第30話「逆鱗」

「ここが…」

 グランツによって別の場所に移動したヴィヴィオの目の前に広がっていたのは大きなドーム状の部屋だった。

「ここがブレイブデュエルの中枢だ」

 辺りに魔力が満ちている。意識しなくてもリンカーコアの鼓動がわかる。
 無機質に広がる部屋、その中心に大きなカプセルがありそこから木の根の様にケーブルが伸びている。そしてそのカプセルの中には大型の赤い結晶。大きさは違うけれど見覚えのある結晶体…

「レリック…」
「数年前、僕がブレイブデュエルの研究に躓いていた時、アミタとキリエが見つけてきてくれたんだ。最初はもっと小さな物で何の結晶体かわからなかったんだが。」
「これを使うと意志の力で様々な効果が起こる事が判ったんだ…ここで言う『魔力』の元だね。私はそれを体感ゲームとして取り入れブレイブデュエルを、同時に現実世界でも使えないかとNPC用のロボットを作った。」
「ブレイブデュエルやチヴィットの源は魔力…レリック…そうか、私だけじゃなくてアリシアのペンダントにもレリック片があるからこれに引かれたんだ…じゃあアリシアも」

 ヴィヴィオとアリシアに…正確にはヴィヴィオのRHdとアリシアのペンダントにはレリック片が入っている。アリシアはこれを探しにここに来た。
 近づいてレリックに触れようとした瞬間、砲撃魔法がヴィヴィオに対し放たれた。

「危ないっ!!」
「!?」 

 咄嗟に右手に魔力を集め砲撃魔法を殴って跳ね返す。

「誰っ?」

 そこに現れたのはヴィヴィオ、でも彼女の方が成長している。

「チェント!?…じゃない…私? アリシアっ!」
「どうしてここに来たの? 魔法が無ければ別々で居られるのに、ヴィヴィオもアリシアも」

 彼女はアリシアを小脇に抱えている。

「アリシアっ!!」

 駆け寄ろうとするが再びヴィヴィオ目がけて砲撃魔法が飛ぶ。今度はインパクトキヤノンで相殺する。

「裏切ったヴィヴィオは…許さない。」
「私が裏切った? 別々で? まさか…聖王の私? ううん、それより、アリシアに何をしたのっ!!」
「人の心配してる余裕あるの?」

 彼女が放ったアクセルシューターを避けるが後ろで悲鳴が聞こえる。 

「なのはっ、すずかっ!!」

 なのはとすずかがアクセルシューターを避けきれず受けて吹き飛ばされている。

「防御スキルが効かないっ!」
「防御だけじゃない攻撃スキルもっ、きゃああっ!」
「アリサっ!!」
「こんなの打ち返しちゃえばっ! きゃあっ!」
「お姉ちゃん!!」
「アリシアっ!!」

 アリサが剣で叩き切ろうと、アリシアがハリセン状のデバイスでアクセルシューターを打ち返そうとするが、虹色の光に触れた瞬間爆発を起こし吹き飛ばされた。

「邪魔する子達は先に眠って」

 薄ら笑いを浮かべながら彼女が再び放ったアクセルシューターははやてを襲う。
 咄嗟にヴィヴィオはインパクトキヤノンを撃つ、しかしアクセルシューターに直撃した後もそれは突き進む。

「はやてさんっ!」

 フェイトのカードを使い即座に狼狽える彼女の前に動き、手に込めた魔力で叩き落とした。

「ありがと」
「インパクトキヤノンが効かないのに、こっちだと叩けた…本物の魔力…」

 彼女が使っているのはブレイブデュエルのスキルカードじゃなく、本物の魔力。

「あの人は誰? ヴィヴィオちゃんにそっくりやけど?。」
「…多分、私の中のもう1人の私だと思います。あのジャケットも知ってる」

 彼女が身につけたジャケットはJS事件で無理矢理着せられたあの服そのもの…

「私がなんとか彼女を相手してアリシアを離させます。アリシアをお願いします。」
「うん」

 はやてが頷くのを聞いてヴィヴィオはもう1人のヴィヴィオ、聖王ヴィヴィオへと突撃した。
 


「アリシア、アリシアっ!!」

 誰かに揺れ動かされるのを感じ、アリシアは瞼を開く

「目覚めた?」
「…ん…はやて?」
「ここで何があったん?」
「あ…私、気を失ってたんだ…フェイトとデュエルした場所で魔力の欠片を見つけてどこからきてるか調べてここに来て…部屋に入ったら大きな結晶が見えて…どうしてはやてがここにいるの?」
「あんたがいつまで経っても戻ってこないからみんなで心配してここまで来たのよ。」

 体を起こそうとするとはやてとすずかが手伝ってくれた。

「アリサ? みんなも?」
「でも良かった…」

 目の前にアリサだけでなくなのはやアリシア、クロノ、そしてフェイトは涙ぐんでいた。

「本当に良かった…私…」
「心配かけてごめんね…ヴィヴィオは?」

 彼女達がいるならヴィヴィオも居るはず。立ち上がる。

「ヴィヴィオちゃんはあっち」

 はやての顔からさっきまでの笑みが消えて指さした先には聖王ヴィヴィオとヴィヴィオが正に戦っている最中だった。

「ヴィヴィオとヴィヴィオって…そうだ、私ここで待ってた大人ヴィヴィオに気を失わされたんだ。」
『アリシア君無事でなによりだ。彼女は何者だい? ヴィヴィオ君達が使っているのはスキルカードの魔法じゃない』

 グランツの声が直接頭に届く。

「あの子はもう1人のヴィヴィオです。多分本当の魔法を使ってる。そんなのより戦っちゃだめだ。ヴィヴィオっ!」
「アリシアちゃん!」

 アリシアははやての静止も聞かずヴィヴィオ達の所へと飛び出した。



「どうしてこんな事するのっ!」
「今をヴィヴィオが望んだからだよっ!」

 近接戦でアリシアを離させた後、ヴィヴィオは聖王ヴィヴィオと何度もぶつかっていた。
 彼女の動きには見覚えがあって、拳がぶつかり合う度にこのまま戦っていいのか? どうして彼女は怒っているのかを考え迷わせた。

「私はこんなの望んでないっ! 別々で居たいなんて思ってないよ」
「嘘をつくなぁあああっ!」
「きゃあああっ」

 怒号と共に繰り出される拳を受けて壁にめり込む。
 続け様に放たれるアクセルシューターに対し直ぐさま壁から離れ防御態勢を取る。しかし

「ヴィヴィオーっ!」
「アリシア!? 来ちゃ駄目ーっ!!」

 アリシアの声を聞いて無事だったのに安堵したのもつかの間、聖王ヴィヴィオの矛先が彼女に切り替わった事に気づき叫ぶ。

「あのまま寝てればいいのに、セイクリッドクラスター…」
「えっ?」

 無防備に振り返ったアリシアに対し砲撃が面となって降り注いだ。

「アリシアーッ!!」

 叫び声も届かずそのまま木の葉の様に落ちていく。

「ヴィ…ヴィヴィオ…」

 地面すれすれでなんとか彼女を受け止める。でもジャケットはズタズタに引き裂かれていて…

「アリシアっ」
「私…ヴィヴィオに心配かけてばっかり…でも…見つけたよ。」

 震える手で1枚のカードを取り出す。そこに描かれていたのはRhdとバリアジャケットを着たヴィヴィオの姿…

「これで帰るきっか…」

 そこまで言うと彼女の体から力が抜ける。

「きっかけなんてどうでも…どうでもいいよ。一緒に行くって言ったよね。あっちのヴィヴィオと一緒に練習したいって。」
「………」

 ヴィヴィオが話しかける声はもう彼女に届かなかった。



 魔法が無い世界。やって来た最初は酷く不便にも思えたけれど、慣れてくるとここは楽しい。
 ここなら私とアリシアの間にある魔法力の差やベルカ聖王を意識しなくていい。
 2人の間にあった壁が無くなってもっとアリシアが近くに居る気がしてた。一緒になのは達やシュテル達とデュエルも楽しかったし、はやてさんのお手伝いをして闇の書事件の撮影で触れた八神家の暖かさが心地よかった。
 元の世界に戻る方法が見つからなくて焦った時もあったけど、すぐに見つかる様な気がしてた。


でも…


でも…


「ここに来なきゃ、これもヴィヴィオのせいだよ。」

 降りてきた聖王ヴィヴィオは笑いながら言った言葉に一瞬肩を奮わせる。

「そっか…そんなこと…しちゃうんだ…」

 彼女の身体を地に下ろし、彼女から託されたカードと一緒に自分のブレイブホルダーを手に握らせる。

「私…いつもあなたと一緒でアリシアとももっと仲良くなれるって思ってた。でも、違ったんだ…一緒に居たいから魔導師試験も受けて、今まで隠してきたけどみんなにも知って欲しいって思ったからSランクになって先生にも話したのに…私1人…バカみたい…」

 立ち上がって聖王ヴィヴィオの方を向き、1歩、また1歩彼女へと近づく。

「もういいよ、もういい…全部私のせいでいいよ。王様でも悪魔でも何でもいい。でもね…」

 
「ここまでされて…黙ってなんか、いられないよっ!!」

 直後ヴィヴィオから凄まじい虹色の光の奔流が生み出された。それは光の柱の様な神々しいものではなく、例えるなら荒れ狂う竜巻。
 周りの空気は震え、中央の大型レリックが輝き始める。

「!?」

 そして…光が収まった後、ヴィヴィオは無表情に構えもせず予備動作もなしに拳を突き出した瞬間、聖王ヴィヴィオは何かに殴られた様に奥へと吹っ飛ばされるのだった。


~コメント~
もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
本編側ではまだ話題にもなっていないのでオリジナル展開です。

 なのはイノセントの世界はヴィヴィオの体験してきた世界と少しずつ繋がっています。
 なのはやフェイト、はやて達が居たり、シュテルやアミタ達が居たり、ジャケットや魔法…SSでもその繋がりは幾つも持たせています。
 今話で言えばアミタとキリエがレリックを見つけてきたという話は刻の移り人編 第26話「願い」に繋がっていたりします。


Comments

Comment Form

Trackbacks