第29話「家族として、家族の長として」

「ここを右、次は左斜め上っ!」

 水中、森林地帯、宇宙空間、古代遺跡の中、平原、次々と色んな世界に飛び込んではインパクトキヤノンでこじ開け突き進む。
その速度に飛行速度の遅いアリサやすずかは追いかけるのが精一杯だった。

「ちょっとは私達の事考えなさいよっ!!」
「ごめん、急がないと…アリシアが危ないの。次は左下、でそのまま急降下っ」
 危険が迫っているのなら急がなくちゃいけない。投げつけられる様に言われてムスッとするアリサ。そこに黒いジャケットに切り替えたなのはがすずかとの間に入って2人を抱える。

「同じセイクリッドだから判るんだけど、あの速さで飛び続けるのはかなり辛い筈だよ。支えるから一緒に行こう」
「うん」
「わ、わかったわよ。」


「フェイト…気づいてる? ヴィヴィオちゃん、ステージを無視して向かってる所。」

 あまりの飛行速度に真っ先に音を上げたアリシアは抱きかかえて貰っているフェイトに聞く。

「グランツ研究所へまっすぐ向かってる。そろそろ研究所のエリアに入るよ。」

 直後、大きなトンネル状の空間に飛び込んだ。
 この先…アリシアはグランツ研究所に居る?

「私達が何処にいるか、みんな知ってるんだよね…」
「うん…だから…」
「待って下さい!!」

 目の前から砲撃魔法が迫ってきた。
 


 砲撃魔砲をインパクトキヤノンで相殺する。

「魔法? この魔法色は…シュテル」
「これより先は立ち入り禁止です。ここはグランツ研究所のテストエリアです。」

 シュテルが向こうから飛んでくる。後に続いてレヴィ、ディアーチェ、ユーリも居る。

「アリシアを探してここに来たの。このまま行かせて、お願い。」
「彼女については博士とスタッフが懸命に調べています。あなた達がまっすぐここに来たことで捜索範囲も絞り込めました。後は私達に任せてT&Hで待っていて下さい。」
「貴様等がこれ以上入れば調査に支障が出る。邪魔だと言っているのだ」
「スタッフのみんなも一生懸命探してるから、僕からもお願い。」
「お願いします。ここは私達とグランツ博士やスタッフのみんなを信じて任せて下さい。」

 4人が口々に言う。

「でも…」

 何か言いかけたなのはを静し

「シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ。みんなは同じ事になっても待っていられるの? 何もしないで黙って帰って待っててって。」
「それは…」
「迷惑かけちゃうかも知れないけど…ごめん。アリシアは私の親友なの、だから私がアリシアを見つけてみせる。」
「判りました…しかし私もグランツ研究所でお世話になっています。博士から追跡の邪魔になるからこれ以上は通さない様に言われている以上譲るわけにはいきません。ここはブレイブデュエルのテストエリア。先に進みたいなら私達、ダークマテリアルズを倒してください。」

 そう言ったシュテルはデバイスを構える。それを合図にディアーチェ、レヴィ、ユーリも構えた。
 こんな状況で戦っている時じゃない。
 でも互いの意志は動かない。

「…わかった。みんなは離れてて。フェイト、ソニックフォームのカード持ってたら貸して。終わったら返すから。」
「う、うん。」

 フェイトはデュエルに参戦するつもりだったらしいが、目を丸くした後カードを取り出しヴィヴィオに渡す。

「4人まとめて相手だなんて無理だよ。私もっ」
「ありがとう、でも大丈夫。巻き込みたくないから離れててね」

 そう言ってシュテル達の前に出る。

「いつでもいいよ。」
「わかりました。では行きますっ!!」
 


「ヴィヴィオ、ソニックフォームのカードなんてどうするつもりかな? レヴィも似たカード持ってる。」

 彼女の事は心配だけれどこの間に減った魔力を少しでも回復させようと考えフェイトはゆっくりと離れる。
 ソニックフォームのカードはレアカードだけれど、それ程強いカードじゃない。ダークマテリアルズはブレイブデュエルでも初期からのテストプレイヤー。持っているカードの種類も誰よりも多く、レヴィも同じ様なカードを持っている。スキルカードを使っても4人の連携は崩せない。

「あの4人を1人でって無茶過ぎでしょ。」

 幾ら素早く動いても相手は4人、フェイト達だってチーム対抗の公式戦ですら勝てないのに…でも、ヴィヴィオは巻き込みたくないと言った。
 何をするつもりなのか見当もつかない。

「いつでもいいよ」
「わかりました。では行きますっ!!」

 ヴィヴィオとシュテルがそう言い合った直後、ドンっという音と遅れて衝撃波がフェイト達を襲った。

「キャアアアアッ!」
「!? 何よこれーっ!!」
「アリサっ、アリシア!」

 吹き飛ばされた2人をフェイトは追いかけ、壁にぶつかる寸前でなんとかキャッチし息をつく。

「ありがと、何だったのさっきの…て、えええっ!?」

 アリサが指さした先を振り返えると…

「……え?」

 その場にはヴィヴィオしか居らず、4人は地面に倒れていた。 



「シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリごめんね…本当に時間が無いの。」

 倒れた彼女たちの所に降りて確認する。デバイスは砕けているけれどジャケットは無事だ。

「…わ…私達のライフポイントを一瞬で0にするなんて何を…」
「後で教える。今は時間が無いの…ゴメン。みんなっ大丈夫?」

上空を見ると全員無事で胸を撫で下ろす。目を閉じて再び魔法の因子の存在を確かめる。…まだ奥に続いている。
 再びヴィヴィオは飛び立った。
 


「回復魔法を使いますから少し動かないで下さい。」

 シュテルがヴィヴィオ達が先に向かうのを眺めていると、リインフォースに似た少女ともう1人赤毛の少女が降りてきた。
回復魔法の光を受け少しずつライフポイントが戻っていく。

「イタタタ…あれ何だったの?」
「知らん、あんな魔法は見たこともない。」
「いきなり叩き落とされた気がします。」

 レヴィ、ディアーチェ、ユーリが目を覚ました。
 防御する間もなく攻撃をもろに受けて気を失っていたらしい。

「私も…それにデバイスも壊されました。1度シミュレーターから出て追いかけなければ」

 立ち上がろうとした時、体の自由を奪われる。

「これは…拘束系」
「私達がただ残ったと思ってるの?」
「少しの間、このままここに居て下さいね♪」

 そう、リインとアギトの2人は回復の為だけ残ったのではない。ヴィヴィオ達を妨害させない為に残ったのだ

(やられました…ん?)

 上空を5つの光が飛んで行く。その姿を遠目に眺めながらシュテルは自分達が彼女の手の平で踊らされていた事に気づいた。

「さすが八神堂の主です。」
 


「もう…急いでるのにっ」

 焦っている時に限ってと前の2人を睨む。
 目の前にはキリエとアミティアがいた。

「待って下さい。あなた達の気持ちもわかります。私ももしキリエが同じ目に遭ったらと思うと…ですがここは父さん、グランツ博士を信じてください。」
「アミタさん、行こうとしてる所知ってるんですね? 教えて下さい。そこにアリシアが居るかも知れないんです。」
「あそこは…いいえ、皆さんは戻って待っていて下さい。私達が必ずアリシアさんを目覚めさせる方法を見つけます。」

 埒があかない。そんなこと言い合ってる時じゃないのに…

「行ってヴィヴィオ…ここは私達が止めるから。」

 フェイトがバルディッシュを抜く。

「私もっ」

 再び漆黒のセイクリッドを纏ったなのはと赤基調のジャケットを纏ったアリシアがデバイスを構える。すずかとアリサも互いのジャケット色を変え構えた。
 しかしそこへ

「その勝負、我らが応じよう。」

後ろを振り返るとやって来たのはシグナム達

「我が主、遅れて申し訳ありません。」
「ううん、ナイスタイミング!」
「ここは私達に、グランツ研究所にはお世話になっていますが家族の邪魔はさせません。」

 リインフォースがナハトヴァールを装備する。その横でシグナムがレヴァンティンを、ヴィータがグラーフ・アイゼンを構え、人型に変わったザフィーラとシャマルもデバイスを出している。

「ヴィヴィオ行けっ! ここは私らが相手だ」
「う、うん」

 ニヤリと笑ったヴィータに頷き返しキリエの横をすり抜け奥へと飛んだ。

「あっ!待って!!」

 アミタが追いかけようと振り向く。しかし

「立場が逆になったな。ここから先に進みたければ我らを倒せ。無論簡単に倒されるつもりはないがな。」

 シグナムのレヴァンティンから赤い光が立ち上る。

「あーもう、このままではブレイブデュエルが使えなくなるかも知れないんですよ。そうなったら八神堂も困る筈です。どうしてそこまでヴィヴィオを庇うんですか?」
「ヴィヴィオちゃんは私達の『家族』だからよ。家族は最後まで信じるのが当然でしょう」

 シャマルが凜とした声で答える。

「家族って彼女は異世界から来た…」
「それがどうした? 異世界の人間だから家族になれない? ふざけんなっ!!」

 キリエの言葉を聞いてヴィータの怒りが爆発する。

「一緒にご飯食べて、寝て、風呂に入ったり散歩に行ったり店を手伝ったり…家族になるのに決まりなんてあるのかよっ! 私らの家族はそれで十分だっ」
「我らの絆を舐めて貰っては困る」
「…すみません、妹の非礼はお詫びします。ですが、私達も父さん…グランツ博士の夢を壊させる訳にはいきません。」
「そういう事、悪いけど手加減できないわよ」
「それは我らも同じ」 

 一拍の間の後、7つの光がぶつかった。

  

「やれやれ…驚いたな、ここへまっすぐ来るなんて。」

 アミタ達を振り切ってまもなく白衣のグランツが現れた。

「でもこれでアリシア君が何処にいるか見当がついた。済まないが通信を切断させて貰うよ」
「博士ちょっと待ってください。少しだけ時間を貰えませんか」

スッとはやてがヴィヴィオの前に出る。

「ヴィヴィオちゃんがまっすぐここに来たのは何か理由がある筈です。私はヴィヴィオちゃんんのデュエルを何度も見てましたが私たちとは違う…もっとここと近い気がするんです。」
「博士は知ってるんじゃないですか? ヴィヴィオちゃん達とブレイブデュエルが何か関係あるって、だからテストとか話を聞きに来たんと違いますか?」
「はやてさん…」

 はやてがそんな風に考えているとは思っていなくてヴィヴィオは驚く。だがグランツは険しい眼差しで逆に聞き返した。

「うん、仮に僕がヴィヴィオ君達とブレイブデュエルについて何か因果関係を知っていたとして、ブレイブデュエルがヴィヴィオ君達のせいで動かなくなったとしたら、はやて君は責任取れるのかい?」
「それは…」
「アリシア君を目覚めさせる為に僕たちは全力を尽くしている。君達は今それを妨害しようとしているね。ブレイブデュエルが止まれば八神堂は勿論、研究所もT&Hや近くの協力してくれているショップにも迷惑がかかる。」 
「それは…そうです。」

 グランツの言葉には重みがあった。
 ブレイブデュエルがもし止まれば八神堂は勿論グランツ研究所、T&H、そしてヴィヴィオ達が最初にブレイブデュエルで遊んだショップにも迷惑がかかる。

「そうなったら…八神堂は…ブレイブデュエルを止めても…いいです。」
「だがT&Hはどうするんだい?」
「………」
「グランツ博士、止めなければいいんですよね。だったら…」
「ヴィヴィオ君は黙っていたまえ。僕は八神堂の店主として彼女の判断を聞いているんだ。」
「っつ」

 グランツが一喝する。穏やかな普段の声とはかけ離れた彼の声に怯む。だがその時

「T&Hも八神堂に賛同します。」

 グランツの背後からクロノが現れた。

「君はT&Hの…」
「クロノ・ハラオウンです。ホビーショップT&H店長、プレシア・テスタロッサとリンディ・ハラオウンの代理として研究所のスタッフにここへ送って貰いました。」
「ブレイブデュエルはT&Hにとっても大切な商品です。ですがプレイヤーが安心して遊んで貰えるのは安全が保証されているからです。今アリシアさんが原因不明のブレイブデュエルから戻って来ていないという問題が起こり、ヴィヴィオさんは彼女を助けにここまで来た。彼女の向かう先にはアリシアさんが居て原因も判明する可能性が高い。T&Hは子供達に安全で楽しく遊んで貰える事を優先します。それが出来ないのであればブレイブデュエルは止めるしかありません。」
 クロノがはっきりと言うと険しかったグランツの顔が穏やかになった。

「そうだね。安全でなければ楽しめない。」
「博士も判っていたんでしょう? 時間が無い時に新社会人を虐めるのも大概にされたほうが…」
「ハハハハ…なんの事かな?」
「えっ? そうなん!?」

 どうもはやてはグランツに試されていたらしい。

「ヴィヴィオ君、さっきは怒って悪かったね。ブレイブシステムの中枢に案内しよう」
 

~コメント~
もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
ヴィヴィオvsマテリアルズと因縁の対決…は起こらず、瞬殺でした。
イノセントでは新社会人のはやてが店主となり、他の家族は学生です。(遂に犬になったキャラもいましたが…)
 今話はそんな新社会人のはやてにグランツが大人の責任を突きつけます。もしクロノが来なかったらはやてはどんな判断をしていたのでしょうか?

さて、本日冬コミのサークル当落が発表されました。
鈴風堂は夏に落選していましたので、今回も…と思っていたら
先程ツイッターで…
え? ホントですか? …わぁぁぁあああああ
めでたく当選したそうです。

どうしましょう?

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