「ふぇ～あの子達って強いんだ･･･」

　解説をしながらアリシアは少なからず驚いていた。
　観客も凄く盛り上がっていて、シミュレーターには既に長蛇の列が出来ている。
　フェイトとなのはの息が合っているのはいつもの事だし、フェイトも同じロケテスト組のヴィータをフォローしながら善戦している。
　それよりヴィヴィオとアリシアは息がぴったりというより互いに次にどう動くか把握している様に見える。フォワードは相変わらずアリシアがバルディッシュを変化させながら責めるし、ヴィヴィオは砲撃魔法しか使っていない。でもその使い方が絶妙すぎる。互いに相手が何をして欲しいか知っている様な動き。
　本当にブレイブデュエルを初めて１週間くらいかと思う位凄い。



「次でラストや。情報やとあの４人がテストで１回も勝てへんかった相手らしいよ。ヴィータ、こいつに勝ったら見返せるよ♪　頑張ってな」
「うん♪」

　力強く頷くヴィータの横でヴィヴィオは首を傾げる。

（あの４人？　誰だろ？）

　首を傾げていると周りの風景が変わった。
　暗く広がった空、下には海が見える。

（ブレイブデュエルが知ってる世界と繋がっているなら･･･この状況で出てくるのは･･･）
「フェイトちゃん、ヴィータちゃん、上から何か来る！！」

　なのはの声に思い出そうとしていたヴィヴィオも空を仰ぐ。直後少し離れた場所に大きな物体が落ちて水飛沫をあげた。
「大きい･･･」
「何だ･･･アレ･･･何なんだ･･･」
「･･････あれが敵？」

　息を呑むなのはとフェイトとヴィータ。ヴィヴィオとアリシアも息を呑み驚いていたがそれは別の理由でだった。
　目の前に現れたモンスターは闇の書防衛システムだったからだ。

「･･･まさかこんなのが来るなんてね･･･笑っちゃうよね。」

　笑みを見せずにアリシアが誰ともなく呟く。

「みんな、とりあえず交代で周りから攻撃して･･･私とヴィヴィオちゃんが弱点を･･･」

　なのはが言いかけた時

「危ないっ！！」

　モンスターから光が見えたと思った瞬間すぐさまこっちに向いて撃ち出された。アリシアとフェイトはすぐに避けなのはもフェイトに引かれて間一髪避けた。しかしヴィヴィオは遅れてしまう。それに気づいたヴィータがタックルで吹き飛ばしてくれたから直撃を受けずに済んだけれど、その代わり彼女は･･･

「ヴィータ･･･大丈夫？」
「ボーッとしてんじゃねえ。でも･･･悪い。魔力ゲージかなり持ってかれた･･･暫く動けなくなった」
「ごめん･･･」
「集まってたらさっきのがまた来る。フェイトちゃん、アリシアちゃん、私達で弱点探そう。ヴィヴィオちゃんはヴィータちゃんを守っていて。何か気づいたら教えて。ヴィータちゃん、待ってる」
「負けんじゃねーぞ」

　なのはは頷くとアリシア達と防衛システムへと飛んでいった。



　ヴィヴィオは唇を噛んだ。
　ここで【本物】と戦った事があるのは私だけ。なのに･･･足を引っ張るだけじゃなくて守って貰わなくちゃいけないのは･･･ゲームとは言え悔しかった。

「魔法が使えねえんだろう？　始めて１週間でここまで出来てんだ。正直みんな驚いてるよ。その･･･私もな･･･」
「ダークマテリアル、シュテル達が揃って何度も挑んで勝ててない相手なんだ。それを私達だけでなんて･･･」
「シュテル！？」

　まさかここにシュテル達が居るなんて。ダーク･･･マテリアル。ダーク･･･闇の･･･闇の書のマテリアル･･･シュテル、ディアーチェ、レヴィと･･･ユーリ

「ロケテスト１位がアイツだ。だから気を落とすんじゃ･･･」
「やっぱり･･･」
「？」
「やっぱりブレイブデュエルは繋がってる･･･」

　そんな世界ではやてが居てリインフォースが居て･･･シュテル達も見てる･･･
　ゲームの中と現実が繋がるなんて思わないけれど、もし少しでも影響があれば･･･
　脳裏にリインフォースの姿が蘇る。
　弱音を吐いている時じゃない。

「ヴィータ、私も行ってくる。みんなが見てるのに遠くで見てるなんて私らしくない。」

　そう言った時

【Master･･･】

　声が聞こえた。それも間近、ヴィータから。

「ヴィータ、今何か言った？」
「ううん？」
【Master･･･Call me】

　また聞こえた。彼女のスカートのポケットから。

「ヴィータごめん」

　そう言って声の聞こえた所に手を入れる。

「わっ、こら！！　どこに手をっ！！」

　そこにあったのはブレイブホルダー。ヴィヴィオの持っている物と描かれた魔方陣が違う。
その魔方陣を見て大きな間違いに気づいた。

「そっか･･･そうなんだ。私が何度魔法を使おうとしても使える筈ないんだ･･･」
「何なんだよ一体･･･」
「お願い、少しだけブレイブホルダー貸して。後で絶対返すから。」

　ヴィヴィオの勢いにヴィータは呑まれ

「う、うん･･･」
「じゃあ行ってきます♪」

　そう言うと防衛システムへ向かって飛んだ。



「堅いってレベルじゃないよ。こんなの３人じゃ無理っ！！」

　アリシア、フェイト、なのはは弱点を探しながら攻撃を繰り返していた。しかし堅牢なシールドがあってそれも１枚じゃない。２枚目を破ろうとすると攻撃の勢いが増し、避ける為に離れたら折角壊したシールドが元に戻ってしまう。
　大人数で波状攻撃をしかけるか、特出した魔力でシールドを全て破壊するかするしか攻め手が無い。でも今の３人でもう魔力ゲージも残り僅かでタイムアップまで５分もない。

「私達、頑張ったよね。」

　なのはの言葉に頷くフェイト。

「でも･･･」

　アリシアは諦めたくない。そしてもう1人諦めていない者がいた。

「まだだよっ、まだ終わってない！！」

　ヴィヴィオがこっちへ向かっている。

「ヴィヴィオちゃん、でももう･･･魔法も時間も殆ど残ってない･･･」
「みんなは離れて魔力回復して。時間ギリギリに１回だけ大きいのっ」
「ヴィヴィオは？」
「私が今からあの子の相手する。」

その言葉にはこっちに来てから感じなかった『力』があった。

「！？　そんな１人で･･･」
「無理だよ…」

　止めようとするなのはとフェイト。しかしアリシアがそれを遮って

「わかった。タイミング教えてね。なのは、フェイトここはヴィヴィオの言うとおりにしよう。後は任せた♪」
「任されたっ！」

　すれ違い様にアリシアの手をパンと叩きそのままモンスター目がけて突っ込んでいった。



「白のセイクリッドの子、何をするつもりでしょうか？　ヴィータからブレイブホルダーを借りた様ですが･･」
「何か作戦あるのかな？」
「1人で策もなかろうが…だが何かするつもりらしい。」



　目の前のモンスターが闇の書防衛システムと同じなら物理と魔力の複合シールドを何層かで持っている。アリシア達への攻撃パターンを見ていてその推測は確信を得ていた。
　それではそのシールドをどうやって破るのか？　
　簡単だ、シールド以上の力をぶつければいい。
　さっきまでは出来なかったけれど、今なら…出来る。

「リライズ解除っ！」

　ジャケットを解除し私服姿に戻る。



「ジャケットを解いちゃった！？」

　アリシアは素っ頓狂な声をあげた。観客も驚いている。
　この状況でジャケットを解くのは負けを認めたのと同じ。
　次の瞬間、ゲームの中の彼女はカードを２枚取り出しブレイブホルダーに通した。それはヴィヴィオの持っていたブレイブホルダーじゃない。ヴィータのだ。

「カードドライブ、レディ･･･リライズアーップ！！」

再び白のセイクリッドジャケットを纏う。
「どうして･･･」と言葉を紡ぐ前にヴィヴィオは動く。
　もう１枚のカード取り出しロードしたのだ。

「全力で行くよRHd。カードドライブっ。」

　その瞬間、彼女は虹色の光に包まれた。



　こっちに来てから今までヴィヴィオはブレイブデュエルというゲームの中の話だと思っていた。
　同じゲームの中に居るのだからそのアイテムはどれでも同じで皆がそれぞれのカード使って遊ぶ『ルール』なのだと･･･
　でも元の世界、ヴィヴィオの居る世界と繋がっているのならここの『ルール』―『法則』も現実と近いのではと考えた。
　元世界では見た目が似ている魔法でも術式が違えば魔法は発動しない。
　ミッドチルダ式を使う魔導師がベルカ式を同じ様に使えるとは限らない。更に古代ベルカ式は術者の固有スキルが重要な要素になっている。
　もしゲームの中が元世界と繋がっていたとしたら『法則』は･･･適用される。
　それに気づいたからこそあえてミッドチルダ式のブレイブホルダーで構成したジャケットを解除しヴィータから借りたベルカ式のブレイブホルダーを使って再構成した。

【StandbyReady Setup】

　思った通りジャケットを纏った直後にRHdの声がはっきり聞こえる様になった。
　RHdの声が聞こえると言うことは相棒に組み込まれたシステムが使える。
　異世界のヴィヴィオとクリスが描かれたカード読み込ませる。ここの法則に捕らわれないカードならきっと･･･

「全力で行くよRHd。カードドライブっ。」
【Yes.Armored module Startup】

　虹色の光が体を包み新たな鎧を形成する。時同じくして久しく感じていなかった力が溢れてくる。

「まずは１撃っ！」

　スキルカードをロード。ディバインシューター。ミッドチルダ式であれば複数の魔法弾を相手にぶつける魔法。しかしベルカ式でヴィヴィオが読み込ませた場合、もう１つの魔法と複合される。

「いっけぇえええっ！　クロスファイアァァアシュート！！」

　１０発の魔法弾が高速回転し砲撃魔法となって防衛システムに突き刺さった。



「流石だね。」

　射程距離ギリギリまで離れたアリシア達はヴィヴィオの戦闘を見ていた。シールド１つ壊すだけでも３人でギリギリだったのだ。
　それをヴィヴィオは１撃で２～３つのシールドを壊している。

「白のセイクリッド･･･じゃない？」
「あれは･･･？」
「あのジャケットは･･･騎士甲冑、う～んこっちじゃ聖王の甲冑ってことかな」
「聖王の･･･」
「甲冑？」

　呟きながらその様子を見つめる。そしてアリシアも彼女の闘いを見る。

（あれだけの魔法力･･･あれはブレイブデュエル･･･ゲームのバランスを無視してる。RHdの中にはジュエルシードとレリック片、そして完全体のレリックがある。もしかすると悠久の書も…。）

　ヴィヴィオはまだ気づいていないかも知れない。
　探していたきっかけが見つかったという事に…　
　
～コメント～
　もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら？
　今話は思いっきりバトル回です。戦闘回は行を使うので当社比２倍近くになってしまいます。
　それはさておき、イノセント世界編はプロット段階から幾つかしたいことを考えていました。
　例えばアリシアの戦闘スタイルの必然性を持たせたい。魔力が弱くてコアを使ってしか魔法を使えない彼女がフェイトの様に大剣振るうのは無理なので高町家の剣術（御神流は本編で出てこないのでわざと書いてません）を習わせたい。
　例えば、アリシア同士会わせたい。
　例えば、ヴィヴィオの傷ついた心を癒したい。
　他にも色々ありますが、９話迄ならこの辺りを考えていました。