第18話「新たなる愛機」

「リンディ提督、失礼する。」

 リンディがランチルームでエイミィと少し遅れたお弁当を食べているとディアーチェがレヴィを連れ入ってきた。

「いらっしゃいディアーチェちゃん。珍しいね。どうしたの?」

 エイミィの言葉に頷く。闇の書のマテリアル、闇統べる王としての記憶もあるのか彼女は他の3人とは違いアースラスタッフや管理局と一定の距離を取っている。
 そんな彼女が何用だろうか?
「頼みがある。はやてのデバイスを作った際幾つかの試作機があったと聞いている。それを1つ貸りたい。それと先に聞いていたレヴィとシュテルのデバイスはどうなっているか教えて欲しい。」
「「…………」」

 2人は目を丸くして驚いた。素直に頼み事をする彼女だけでも珍しいのに彼女達が自ら手放したデバイスを再び求めているのだ。
 砕け得ぬ闇事件の後、ユーリの中に眠るエグザミアを求めて来た者に対する対抗手段の為、ディアーチェ・シュテル・レヴィは起動できる唯一の方法だった紫天の書とそれぞれのデバイスを消滅させた。
 術者とデバイスには強い結びつきがある。しかし3人はユーリの為に躊躇わずデバイスを手放した。その思いを受けてリンディはエイミィと本局のマリエル・アテンザに内々でユーリの分を含む4人のデバイス制作を頼んでいた。
 シュテルとレヴィ、ユーリはそれを快く受け入れたのだけれどディアーチェは…

『我が再び杖と書を手にする事はない。もし機会が再び訪れるならばその時は我自ら作る。』

と固辞された。だがその彼女がデバイスを求めてきたのだ。

「何か…あったのかしら?」
「……秘密にしても意味はない、今ヴィヴィオが家に来ている。提督を含め皆記憶封鎖をしているから子鴉達と会わせられん。ヴィヴィオは今ある事件に巻き込まれている。それを解決するのに急ぎデバイスが必要になった。」

 彼女の説明に頷く。砕け得ぬ闇事件の記憶が曖昧だったは記憶封鎖が原因なのだろう。そしてそれはヴィヴィオに会うと解けてしまうもの。不要な記憶が蘇って未来に影響するのはリンディも危惧するところだ。それに彼女には何度も助けて貰っている。断る理由はない。

「わかりました。はやてさんの試作機は今日中に届けて貰います。エイミィ、3人のデバイスはどうかしら?」
「ユーリちゃんは元々デバイスを持ってませんでしたからデバイスと言うより艦長との魔力共有支援用になっていて組み上がってます。ですがシュテルちゃんとレヴィちゃんのは…」
「僕あのデバイス嫌い。話しかけてもずっと黙ってるし、喋ったなって思ったら【YesSir】って答えるだけで全然魔法も使えないんだもん!」
「レイジングハートとバルディッシュを使って同系のデバイスを組んだんですけど…こんな感じです。シュテルちゃんの方もあまりいい相性とは…」

 術者とデバイスの関係。術者とデバイスには相性がある。クロノのS2Uやはやてのシュベルトクロイツの様にただプログラムを使う為のリソース、ストレージデバイスであれば問題は無いのだけれど、人格プログラムが入ったインテリジェントデバイスは術者との相性が重要になる。
 いくらなのはとフェイトを元にしている2人と言っても見た目が似ているだけでほぼ別人。そんな彼女達がレイジングハートとバルディッシュを元にした人格プログラムと合うとは限らない。
 レヴィの言葉がそれを物語っていた。

「バルディッシュは寡黙だからね~…一応2人に馴染む様に初期人格プログラムから組んで貰ってますがまだ時間が…」

 急に必要になるとは考えていなかったから仕方ないとも言える。

「…仕方あるまい。全員ストレージデバイスでいい。どうせ使う魔法は1つだ。」
「そうね仕方ないわね、デバイスはこっちにあるからそっちも今日中に用意します。あなたがここまで足を運んで頼みに来た位だもの。」

 そう言うと彼女は顔を一気に赤らめ声を荒げた。

「か、勘違いするなっ。我は1刻も早く借りを返したいだけだっ!」
「王様顔真っ赤になってる~。後でシュテルんとユーリに教えてあげよ♪」
「レヴィィィイイイ!!」

 レヴィを追いかけ回すディアーチェ。それを眺めながらリンディもディアーチェと同じ気持ちだった。
 先の事件ではアースラチームとなのは達、ディアーチェ達だけではユーリを救える可能性は低かった。ほんの少し違っていれば誰かが犠牲になっていた可能性すらあった。
 それはアースラの右舷・左舷を吹き飛ばされ大改修に至った時点で明白だった。
 そこにヴィヴィオが時間を超えて来てくれて、彼女が1人でアンブレイカブルダーク、ユーリを操っていたシステムを壊してくれたから全員無事でかつユーリを救うという奇跡が起きた。

「そうね。ディアーチェさん、ここで借りを少し返しましょう。」
「うむ」



 一方でクロノはクラウディアを無人世界の軌道上へ移動させた後、艦長室でミッドチルダや本局で撮影された映像を見ていた。

「こんな時に何やってるの。現場が大変なことになってるんだよ」

エイミィが小走りで駆け込んでくる。

「丁度いいエイミィ解析を頼む。はやてがいつジュエルシードを手にしたのか気になっていた。」

 闇の書出現時から何かが引っかかっていた。
 八神はやては管理局員でしかも遺失物管理について専門知識や技術を持っているスペシャリストだ。JS事件ではジュエルシードも関係していたから彼女も存在や効果についても知っている。
 そんな彼女だからもしジュエルシードを発見したら間違いなく報告するだろう。仮に何らかの事情で報告出来ない状況にあっても持ち歩くのであれば厳重な封印処理を施している。ましてや撮影時に持っている筈がない
 それらの前提に基づいてクロノははやてが意識せずに持っていた、持たされていた可能性を考えていた。彼女に気づかせず持たせるにはどうすればいいか?

「わかった。こっちはやっておくから艦橋に戻ってて。あなたじゃないと時間が稼げないんだから」

 無人世界で第1級ロストロギアが復活した。リンディやレティ、旧知の仲間が今を手を尽くして彼女への攻撃命令を遅らせている。
 だが最後にその命令を受けるのはクロノだ。

「ああ、何かわかったら教えてくれ。」

 そう言って艦長室に彼女を残し出て行った。  



「ママっ、ヴィヴィオが消えちゃった。」

 今から作戦開始だと言うのに、虹色の光球が現れヴィヴィオを包み込んでそのまま消えてしまった。
 デバイスで反応を調べたがヴィヴィオも彼女のデバイスも反応がない。

(あれは…きっと時空転移の光だ)
「どうしよう、ママッ」
『落ち着きなさい。チェントも居るのよ、今はそこを動かずじっとしていなさい。デバイスデータを送って。ヴィヴィオがどこに行ったのか調べるから。』

 忘れちゃ駄目だ。今は私1人じゃない。守らなきゃいけない妹がいるんだ。
 不安そうにバリアジャケットのマントを握る彼女を抱き寄せる。

「大丈夫、怖くないよ。お姉ちゃんが一緒に居るから。お姉ちゃんも怖がってないでしょ?」

 笑うとその笑顔を見て少し安心したらしい。強ばった顔が幾分和らいだ。
 でもここは闇の書が作った結界の中でフェイトとなのはが闇の書となったはやてと対峙しているのが見える。強力な砲撃魔法が飛んできたらと思うと笑っていられない。

(ヴィヴィオ…)



(ヴィヴィオ…)

 一瞬呼ばれた気がして振り返るヴィヴィオ。
 だがそこには花壇に水をやるリインフォースが居るだけだった。
彼女は一通り水やりした後、横に座る。

「…ヴィヴィオ…すまない…我があの時消えていればこんな事は起こらなかった。」
「そんな、リインフォースさんのせいじゃないです。はやてさん、きっとここに来られなくてもリインフォースさんに会いたいって気持ちは変わらなかったと思います。」
「…ありがとう。ヴィヴィオは知ってるのか…我が我が主と契約せず日々を過ごしているのを。」

 シグナム・シャマル・ヴィータ・ザフィーラは守護騎士プログラムとして契約しているしディアーチェも魔力を共有する契約をしている。しかしリインフォースは元々去年の12月に消える運命だった。だから…彼女だけは契約せず残った魔力だけで今を過ごしている。
 そしてそれは時がくれば消える事を意味している。

「我は幼い我が主に魔導の全てを伝え、新たな祝福の風に願いを託し消える。だから立派に成長した我が主にまみえる事は出来ないと思っていた。しかしヴィヴィオが連れてきてくれたおかげで立派に成長した主や騎士達、新たな祝福の風に会えた。時は違っても主が健やかに過ごしているのがわかった。我の望みは十分に叶えられた。」
「リインフォースさん…」

 彼女の頬を涙が伝う。

「ヴィヴィオ頼む、我が主を助けてくれ。ヴィヴィオの時間に現れた我もそう思っている、主を糧に蘇るのは不本意でしかない。」
『…将よ…どうして、どうして主が我を呼び起こすのを止めてくれなかったのだっ!』

 目覚めて彼女が最初に言った言葉は異世界の彼女の言葉が間違いないものだと信じるに十分だった。

「…私は…」
「ただいま~ん? 見慣れん靴がある…お客さん?」

 その時玄関の方から声が聞こえた。ドアを開けて入ってくる足音が聞こえた。

「学校から戻られたようだ。お帰りなさい我が主」
「ただいま~リインフォース。誰が来てる…ん?」

 ヴィヴィオを見た瞬間立ち止まる。

「はやて…久しぶり」
「…!! ヴィヴィオちゃん、ヴィヴィオちゃんや!!」

 はやては満面の笑みを浮かべ駆け寄り抱きついた。

「みんな今日は管理局なんや。そや、なのはちゃんとフェイトちゃん呼ぼう。2人とも会いたがってたよ♪」

 念話で呼ぼうとするはやて

「待って、2人には言わないで。あのね…」

 わざわざ記憶封鎖を解く必要はない。ヴィヴィオはそれを制してかいつまんで事情を話した。

「…そう、またすぐに帰らんとあかんの…残念や」

 でもどうしてもはやてが闇の書を目覚めさせた事だけは口に出せなかった。

「でも今日はここに居るんやろ。うちの子達に話す位はええやろ、みんなで歓迎会しよ♪ 鍋の具買ってくるから待っててな。八神家特製鍋、楽しみにしててな♪」

そう言うと大きめのバッグを手に走って出て行った。

「はやて、もう走れるんですね。」
「まだ石田先生から激しい運動は止められているが、日々の暮らしで歩いたり走るのはいいリハビリになるそうだ。」

 前に来た時より活発な感じがしたのはやっぱり自分の足で歩いたり走ったり出来るからなのだろう。

「そう言えばディアーチェ達、遅いね…」
「そうだな、すぐ戻ると言っていたのだが…」

 昼食のカレーをレヴィ達と食べてから2人はアースラに行っている。それから時間が過ぎもう陽が沈みかけている。何をしているのかヴィヴィオは少し気になった。



 その頃アースラの練習場では

「これが…新しいデバイスですか。」
「うん、かっこいい!!」

待機状態のデバイスを手に取るシュテルとレヴィ。それぞれレイジングハートとバルディッシュに似ているが色が違っている。

「まだ制作途中でインテリジェントシステムが入ってないんだけど」
「構わぬ。我のデバイスはこれだな」

 ディアーチェ薄藍色のペンダントを手に取る。こっちもはやてのシュベルトクロイツの色違いになっている。

「そう。ユーリちゃんはデバイス使ってなかったからブレスレット状にしたよ。デバイスっていうより魔法使う時の支援用のアイテムって感じかな」
「エイミィ、ありがとうございます。」

 ユーリは残ったブレスレットを手に取った。

「3人のはまだ作ってる途中だから注意してね。それと初期起動で名前を登録しなくちゃなんだけど、今しちゃっていい?」

 言われて思案する。どんな名前がいいだろうか?

「名前か…」
「構いません、既に決めています。」
「うん。もう決めちゃってるからいつでもOK♪」

 2人の顔を見てああそうかと想いを馳せる。
 短い時間だったけれど…共に戦い

「…そうだな。デバイス起動」

 友を助ける為に別れた名を再び与えよう。

「目覚めよっ、エルニシアクロイツっ」
「もう1度私と一緒に、ルシフェリオン」
「バルニフィカス、セーットアーップ!!」
【【【StandByReady Setup】】】

 眩い光が消えた後、3人はかつての姿を取り戻していた。


~コメント~
もしASシリーズでMovie2ndA'sが作られたら?
現在と異世界が同時に進んでいて少しややこしくなっちゃってます。ごめんなさい。
ルシフェリオンとバルニフィカスのインテリジェントシステムについてはそのまま乗せる? 逆にしたほうがしっくりくる? とか考えてましたが無難な方向におさまりました。

Comments

ima
読んで頂きありがとうございます。
リインフォース(アインス)の一人称は「私」です。
17話~登場のアインスが「我」と変えているのはヴィヴィオの世界で異世界の自身が起こした事に対する申し訳なさからの逃避、17話でヴィヴィオが目を合わせなかった理由に気づき【別人として振る舞おう】と考えた為です。
13話~登場のアインスが「我」と言っているのも似た理由からです。
2013/02/20 01:07 PM

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