第04話「アリシアとアリシア?」

「フェイトちゃんのそっくりさん?」

 ヴィータが初心者に負けたと聞いてはやては冷やかし半分励まし半分で声をかけた。しかし彼女から聞いたのは行った先でフェイトそっくりの女の子が居たことだった。

「フェイトちゃんと見間違えたんとちゃう? それかアリシアちゃんかレヴィの変装とか?」
「ううん、ホントにフェイトそっくりだったんだ。ジャケットはライトニングだったけど、レヴィとは闘い方も全然違ってて…後で来たフェイトも驚いてた。あともう1人初心者も…いたけど、白のセイクリッドで見たことない砲撃撃ってすぐぶつかってきて…」
 どうやら彼女はその【初心者】に負けたらしい。セイクリッドのレアカラーが2人も登場するとは…どんな2人かは知らないけれど、ブレイブデュエルをもっと盛り上げられそうな気がする。

「へぇ、それは面白そうやな♪ その2人はどうしたん?」
「うん…お店の場所聞いてたから今頃あっちにいると思う。」

 白のセイクリッドを纏った少女の気になるけれど、フェイトそっくりな子がT&Hでアリシア達と対面しているのは面白そうだ。

「なぁ、ヴィータ。白のセイクリッドの子とちゃんとバトルしたいって思わへん?」

 ある考えを思いついたはやてはニヤリと笑って彼女に声をかけるのだった。



 その頃、元世界の聖王教会の大聖堂では
 何名かの管理局の主立った者と教会の祭司達が集まっていた。その中には教会騎士のカリムやシャッハ、八神はやての姿もあった。
 そして…大きな扉が開き数名が入ってくる。その列の最後にイクスヴェリアが居た。


 半年程前、ミッドチルダの臨海にあるレジャー施設、マリンガーデンでマリアージュ6体が発見された。
 生体兵器であるマリアージュは行動不能となると自身が燃焼材となって火災を起こす。そして死体があればマリアージュはそれを使いマリアージュを増殖させる。増殖すれば管理世界全体の安全にも関わる。
 発見されたマリアージュは第1発見者であるヴィヴィオ達の活躍により被害もなく殲滅出来たのだが、大規模火災以降もマリアージュが存在している事を重く見た管理局は聖王教会と協力して管理世界からのマリアージュ殲滅作戦を立案した。
 マリアージュの主で唯一の使役可能者であるイクスヴェリアを囮として全世界を周り、彼女を求め現れたマリアージュを殲滅すると言う方法。
 本来であれば太古の王をこの様に使う事は失礼極まりなく安全面においても問題があったのだけれど、イクスヴェリア本人の強い希望を受け2つの組織ははやてを責任者とした巡礼団を組織し全管理世界の視察・催しに参加する為出発した。
 その巡礼団が全ての管理世界の視察を終えて帰ってきたのだ。

 厳かな報告の後、労いも兼ねて夜には宴が催された。
 その中ではやては窓辺から外に出て行くイクスを見つけ後を追いかけた。
 ベランダに出た彼女は夜空を見上げている。

「イクス様いかがされました?」
「騎士はやて…長き旅を思い出していました。これ程沢山の世界を見て回ったのは初めてでしたから」
「いかがでした? 少し辛い環境もあったと思いますが」
「概ね平和な世界…なのでしょうね。数多の王が求めていた世界が王が居ない今になって現実になっているのは皮肉としか言い様がありません。その中に私を受け入れてくれる世界に感謝しています。」
「イクス様…そうですね…」
(王様も何人かいるんやけどな…イクス、ヴィヴィオ、私もそうやな)

 彼女の揶揄に苦笑する。

「騎士はやて、よろしければ【イクス】と呼んで下さい。あなたもヴィヴィオやスバルの友達なのでしょう?」
「はい、ではイクスさ…じゃなかった、イクス。私の事も名前で呼んで下さい。以前からイクスに聞きたいと思ってた事があるんですが、今聞いてもいいですか?」

 端末を出して周囲を確認する。周りに人の気配やセンサーの類はない。

「はい、答えられるかはわかりませんが」
「マリンガーデン大火災でスバルがイクスを助けた後、検査させて貰いました。その時イクスの身体は機能不全を起こしていて今の技術では治し様がなく、再び眠りについていつかその技術がある時に目覚めるって聞いていました。でも…イクスは1年も経たずに目覚めた。機能不全を起こしていた器官は全て異常なし…だそうです。」
「私もこんなに早く目覚められるなんて思ってもいませんでした。」

 笑顔で頷くイクス。

「少し前に教会にある蔵書を調べてたんです。その中にある魔法について書かれた本を見つけました。戦乱の最中、傷ついた兵を癒す魔法があったそうです。手足が切られても再生出来る位の強い魔法。でもその魔法は凄い魔力を使うそうです。もし…その魔法を知ってる人ならイクスの機能不全も治せたのではと考えています。」
「…そうですね。私は知りませんがその様な魔法が存在した事は知っています。」 

 頷くイクス、それを見てはやての中のある予想が確信に変わる。

(失われた魔法を知ってて、強大な魔力を持ってる…やっぱりオリヴィエが…)

 彼女を癒やし目覚めさせたのはオリヴィエ・ゼーゲブレヒト。

(でも…彼女が消えた後にイクスは目覚めてる…接点はない…のかな?)

 少し考え込む。

「はやて、私からも質問させて貰えませんか?」
「あっはい。私も答えられるかわかりませんが」

 我に返って答える。

「はやてには聖王陛下、ヴィヴィオはどんな風に見えていますか?」
「ヴィヴィオですか? そうですね~昔は泣き虫でなのはちゃんとフェイトちゃんにべったりで、本が好きでユーノ君に魔法教えて貰ってたら司書資格まで取ってしもうて色んな意味で純粋でまっすぐな子やと思います。それに…自分より友達の事をばっかり考えて、優しい子です。」
「はい、とても優しいと思います。では…彼女がもし彼女の意志だけで世界を終わらせる事も出来る…強大な魔法を使うと知っていても同じ様に思えますか?」
「えっ?」
「さっきはやてが話してくれた癒やしの魔法、それ以外にも失われた魔法は数多くあります。その中でも希な魔法を彼女が使えると知っても同じ事が言えますか?」

 彼女もヴィヴィオの時空転移は知っているらしい。

「…【あの魔法】ですか…そうですね。確かにあれはヴィヴィオにしか使えへん魔法です。でもあの子はその強さも怖さも知ってます。」
「少し前ですが私、大きな失敗しました。イクス様が言うように世界を壊しそうになった失敗です。あの子その魔法を使えば簡単に…失敗もなかった事に出来た筈です。でも彼女はそうしませんでした。もし彼女が使い方を間違えても止めてくれる子が居ます。ですから…私はヴィヴィオを信じてます。」

 貸し借りや親友の娘だからという理由ではない。はやてにとってヴィヴィオは大切な友人の1人だからだ

「そうですが…」

 イクスは瞼を閉じはやてに数歩近づき

「それでは、今からの話は貴方の心にだけ留め置いてください。」

 見上げる様にして眼を開いた。
 はやてが彼女を見て愕然とする。その中で呟けたのは

「……嘘や…」

 その一言だけだった。



「フェイト!!」

 声がした方を振り向くとドアの側にフェイトが立っていた。

「アリシア…でいいかな? ごめん、立ち聞きするつもりはなかったんだ。アリシアからこっちに来て倒れちゃったって聞いたから…」
「どこから聞いてた?」
「別世界から…って」

 全部聞かれていた。ここで話すべきではなかったと悔やむが今更仕方がない。

「プレシアさん達に話す…?」
「ううん、ヴィヴィオとアリシアが話してくれるまで言わないよ。母さん達には何か事情があるみたいってだって話しておくね」
「………」
「……」
「………」

 アリシアがフェイトをじっと見つめる。フェイトはその視線を感じ1歩下がる。

「あの…アリシア?…フェイト?」
「判った。フェイトは誰にでも話したりする子じゃないもんね。信じる」
「えっ?」
「ヴィヴィオもそう思うでしょ。」
「そ、そうだね。何も話さなかったらプレシアさん達も変に思っちゃうし。私達も戻るまで行くところないし。私も信じる。わざわざカードを届けてくれたんだしね♪」

 受け取ったカード見せる。
 疑うのはいつでも出来る。彼女からすれば私達は初めて会っているけれど、私達はフェイトと会うのは初めてじゃない。

「じゃあよろしく♪ フェイト」

 ヴィヴィオが右手をアリシアが左手を出すと少し悩んだ後フェイトは両手で2人と握手した。



「えっ? フェイトちゃんにそっくりな女の子と白のセイクリッドの女の子?」

 土曜日の午後、高町なのははT&Hに来ていた。アリシアから【後でお店に来て】とメールを貰ったからだ。
 アリシアからの注文であるシュークリームは今2人の間に広げてあってその1つをアリシアは美味しそうに頬張っている。

「うん、お姉ちゃんの私でも見分け付かないくらいそっくりなんだよ。今休憩室で休んでるんだけどそろそろ起きた頃じゃないかな?」
「起きた?」
「あっちの子もビックリしすぎちゃったみたい。」

 ハハハと苦笑するアリシアになのはは首を傾げる。

「アリシアが驚かせすぎただけでしょ。」
「フェイトちゃん♪…フェイトちゃんだよね?」

そこへフェイトがやってきた。でも…何か雰囲気がいつもと違う。
 フェイトは抱きつこうとしたアリシアをひらりとかわし

「なのはには判るんだね。本物のフェイトはあっち」

 指さした方を見ると部屋に入ってくるフェイトの姿があった。小さくこっちに手を振って答える。今度は間違いなくフェイトだ
それと隣に初めて見る少女も…

「ふぇ~本当にそっくり! いつもとちょっと違ったから判ったけど、話しかけられなかったらわかんなかったよ。」
「ごめんね。心配かけちゃって…改めて自己紹介、私はアリシア・テスタロッサ。で彼女は」
「たか…ヴィヴィオです。」
「あっ、高町なのはです。」

 そう言ってペコリと礼をした。



(やっぱり…)
「高町なのはです」

 なのはが礼をするのを見てヴィヴィオはジワリと胸が熱くなった。居たというか会えたという思いの方が強く彼女に抱きつきたいところだったけれど、初対面でそんなことをされたら彼女も驚くと考え我慢する。

(でも…)

 こうやってこっちのフェイト・アリシアを見てると…

「クスッ」
「ヴィヴィオどうしたの?」
「ちょっと面白いなって。こっちじゃフェイトがお姉ちゃんなんだって♪」
「あっ、そう言えば…」

 アリシアも釣られて笑う。しかしフェイトとなのはは「あっ!」と何か言いかけたが

「…私がお姉ちゃんなんだけど…小学6年生…2歳年上…」
「……」
「………」

 地雷を踏んでしまったらしい。

「あ…ごめん…」

 謝るヴィヴィオ。でも…

「こっちもアリシアがお姉ちゃんなんだ。でも…アリシアの方が年上なのに私より小さくてかわいいね♪」
「ガーンっ!!」

 こういう場合地雷を率先し踏みに行くのが彼女だったりする。さっき驚かせたちょっとした仕返しのつもりなのか。
 おかげで彼女が気を取り直すのに小1時間程要した。



「ブレイブデュエル? うん、遊べるけど…カードローダ…新しいカードが貰えるのは1日1枚までだし今日は遊びたい子がいっぱい来てるから」

 こっちでもブレイブデュエルは凄い人気らしい。お店で見たシミュレータが10台ほど並んでいるのにも関わらず列を作り、周りには沢山の観戦者が居る。
 もう1度あっちの世界を体感したいと思い、フェイトに言ったけれど流石に難しそうだ。
 フェイトやアリシア、なのは達はT&Hのショッププレイヤー【T&Hエレメンツ】というチームを作っていて人気もあるらしい。割り込みなんてしてしまうとお店の評判にも関わるからできないのだろう。

「じゃあさ、簡易シミュレータで遊んでみない? 私も2人のジャケット見てみたいし。」
「簡易シミュレータ?」
「そんなまどろっこしい事しなくてもいいぞ!」

 そう言って現れたのはさっき戦った

「ヴィータちゃん!」
(ヴィータさん…)
 ヴィータだった。
「フェイト…じゃなかった、えーっと…」
「アリシア」
「アリ…じゃあでっかい方のアリシアとそっちの奴、はやてから手紙」

 ヴィヴィオとアリシアに手紙を渡す。
「おっきい方って…私ちっちゃい方?」としょんぼりするアリシアは置いておいて手紙を開くと

【ブレイブデュエル4時に予約しとくから遊びに来てな♪】

 と書かれていた。
 似顔絵マークから見て彼女なのは間違いない。

「今から行けば丁度いい時間だね。ヴィータちゃん私達も付いていっていいかな?」
「別にいいんじゃね」

 少し考える。ここで順番待ちするのも良いけれど、ここをもっと知っておいた方が良い。

「じゃあさ、みんなで行こうよ♪」

帰れる可能性より新しい何かを見つけられるかもという期待にヴィヴィオは期待を膨らませていた。


~こめんと~
 ヴィヴィオ達がもしなのはイノセントの世界にやってきたら?
 今話はイノセント世界ではアリシアが中心に、元世界でははやて中心な回でした。
 イノセントにきて真っ先にやってみたかったのはアリシア同士の対面です。
さて次回は…

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