第27話「フェイトの目指す先」

「これは誰にも真似出来んね」

 古書店側のカウンター横に置かれたモニタでグランツ達の様子を見ながらはやては苦笑する。
 ブレイブデュエルではヴィヴィオがテストモードで何度も魔法を使っていた。普通に使うだけであれば特に気にもならないのだけれど、その使い方が凄かった。
 シュテルから借りたスキルカードは遠近様々だった筈なのに、彼女にかかると炎が彼女と一緒にダンスを楽しんでいる様に見えてしまう。同じカードをはやてが持っていてもこんな風に使う事は出来ないだろう。ヴィヴィオから前に聞いた魔法世界から来たという言葉を思い出す。

「本当に魔法使いなんやね~」

 誰ともなく呟いた。


「っと…こんな感じで…どうでした?」

 ガジェットドローンもどきに暫く魔法を使ってからヴィヴィオはグランツとシュテルの所に戻った。データを取りやすいように、色んな魔法発動のパターンを作ってみたのだけれど…

「うん、ありがとう。ユーリ、データは取れたかい?」
『はい、博士のホルダーに送りますね。』 

 グランツがウィンドウを出すとその中に文字の羅列が表示された。横からひょいと覗いてみるけど本当に文字の羅列で何が書いてあるかわからない。でも彼はそれを見てウンウンと何度も頷く。

「面白いね。ヴィヴィオ君は僕たちと魔法の使い方が元から違うらしい。僕たちは魔法を使うときカードの読み込みと魔法の発動を同じ様に考えている。でもヴィヴィオ君はカードの読み込みと起動、発動を別々のイメージで捉えているから起動した直後にある発動データが無いね。」

 話してもいないのにズバリと当てた彼に驚く。

「ヴィヴィオ君、起動後の魔法はどうやって止めてるんだい?」
「えっと…止めてるというかちょっとずつ動く様なイメージを思い浮かべてます。」

 そう言いながら誰も居ない方向を向いて

「カードを読み込ませて起動…で、撃つ」

 ディザスターフレアが虚空に吸い込まれる。

「魔法が出るまでちょっとずつ動かしてて、撃つ時に思いっきり離す感じです。」

 グランツの横でヴィヴィオの話を聞いていたシュテルが同じカードをセットし読み込ませる。
 だが起動した直後に魔法が発動してしまった。

「なかなか難しいですね。」

 振り返ってこっちを見て苦笑する。

「ふむ、シュテルでも難しいなら2つは兎も角5つはヴィヴィオ君しか出来ないと考えた方がいいかな。その辺りを改良すればデュエルもより深みが増すね。うん、ユーリさっきのヴィヴィオ君とシュテルの魔法も記録出来たかい?」
『はい、バッチリです♪』
「これでテストは終了だ。ヴィヴィオ君何度もテストに付き合ってくれてありがとう。」
「はい♪」
「では、次は私との再戦です♪」
「はい…ってええっ!!」

 笑顔でさらっと恐ろしい事を言うシュテルに思わず頷きかけたヴィヴィオは声を裏返らせて驚く。

「半分は冗談です。私もテストプレイヤーで全国ランク1位の意地がありますから。」

半分はと言っているけれど、目が本気だ。

「でっでも、私もまだ古書の整理もあるし…」
「後で私も手伝います。何でしたらテストに付き合って貰った代わりにユーリにも来て貰いますが?」
「……え…えっと、結構難しい本も多いし…」
「私は留学生で天央中学校に在籍しています。」
「……じゃあ…1回だけ」

 ヴィヴィオが白旗を挙げた。

「ありがとう。ユーリ、テストモードから通常のデュエルモードに切り替えてください。場所は…前回と同じ海上ステージで」
『わかりました。ヴィヴィオも頑張って下さいね♪』

 彼女の負けず嫌いな面を知っているユーリはため息をつくヴィヴィオと見比べ苦笑するのだった。
 
 

「ヴィヴィオってばそんなことしてたんですか?」

 なのはが学校から帰ってきて誘われるまま一緒にT&Hに遊びにきたアリシアはプレシアとリンディから話を聞いた。

「そうなのよ~僅差でシュテルが勝って全国1位の面目躍如というところかしら。」
「ハイレベルなデュエルだったわよ、フェイトもさっきまでそこでビデオ見て驚いていたわ。あなた達も見る?」

 フェイトが驚く程のヴィヴィオとシュテルのデュエル。気にならない訳がない。

「無くなる訳じゃないんだから後でいいわよ。今日は私達と一緒に遊ぶのよっ!」
「アリサちゃん…強引」

 苦笑いするすずか。

「だって~、ACEでヴィヴィオにあんなにあっさり負けちゃったら悔しいじゃない」
「私、ヴィヴィオじゃないんだけど…」

 なんだかすっごくとばっちりを食ってる気がする。そして彼女の言葉はもう1人の思いに火を付けた。

「うん、私もちょっと悔しい。だから…アリシア、私とデュエルしてほしい。」



 一方その頃、ヴィヴィオはというと…
 テストを終えた後、そのまま古書の整理に戻っていた。
 グランツと入れ替わりにやってきたユーリとシュテルにも少し手伝って貰っていたけれど、今ははやてと一緒にブレイブデュエルの方へと行っている。
 ヴィヴィオも手伝う筈だったのだけれど、テストで遅くなった分だけでも終わらせておきたいと考えたからだ。でもそれも終わりが見えた頃

『ヴィヴィオちゃん、ブレイブデュエルに来れへん? 面白いもの見れそうやよ』
「? は~い、今行きま~す」

面白いものというものが何なのかわからないけれど、彼女が言うからには何かあるんだろうと手を置きデュエルスペースへと向かった。

『ハァアアアッ!!』

 デュエルスペースに入るなり聞こえたのはアリシアの声だった。八神堂に来た子供達もデュエルを止めて大型モニタに映った彼女を見ている。

「アリシアと対戦してるのは…フェイト!?」
「面白いデュエルですよ。フェイトとアリシア、同じタイプの2人が互いのデッキのカードを全て見せた上でデュエルしています。」
「カードを見せてって…凄いね。」

 デッキのカードを見せるということは全ての魔法を教えると言うこと、即ち予め使う魔法がわかっているから予測もしやすい。ビル群の中を飛び交いながらぶつかる2人はその間にも相手の次の手を予測した動きをしている。デュエル中に心理戦もしているのだ。
 しかもフェイトはアリシアの二刀流に対しても対策をしてきたらしく、前回とは違ってアリシアが苦戦している。

「こんなデュエルも面白いですね。もう1度どうです? 1勝1敗ですよ」
「ムリ、無理だよ。こんな難しいのは。」

 面白そうに言うシュテルにヴィヴィオは首をブンブン横に振って答えた。

「さっきのデュエルが些か不満だったので…本当に手加減してませんでしたか?」
「してないってっ!」
「………」

 ジト目でこっちを見ている。

「本当だって!」

 午前中に彼女とデュエルした時、ヴィヴィオは接戦の末負けた。シュテルが色々対策を練ってきていてヴィヴィオも幾つか試していたからなのだけれど、切り札として持っていたヴィヴィオのリライズカードが上手く発動出来なかったのが敗因だった。

(セイクリッドディフェンダーが使えないなんて知らなかったんだもん)

 ともあれ、それがシュテルから見れば『手加減した』風に見えたらしい。

「わかりました。ですが私達の勝負は1勝1敗、2人が帰る迄に再戦を望みます。」
「…うん、わかった。」

 【帰る迄に】

 その言葉はヴィヴィオにズシリと伸し掛かるのだった。
 


「フェイト強いっ」

 デュエルの中でアリシアは呟く。
 前回のデュエルでヒットしていた攻撃は全て避けられる。なのはから剣術を見せて貰ったのだろうか? 
 動きに鋭さが増していて迷いも感じられないし、何より手持ちのカードの特性を知られていて

「たぁあああっ!!」

 接近し右の剣を振り下ろし、フェイトに受け止められたらそのまま左の剣を振り上げ続け様に左から横薙ぎにしようとするが、フェイトの大剣は打ち上げられた状態で角度を変え横薙ぎを弾いた。
 ツインブレイズでは厳しい。だったら…

(こうなったら…まだ見よう見まねだけど…)

 ジャケットを切り替え、キリエのソードダンシングを起動し、デバイスを持ち直し構える。
 


「フェイトちゃん凄いね。ちょっと見せただけで全部避けてる。」
「あれ全部避けるってどんな反射神経なのよ…」

 感心するなのはの横でアリサは呆れていた。

「あれから研究してたからね♪」

 エヘンと小さな胸を張るアリシア 

「でも…アリシアちゃん。何かする気みたいだよ。」

 大ぶりなレヴィのツインブレイズからキリエの短剣に切り替えた直後

「ウソっ…どうして? 私だってまだ…」
「どうしたの?」
「あの構えに何かあるの?」 

 狼狽えるなのはにアリサとアリシアが聞く。

「…フェイトちゃん…勝てないかも…」

 どう言えば良いのか、そもそも言って良いのか悩んだ後呟いた言葉に2人はモニタを振り返った。



(何をするつもり?)

 フェイトは頭の中でアリシアの次の行動を考える。
 高速機動形態のソニックフォームと小ぶりになったキリエのソードとあの構え…
 思い当たるのはモンスターハントで彼女が見せ、なのはが見せてくれた剣技。どちらも高速の突き。
 でも…感じる雰囲気が全然違う。

「バルディッシュ、私達も」
【Yes Sir】

 彼女と同じソニックフォームに切り替える。


(アリシア…何をするつもりなの?)

 ヴィヴィオはモニタを見つめる。
 静寂の後アリシアがフェイト目がけて動く、ほぼ同時にフェイトもアリシアに向かって動いた。
 次の瞬間、2人がほぼ同時に消えビル群からガラスの破片が飛び散る。
 そしてそれらが静まった後に、ライフポイントが0になって気を失ったフェイトと彼女を肩で抱えるアリシアの姿があった。

「……何にも見えなかった…」
「はい…カメラも追いかけられませんでした。」

 何かをしたのだと思うけど何が起きたのかすらわからない。 

「何を…したの?」

 モニタ向こうの彼女に問いかける声は震えていた。



「フェイト、フェイトってば!」
「…ん…あ…」

 体を揺すられてフェイトは瞼を開いた。目の前にあったのは自分の顔…

「…私? じゃなかった…アリシア」
「立てる?」

 意識がはっきりしてくる。

「また負けちゃったんだ…」
「フェイトが全力できてたから、ごめんね。」
「最後のは何だったの?」

 マッハクレセントでソニックフォームを使い、大剣状のバルディッシュで高速で動くアリシアを彼女の攻撃範囲外で倒すつもりだった。 でも彼女は更に速度を上げ振り抜いた後に…ライフポイントを全て奪った。

「えっと…私の必殺技みたいなものかな、まだ練習中なんだけどね。」

 にへらと笑い答えるアリシア

「そうなんだ…」

 彼女に勝つ為に研究し対策を練って来たけれど、

「ん?どうかした?」

 顔を覗き込んでくる彼女を見てわかった。
 彼女を目指して強くなるんじゃなくてもっと先を目指さなくちゃいけない

「ううんなんでもない。楽しかったありがとう」

 負けた筈なのに何故か気分は軽やかだった。



「アリシアそろそろ戻ろう。次に待ってる子も居るから」
 
 デュエルを終えて戻ろうとアリシアに声をかける。彼女は何かあるのか周囲をキョロキョロ見回していた。

「アリシア?」
「これ…魔力? 先に帰ってて私も直ぐに戻るから」

 そう言って市街の方へと飛んで行ってしまった。

「?」

 首を傾げながらも直ぐに戻るだろうと思いフェイトは先にデュエルスペースを出る。
 しかしその後、どれだけ待ってもアリシアは戻ってくる事はなかった。

~コメント~
もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
シュテルとヴィヴィオ、フェイトとアリシアの再戦回でした

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