第12話「家族の為に…」

(今の様子を昔の我らが見たら驚くだろうな…)

 先代の王に仕えていた自身や主はやての所に来たばかりの自身がこの光景を見たら呆れかえるだろうかそれとも軟弱になったと一喝されるだろうか。
 烈火の将として常に主と主の住む世界の平穏を願い剣を振るってきたつもりだし、自負もある。
しかし常時気を張っていた頃と比べれば・・・。
 昔のシグナムが周りから言われたら激怒しただろうが、今なら受け入れられる。
『背負うものが増えちまった・・・』

 いつかヴィータが言った言葉を借りるなら、本当にその通りだと思う。
 辛く悲しい事件もあるが、それでも主や家族と一緒に居られるこの時間が好きだった。
望むなら永遠に続いてくれればいいとさえ思う。


「わぁ~♪」
「主はやて、本当にいいのですか?」
「ん?何が?」
「あなたの命あらば、我々は直ぐにでも闇の書のページを蒐集し力を得ることができます。その足も治るはずですよ。」
「あかんて・・・闇の書のページを集めるには色んな人にご迷惑をおかせせなあかんのやろ。そんなんはあかん、私は今のままでも幸せや。お父さんお母さんはお星様やけど家も蓄えも残してくれたし、それに何より今はみんながおるからな」
「・・・・・・」
「はやてはやて~♪。冷凍庫の苺アイス食べていい?」

ヴィータが駆け寄ってくる。

「お前、夕食をあれだけ食べてまだ食うのか。」
「うるせーな、育ち盛りなんだよ。はやてのご飯はギガ旨だしな♪」

 夕食を思い出して頬を落とす彼女、こんな様子を過去に見ただろうか?
 先日のヴィータがヴィヴィオに負けてしまったが、彼女も同じだったのではなかろうか?
 模擬戦の映像でヴィータは確かに本気になってカートリッジを3発使ってヴィヴィオに挑んでいた。だが、その様子からは闇の書事件時の様な緊迫した状況ではなく、彼女自身が楽しんでいる様にすら見えた。
 
「シグナム、私は闇の書の力には何にも望みない。私がマスターでいる間はページ蒐集の事は忘れてて。」
「約束できる?」
「誓います。騎士の剣に懸けて」

 胸に抱いた少女の言葉に過去の主が重なって見える。

(リインフォース…お前のおかげで我らは健やかな日々を送っている。お前が一緒にいてくれたら…)

 シグナムの脳裏にチリチリと幼い我が主と彼女が一緒にいて笑っている光景が浮かんでいた。



「命の危険!?」
「! はやてちゃんが?」
「ええ、はやてちゃんの神経麻痺やっぱり進行していってます。最善は尽くしていますがこのままだと内臓機能の麻痺に発展する危険性も・・・」

 この時、私はどうして気づけなかったのか?
 普段慌てる事のない彼女が蒼白になって先生の話を聞いていたのは今でもはっきり覚えているのに・・・。
 シャマルは演じながら心に秘めた思いを繰り返していた。
 湖の騎士、風の癒し手と呼ばれ常にシグナムやヴィータ、ザフィーラの後方にいて、過去の主にも4人の中で1番近い位置に居た筈なのに・・・
 闇の書防衛プログラム、ナハトヴァール。過去の主を何度も浸食して暴走させていた。それなのにどうして気づけなかったのか?
 当時、はやてを助ける為に必死だったとは言えどうして事件になる前に管理局に話をしなかったのかと悔いていた。戦闘になってリンカーコアを奪うという結果になったかも知れないが、もしあの時今までの主の最後や状況を少しでも覚えていたらと思うと胸が締め付けられる思いだった。

(私が止めていたら…事件もはやてちゃんも…)
 
 管理局、リンディ提督と話が出来れば数年間は色々制限がつくだろうけれど、はやてについては伏せられ管理外世界の1民間人とその家族として暮らす未来もあった筈。そうすればあっちの世界の学校に行ってクラスメイトから友達が出来て、好意を寄せたり寄せられたりする甘酸っぱい青春の1ページもあっただろう。もしかすると石田先生を目標に医者の道を目指していたかも知れない。

 それを壊してしまったのは…私のせい…彼女の未来を奪ってしまった。
だからヴィヴィオの時空転移の魔法を聞いた時、真っ先に考えたのがその事だった。当時の自身をはやてへの浸食が進む前にリンディと会わせ、相談に乗ってもらえれば…だが、それは無理だと途中で気づいた。
 ヴィヴィオが存在する為にははやて達が機動6課を立ち上げてJS事件を解決しなければならないから…
 それでも思ってしまう。当時の事を。

(リインフォース…あなたが私の代わりに出ていたら…どうしていたかしら…)



「狭っ苦しい町だな…魔法の臭いもしねえ」
「少なくとも争乱や戦の渦巻く町ではないようだ」
「何が闇の書の守護騎士だよ。適当に選ばれた主とやらの為、闇の書のページ集めの為に戦う存在。どうせ一生こうなんだろう。」
「いつか壊れて果てるまではな…」

 あの時私はもうどうでもいいと腐っていた。
 どれだけ優しく寛容な主であっても闇の書の力を見せつけられたら力を求めるに違いない。そしてまた最初からページ集めをするだけだ。
 ザフィーラが言った様にいつか壊れるまでは…もうずっと前に壊れているんだろう。
 そんな時に私たちが会った主、それがはやてだった。
 闇の書の話を聞いても特に興味も持たず、私たちの服のサイズを測って揃えてくれて、一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、一緒のベッドで寝て…
 何度かこれも心を許すまでの芝居だと考えた事もあったけど、いつからかそんな考えが馬鹿らしく思えてきた。
 はやてとずっと一緒に居られたらそれでいい。


 
「なぁザフィーラ…私たちは前の主の記憶なんてぼんやりとしか覚えてねぇ…」

 撮影の休憩中、ヴィータはザフィーラに話しかけた。

「ああ」
「リインフォースは知ってたのかな…あいつ最後まで何にも教えてくれなかったけどさ」
「そうだな…」
「…そういうヤツだよな。」

思い出しても辛くなる記憶なら彼女は口にしないだろう。

「ヴィータ、さっき撮影で使ったアイスがまだ余っているそうだ。」
「今みんなで食べてるから急がないとなくなっちゃうわよ。」
「なに! ヴィヴィオ~さっきのアイス一緒に食わね~?」
「は~い、いまいきま~す。」

 シグナムに椅子代わりにしていたテーブルから飛び降りるとセットの奥の方へ走っていった。

「変わったな…ヴィータも…我らも…」
「そうね…」
「そうだな…」

 その後ろ姿を見送りながら残った2人と1匹は呟いた。

 自らが引き起こし、関わった闇の書事件の映像化。
 辛い記憶や後悔もあるけれど幸せと思える時間はその時から紡がれている。
そして全員口には出さないが思いは持っていた。
 ここに彼女が居たら…と


~コメント~

 もしヴィヴィオの世界でMovie2ndA'sが作られたら?
今話は劇中劇に対するヴォルケンズをクローズアップしました。
 過去の自分たちを知っているからこそ思う所があるのではと思います。

 思いっきり劇場版のネタバレが入っていますので、まだ見られていない方は3月に発売されるDVDとBDを買いましょう。勿論両方購入は当たり前ですよね(笑)

 AgainStory3は劇中劇ということで劇中のセリフを色々使ってます。結構長いセリフもあるので録画とか録音してたんじゃ? と思われる方もいらっしゃると思いますのでネタバレします。
 本作を作るに前に以前からの話とTV版A'sを参考に大まかなあらすじを作ってます。その後で映画を見ています。
 1回目は涙を潤ませながら見てまして、その後は要所を絞りつつどこのセリフを使えばいいかを考えて再度映画館へ…いつの間にかミニ色紙3種と守護騎士色紙とフィルムが4枚手元にありました。
 セリフは映画館内でペンとメモを使って書いてます。
(他の方の迷惑にならないよう静かにしてもらえるならと中の方に確認してます。)
 暗い中走り書きをしていますので、随所に少し違うというシーンがあると思いますがその辺は見逃してやってください。

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