第07話「騎士vs騎士」

「その…まぁ…なんだ…私は相手が子供だろうが大人だろうか甘く見たり手加減するつもりはない。以上!」
「「「「「はいっ!!」」」」」」
「はい」

 局員制服を着た男女が1列に並ぶ。その隅っこにStヒルデ学院の制服姿の少女が立っていた。 


 
「え…試験官、ヴィータさんなの!?」
昨夜、ヴィヴィオが今日に備えて寝ようとした時なのはから教えて貰って聞き返す。

「そうだよ。ママも聞いてちょっとだけ驚いた。でもヴィータちゃんはミッドチルダや本局で教導任務をこなす優秀な局員だし、明日はAAA以上を目指している局員が対象だから試験官も絞られるんだ。」

 砕け得ぬ闇事件時、ヴィヴィオはヴィータとシグナムに聖王の鎧を壊して欲しいと頼んだ。
 模擬戦形式の中でなら受けると言われ彼女に挑んだけれど、勝機を見い出せず思いっきり吹っ飛ばされて負けていた。
 ユニゾンして魔力が上げたところで経験の差は計り知れない。そんな彼女に勝てるのか?

「ヴィータちゃん、身内の試験になるとかなり厳しいんだよね。ヴィヴィオも機動6課でスバル達の訓練見ていたでしょ。」
「うん…ヴィータさん厳しかったよね。」
「あれも教導を受けた局員のことを思ってなんだけれどね~。」
 
 教導隊の教導対象は一般局員ではない。成長を見込まれた局員や事件の最前線へ赴く局員を対象にした短期集中訓練。その凄さはヴィヴィオも機動6課時代からずっと見ている。
 だから余計に試験官がヴィータだという事に不安を隠せない。 

「でも…明日は絶対にSランクを取らなくちゃいけないから…ちょっとズルしちゃおうか♪」
「えっ?」

ニコッと微笑む彼女の背に黒い羽が見えた気がした。



 試験が始まった頃、管理局の別の部屋では

「シャーリー…そろそろ試験始まってるよね?」
「フェイトさん、その質問今日だけでもう10回目ですよ。確かに総合Aランクの魔導師が空戦Sランクを受けるなんて前代未聞ですけど、ヴィヴィオなら大丈夫ですって。」

 シャーリーがため息をつく。
 何度聞かれても答えは同じなのだけれど、心配する気持ちもわからないではない。

「そう…そうだよね」
「それにさっきも言いましたけど、結果がわかったらすぐに教えて貰える様に教導隊の友達に頼んでますから。そんなに心配でしたら私が見に行ってきましょうか?」

 敏腕の執務官と言われる彼女でも娘の事になれば世間の母と変わらない…むしろ心配性だ。

「ううん、急いで報告書まとめなくちゃ。合格したらお祝いしたいし、落ちても慰めてあげたいから。」

 そういうとキーボードをカタカタと打ち始めた。

「そうですね。」

近くにある自分の机でシャーリーも経過報告をまとめようと目を移し、軽やかにキーボードを打ち始める。しかし数分後…

「ねぇシャーリー…試験どうなのかな?」
「……ハァ~」

 今日はこの話をあと何回聞くことになるのだろうかとため息をつく彼女だった。



『高町教導官の娘が空戦Sランクの試験を受けに来ている』

 話を聞きつけてか教導隊の部屋には勤務中の隊員だけでなく非番の隊員まで顔を出していた。
 皆の興味の対象は飛び入り参加した小さな局員。
 なのはも隊員達の中でモニタをじっと見つめていた。
 学科試験の採点は既に終わっている。一夜漬けな勉強だったから付け焼き刃にもならず、採点結果は平均以下だった。

(このままだと足を切られて落ちちゃう。でも魔法操作能力と模擬戦で高い評価を得られれば…それには…)

 彼女が考えている通り動いてくれるかどうか…

「司書とは言え9歳の子供にあの試験は酷だったか。だがまだ落ちた訳ではない。」

 背後から声が聞こえ振り返ると隊長が立っていた。

「隊長、申し訳ありません。」

 慌てて立ち上がり敬礼する。

「エースオブエースが背後を取られるとはな。私も子供が試験を受けた時そうだった。終わるまで見てかまわんよ。」
「ありがとうございます。」
「魔法技術が学科と同じ程度なら不合格確定だ。しかしあの顔は諦めていないな。君も含めて。」

 ニヤリと笑う彼に

「そうですね。期待に添えるかわかりませんが。」

 そう言っているとモニタにヴィヴィオの姿が映った。魔法制御能力を測る試験だ。
『所属と氏名を』
『無限書庫司書、高町ヴィヴィオです。よろしくお願いします』


 
【ヴィヴィオ、良く聞いてね。高魔導師ランク試験には3つの試験があってね1つは学科試験、これはフェイトちゃんから教えて貰ったよね。いくら司書で古代ベルカ文字が読めるって言っても多分平均点に届けば良い位、それじゃ試験は落ちちゃう。だからダメだったらダメで落ち込まずに次の試験に頭を切り換えて。】

 無人世界に転移してバリアジャケットを纏ったヴィヴィオはなのはの言葉を思い出す。

【2つめは魔法技術の習得試験。魔法制御能力と多様さを見る試験。ここではヴィヴィオが使える魔法を見せればいい。種類は…ちょっと少ないけれど、もし言われて出来そうな魔法があればRHdにイメージを送って使ってみるのもいいし、レアな古代ベルカ式魔法っていう加点要素もある。でも絶対に時空転移と空間転移は使っちゃダメ。あの魔法が知られたら大変な事になる。わかるよね?】
(わかってるよママ。あれは見せちゃ行けない魔法だもん。)

 セイクリッド・クラスターとインパクトキャノンを撃ちだし、対象物への拘束魔法、そして魔法弾を6個、8個、10個と作りだし

「クロスファイアーシュートッ!」

 砂漠に3つのクレーターを作り出した。そして手前に見える小山めがけて30個の魔法弾を5つずつのグループを作り

「ファイアっ!」

 6本のクロスファイアシュートが同時に炸裂させ小山を消し飛ばした。



 その様子をモニタで見ていた隊員の中でおおっとどよめきが起こる。なのはの隣で隊長もホゥと感嘆の声をあげた。

「戦技魔法の基本、シューターとバスター、拘束魔法とバリエーションは少ないが属性変更して威力を調整する…応用範囲が広い魔法だ。制御能力も十分だな。」
「ええ、中長距離をカバーするには十分です。」

 微笑んで答えた。心象は良い。

(ヴィータちゃんが辛口評価しないといいんだけど…私が言ったら逆に怒られちゃうし…)
 

   
『魔法実技試験終了です。高町司書、所定の場所から試験室へ戻り待機してください』
「はい、ありがとうございました。」

 指示された座標へ向かい、そこから転移したところで砂を払い落とし制服姿に戻った。
 試験室へのドアを開くと全員の視線が集中してたじろぐ。

「ヴィヴィオ、褒めてやりたいところだが。試験官は全員を公平に評価しなくちゃ行けないからな。」

 ヴィータが声をかけてきた。周りで一際背の低い2人が揃って話すから余計に視線が集まってしまう。頭を下げて離れようとした時、彼女に首根っこを掴まれ引き寄せられた。

「ヴィータさ…教導官、わわっ!」
「次の試験、模擬戦の相手は私だ。手を抜くんじゃねーぞ。」 
「!?」

 ヴィヴィオにしか聞こえない小声でそう言うと彼女は答えるのを聞くまでもなく行ってしまった。



「隊長、ヴィータ教導官より模擬戦の変更申請がありました。えっ!……高町教導官のご息女を指名されています。それと模擬戦では制限を外したいと」

 ヴィータがヴィヴィオを指名し、自らの魔力制限を外したいと直前になって申請してきたのだ。
 事務官の言葉を聞きなのはは笑みを浮かべる。

「ということだが?」

 答えに迷った隊長が聞いてくる。

「隊長のご判断に任せます。私は試験担当者ではありません。ヴィータ教導官は私達とプライベートでも親しい関係ですが、彼女は私的な感情を任務に持ち込みません。」
「ふむ…だが、彼女が対戦相手だと息女が躊躇するのではないか? それではヴィータ教導官の方が有利になってしまう。」

 ヴィヴィオが躊躇し、もし彼女の癖をヴィータが知っていたら有利になってしまい結果にも影響する。彼の言うとおりその可能性はある。

「落ちればまた受ければいいだけです。」
「……わかった。許可すると伝えてくれ」
「了解しました。」
「しかし君は凄いな。私なら少しでも受かる確率を上げようと1番ランクの低い隊員を指名するが…」
「でもその分加点要素は多くなります。学科試験をカバー出来る位」

 微笑み答えるなのは。隊員の何名からは「非情で冷酷な母親に見えた事だろう。でもそれでいい

(ここでヴィータちゃんが出て来てくれないとね…あとはヴィヴィオ、頑張って!)



一方で…

「ねぇシャーリー、試験…」
「はいはいわかってます。気になって仕方ないんですよね。もう仕事になりません…」

 そう言うと大きなモニタを出して画面を映した。
 画面の中ではバリアジャケット姿の局員同士が戦っていた。

「? これ…試験の映像?」
「さっき教導隊から許可を貰いまして、試験映像を送って貰えるようにしました。試験中は部屋から外出禁止、緊急時を除いて通信や念話も禁止されますけど…今なら大丈夫です。」
「ありがとう、急いで片付けるから。ヴィヴィオの順番になったら教えて。」

そう言うともの凄いスピードで報告書をまとめ始める。

(フェイトさんの心配性にも困ったものです)

 そう思いながらヤレヤレ顔で彼女を見つめるのだった。


 
「すみません、さっきから何人か帰って来ないんですけど…何かあるのでしょうか?」

 最後の試験、模擬戦闘試験が始まって部屋から出て行く局員より帰ってくる局員の方が少ない。
 人数が減ったのが気になったヴィヴィオは部屋の角で待機している教導隊員に聞いた。

「初めてなんですね。高ランク魔導師の戦闘試験では負傷したり魔力を使いすぎてそのまま医療班へ運ばれるケースも多いんです。私達試験官も力量を見る為に相応の対応をしますから。そういう理由ですから席に戻って待っていてください。」

 柔らかな拒絶を受けてペコリと頭を下げ元居た場所に戻った。
 今まで受けた試験との異質さに少し恐くなっていた。
  
 そして遂に…

「高町司書、ゲートから試験会場へ移動してください。」
「はい。」



「フェイトさん、ヴィヴィオの試験始まるみたいですよ。」
「うん、今こっちも終わったよ。」

 そう行って席を立ちモニタがよく見えるソファーに座る。

「さて…高町教官の自信の顕れを見ようとしよう」
「自信なんてないですよ。ヴィヴィオがんばって」

昨年、ヴィヴィオの魔導師ランクを知ったミッド地上本部の1部が彼女に制限措置を加えようとした。もし今度の試験で空戦Sランクに認定されて同じ様な事が起きたら…その時は誰であろうと2度とそんな考えが出来ない位まで徹底的に叩き潰す。直接この手で…
 なのはとフェイトの2人はそう心に決めていた。



「待ってたぞ。ヴィヴィオ」
「よろしくお願いします。ヴィータ教導官」

 さっきと同じ砂漠世界に降りたところでヴィータが待っていた。彼女の手には尖った鎚、グラーフ・アイゼンが握られている。
 その大きさから彼女の魔力制限が外されているのに気づく。
 本気だと知ってゴクリと唾を飲み込んだ。

『ヴィヴィオ、どうしてお前が試験受けたんだ? お前がもし試験に受かれば…』
『ヴィータさん、私は私でいる為に試験を受けに来ました。学科試験がダメだった分、これでカバーしなきゃいけないから…ヴィータさんを倒すつもりでいきます。』
『…おもしれぇ…』

 瞳の鋭さが増しニヤリと笑っている。
ヴィータが何かを聞いて来たけれど今聞く気はない。
 この試験に落ちたらレリックは取り上げられてもう1人の私に会えなくなる。それどころか騎士甲冑も失ってしまう。
 そんなの絶対に嫌だ。
 視線を逸らさず静かに構える。

【試験、開始してください】

 その声と共に2人はまっすぐ前に飛びだした。


~コメント~
 刻の移り人でヴィヴィオはヴィータと1度模擬戦をしていますが、真っ向対決は初めてだったりします。

 

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