第03話「ようこそ、ホビーショップT&Hへ」

「結構近くでビックリしたね。」

 少し大きめのリュックを背負ったヴィヴィオは隣のアリシアに向かって言った。

「うん、でも…そんな建物海鳴にあったかな~?」

 首を傾げて答える彼女はリュックが2~3個入りそうな大きなトランクを転がしながら歩いている。

「お店の人からも地図貰ったから、早く言って元の世界に戻る方法さがそ」
「…そうだね。うん♪」

 彼女には何か思う所があるらしいが、それでも2人の足取りは軽かった。


 しかし2人が向かう先、ホビーショップT&Hでは1人の少女が全力疾走していた。

「か、母さんっ、アリシア、大変! ゲームでアリシアが居たっ!」

 ブレイブデュエルのサポートスタッフをしていたフェイトは店舗の方へ駆け込んでくる。

「えっ? アリシアなら…」

 ぬいぐるみが置かれているコーナーを指さす。そこから別の少女がひょいと顔を出す。

「フェイト、私はここだよ? どうしたのそんなに慌てちゃって」

 2人は駆け寄る。普段取り乱さない彼女がここまで慌てるなんて何があったのか?

「えっとね、さっきブレイブシステムのチェックしてたらエラーになったカードが出てきて。その子がゲームを始めたから教えてあげなきゃって思って行ったんだ。そうしたらそこに私そっくりのアリシアが…居たんだ。」

 フェイトそっくりなアリシアと聞いてアリシアの瞳が輝く。

「へぇ~それでそれで♪ その子はどうしたの?」
「えっ? わ、私を捜していたみたいで、今こっちに来るって。アリシアどうしよう」
「どうしよう…ってねぇ…」
「ねぇ…決まってるじゃない」

 プレシアとアリシアは顔を見合わせ

「勿論お迎えしましょう。フェイトそっくりのアリシアなんて…そうだわ! カメラ用意しなきゃ♪」

 プレシアは頬を染めつつ小走りに店の奥へと入っていった。

「あっ、私も~パーティグッズの試供品どこにしまったかな~」

 プレシアを追いかけアリシアも奥へと入っていく。

「…母さん…アリシア…」

 フェイトはこの時になって思い出した。
 プレシアとアリシアはそう言う事に関しては人1倍…数倍興味を持ち、店番ですら放置して趣味に暴走してしまう事を…

「…もう」

 そう呟きながらも、レジの下に置いてあったエプロンを着け抜けた2人の穴を埋める為レジに立つのだった。



「ふえ~…おっきい」
「…」

 ホビーショップT&Hの看板を見つけやってきたヴィヴィオ達は建物の大きさに驚く。

「ホビーショップT&Hへようこそ」
【パンっ!!】
【パパンッ!!】
「キャッ!?」
「!!」

 その中に入った途端、鳴った破裂音で更に驚かされ、タタタっと駆けてきた少女を見て。
 
「わっ本当にフェイトそっくり♪」
「えっ? アリシアっ!?」

 ヴィヴィオは思わず声をあげてしまった。
 それもその筈、目の前に現れたのはさっきゲームで会ったフェイトより少し小さな女の子、しかもアリシアやフェイトとそっくりだったからだ。

「本当…ママもビックリ」
「ママっ!?」
「プレシアさん!?」 

 そう…フェイトと会ってお店の名前を見て居るとは思っていた。でもまさかいきなりプレシアに会うなんて。

「…ごめんヴィヴィオ…あとお願…」

 急に背中が重くなる。 側にいた彼女が体を預けてきて慌てる。

「えっ? アリシア?」
「………」
「ちょ、ちょっと!! アリシアっ!?」

 ヴィヴィオの声がアリシアに届く事は無かった。


 
「…う…ん…?」
「おきた?」
「あ~私、驚きすぎて気失っちゃったんだ…」

 額を冷やしていた濡れタオルを外しながら起き上がるのを手助けする。

「いきなりフッって倒れちゃうからビックリしたんだからね。大丈夫?」
「うん…ここは?」
「休憩室。病院に連れていかれそうになったんだけど、驚きすぎただけだからって」

 それなりに気丈だと思っていたけれど、流石に驚きすぎたのだろう。
 
「それで…ママ…プレシアさん達は?」
「お店に戻った。…それでね…」

 今話しておいた方がいいか少し迷うがすぐに判る事だと考えて

「ここって私達が知ってる世界に似てるけど全然違うみたい。」
「どういうこと?」

 ヴィヴィオは彼女が気を失っている間に見聞きした事を順番に話し始めた。



~アリシアが気を失った直後~

「アリシアっ!?」
「驚かせ過ぎちゃった? ママ!」
「大変っ!」

 慌てて支えるヴィヴィオに2人が駆け寄る。
 その時

「プレシア~、あなたったらまたフェイトにレジ押しつけてっ!!」

 奥から聞き慣れた声が聞こえ振り向くと

「リンディさん!?」

 怒り心頭なオーラを出すリンディが居た。だが彼女はアリシアが気を失っているのを見た途端

「フェイト? さっき上で…」
「リンディ、休憩室に運ぶわ。先に準備して頂戴」
「荷物は私が、あなたも一緒に来て。」
「う、うん…」

 プレシアに抱き上げられたアリシアとアリシア、フェイトに似た少女の後を追いかけ休憩室へと向かった。
 ソファーにアリシアを寝かせた後は驚きの連続だった。

「わ、私はヴィヴィオって言います。彼女はアリシア・テスタロッサ」

 そう言った途端プレシアとリンディと少女は目を丸くして驚く。

「わっ、本当に同じ名前。私もアリシア、アリシア・テスタロッサ。それでこっちが私とフェイトのママ、プレシア・テスタロッサで、こっちがリンディさん、リンディ・ハラオウン。ここはママ達が経営するホビーショップだからT&Hって名前なの。」
「アリシア…」

 驚きよりも先に似ていて当り前だと納得した。

「ママ、フェイトは?」
「お店番してくれているわ、さっきエイミィに交代を頼んだからもう来るんじゃないかしら。」
(エイミィさんもいるんだ…だったら)
「クロノさんは?」
「クロノを知ってるのね。クロノはリニスとお使い頼んでいて夕方まで帰ってこないのよ。」

 どうやらクロノとリニスも居るらしい…

(なんか思ってたより凄い世界みたい…)

 魔法が使えない、プレシアとリンディが一緒にお店を経営、フェイトにはアリシア姉妹がいるし、クロノやエイミィ、リニスまで居る。
 ここに来て魔法が使えればすぐに解決すると思っていたけれど…そう簡単には進みそうもない。
 ソファーで眠るアリシアを見る。

(先に相談した方がいいよね。)

 今まで勝手に動いて失敗した経験はたくさんある。アリシア達にもっと色々聞けば戻るきっかけを掴めるかも知れない、勝手に動いて逆に見逃してしまう危険もある。

「私達の事は…アリシアが起きてからでお願いします。」

 そう言ってヴィヴィオはアリシアの眠るソファーの横で彼女が起きるのを待つことにした。



「…そうだったんだ。ごめんね、ありがと」
「ううん、アリシアどうする? 私達の事全部話しちゃう? 別世界から来ましたって…じゃないとアリシアが疑われない?」

 ヴィヴィオはアリシアの事が気がかりだった。アリシア・テスタロッサがここに居る以上名前だけでなくファミリーネームまで同じで見た目そっくりな少女が居るという偶然はありえない。
 リンディとプレシアがその辺を調べ始めるのも時間の問題。
 だったら、異世界人として話した方がいいのではと考えていた。

「う~ん…まだ言わない方がいいと思う。それよりあのゲームについて調べようよ。その時聞かれるなら答えるって感じでいいんじゃない?」

 余りに驚く事が多すぎてゲームの事を忘れていた。

「うん、わかった。」
「…じゃあ、先にブレイブデュエルを教えてあげる」

 その声に私達は驚き振り返った。



 一方その頃

「♪~♪~~」

 ミッドチルダの高町家、そのキッチンでコトコト音を立てる鍋に併せ

「♪~~♪~~」

 歌を口ずさむなのはの姿があった。

「なのは、ご機嫌だね。」

 後ろから声をかけられ振り向き答える。

「うん、ヴィヴィオが遊びに来るからね。また会えるって思ったら嬉しくて」

 今日は異世界のヴィヴィオとアリシアが遊びに来る。異世界間の交流など滅多にできるものではない。それがもう1人の娘であれば尚更嬉しい。

「そうなんだ…私もアリシアに会えるのは嬉しい。そう言えばさ、ヴィヴィオとお出かけしたってアリシアから聞いたんだけど…何かしてたの?」
「うん、ちょっとね♪」

 以前彼女が来た時ヴィヴィオ同士で模擬戦をした。その際彼女はフロントアタッカーともガードウィングとも取れない位置であるにも関わらず制御困難なクロスファイアシュートを使っていた。
 なのはは高い制御能力と娘にも引けを取らない優れた魔法資質に心が高鳴りある魔法を教えた。
 砲撃と射撃の複合魔法、ストライクスターズを。
 あれから暫く時間が経っている。彼女がどんな風に成長しているのか楽しみで仕方なかった。
なのはの受け答えにフェイトも何か気づいたのかそれ以上聞いて頷き

「そっか…楽しみだね。」
「うん♪」

 なのはも満面の笑みで頷くのだった。


~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはInnocentの世界に行ったら?
 イノセント(コミック)でお気に入りキャラクターとしてプレシアが居ます。1期の暗かった彼女とは全く逆のあの性格。リンディがフォローに入らなければならないという状況が起こるとは思ってもいませんでした。

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