第13話「目覚め」
- リリカルなのは AgainStory3 > 第3章 「蘇る魂」
- by ima
- 2013.01.24 Thursday 19:48
「我が主…」
「えっ? リインフォース?」
はやてが気がつくと目の前にリインフォースが立っていた。
「どうか…お願いです…私を…」
悲しそうな眼差しで何か言っているのだが聞き取れない。
「何て言ったん? 聞こえへん。もっと近くに来て」
叫ぶが目の前の彼女は悲哀の表情を変えず背を向け遠ざかっていった。
「待って、リインフォースっ、待って~っ!!」
「えっ? リインフォース?」
はやてが気がつくと目の前にリインフォースが立っていた。
「どうか…お願いです…私を…」
悲しそうな眼差しで何か言っているのだが聞き取れない。
「何て言ったん? 聞こえへん。もっと近くに来て」
叫ぶが目の前の彼女は悲哀の表情を変えず背を向け遠ざかっていった。
「待って、リインフォースっ、待って~っ!!」
「…またあの夢や…」
瞼を開くと窓から朝日が差し込んでいた。記録映像に参加してから何度も見ている夢。
闇の書事件の記録映像を作っているから当時を思い出しているのだろうと思っていたけれどここまで続くと…
「病気か…病気なんやろうな…まぁ考えてもしゃあない。今日からあっちで撮影や、気合い入れていこか。」
自分に言い聞かせ寝ている間に流れた涙を拭いベッドから降りた。
「次元の海をまたアースラで行けるなんて思ってませんでした。」
フェイトの言葉にヴィヴィオも深く頷いた。
L型8番艦次元空間航行艦船アースラ。ヴィヴィオ達はその艦橋で次元の海を航行していた。
JS事件で機動6課の本部として使われ有終の美を飾った後廃艦予定だったのだが、そのままミッドチルダ地上本部に籍を移し臨海空港跡地に作られた公園で展示された。
だがヴィヴィオが関わった事件を耳にしたはやてとゲンヤが結託し裏で整備を続けていて、砕け得ぬ闇事件で再び大空を舞う。
「リンディ提督、退官した船のフルメンテなんて、よく予算が下りましたね…」
ヴィヴィオの横でなのはが感心して言うと、艦長席に座った女性が振り向いた。
「映像に残るんだもの。綺麗にしてあげなくちゃ可哀想でしょ。飛べないなら仕方ないけれど、アースラはまだ飛べるのよ。」
『メンテ待ちの艦船を追い出してドッグに突っ込ませるなんて強引にも程があります。レティ提督も頭を抱えたそうですよ。』
メインモニタに1人の男性が映る。
「ええ、でも問題にならなかったでしょう? クロノ提督」
リンディがにこやかに答えるとクロノはハァ~っと深いため息をつきながら
『確かにまるで設えた様に旧L型艦の余剰資材がまるごと1艦分見つかり、当時メンテナンスをしていた者は懐かしさのあまりフル改装に近い程力が入っていたと聞いています…。一体誰が何処から余剰資材なんて見つけてきたのでしょうね…』
「そうね~何処かの倉庫にでもあったんじゃないかしら?」
「「「「「…………」」」」」
2人のやりとりを聞いてヴィヴィオを含む全員が言葉を失った。だがその心の声は全員が一致していた。全部彼女が仕組んだのだと…
「ク、クロノ提督はどうしてそっちなんですか? 撮影に行くならアースラだけで十分だと思うんですが…」
サブモニタに移った巨大な艦影をちらりと見て聞く。
次元の海を進んでいるのはアースラだけではなく、アースラの2回り以上大きな船が随行しているのだ。それもXV級、時空管理局の主力機であるクラウディアが。
『こちらは装備交換後の習熟航行が目的だ。ついて行く必要も無いがそちらのメンバーにはトラブルに巻き込まれやすい者が多いからな、万が一の際の保険くらいに思ってくれ。』
「元本局所属でも今はミッドチルダ地上本部所属のアースラにほいほいと海に出てきて貰うと本局の面子にかかわるから随行船をだした~とか、リンディ提督を臨時艦長に迎える為にわざわざフルメンテしてくれた~とか、クロノ君はああ言うてるけど大人の事情やね。」
近くに居たはやてがニヤニヤと笑みを浮かべながらクロノの言葉を補足する。
『はやて…間違っているとは言わないが少しは場所を考えてくれ。ヴィヴィオ、僕も闇の書事件の関係者だからこの記録映像には協力している。僕達の事は気にせず撮影に専念してくれ。』
そう言うとメインモニタに映った彼の姿は消えてしまった。
「クロノ君、ああは言ってるけど心配だったんじゃないかな。フルメンテしたって言っても老朽艦なんだし航行時に何かトラブルが起きたらとか考えて。」
なのはの言葉に頷く。でも心のどこかにきっと…
(クロノさんも見たかったのかな…撮影)
言えば一笑に付せられるだろうけれど、どこかそんな気もしていた。
一方で
「艦長、本当に良いのでしょうか? 任務を無視してアースラに随行して…」
操舵士が不安そうに聞いてくる。
「メンテナンス明けの試験航行は大切だよ~。どうせ行くなら撮影見たいでしょ♪」
艦長席の横に居たエイミィがクロノの代わりに答えた。部隊を預かる提督自らが任務放棄を認める訳にもいかない。こう言う時、以心伝心の彼女が居ると助かる。
エイミィ・ハラオウン、彼女も撮影に協力している。本当ならアースラに乗ってエイミィを演じる局員に状況や端末の操作を教える筈だったのだが、クロノ自らが頼んでクラウディアに乗って貰った。
「そういうことだ。こちらも動力系の機材やシステムを入れ替えた後だ。この航行で隅々までチェックしてくれ。」
「了解です。」
納得したのか操舵士はアースラとの距離を保ちつつ幾つもの端末を広げチェックを始めた。
操舵しながら他の任務もこなせる優秀さに頷く。
そこにエイミィが顔を近づけ小声で聞いてきた。
「ねぇ…本当に試験航行だけ? 何か気になってるんじゃないの?」
この辺も以心伝心らしい…
「闇の書の記録映像がな…PT事件の映像化はプレシア達の実在を証明させる為に仕掛けたのは母さんやフェイトから聞いている。だが闇の書事件はPT事件とは違う。事件の被害者は今も局内に大勢居る。上司、部下、夫、妻、恋人、友人を失った者達の中には今でも心を痛めている者がいる…母さんも判っている筈なんだが。」
闇の書事件を映像化することではやてや彼女の家族への風当たりを抑えたいといった考えも読めるがあまりに稚拙すぎる。
「それに…何か引っかかっているんだ…僕にもまだ判らないんだが…何かが…」
「それでクラウディアを…」
「そうだ。アースラのフルメンテでスケジュールが遅れたのもあるが、同時期にメンテアップして貰える様にした。」
元々クラウディアの動力系、システムの入れ替えは2ヶ月前に終わる予定だった。しかしクロノはこの映像撮影の話を耳にした時スケジュールを調整し今に至る。
「エイミィ、現地に着いたら母さんやフェイト達のサポート頼めるか。」
「了解、任せて。元執務官の勘を信じますよ~♪ 本当は信じたくないんだけどね…」
「全くだ」
2人して苦笑した。
闇の書事件時、戦闘は主に海鳴市街で繰り広げられた。
記録映像でも市街地での戦闘シーンが予定されているが、いくら撮影とは言え管理外世界の市街地や居住者の居る町で魔法戦を繰り広げる訳にはいかないし、管理局本局やミッドチルダにある訓練施設だと狭すぎる。
そこで少し離れた海のある無人世界が選ばれ、戦闘訓練用の市街地オブジェクトを作られた。ヴィヴィオ達が着く頃には町並みが広がっているそうだ。
ヴィヴィオはアリシア達と無人世界を飛び回ってどんな世界なのか見てみたかった。しかし終盤にしか出番の無いヴィヴィオとは違いアリシア達の戦闘シーンは多く関係者と真剣な眼差しで打ち合わせをしている姿にとてもそんな余裕は感じられない。
(邪魔しちゃ悪いよね…頑張ってアリシア)
撮影が終わればちょっと位見る時間もあるだろう。邪魔にならない様静かにブリーフィングルームを後にした。
部屋に戻る最中、通路の壁にもたれながら端末を見るはやてを見つけた。
「こんな所でどうしたんですか? わぁ凄い♪」
端末を除き込むと調整中のカメラの映像が映っていた。図書館あたりのオブジェクトでヴィヴィオにも見覚えがある。先に撮影した臨海地区を見事に再現していた。
しかし見ている彼女はあまり興味がなさそうだ。
「ん? ああヴィヴィオ、色々考えてしもてな。闇の書事件の記録…本当に残しても良かったんかって…」
「えっ?」
思わず聞き返す。いつも何か余裕を見せて冗談を言い、ヴィヴィオ自身を巻き込んだ張本人が今になって…それにどこか元気もない。
「記録映像を否定する訳ちゃうよ。報告書から見えへん物も映像になれば見えてくるし過去の資料も整理されるから転生型ロストロギアの事件があったらいい資料にもなる。」
「それに出来てみんな見てくれたらシグナムやヴィータ、シャマルへの冷たい視線は減るし私も今まで気負ってたのが軽くなる。」
「だからやな…私が楽になりたいから協力してヴィヴィオも巻き込んだんとちゃうかなって…」
「そんな…違います!」
思わず自分から出た通路に響き渡る声に驚きながら
「はやてさん、最初私がこの話を聞いてはやてさん役をして欲しいって言われた時何の冗談かって思いましたし、広報部の人に追いかけられてまたはやてさんの悪戯だって本当に怒ってました。」
はやては苦笑する。
「でも、ちゃんとはやてさんから私にして欲しい理由を聞いて私がしたいって思ったからしてるんです。巻き込まれたんじゃないです。」
「それに…闇の書事件は…私も知ってますから…はやてさんやザフィーラ達が悪いんじゃないって判ってます。」
法に照らせば犯罪者だったのだろう。でもヴィヴィオは執務官じゃない。
「私、この撮影が楽しいんです。なんだか本当に私に家族がいっぱい出来たみたいで、だから頑張りましょう。リインフォースさんが居たらきっと見たいって言いますよ。」
「そっか…そうやね。ありがとな、ヴィヴィオ」
そう言うと彼女の顔に笑顔が戻る。それを見てヴィヴィオも笑った。でも…
(はやてさん…リインフォースさんの名前を出したら驚いてた…?)
ヴィヴィオとはやてが話をしてから小1時間が過ぎた時、撮影先の無人世界に到着して…
「やるぞ、グラーフアイゼン…」
戦闘シーンの撮影が始まった。
初めて遭遇したなのはとヴィータ、フェイトとシグナム、アルフとシャマル・ザフィーラの戦闘シーンが、続けて新デバイスを纏ったなのはとフェイトがリンディを助けに向かうシーンが撮影される。
それぞれ危険なシーンもあるからアリシア達をサポートする為になのは達も無人世界に降りていた。
一方でヴィヴィオとはやてはアースラのブリーフィングルームで次の撮影に向けてスタッフ達と一緒に打ち合わせをしていた。
「魔方陣ですか? 展開だけなら出来ますけど?」
「術式はこれでいいですか。」
古代ベルカ式の魔法は術者が非常に少なく同じ魔法を使う者は殆ど居ない。シグナムやヴィータは戦闘時に魔法陣を広げているがヴィヴィオははやての魔法を使えない為、せめて魔方陣だけでも広げられないかとスタッフから相談をうけたのだ。
「後は2人で打ち合わせしときますので」
「はい、撮影準備が整いましたら連絡します。」
そう言うとスタッフは小走りで出て行ってしまった。それを見送ってから
「ヴィヴィオが使う魔法は…召還術式とラグナロクとミストルティンやね…これが召還でこっちがラグナロクとミストルティン…と」
はやてが魔法陣を広げて見せる。
なのはやフェイトも多彩な魔法が使えるが、はやてはそれ以上の魔法が使えると聞いている。
「はやてさん、やっぱり魔法っていっぱい覚えてた方がいいんでしょうか」
「そうやね~、無いよりあった方がええな。」
「そうですよね…魔導師ランク試験の時も言われちゃって」
「でも、無理に覚える必要はないんちゃう。覚えたいって思う魔法があるんやったら練習する位でいい、レパートリーの少なさを気にせんでもいいよ。」
魔導師ランクの認定で条件付きになった理由を聞いて気にしていた。
使う魔法の種類が同ランク魔導師に比べて非常に少ないということ。そしてなのはからもランクが上がったとしてもこの条件を外すのは容易ではないと…
「ヴィヴィオが使う魔法なんて誰も使えへんねんから自信持って。余所は余所、私は私、やろ♪」
「はい♪」
でも彼女はそれを真っ向から否定した。
「じゃあ術式の展開方法教えるよ…」
そして…
『アリシア、よろしくね。』
『うん、頑張ろうね』
クリスマスイブの撮影が始まった。
なのはとフェイトに闇の書の主がはやてだと知られ、病室でシグナム達と出会ってしまう。
病室のシーンはミッドチルダで撮ったからヴィヴィオが登場するのはビルの屋上に連れてこられた後だ。
闇の書が完成すると何が起こるかを伝えようとする2人に耳を貸さずシグナムとヴィータは戦い始めてしまう。そこに闇の書が覚醒し防御プログラム『ナハトヴァール』が目覚め闇の書の管制システム、リインフォースが目覚める。
ここでもヴィヴィオの戦闘シーンは無い。はやて演じる闇の書管制人格へバトンタッチする。
「シーン590 スタート」
「なんや…それ…あんた…だれ?」
病室に居た筈なのに気がつけばどこかのビルの上にいる。目の前に現れた蛇を模した奇妙な物体。
「そんなんええねん! シグナム達に何したんっ? みんなを下ろして、返してっ!!」
だがその言葉をどう捉えたのか、ナハトヴァールはシグナム達を消して元のプログラムにして返そうとする。
「ちゃう…そんなんちゃう!!」
「あかん…やめて…やめて…やめてぇええええっ!!」
捕らえられたシグナム達が目の前で貫かれ元のプログラムとしてはやてに戻された。
「あ…あ…アアアアァァァァ!!!」
「はやてちゃん!!」
「はやて!!」
ここで教えて貰った術式を展開。転移魔法で彼女を入れ替わる。
「ヴィヴィオ、お疲れ様」
転移した所にはなのはとフェイトが待っていてくれた。上着と暖かい飲み物を持っている。
「ありがとママ」
それを手にしようとした時、撮影現場の方が慌ただしくなっていた。闇の書管制人格の姿をしたはやてがヴィヴィオと入れ替わったのだが、その後ピタリと止まったまま動かないのだ。
「………」
「……………」
「…はやてさん?」
「…どうして…我がここにいる…」
『ヴィヴィオ、はやてさんの様子…変なんだけど、何か変わったの?』
アリシア達もどう反応すればいいのか判らず念話が届く。
『ううん…何にもして…』
その時強烈な悪寒と共にRHdが
【Master Emergency.Confirmed a jewel seed】
「ジュエルシード!?」
驚いて撮影中の映像を見る。その言葉に険しい眼差しに変わったなのはとフェイトもモニタを見る。
『我が主、どうかしましたか』
「…将よ…どうして、どうして主が我を呼び起こすのを止めてくれなかったのだっ!」
彼女の悲痛な叫び、それはその場にいた全員が戦慄するには十分だった。
~コメント~
もしヴィヴィオの世界でMovie2ndA'sが作られたら?
ヴィヴィオは闇の書、リインフォースと何度か会っています。
今度の出会いはヴィヴィオにとってどんな風になるのでしょうか。
先週は更新出来ずすみませんでした。
SSを更新しようとパソコンの電源スイッチを押したのですが、反応なし…
どうも壊れてしまったらしいです。
先日相方の静奈君が同じパソコンを持っていると聞いてそっちにデータをコピーしてもらい
ゲットしてきました。(元々今まで使っていたパソコンも静奈君から貰った物だったり…)
機械に強い人は凄いです。
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