第32話「もう1人の使い手」

「何にせよこのままではブレイブデュエルに影響が出る。」
「話するにしても1度落ち着かせんと…」

 ディアーチェとはやてが上空を見る。運良くかこっちに流れ弾は届いていない。

「2人ともスキルカードを使っていませんが、様子から見て結晶からの力を用いているのは変わりません。私達のスキルカードも少しは通用する筈です。ですが…」

 あの速度で戦われたら目で追えないシュテル達には打つ手がない。

 
「ですが私が…何としても止めます。」
「ううん、アリシアちゃん私がいくよ。」
「無理です、あの魔法は…。」

 首を振って答える。

「シュテル、あなた達が倒された魔法はフェイトの高速移動魔法、ソニックムーブです。」

 アミタが横から入る。

「嘘だっ! 僕だって同じ魔法持ってるけどあんなの出来ないよ」
「ええ、ソニックムーブは珍しくもない移動魔法です。でも彼女は同じ魔法を起動させて使ったんです。目に追えないくらい速く。私たちもここに入る前に見ただけでしたが魔力パラメーターの減り方から見て10回か20回近く使っていました。」
「…そんな事が…」

 愕然となって驚く。複数の魔法ではない、同じ魔法を使った。
 それも2~3度では無く、10~20だなんて…
 何としてもと言ったけれど果たして止められるだろうか?

「ちゃんと見えたよ。ヴィヴィオちゃんがどんな風に動いたのか…だから私が止める。」

 シュテルの表情で察したのか、なのはが笑顔で言うのだった。 




「とても美味しい食事でした。」
「ありがとうございます。」

 高町家のダイニングで微笑むイクスになのはは満面の笑みで答える。

「また腕上がったんとちゃう? なのはちゃん」
「うん、凄く美味しかった。」
「ありがとう♪」

 沈んでいた部屋の雰囲気も華やかになってホッと胸をなで下ろす。

 はやてがカリムに通信を繋げた後、それはもう大変だった。
 今まで見たことも無い勢い剣幕でお説教するカリムになのははフェイトと共に口を挟めないでいた。シスター服を着ているとは言え、イクスは歴とした古代ガレアの王であり聖王教会に取って貴賓である。又、彼女の知識や記憶は現在の教会や管理局では手に入らない貴重なものも多く、彼女だけが作り出せる『マリアージュ』は第1級クラスのロストロギアにも劣らない程危険な能力。
 そんな彼女が何も言わずに居なくなったら? 
 彼女が居ない間に聖王教会内で何があったのか……カリムの様子を見て推して知るべし。
 イクスはお叱りを受けている間、時折はやての方を見て無言の助けを求めていたけれど彼女はあえて視線を外していた。巻き込まれるのが怖かったのか余程腹に据えかねたのか…
 そして彼女が迎えを送ると言う話が出た時、涙目のイクスを見てなのはは今夜は泊まっていく様に助け船を出した。
 結局はやても泊まる事でカリムの了承を得たのだけれど、とても話が出来る雰囲気ではなく…
久しぶりに料理の腕を振るったのである。

「お茶入れてくるね。」

 席から立ち上がったなのはをイクスは追いかける様に立つ。

「私も手伝います。」
「1人で大丈夫ですよ。イクス様はお客様なんですからフェイトちゃん達とお話して待っていてください。」
「いいえ、もう1人の彼女にとって貴方…なのはさんは母です。でしたら彼女にとっても家族であり、今彼女と共にある私も家族です。家族は客人ではありませんよ。」

 どういう理屈だと思いながらも面白くて少し笑う。近くで聞いていたフェイトとはやても苦笑している。

「わかりました、じゃあお手伝いお願いします。」
「はい♪」

 軽やかな足音を鳴らせてイクスは後ろを付いてくる。

「イクス様、聞いてもいいですか?」。
「イクスでいいですよ。先程も言いましたが私も家族です。」
「じゃあ…イクス、はやてちゃんが話してくれた【ヴィヴィオの鎧】ですけど、相手を倒す覚悟をした時に現れるんですよね? 昔の聖王と戦った相手はどうなるんですか?」

 お茶の用意をしながらイクスに聞く。

「そうですね、立っていられたのは数える程しか居なかったのではないでしょうか?」
「え?」

 思わず振り返って聞く。

「立っていた相手は王を倒した者だけです。先日の彼女は倒されると思って無意識に出してしまったのでしょう。あの時【本気で倒すつもり】でしたらここには夜天の王と騎士達は居ませんね。」

 さも当然といった感じで答えるイクス、だがなのははその言葉に戦慄を覚えるのだった。 
 


「じゃあみんな…作戦通りでいくよ」

 なのはのかけ声にはやてやフェイト達が頷く。アリシアも

「うん…」

 頷いた。
 作戦はこうだ。
 戦闘中の2人のヴィヴィオの意識を他に向けさせる。
 まずはアミタとキリエが攻撃力、防御力弱体化のスキルを2人にぶつける。
 スキルカードが通用するのかはやってみないと判らないから射撃スキルを使える2人が担当する。その後シグナム、ヴィータ、レヴィ、アリサが2人の間に割り込み矛先を変える。
 戦闘に水を差してより怒る危険もある為、それぞれにシャマル、ザフィーラ、ユーリ、すずかが防御とフォローにつく。
 そしてなのはとフェイト、アリシア、シュテルが遊撃となって2人を引き離す。4人の援護、サポートとしてはやて、リインフォース、リインフォースⅡ、ディアーチェ、クロノがつく。
 その後大人ヴィヴィオの方を全員で拘束しヴィヴィオとアリシアが話出来る時間を作る。ここからはアリシアとヴィヴィオ達の問題だ。
 最初アリシアはシグナム達と一緒に飛び込もうと考えたがシグナム達から止められた。

「血の上った2人には言葉は届かない。心配するな、お前達の話す時間くらい我らが作る。」
「うん…」

 自らが引き起こしてしまった事態だからアリシアもそれ以上何も言えなかった。



「私、本当にバカだっ!」

 ヴィヴィオは目の前の自分自身に砲撃魔法を放つ。
 心の奥底から【倒せ】【消えてしまえ】という呟きが何度も聞こえる。
 聖王ヴィヴィオが砲撃魔法をぶつけて無効化するのを見てそのまま突っ込み拡散弾を放ちながら懐に入り込み魔力を込めた拳で鳩尾を殴る。だが聖王ヴィヴィオもそれを予測してゼロ距離で砲撃魔砲を放った。虹色の魔力の激突で爆発が起こる。

「私もっ、アリシアもっ、聖王ヴィヴィオもみんなバカだっ!!」

 離れて防御姿勢を取った聖王ヴィヴィオとは対称にヴィヴィオはそのまま彼女を追いかけ回し蹴りで蹴り飛ばし壁にめり込ませた。
 動き出す前に追撃しようとした時、下方から2色の光がこっちに向かってくる。その奥にはアミタとキリエがデバイスを構えている。

【倒せ】

 言葉のまま動きだそうとした瞬間、聖王ヴィヴィオの拳か迫っているのに気づいてそのまま受け後ろに飛んで威力を相殺させる。直後聖王ヴィヴィオに2色の光は直撃した。

「邪魔するなぁあああっ!!」

 聖王ヴィヴィオの砲撃魔法がアミタとキリエに迫る。だがその威力はさっきまで受けたものより数段落ちていた。2人は砲撃魔法をさらりと避けて今度はこっちに銃口を向ける。

(弱体化魔法っ)

 でもこれで聖王ヴィヴィオの攻撃力は激減した。拡散弾を再び出してアミタ達を牽制し聖王ヴィヴィオへと向かう。

【潰せ】

 再び拳に魔力を集めて彼女を殴る。さっきまでは防いでいたのに今度は直に受けて再び吹っ飛んだ。一方でアミタ達は拡散弾を避けて背後に回ろうとしていた。でも…

「邪魔しないでよっ!!」

 そこは格好の場所、さっき出した拡散弾の方向を変え四方を取り囲み2人目がけて放つ。

「「!?」」

 集中砲火を浴びて2人の身体から力が抜ける。ライフポイントが0になったようだ。続けざまに2人の背後から高速で動く人影を見つける。シグナムとヴィータだ。明らかに聖王ヴィヴィオとの戦いに水を差そうとしている。

【邪魔者を消せ】

 言葉通り2人めがけて動き、魔法を使う前に懐に入り込み拳に集めた魔力をそのままぶつける。

「!?」
「!!」

 2人の体から力が抜けたのを見て再び彼女の方を振り返るとアリサとレヴィが彼女と戦っていた。

【邪魔者を消せ】

 3人に向かって特大の砲撃魔法を放つ。彼女だけが反応できたらしく寸前で逃げられたが2人は直撃を受けてライフポイントを全て奪い去った。
 そして…術者が倒れた事で弱体化魔法の効果が消えた彼女と共に私達は再び戦いに身を投じた。



「…一瞬で6人て、モンスターハントのアレより強いんちゃう?」
「全くです。」

 一瞬で6人のライフポイントが奪われた。
 遊撃部隊として動く間もなくてはやてがぼやき、シュテルが頷く。
 みんなと一緒に様子を見ていたなのははゴクリと唾を飲み込む。

「次は…私たちだね。」
「うん」

 再びリライズしてジャケットを黒く染める。隣もフェイトちゃんもジャケットを変えた。通常のセイクリッドより反応速度勝負になるのならこっちの方がいい。

「私もっ」

 アリシアも加わろうとしたけれど私が言う前にはやてがそれを制した。

「ううん、私らは時間稼ぎしかできひん。アリシアちゃんはアリシアちゃんしかできひん事あるやろ。大人ヴィヴィオちゃんの方がちょっとだけ詰め甘いから先に彼女を捕まえよう。捕まえられたら…ヴィヴィオちゃんは頼むな」

 今のヴィヴィオは怒っていると思う。友達のアリシアに裏切られて、大人のヴィヴィオと一緒に騙されて…、だからはやての話した通り無理矢理止めも意味がない。きっかけになったアリシアがきちんとヴィヴィオと話をしなくちゃいけない。

「行こう、みんな!」

 なのはのかけ声と共にアリシアを残し全員が彼女達の下へと向かう。




「スキルカードロード、ライトニングアクセルっ!」

 レイジングハードの先端に刃を作りなのははヴィヴィオ目がけてまっすぐ向かう。
 大人ヴィヴィオとのデュエル中でも気づいたのか彼女は光弾をこっちに放つ、しかしなのはは全て避けて2人の間に割り込んで叫ぶ。

「2人とも落ち着いてっ! 話を聞いて!!」
「邪魔するなぁあああっ!!」
「邪魔しないでっ」

 返ってきた答えが全く同じで思わず笑いそうになったがそんな余裕はない。
 アクセルシューターを2人のヴィヴィオへ放ち彼女達を離す。

「フェイトちゃん!!」
「はぁああああっ!!」

 待っていたかの様に大人ヴィヴィオに対し高速で斬撃を繰り出すフェイト。これでこっちはヴィヴィオ1人になった。

「!?」

 流石に割って入られて更に怒らせてしまったらしくヴィヴィオの瞳が険しくなる。だけど…引く気はない。

「ヴィヴィオちゃん、話を聞いてくれるまで私諦めないよ」

 そう言って彼女に対しエクセリオンバスターを放ちヴィヴィオのに直撃する。しかしなのはの攻撃系スキルカードが彼女のシールドを破る事は出来なかった。
 これも予想していた事、エクセリオンバスターは最悪目くらまし。
 この瞬間にすずかが動く。なのはに対する被ダメージを軽減スキルを使った後、真っ赤なジャケットに切り替えてなのはの前に出るが直後ヴィヴィオからの砲撃魔法をまともに受けてしまう。
 ライフポイントが激減し僅かしか残っていない。
「すずかちゃん!?」
「なのはちゃん、あとはお願いね」

 そう言ってデバイスを向けると受けた虹色の砲撃魔法が大きくなって撃ち出された。そしてそれは意志を持ったかの様にヴィヴィオを追いかけシールドを通り抜け直撃する。
 すずかは受けたダメージを魔法ごとコピーし反射、必中させたのだ。
 直接攻撃系スキルカードを使っても未知の魔法を使うヴィヴィオには効かない。でも、同じ系統…攻撃系じゃない魔法なら。

「レイジングハートっ!」

 思いついたスキルカードを読み込ませる。



(言うだけの事はありますね)

 一方でなのはがヴィヴィオを抑えている間、大人ヴィヴィオへの一斉攻撃の先陣を切ったシュテルは彼女の動きを見て笑みを浮かべる。レヴィ達が反応すら出来なかった攻撃を避け、防ぎつつシュテル達との距離を離しているのだ。
 時折ヴィヴィオが死角から攻撃しても予測したかの様に回り込む。そしてスキルカードの特性を利用したのか当たると思った瞬間、ヴィヴィオの攻撃魔法の射線上から瞬間移動したように見えた。
 今まで見た彼女と違う姿に胸が高鳴る。

「シュテル!!」

 どうも見入っていたらしい。ディアーチェの叱責を受けて

「そうでした、今はそれどころではありません。」

 負けていられないとデバイスを業火に染め戦列に加わった。


~コメント~
 もしヴィヴィオたなのはイノセントの世界にやってきたら?
 今話は柔らかい豆腐の様な柔軟さを持ったなのはの主役回です(笑)
 イノセントワールドにやってきてからなのはの出番が少なかったのは幾つか理由があります。ヴィヴィオが異世界人でなのはとフェイトの娘だと告白した後、ヴィヴィオは今後の影響も考えてなるべくなのはとフェイトに会わない様にしていました。又、高町家に居候中のアリシアとも色々重なってきてしまいます。
 その様な理由があったのですが、今話では逆にヴィヴィオの母だからという意志もあり単身迎撃に立ち上がっています。 

 話は少し変わりまして、リリカルマジカル18に参加された皆様お疲れ様でした。なんとか掲載中のAdditionalStoryを発刊する事ができました。まさか掲載中に編集作業するとは予想しておらず、まさか最終データまで作る羽目になるとは…色々おかしな箇所もあると思いますが笑い飛ばして頂けると幸いです。
(AgainStory3迄は静奈さんが文章データから文庫本の最終データを作ってくれていてASで方法を教えて貰い、今回初めて1人でデータを作りました。7回ほど駄目だしありましたが…)

 イノセント世界だからスキルカードと名刺カード企画をまとめてやっちゃったり、餅屋スキルをイベントに持ち込んだり…静奈君も良く思いつきますよね(苦笑)

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