第16話「夜天の王、八神はやてについて」

「ユーノさん教えてください。闇の書の主が死んじゃった時、新たな主が見つかる迄の転生期間ってどれ位かかっていたのか判りますか?」
「ユーノさん私が見た昔のリインフォースさんの写真、あれは実際の物なんですか?」

いきなり質問したヴィヴィオとアリシアに対しユーノはキョトンとした。
『どうしたの? まぁいいか、ヴィヴィオの質問だけど転生期間は大体1ヶ月から半年くらい。最近の…管理局で確認されてる物だと1週間くらいで新たな主が見つかったって報告もある。』
「じゃあ…はやてさんの時の1~2年っていうのは」
『うん、当時僕も気になってた。クライド提督が亡くなられた時からはやてが生まれる迄の間にどこかの世界に別の主が居たんじゃないかな…アリシアの質問だけど、リインフォースの絵は本物だよ。ヴィヴィオには話していたけど、闇の書事件の記録映像製作には無限書庫を含め過去の闇の書事件に関わる資料の整理も含まれてるんだ。これでいい? それで、撮影は順調に進んでる?…』

 ニコッと笑った彼が映った瞬間、通信が切れた。
 この通信が誰かに聞かれていたらしい、だがこの際そんな事はどうでもいい。
ヴィヴィオの中で何かがチリチリと走る。

(リインフォースさんとはやてさん…そんなことが…起こるの?)
「プレシアさん、ユーノさん、アリシア…今から凄く変な事を話しますね…」



「ねえ、これで良かったの?」

 メインモニタに映る3人から目を離さず彼は答える。

「十分だ。今僕達が出来るのはこれ位しかない。シールド展開状況はどうか」
『現在70%の出力で安定しています。ですが、あのクラスの魔法の直撃には…』
「判っている。武装隊との連携を最優先。内部で何か動きがあれば報告を」
「了解です。」

 そこまで言って彼はこっちを振り向く。

「僕達はまだ知らない事が多すぎる。なのはとフェイトも頑張ってくれているがあっちも時間稼ぎしか出来ないだろう。」
「じゃあ、あとは」
「王様のやる事だ。こっちも王様に希望を託すさ。」

  


 ヴィヴィオが考えたのは八神はやての存在。
 彼女が小さい頃から闇の書を持っていて影響を受けていた事。両親と共に事故に遭うが彼女だけが生き残っていた事。
 アリシアは話した通り闇の書の管制人格として生み出されたリインフォース、彼女とはやてが他の主とは違いあまりにも似すぎている事。
 そして闇の書事件でこれまでの主が全員暴走に巻き込まれた中で唯一生き残っている。
 異世界ではやての中に闇の書の闇が残っていても彼女はそれを抑える力を持っていて、何よりマテリアル達がはやてを新たな管制人格として組み込もうとした事。

「はやてさんって私やチェントに近い人なんじゃないでしょうか? 私のRHdにはジュエルシードが入ってます。封印してないのに安定してるし、今まで何度も私が本当に力を貸して欲しいと思った時に助けてくれました。プレシアさんチェントも…ジュエルシード持ってますよね。」
「ええ、この子のペンダントに入っているわ。封印処理をせずに安定している。ヴィヴィオは彼女がジュエルシードを持っていても安定した状態で持っていられたと言いたいのね?」
「はい。それと…これも思っただけなんですけど…オリヴィエさんは初めてはやてやリインと会った時、ヴィータさんの昔の名前だけじゃなくてはやてさんとリインさんが夜天の王と書の管制人格だと気づいてました。オリヴィエさん、こっちに来てすぐだったのに…。アリシアが言った様に転生機能があるのにどうして生まれてない彼女を選んだんでしょう?」
「それは…」
「ユーノさんが言っていたみたいに誰かに転生したとかすぐに転生出来なかったとも考えられますし、オリヴィエさんが未来を見て知ってたとも考えられますけど、生まれるのを待っていた…と考える事もできませんか?」
「プレシアさん前に教えてくれましたよね。時空転移を使ったら私が着いた時から新たな時間軸が生まれて複数の時間軸が作られるって。これはオリヴィエさんも同じ事を言ってました。オリヴィエさんの居る過去から見たらここを含めて全部未来です。」
「時空転移にはオリヴィエさんの資質と刻の魔導書が揃わなきゃ使えないから、最後のゆりかごの聖王オリヴィエさんが最後に時空転移を使ってから私が使うまでずっと1本の道になってる筈です。私が時空転移した時間では全部闇の書事件が起きてます。」

 今居る時間軸、未来である事を知っていて因果を書き換える存在が居たなら…

「ヴィヴィオ…まさかオリヴィエさんが?」
「オリヴィエさんかはわかんない。もしかするとオリヴィエさんの先祖か闇の書を作った人かも…使った事ないけど悠久の書には未来を見る魔法もあるから…」

 闇の書の終焉をもたらす因果を誰かが埋め込んだ…
 闇の書が何十回、何百回かの転生後した後、数百年後に生まれてくるであろう【八神はやて】を主にする為

「全部思いつきの話で調べられないけど…プレシアさん、どうでしょうか?」

 暫く黙って俯くプレシア。
 そして彼女は口を開いた。

「…そうね…あくまで可能性の話ね。ヴィヴィオが言った通り調べようも無い話だけど…」
【コンコンッ】

 その時天井から何かを叩く音が聞こえた。チェントを含む全員が天井を仰ぐ。

「ヴィヴィオ、聞こえるか?」
「…アギト?」
「そうだ。シグナム達とリインはオットーが作った結界から出られない。でも私は大丈夫だからこれを…受け取れっ」

 通気口の隙間から何か落ちてきた。床に落ちたそれは堅い金属音を鳴らす。駆け寄って手に取るとそれは…

「レヴァンティン、グラーフアイゼン」
「クラールミント…これ、リインさんの髪飾り…」

 それは待機状態にしたデバイスとリインが大切にしている髪飾り。
 今すぐにでも主を助けに行きたいけれど、行けば再び闇の書に呑まれなのは達に刃を向けるかも知れない。そう考えて唇を噛みしめクラウディアの中で大人しくしている。
 だから…せめてデバイスだけでもということか?

「それからこれはリインからの伝言だ。言われたまま伝えるぞ。『思い出してください。ヴィヴィオは異世界で闇の書に呑まれたはやてちゃんを助けてくれました。お願いします。はやてちゃんを助けてください。』以上だ。私からも頼む。マスターを助けてっ」
 
(そうか、その方法があった…)

 1つだけ彼女を助けられる可能性があった。異世界で起きた闇の欠片事件。心の中にあった闇を払う方法が。
 同じ手が使えるか判らない。蘇ったリインフォースは闇ではなくはやての願いを叶えたジュエルシードが作り出している。闇の書の闇を払えてもその方法でジュエルシードが暴走、爆発すれば爆心地にいる彼女は瞬時に消滅する。

「ヴィヴィオ、じゃあさ…」

 その後アリシアが口にした言葉を聞いて

「そんな、危ないよ。失敗したら一緒に…」
「大丈夫。私もはやてさんとまたお話したいもん。」

 そう言うと小さな髪留めを妹の髪に留め、自ら両手に指輪をはめ、ヴィヴィオの首に2つのペンダントをかけた。

「…わかった。行こうアリシア、チェント!」



 そうして3人は再び無人世界へ飛んだ。
 デアボリックエミッションで闇に染まった中へ飛んだらしい。
 なのはとフェイトがリインフォースと一定の距離を保っている。海岸では管理局員が取り囲んでいる。
 まだ誰もこっちには気づいてない。条件も全て揃っている。

「いくよ、アリシア、チェント」
「うん、バルディッシュ!」

 そう言ってヴィヴィオとアリシアはRHdとバルディッシュを起動しバリアジャケットを纏った。そして

「私ははやてさんを助けたい。お願い私に力を貸して。」

 騎士甲冑を呼び出そうとした時、何故か呼んでもいない悠久の書が現れた。

「悠久の書? どうし…」

 その声も聞かず、ヴィヴィオは虹色の繭に包まれてしまい消えてしまった。

「……ヴィヴィオ? ウソ…」

 そこには呆然とするアリシアと何が起きたのかときょとんとするチェントだけが残されていた。


~コメント~
もしヴィヴィオの世界でMovie2ndA'sが作られたら?
クライドが闇の書と共に消えてからはやてが生まれるまで1年~2年の時間。どうして闇の書は転生しなかったのか? 劇場版を見て気になった所でした。

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