第10話「描かれた記憶」

「今日も無事に巡教完了っと。」

 シャッハから送られた報告書に目を通しサインを入れる。彼女はシグナムとヴィータをこちらに呼んだ代わりに教会騎士・セイン達を伴って巡教団の護衛をしている。   
予想通り、幾つかの世界でマリアージュが見つかった。だがこちらも予定通り全て撃退されている。
建造物に若干被害が出ていたが人的被害はない。危険性と実績を天秤にかけても十分すぎる成果だ。管理局と教会の上層部もこの報告を聞いて満足しているだろう。
 はやては頷いてモニタを閉じ少し離れた所にある部屋を見た。
 機器がずらりと並んだ奥で3人の男女にライトが当たっている。子供達が学院に居る間は管理局内のシーンを優先して撮影している。
はやてはそれを見る為本局の撮影現場に来ていた。

 雰囲気がクロノに似ている少年とエイミィに似た少女がレティから事件の情報を聞いている。

「違法渡航者グループの追跡と確保、主な犯罪行為は大型生物のハンティングと魔導師を狙っての略奪。」
「略奪!?」
「みんな襲われて奪われてるの…魔導師の魔力の源、リンカーコアを」

 レティが自分の指で胸を差す。
 聡明なレティ提督でさえこの事件が繋がっていくとは考えていなかっただろう。
 友人の家族や信頼する上司を巻き込み人生を変えてしまった闇の書事件に…
 ある程度事件の話を得た後、はやては半ば無意識的に闇の書事件から遠ざかる様になっていた。それに気づいて映像化に協力することでもう1度事件を見直したいという気持ちがあった。贖罪ではなく管理局に籍を置く身として。家族の未来を応援する為に…

 この機会に管理局がどの様に動いていたのか? 当時、管理外世界に住んでいてまだ無関係な民間人だった彼女にとってどうしても見たいシーンだった。

「はやてさん。今日は見学かしら?」

 呼ばれて振り返るとそこにはリンディが立っていた。

「はい、私が知らん事件の背景とかあるかと思いまして。リンディ提督、懐かしいですね。初めて会った頃を思い出しました。」
「ああ、これ? 似合うでしょ♪」

 リンディ少し回って見せた。普段彼女は肩あたりで髪を束ねている。しかし今の彼女は会った頃と同じ後頭部で束ねた髪型だった。そして彼女の着た服も出逢った頃を思い出す。

「ええ、とても若く見えますよ。」
「失礼ね~、まだ若いつもりよ。」

 少し怒った顔に思わず吹き出すと彼女も釣られて笑う。

「まぁいいわ、さっきレティやクロノにも言われたもの。若作りしすぎだって。桃子や士郎さんなんて10年前から全然変わらないんだから羨ましいわよね~。」

 苦笑する。なのはの両親、高町士郎と桃子はリンディと一緒で一応孫も居る位なのに会った頃とほとんど年を取ってない様に見える。
 リンディはプレシアと一緒に桃子の手伝いを兼ねて彼女達の生活を見に行ったらしいが、何か成果はあったのだろうか?

「まぁ、あの2人は特別ですから…今日は撮影ですか?」

 私服姿の彼女を久しぶりに見る。

「ええ、午後からデュランダルを使って戦闘シーンの撮影よ、シグナムさんとヴィータさんが相手だから腕が鳴るわ♪」
「いっ!?」

 慌てて端末からシナリオデータを呼び出す。そんなシーンあったか?

「主はやて、確かに戦闘シーンと言えなくもありませんが驚く程ではありません。」
「提督はちょっと飛ばされる程度です。はやて…この辺」
「ありがと…」

 ヴィータの示した場所に目を通す。シグナム・ヴィータと初めて相対するシーン。確かに戦闘シーンには違いないがリンディやシグナムから目的を聞き出そうとするシーン、ヴィータの戦いより後で登場するなのはとフェイトの伏線だ。

「まぁ戦闘シーンには違いないですけど無茶して怪我せんといてくださいね。」
「ありがとう。もしそうなったら2人も巻き込むわ。」

そう笑っって言った彼女からシグナムとヴィータは1歩ずつ後ずさる。2人も彼女の怖さは身を以て知っている。

「こんにちは~、? はやてさん今日撮影ありました?」

 その時、1人の少女がやって来た。フェイト役の少女、アリシア・テスタロッサだ。見た目は昔のフェイトそっくりだけれど、彼女に見られなかった天真爛漫さとその裏に隠れた先読みの鋭さにはやても一目置いている。

「ご苦労さん、今日は見学。アリシア1人? ヴィヴィオとなのはちゃん役の子は?」
「ヴィヴィオは無限書庫に行ってて彼女は少し遅れるって聞いてます。」
「今日が2人のデバイスのデビューやね。がんばってな」

 なのはとフェイトが登場するシーンは撮影が大きく前後している。
 今回の映像ではヴィヴィオ達の学業を優先してほしいという要望を受けて今日の様に登場しないシーンを平日日中に撮影するスケジュールが組まれている。
 それに本局内やミッドチルダではセットを準備できないシーンが多い。
 リンディ達のシーンの様に限られた区域での戦闘シーンは訓練ルームや手近な無人世界を使って撮影できるが、縦横無尽に飛び回って高威力魔法を使う撮影は許可されないし機材の移動も大変になる。
 それに2人が持っているデバイスの形状は今回の映像で新しく登場するデバイスに合わせてあるから旧デバイスを使う戦闘シーンは前回使ったデバイスを用いなければならない。
 フェイトとシグナムの初戦を撮影をしようとするとフェイトのバルディッシュを借りることになる。だからなのはとヴィータ、フェイトとシグナム、アルフとシャマル・ザフィーラとの初戦を含む戦闘シーンは全員が集まった休日にスケジュールを合わせ無人世界で撮影される。

 初戦が終われば続けて新デバイスでの戦闘、ヴィータ達のリンカーコア蒐集時の戦闘、闇の書との戦闘、最終決戦と3連休をフルに使った強行日程が組まれている。
 準備の為に既にスタッフの何人かは無人世界に行っているし、元次元航行部隊所属、現ミッドチルダ地上本部管轄のアースラも本局のドックでフルメンテを受けている。力の入れ様は相当なものだ。

(リインフォースがこれ知ったらどんな風に思うかな…)

 映像化されて恥ずかしがるだろうか? はやてがリインフォース役になることを素直に喜んでくれるだろうか…。


「リンディ提督、シグナム空尉、ヴィータ教導官、準備お願いします。」

 スタッフが駆け寄ってきて2人に声をかけた。

「ええ、行きましょう。シグナムさん、ヴィータさん」
「リンディ提督、頑張って下さいね。シグナム、ヴィータもな。隙あったら落としてもええよ♪」

 そんなことをすれば後で手痛い仕返しを貰う。苦笑してリンディの後を追う2人も身を以て知っている。2人がどういう風に立ち回るのか、撮影が始まったら見に行こうと思い撮影班の後を追いかけた。

(あ…そや、アリシア達バリアジャケットの構築どうするんやろ? やっぱり裸になるんかな?)



「ユーノさん、古代ベルカのエリアから関係ありそうな本持って来ました。」

 撮影班がゾロゾロと移動していた頃、ヴィヴィオは重い本を両手いっぱいに持って運んでいた。 

「ありがとうヴィヴィオ。そこに置いておいて。今日は撮影に行かなくていいの?」

んしょっと机に本を積むと関連項目毎に幾つかの山に分ける。

「はい。私は明日です。凄くいっぱいあるんですよ。台詞覚えるだけでもすっごく大変なんですから。」
「はやてはあの事件で1番重要な役だからね。映像楽しみにしてるよ。」
「はい♪」

 はやて役を演じると決めたきっかけははやてから教えて貰った闇の書事件。色々な思いはあるけれど引き受けたからには全力で演じようと決めていた。

「ユーノさん、この本も撮影に関係してるんですよね?」

 積んだ本から1冊取って開く。そこに書かれているのは統一戦争時に現れた闇の書と思われる記述。ベルカ文字じゃないからヴィヴィオも全部は読めない。

「そうだよ。今回の記録映像に合わせて過去の事件の資料整理も含まれているんだ。はやてが守護騎士達の主になる前の事件の経過やその時の主、被害の状況とかね。」

 ユーノの前に積まれた本の山を見てふぇ~と息をもらす。

「事件の時は彼女達に関する情報だけ秘匿対象にしたんだけど、いい機会だからね。闇の書に似たロストロギアが無いわけじゃないし…」

 闇の書事件は過去に何度も起きていた。管理局にも情報はあるだろうが、無限書庫は更に昔の情報が眠っている。記録映像を作る際には背景となった事件や関連事件についてもまとめられるらしい。バックからドリンクを出して口を付ける。

「例えば…これ、みんな主だった人について書かれているんだ。この本を書いた人も僕達の様にまとめようとしたんだろうね。」 

 首を伸ばして彼のモニタに映し出された画像を見る。大柄な男性や強そうな女性が多い。

「みんな凄く強そうっていうか王様って感じですね。はやてさんと全然違う。」
「アハハ、そうだね。はやては王様ってイメージじゃないね。王様って言うならヴィヴィオもそうだね♪」

瞬時に顔が熱くなる。

「ユーノさんっ!」
「ゴメンゴメン。」
(でも…昔の王様ってみんなこんな人だったのかな?)

 王様になるつもりは無い。でも彼女が背を押してくれた思いは貫きたい。そう思うヴィヴィオだった。



「闇の書の起動を確認しました。」
「!!…あ…ああっ」
「我ら闇の書の蒐集を行い、主を護る守護騎士にございます。」
「………」
「夜天の主の下に集いし雲」
「ヴォルケンリッター」

4人は黒く薄い服を着ているが、それは見窄らしく見えずそれぞれの強さが溢れているかの様に重装感を感じさせる。
 
「なぁ…あのさ…」

 ヴィータが主の下へ歩み寄る。

「ヴィータちゃん、しっ!」
「黙っていろ。主の前での無礼は許されん。」
「無礼っつうかさ…こいつ気絶してね?」
「ええっ!?」
 
「…カァーット…はい、OKです。」
  
 その声を聞いて私は閉じていた目を開けた。
 無限書庫で調べ物をした翌日、ヴィヴィオ達は教導隊の訓練室に居た。
 部屋の照明は全て消され、室内中央に作られた魔方陣だけが光っていて普段無機質な部屋が幻想的な空間になっていた。
 闇の書が起動し、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラがはやての前に現れる重要なシーン。

「目を回したことってないから…あんなのでいいのかな?」
「いいんじゃねえか?」
「ええ♪」
「シグナムさん、ヴィータさん、シャマル先生、ザフィーラ、服、黒1色なのに凄く似合ってますね。今日の為の衣装ですか?」

 そう、全員黒1色で統一されているのだが、みんな少しずつ違っていて、凄く合っている。まるで今までずっと着てきたみたい…

「これは私達が持っていた服だ。召喚時に呼び出された時しか着ていない。」
「懐かしいな、その服」

 声のした方を向くとそこにはリインフォースの姿をしたはやてが立っていた。

「今の撮影シーンな、本当は家で本読んでたらいきなりシグナム達が出て来てな、映像通り驚いて気絶してそのまま病院に運ばれたんや。石田先生、滅茶苦茶疑ってて大変やったんよ。4人とも変な服着ててザフィーラなんか耳あったしな」
「あ~…」

 納得する。あっちでいきなり出てこられただけでも気絶する位なのに、更にシグナム達の事を説明するのは…

「あの時は私達も何も知りませんでしたから…通りがかった人に教えて貰って病院に連れて行くまで大変だったんですよ。」

 こっちも納得する。初めて来た世界、現れた直後に主に倒れられどうすればいいかわからない。

「…おあいこやね。プッ」
「そうですね。クスッ」  
(いいな…はやてさんとシグナムさん…)

 なのはやフェイトとの家庭とは違う感じが少し羨ましくなる。

「じゃあ次は私らのシーンやね。我が主、よろしくおねがいします。」
「うん、リインフォース♪」
 
 ヴィヴィオは差し出されたはやての手を取った。


~コメント~
 もしヴィヴィオの世界でMovie2ndA'sが作られたら?
 今話よりMovie2ndA's本編が関わってきます。ネタバレも含んでいますので、もしご覧になられてない方がいらっしゃれば、先に劇場へ行きましょう(笑)
 Movie2ndA'sを劇中劇にすると元の話はTV版になります。私はDVDを静奈君から借りて見たのが最初でした。TV版でははやては自宅で闇の書の主として目覚め、ヴォルケンsを見て気絶します。その後でどうやって病院にはやてを連れて行けたのか…謎です。


Comments

Comment Form

Trackbacks