第25話 「虹の源」

「へぇ~そんな事あったんだ。偶然って凄いね。」

 その夜、ヴィヴィオははやての電話を借りてなのはの携帯に電話していた。相手は勿論アリシアだ。
 アリシアや士郎・恭也達の剣術がブレイブデュエルの中で使えたらデュエリスト同士の対戦でもモンスターハントでも通じるのは知っているけれど、スバル達の魔法やISがブレイブデュエルの中で実現したら楽しいと思う。

『小さいディエチが居るんだったら、スバルさんやティアナさんも居るんじゃない? ブレイブデュエルでマッハキャリバーセットアップしちゃってたら面白いよね。』

 それは確かに面白そうだ。でも…


 
「も~っ、楽しそうだけどこっちの世界にない物を私達が作っちゃったら別の未来に進んじゃうんだよ。注意しなきゃ。」
『でも私達がここに来たのも何か理由がある筈なんだし、難しく考えない方がいいんじゃない?』
「それはそうだけど…」

 ここに来て1週間以上経っているけど来た理由はまだわからない。魔法文化が無いとは言え、なのはやフェイト、はやて達が居てアミタやシュテル達が居て、更にディエチが居る。
 ブレイブデュエルと八神堂を通じて何かが進んでいる気はしている…

『折角来た異世界なんだし色々やってみようよ。そうだ、朝の練習で恭也さんに聞かれたんだけど、ヴィヴィオってあっちの世界で士郎さん達に剣教えて貰ってた?』

 突然話を切り替えられて言葉に詰まる。

「え? 何度か見せて貰ったけど…どうして?」
「ヴィヴィオが走って帰った後で恭也さんと美由希さんが気にしてたんだ。また明日も行くから時間あったら一緒に練習しよ♪ あっ、ちょっと待って、なのはがお話したいって。代わるね」

 何か気にされる様な事をしたかなと首を傾げつつもなのはとアリシアとのお喋りに熱中してしまい途中ではやてに怒られるヴィヴィオだった。



 翌朝、少し朝早く起きていつもの丘の広場で魔法練習していると

「ヴィヴィオ、おはよう。」

 恭也がやって来た。

「おはようございます。アリシアはまだみたいですね。」 
「美由希達はコースを変えて遠回りしてる。少し話をしないか?」  
 彼の様子に頷いて答える。

「君達、ヴィヴィオとアリシアは何処から来たんだ?」
 近くのベンチに座ると恭也が問いかける。いきなり核心を突かれ鼓動が激しくなる。
「えっ? それは…外国から…」
「外国の何処から?」
「………」

 答えられない。洞察力の高い彼の前では嘘を言えば直ぐに挙げ足を取られるのは目に見えている。

「責めてるんじゃないんだ。2人とも初めて来た地で馴染み過ぎていて、アリシアはどこかで同じ剣術を習っていたと思える位剣が様になってる。」
(アリシア~っ!! 思いっきりバレてるじゃない!!)

 心の中で彼女に怒る。もし念話が使えていたら即彼女に突っ込みを入れていた。

「それに、昨日のヴィヴィオも…初めは慣れていなかったからか一方的に打たれていたのに途中からは避けて、最後は美由希も本気になっていた。あれは戦い慣れした者の動きだった。ちょっとやそっとで身につく動きじゃない。」
(ゴメン…私もだったよ)

 前言撤回、心の中で彼女に謝る。念話が使えなくて良かった。

「話したくないならそれでもいい。でも良かったら教えてくれ、君達が何者なのか」

 恭也の顔を見る。鋭い眼差しで何もかも見透かされている、でもその表情はどこかで…

(あ…士郎さんと同じ)

 以前ヴィヴィオが迷った時、相談に乗ってくれた時の顔だった。

「………わかりました。私の名前、本当の名前は高町ヴィヴィオといいます。なのはママ…高町なのはの娘です。アリシアは、こっちの世界と同じでフェイトのお姉さんです。」

 意を決して恭也に正体とこの世界に来た理由を話した。



「そうか…ありがとう、話してくれて」

 一通り話し終えた頃、美由希とアリシアが坂を駆け上がってきた。突拍子もない話で最初は彼も驚いていたが何も言わずに話を聞いてくれた。
 手を振る2人にヴィヴィオも立ち上がって手を振り答える。

「方法が見つかったら私達は帰るつもりです。だから…」
「わかった、俺が気になっただけだから。あと1つだけ質問していいか、昨日の練習でヴィヴィオから淡い虹が見えたのも…魔法?」

 恭也の口から出た言葉に耳を疑う。
 虹が見えた? まさか…

「虹…」
「知らないならいい。俺も練習に戻る、見て行かないか?」
「……はい」

 走って行った彼の後ろを追いかけた。


「あ~恭也さん、勘鋭いからバレちゃったか…」

 アリシアにその話をすると彼女はやっぱりという顔をした。普段の素振りから以前からここを知っていたのではと思われていたらしい。

(そう言えば、私も前にあったかも…)

 ヴィヴィオも思い出す。そしてもう1つ彼から言われた事も

「ねぇ…虹が…ううん、練習しなくていいの?」

 アリシアに相談しようかと思ったけれど途中で話を変えた。ヴィヴィオ自身彼に言われるまで気づいていなくて、一緒に見ていた彼女も同じなのだから今言っても仕方が無い。

「練習って、1人じゃ素振りしか…! 練習つきあって♪」
「うん♪」

 ポンと渡された練習用の剣を受け取り彼女の練習に付き合うのだった。



「ヴィヴィオちゃん~、ちょっと来てくれる~?」

 それから少し時間が経って、日課の様に倉庫で古書の整理をしていると、外から呼ぶ声が聞こえた。
 まだ始めて1時間も経っていない、休憩にしても早すぎる。

「は~い、何だろ?」

 首を傾げながら倉庫から店に出て行くと

「どうも」
「やぁ♪」
「グランツ博士とシュテル?」

 2人がはやてと一緒に居た。

「この前のテストの礼をと思ってね。中々来てくれない店主さんとも話をしたかった」
「ハハハ…何分人手不足でして…」

 話の為にカウンターを空けられず、3人はカウンター裏に入った。早速のグランツの言葉にはやてが苦笑する。

「それで、私に何か?」
「お礼もありますが、ヴィヴィオにも相談に乗って貰えればと思いまして」

 シュテルの口から告げられたのは先日アリシアから聞いた話と同じでアリシアが出したスバル達のデバイスの話も加えられていた。

「ヴィヴィオ君には魔法の使い方を教えて貰いたくてね。現時点で複数の魔法を同時に使えるのはシュテルとアリシア君とヴィヴィオ君だけ、シュテルにも聞いたんだが使うのが凄く難しいらしい。」
「はい、起動後に発動イメージを持ったまま違う魔法を使うと発動イメージが混在して上手く使えません。以前から練習していてようやく使える様になったのはあなたとのデュエルでした。」
「アリシア君にもその辺は聞いたんだけどね、彼女もシュテルと同じで1つストックするのが限界だと言っていた。しかしヴィヴィオ君は難なく複数の魔法を使いこなし、シュテルとのデュエルではデッキカード全ての魔法を同時に使った。デュエリストの子供達から何度も聞かれたと思うんだけれど、僕達にも教えて貰えるかい?」

 なるほどと納得する。ブレイブデュエルでスキルカードの複数同時使用がいかに珍しく、シュテルとのデュエル以降ブレイブデュエルで何度も教えて欲しいと請われたのはこれが原因らしい。
 魔導師は常に複数の事に意識を向ける、なのはやフェイトから教えて貰った魔法の基礎。アリシアも知っているけれど魔法を使い始めたばかりで2つが限界なのだろう。でもヴィヴィオはシューターを制御するセイクリッドクラスターや射撃魔法から砲撃魔法に切り替えるクロスファイアシュート、更にハイレベルな制御力を求められる魔法を使うから5つ程度は難なく使っている。
 シュテルが言った様にここでは魔法文化がないから『魔導師』も居ない。だから魔導師特有の意識の持ち方を捉えられない。
 ヴィヴィオは悩む。感覚的にしている事を口でどんな風に説明すればいいのかわからない。

「話せない程難しいのですか? それとも…真似されるのが嫌で話したくない…」

 黙っていてシュテルに違う方向に勘違いされそうになって慌てて答える。

「ううん、違います。どう説明すればいいかわからないんです。最初にスキルカードを使っても魔法使わなきゃ魔力が減らないって判ったから、じゃあ最初に使っちゃえばいつでも使えるって…だからみんなに教える時も使う魔法をずっとイメージしておく…位しか話してないいから。」

 その言葉にグランツとシュテルは目を丸くして驚き、はやても振り返って「へぇ」と驚いている。

「博士…どうしましょう?」
「う~ん…アリシア君のアイデアと一緒に取り入れて新イベントで発表しようと思っていたんだけど…困ったね。」

 そう言うと2人は黙ってしまう。

「すみません…」
「………」
「………」
「…………」

 その沈黙を破ったのははやてだった。

「話せないんでしたら、ブレイブデュエルの中で見たらどうです? まだ何処も動いてませんし」
「え?」
「名案です。」
「いいね♪」

 頷く2人と聞き返す1人。勿論ヴィヴィオは後者だったのだけれど…。こうして時間外からブレイブデュエルをプレイする事になってしまった。



「あれ? 店長~」

 T&Hで商品の検品をしていたエイミィが倉庫から事務所に戻った時、ある物を見て首を傾げ声をかけた。呼ばれて隣室にいたリンディと奥で別の作業をしていたプレシアが顔を見せる。

「どうしたの?」
「ブレイブデュエルの定期メンテナンスって今日でしたっけ?」
「違うわよ、つい先日メンテナンスしたばかりでしょ。どうして?」

 チェック表を机に置いてモニタを指さす。

「ブレイブデュエル動いてますよ。」

 監視カメラにはブレイブデュエル用の大型モニタとシミュレータが淡く光っているのが映っていた。
 プレシアが手元の端末を使って確認する。

「確かに動いているわね…グランツ研究所と八神堂で何かしているわ。見てみる?」
「ええ」

 リンディが頷くのをみて再び操作して手元のモニタにブレイブデュエルの状況を映し出す。

「あら珍しい♪」
「本当」

 そこに映ったのは普段ブレイブデュエルの中に入らない白衣のグランツがセイクリッドを纏った2人と一緒にいたからだ。



「ユーリ、こちらで指示しますからその時点からの解析をお願いします。それとテストなので魔法力ゲージは固定で」
『わかりました。いつでもいいですよ』

 小さなウィンドウにユーリの顔が映る。

「準備できました。スキルカードはこれでお願いします。」
「はい。」
「攻撃対象は…あれでいいかな」

 10メートルほど先に背丈の倍くらいの球体が現れる。球体には模様があり、中央に赤い目の様な物がある。

(ガジェットドローン…こんな風に繋がってるんだ)

 見覚えがあるどころの物じゃない物を見て苦笑する。

「何か?」
「いえ、何でもないです。」

 そう言ってデッキに入れていたメインカード以外の4枚をホルダーに入れシュテルから受け取ったカードをデッキに入れる。

「拡散砲撃系のディザスターフレアと射撃系のディザスターヘッド、近接突撃用のブラストヘッドに近接格闘用のヴォルカニックブロー。とりあえずどんな魔法かわからないんで1つずつ使ってみますね。」

 グランツとシュテルが頷くのを見てカードを読み込ませ起動する。1つずつ起動し相手めがけて撃ち込み移動し打ち込む。そして

「じゃあ連続でいきますっ」

 一気に全てのカードを読み込ませた。

~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
 どうしてヴィヴィオがイノセントの世界にやって来たのか?
少しずつ原因が明らかになっていきます。 

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