第31話 「アリシアの過ち」

「何が起きているのです?」

 ドームに入ったシュテルは誰ともなく聞く。
 グランツから全員ここに来るように言われ、リインとアギトと一緒にここへ来る途中でアミタ達の激戦を外からルシフェリオンブレイカーを放って頭を冷やさせて、遅れながらも辿り着いた。
 遠くで誰か2人が戦っている様だけれど、誰かはわからない。
 凝視すると西欧風の鎧姿のヴィヴィオと先のジャケット姿に似た大きくなったヴィヴィオが戦っている。何故彼女が2人居るのか?
 状況がいまいち掴めない。
「シュテル、あれを」

 ユーリに指さされた方を見ると他の者達が集まっている。
 ヴィヴィオ達のデュエルは激しすぎて簡単に手が出せそうにもなく、先に状況を聞こうと降りていった。


「何が起きてるんで…アリシア」

 フェイトに抱きかかえられるようにして眠っているアリシアの姿を見る。

「シュテル…アリシアが…アリシアが…」

 嗚咽が混ざった声でフェイトが答える。

「アリシアちゃんがヴィヴィオちゃんを庇って…」
「背後からまともに魔法を浴びて…」
「まるで…」

 すずかとなのはの話を聞く。どうもデュエルに巻き込まれたらしい。

「それは何だ?」

 アリシアの横に置かれていたブレイブホルダーとカードを指さす。

「これはヴィヴィオちゃんの…」

 こっちのアリシアはフェイトの横で彼女を支えるようにしながら泣いているし、呼んだ筈のグランツもいない。

「誰も始めから見ていないのか?」

苛立ちを露わにしたディアーチェの言葉に

「あ、それなら私が…」
「途中からですが…」

 はやてとクロノが立ち上がる。

「すみませんが最初から状況を教えてください。」



「…なるほど、ヴィヴィオはアリシアが落とされたのを見てあの姿になったのですね」
「あんなジャケットありましたっけ?」
「ううん、初めて見たわ」
「………」

 2人から話を聞いて状況を理解したシュテルは遠くの空で戦っているヴィヴィオを見る。

「ブレイブホルダーがここにあるのですから、あれはブレイブデュエルからの物ではないでしょう。このままデュエルが激化するとメインユニットが破壊される恐れもあります。」
「だがさっきのアレは我らには為す術がない。」
「………」
「あれ本当の魔法かな?」
「そんな悠長な話してる場合とちゃう。急いで病院に行かな!」

 どうやって止めるか? という話題に話が変えていこうとした時、はやてが半ば怒りながら言う。
 その言葉にシュテル、ディアーチェ、レヴィ、ユーリは互いの顔を見合わせた。

「病院ですか?」
「そうや」
「誰を?」
「アリシアちゃん!」
「どうして?」
「どうしてって…あんな魔法を直に受けたらっ! 博士に連絡して病院に連れていかんと」

 そこまで言われてどうして彼女が焦り、なのはやフェイトが泣いているのかをシュテル達とアミタ、キリエは理解した。

「取り乱してないで落ち着きなさい。」
「よく思い出してください。ここはブレイブデュエルの中なんですよ? 2~3日ここにずっと居続けたりすれば流石に危険ですが、数時間居る程度で病院に行く必要はありません。」
「でもっ!」
「あやつは魔法の直撃を受けたのだろう? ここで魔法を受ける度に怪我していては我らはとっくにここに居らん! それに博士が何もせず見ている訳がなかろう。」
「へっ? あっ!!」

 キリエとアミタ、ディアーチェの話を聞いてやっと思い出したらしい。

【ブレイブデュエルの中ではどれだけ魔法を受けても実際の体にはかすり傷1つ出来ない】ということを…

「じゃあ…」
「はい、どのような思惑があるのかは知りませんが…」

 ツカツカとフェイトに抱かれたアリシアの前に来て彼女のほっぺたを思いっきりつねった。

「ヒタイヒタイっ!!」
「狸寝入りです。」

 倒れた筈のアリシアが悲鳴をあげる。

「アリシア!?」
「!!」

 フェイトやなのは達は思いっきり驚きのけぞった。

「かすり傷もしないのに死ぬ訳がありません。アリシア、状況から察するに大きいヴィヴィオをけしかけたのもあなたですね。」
「ヒタイヒタイ ひゃんとはなふあらはなひて(ちゃんと話すから離して)」



「騙して本当にごめんなさい。でもさっき助けに来てくれるまで眠っていたのはホント。」

 アリシアがここへ来た時バラバラだったパズルのピースが次々埋まっていくのを感じていた。そしてここでヴィヴィオを介さず大人ヴィヴィオ-聖王ヴィヴィオに初めて会った。
 この世界に来てしまった原因は彼女だった。
 その理由がヴィヴィオがミッド式の魔法を学び始めた事で自分が捨てられるのではと思い、同じ目線で見ているのが辛くなったと告げた。
 それは違うと話しをしてもヴィヴィオから聞かないと彼女には受け入れて貰えない。聖王ヴィヴィオと出会ってユニゾン出来たからヴィヴィオはもっと遠くに目指し始めたのだということをどうやって伝えればいいか思案する。
 そこで、このままアリシアが捕らえられた事にする計画を思いつく。
 ここに居れば自ずとヴィヴィオが来て話し合えるに違い無いと。
 ヴィヴィオなら彼女の思いを受け止めてくれる。その蟠りも…そしてもう1つ聖王ヴィヴィオには黙ってある事を思い巡らせていた。

「もし好きな時間に行く魔法が使えたら…誰でも使いたいと思う。ヴィヴィオはこれからそんな思いを持ったまま隠さなきゃいけない。でももし誰かに知られて強要されたら、その時は私が弱点になる。その時の為に私が動いたら撃ってって言ったの。」

 アリシアの話を聞いてはやてとシュテルは深いため息をついた。クロノは頭を押さえ、ディアーチェは眉間に皺を寄せ肩を奮わせている。

「怪我せんここでなら試せるって、考えたって思うけど…」

 はやてはなのはとフェイトの方を向くと2人も頷く。彼女達も気づいたようだ。

「アリシア、1番大切な事忘れてるし間違えてる。」
「うんヴィヴィオちゃん怒ってる。大人のヴィヴィオちゃんとアリシアちゃんと…ヴィヴィオちゃん自身に…」
「えっ? どうして?」
「さっきあなたが答えています。時間移動出来る魔法、異世界を移動出来る魔法はあなた達の世界でも彼女しか使えないのではないですか?」
「過去や未来への願望は誰もが持っている。彼女は魔法でそれを可能にし、彼女に無理矢理使わせる、従わせようと思うなら家族、友人が巻き込まれるのは避けられない。」
「そんな簡単な事ヴィヴィオさんはとっくに気づいています。」

 はやて、フェイト、なのは、シュテル、クロノ、アミタは続け様に言う。

「それなのにアリシアと大人ヴィヴィオが今の状況を作った。ここは魔法が使えますがゲームの中でどんな怪我しても現実の身体には影響しません。ヴィヴィオがそれに気づいていたらどう思うでしょう?」
「アリシアちゃんとあっちの大人ヴィヴィオちゃんに私は信頼されてない、裏切られたって思うんちゃうんじゃないかしら?」
「!?」

 驚くアリシアを見てシュテルは続ける。

「もし何かあった時『あなたを助ける力がヴィヴィオには無い』とあなた自身が思っているのを証明してしまったんです。ヴィヴィオは魔法の使えない世界でも何か思うところがあったのでしょう。彼女は私達が考えつかない様な事を色々試していました。」
「私の推測ですが魔法文化がある世界では魔法の能力や才能も社会に含まれているのではありませんか? 彼女しか使えない魔法を持つヴィヴィオとあなたには大きな隔たりがある。でもブレイブデュエルにはそれがない。互いにゲームの中で同じ条件で競い共に遊ぶ事ができる。彼女にとってもここは有意義な世界であり、ゲームをする為のブレイブホルダーやカードは大切な物だった筈です。」
「でもそれはここにあります。ヴィヴィオはあなた達と自分に怒り、それを捨てたのではないですか?」


 シュテル達の言葉はアリシアに深く突き刺さった。

(ヴィヴィオも気づいてたんだ…そうだよね。私、本当にバカだ…)

 震える手で持っていたヴィヴィオのカードを見る。シュテルの言うとおりブレイブホルダーとカードは使わないのではなく『捨てた』のだ。

『そっか…そんなこと…しちゃうんだ…』
『私…いつもあなたと一緒でアリシアとももっと仲良くなれるって思ってた…でも、違ったんだ…一緒に居たいから魔導師試験も受けて、みんなに知って貰いたいって思ったからSランクになったのも先生にも話したのに…私バカみたい…』

 ヴィヴィオの怒りは聖王ヴィヴィオに向く、そして彼女に怒りの矛先を既に向けていた聖王ヴィヴィオと直接話せば思い違いにも気づいてくれる。
 でも彼女は聖王ヴィヴィオとアリシア…そしてヴィヴィオ自身にも怒っている。

「そんな…私は…」

 私だけが知っている。
 チェントの事件でアリシアが殺されそうになった時、ヴィヴィオは自身を見失い、スカリエッティ達を消しにかかった。あの事が脳裏にあったからここで同じ状況を作ればと考えていた。
 これからアリシア自身に同じ様な事があればヴィヴィオは我を無くして相手を消そうとするだろう。その時周りに無関係な人が沢山いても彼女の瞳に映らない。しかもヴィヴィオの魔力はその時より上がっている。次に同じ様な事があってもヴィヴィオが彼女自身を押さえて貰わなければならない。だから聖王ヴィヴィオに頼んで撃って貰ったのに。
 でも…ヴィヴィオがどんな風に考えていたか知らなかった。

「私…ほんとにバカだ…」

~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
 ヴィヴィオの使う時間移動魔法『時空転移』は非常に強力で誰もが望む魔法です。家族や友人以外の誰かに知られたら強制的に使わされる可能性もあります。家族や友人の中で1番弱いと自覚するアリシアはその事を常に危惧していて、唯一彼女だけがヴィヴィオが切れた時を見ています。
 そう言う意味では正に逆鱗に触れたのかも…


 話は変わりまして、今回の更新が遅れすみませんでした。土曜日に掲載するつもりでしたがある用事で更新出来ませんでした。
 ある用事…というのはリリマジの新刊です。
 只今更新中の「リリカルなのはAdditionalStory」が文庫本になります。表紙・カバー・挿絵関係のイラストは静奈君が頑張ってくれて、私も短編ですが書き下ろさせて頂きました。

 先日無事入稿出来たそうで、イベントで是非ご覧下さい。

(久しぶりに静奈君宅で作業していたのですが…4日ほど殆ど寝ずに黙々と作り上げて行く静奈君が凄かったです。)

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