと危険ってマリィさんから報告書が出てる。」
「でもレリック完全体は…封印状態でもRHdに組み込まれてない。一応言っとくとアリシアのデバイスに入れたレリック片も譲渡許可取ってて責任者は私になってるよ。」
「でも…」

 RHdをギュッと握る。この力を使った時しかもう1人の私に会えない。これから一緒にいこうって約束したのに、手放したらまた彼女は1人っきりになってしまう。
 そんなヴィヴィオになのはは優しく答えた。

「大丈夫、ママ達はレリックをヴィヴィオから取り上げようなんて思ってないよ。プレシアさんに教えて貰った。ヴィヴィオが騎士甲冑を使った時、安定装置になってるって。だから…」
「魔導師ランクにはランク付け以外にも特別なランクがあるんだ。プレシア母さんみたいに何かの媒体を通して高い魔力が使える『条件付きランク』とか…」
「私みたいな古代ベルカ式魔法のレアスキル持ちが持つランク以外の付加条件。Sランククラスには付加条件って言ってレアスキル以外にも登録出来る物があってな…例えば私の中にあるリインフォースから受け継いだ魔法とかシュベルトクロイツと夜天の書リイン、蒼天の書みたいにデバイスの複数所持とかな。ヴィヴィオも当てはまるやろ♪」

 頷く。虹色の魔力色もそうだし古代ベルカ式魔法もレアスキルになる。時空転移に至っては今の魔法技術ではあり得ない。

「それでね、急なんだけど明後日…学院をお休みして魔導師試験を受けて欲しいの。」
「明後日!?」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

「ユーノ君から今週中にレリックを返して欲しいって言われてるからそれまでにSランクと付加特性を入れて申請しなくちゃいけなくて、明後日、丁度試験があるからそれに入れて貰える様に話してきた。お願いっ!!」
「…でも…私、まだ攻撃魔法以外じゃバインドしか使えないよ? それに学科試験も…全然わかんないよ?」

 なのはがたたみかけ目の前で手の平を合わせて言われた。彼女の話もわかる。本当に残された道らしい。でも何も勉強していない初等科の子供が試験問題を解けるのか?

「大丈夫、ママ達がフォローするから」
「うん…わかった。」

 ここまで言われてはもう頷くしかなかった。


~コメント~
 もしヴィヴィオの世界でMovie2ndが作られたら?
 AffectStory~刻の移り人~でなのははユーノからレリックを借りています。
(でも、そのレリックはアミティエ、キリエに渡っていてエルトリアの死蝕対策に使われています。)
 Asヴィヴィオは古代ベルカ式魔法を使う騎士です。時空転移という凄いレアスキルもあります。でもそれ以上に凄いのは見たり教えて貰った魔法を古代ベルカ式に変換して使える点だったりします。(クロスファイアシュート、スターライトブレイカー・ストライクスターズetc)
 なのは達が揃ってレリックの話を覚えていないのは…一応理由があります。

 
 

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