第33話「魔法のない異世界」

「なのは…ヴィヴィオ…」

 アリシアは上を仰ぎながら呟く。
 ヴィヴィオとなのはの戦い…魔力のない世界ただ遊ぶ為の体感ゲームだった筈なのに…

「ヴィヴィオ…」

 聖王ヴィヴィオの方を見る。彼女もこんな事を望んだ訳じゃ無いのに、私のせいで…。

「みんな…ごめん。」

 私が、止めなくちゃいけない…。
 項垂れたい気持ちを振り切りただその時を待つ。


「キャアアッ!!」
「アリシアちゃんっ!」
 なのはの悲鳴とはやてからの呼び声が聞こえたのはほぼ同時だった。
 

 なのはのライフポイントをヴィヴィオが全て奪った。
 そのまま聖王ヴィヴィオとの決着をつけようと彼女の姿を追う。そこには幾つものゲージと拘束魔法で捉えられた聖王ヴィヴィオの姿があった。周りに居るのははやてやフェイト、シュテルの姿。

「どうして邪魔ばかりっ!!」

【倒せ】

 声が明確な意思となって突き動かす。
 その衝動は力となり視線の先に居た者達を全てを巻き込む暴風となる。

【消せ】

 風が過ぎ去った後、唯一立っていた者への怒りが拳を虹色から白色に変わっていく。目の前の自身は苦悶の表情をしているが知ったことではない。その苛立ちもこの1撃で終わる。
 しかし、目の前に1人の少女が立ちはだかった。 

【潰せ】

 その魔力で彼女もろとも潰そうと拳が繰り出される。

【殺せ】

 その様子を見てか目の前の相手は瞼を閉じた。


「…出来る訳ないでしょっ!!」

 しかしその拳は空を切った。

「倒せる訳…倒せる訳ないじゃない。私と私の親友なんだよっ、どうして信じてくれないのっ!」
「私は私とアリシアと一緒に色々見て、遊びに行ったり、勉強して色んなものを共有できるんだって思って、魔導師試験受けてミッド式の魔法も勉強してたのに…どうしてっ!!」

 レリックとのユニゾン出来る様になってからヴィヴィオは魔導師試験を受け、Sランクを取った後ミッドチルダ式の魔法術式を学び始めた。
 時空転移魔法が使えるのを心ない者に知られてたら絶対その魔法を使わせようとするのは判っている。ヴィヴィオが拒否した時を考えて家族や友達が巻き込まれるなんて事はずっと前に気づいていたし、覚悟もしている。
 アリシアが聖王ヴィヴィオに撃たれて倒れる振りをした。その時誰がこの状況を作り、この世界に来た原因は誰が作ったのか全てわかった。
 自分のせいと大泣きしたフェイトや必死に探してくれたグランツやグランツ研究所のスタッフ、プレシアやエイミィ、どれだけの人に迷惑をかけたのか気づいていない2人に腹が立ち、信じて貰えなかった事がどれだけ辛く悲しかったか…。
 魔力が見つかったのであれば戻る方法は見つかった。だから、責任は全て異世界から来たヴィヴィオ自身が取る。

 聖王ヴィヴィオを倒し、元の世界に戻って悠久の書と刻の魔導書を完全に破壊する。
 そう決めた時、頭の中で声が聞こえてきてヴィヴィオはその声のまま動いた。

 でも…
 本当は…

「ごめん…」

 アリシアに優しく抱きしめられる。
 涙で頬を濡らしたヴィヴィオの姿はいつの間にか私服に戻っていた。



「本当にごめんなさい。」

 なのはとアミタ達のライフポイントが戻った後、全員が巨大レリックの前に集まった。
 グランツも再びブレイブデュエルの中に入って、様子を見守りながらチヴィット達に指示を出し壊れたドームを直している。
 アリシアとヴィヴィオの間に聖王ヴィヴィオも居て2人と手を繋いでいる。

「…まぁ、ヴィヴィオが怒ったのも判らなくはないですけど…」
「どこまで本気だったのかしらん?」
「そうだな、我らへの攻撃に比べなのはとのデュエルは精彩を欠いていた。」
「途中で気がついていたのではないか?」

 アミタとキリエ、シグナム、アインスに指摘を受け 

「え?」

 全員の視線がヴィヴィオに集まる。

「そうよ、私達6人が一瞬で倒されちゃったのにどうしてなのはだけあんなに時間かかったのよっ!」
「なんか違う様がするんだけど」

 なのはの呟きに苦笑するヴィヴィオ。 

「まぁブレイブデュエルも壊れへんだし、アリシアちゃんが戻れへん原因もわかったからいいんちゃう。それより…これからどうするん? ここなら『魔法』使えるんやろ?」

 一騒動起きかけたところだったけど、はやてが問いかけたところで再び視線がヴィヴィオに集まる。

「帰ります、私達の世界に。」

 そう言ってアリシアともう1人の私の顔を見る。
 2人とも笑顔で頷いた。
 どうしてここに来たのかわかった。そしてここで何をすればいいかきっかけも見つかった。
 もしかすると、悠久の書が私達にこの事を気づかせてくれる為にここに連れてきてくれたのかも知れない。

「そうか…ここでお別れやね。また…遊びにきてな。」
「はい♪」

 差し出されたはやての手を握る。 

「次に会う時は負けません。もっと練習して強くなります。」
「また遊びに来て下さいね」」
「少しの間だったけど楽しかった。」

 続いてシュテル、ユーリ、レヴィ、ディアーチェと握手する。そして…

「迷わず進め。向こうの私もそれを望んでいる」

 リインフォースが優しく抱きしめてくれた。

「はい♪」



 全員との別れを終えて

「行こう、アリシア、ヴィヴィオ」

 悠久の書を取り出しイメージする。本当の目的地へ
 すると3人の体が虹色に輝き始め、次の瞬間この世界から旅立った。



「ねぇ、キリエ覚えてますか?」
「なぁに?」

 2人が去った翌日、ブレイブデュエルに問題が無いのがわかって再び使い始めていた。
 デュエルスペースにはいつもの様に沢山のデュエリストがグランツ研究所にやって来ている。
 その中でレヴィとユーリがブレイブデュエルのサポートに行っている。
 シュテルとディアーチェは買い物に出かけていてグランツと他の主立ったスタッフは昨夜の出来事で疲れたのか休んでいる。
 アミタはオペレーションルームで時折司会をしながらふと思い出し近くに居たキリエに声をかけた。

「あの結晶を見つけた日なんですが、前日に変わった夢を見ていて夢の中にあの子が居た気がするんです。みんなと何か大切な人を助けるって超スペクタクルな夢だったんですけどね。」
「おねーちゃんたら夢の中まで特撮なのよね~」
「いいじゃないですか! 特撮、最高です!!」

 キリエにからかわれてプゥと頬を膨らませる。

「でも…私も似た夢を見た気がする。かわいい魔法少女が大活躍するんだけど…あの子に似ていたような…」
「キリエも夢の中まで魔法少女じゃないですか。」
「私はい~の! 夢の中で赤い結晶を貰って…起きたらどうしてかわかんないんだけど、あの結晶に呼ばれた気がして…」
「そうそう、そうでした。それで2人で朝早く行ってみたら…」

 モニタに映った赤い結晶体を見る。

「あったんですよね。これが…」
「うん…でもあの子、本当にそっくりだったわね」
「「ヴィヴィオに」」

 どうして彼女が夢の中で出てきたのかわからない。
 それでも、幾つも可能性を見つけてくれた彼女達を思い出すのだった。



 同じ頃、所変わって八神堂の書庫では…

「…………」
「…………」
「…………」

 はやてとシグナム、リインフォースが目を丸くして立ち尽くしていた。
 1週間程前、ここには無造作に置かれ積まれたままの古書が山になっていた…筈。
 でも目の前にはコンテナや段ボール箱とジャンル毎やシリーズ毎に整理され持ち出し易い様に並べられた本があった。
 部屋の角には痛んでいた本が集められていて、修理方法も本毎にメモが貼られていて何冊かは修理を終えた本もあった。

「凄いですね…」
「…彼女が1人で整理した…のでしょうね」

 彼女が八神堂に居る間ここに居る事が多かった。家族全員で少しずつ片付けようと思ってはいたけれど、まさか1人で全部片付けたとは…

「本当に魔法少女やったんやな…」

 手元にあった本を持ち感慨にふけるのだった。



 更に同じ頃、海聖小学校の屋上では

「あー昨日は散々だったわよ。おかげで午前中は睡魔とずっと戦ってたわ。」
「私も~ちょっと大変だった。」

 ぼやくアリサになのはは苦笑する。

「アリサちゃんだったら何かもっと怒るんじゃないかって心配してたんだけど」

 なのはの隣ですずかも苦笑いしながら言うとアリサは首を傾げる。

「何が?」
「アリシアちゃんとヴィヴィオちゃんのこと」
「あ~、昨日のアレね。わかっちゃったから怒る気もなくしちゃったわ。」

 その言葉にフェイトが少し驚く。

「珍しいね。私達が内緒にしてた時はあれだけ怒ってたのに…」
「まぁね、あれだけ懸命になって探して、その理由がアレだったし…それに、2人の正体聞いてあ~って納得しちゃったわ。なのはとフェイトの娘とフェイトのお姉さんだったらあんなの普通でしょ。」
「…私、アリサちゃんにどんな風に思われてるのか凄く気になる。」
「私も…」
「猪突猛進で周りを見ないのに、みんな巻き込んじゃうところなんてソックリよね」
「で、でも私ヴィヴィオちゃんとデュエルしてみたかったな…」
「わ、私も。きっとまた来るよね。」

 和やかな笑みの中、瞳だけは笑っていない彼女を見てなのはとフェイトはその話題から逸らすことにした。



 そして…2人が帰ってから1ヶ月程経った頃

『凄いや、2人とも…負けちゃった』

 ぺたんと座り込むなのはの前で抱き合って喜ぶ中島スバルとティアナ・ランスター。
 シュテルは2人のルーキーの登場をモニタ越しに眺めながら思い出していた。
 彼女達が使っている装備は新たに追加したデバイス。
 初めて遊ぶのに自在に扱う彼女達を見て

(彼女達は知っていたのでしょうか…)

 新しいデバイスと魔法は既に取り入れられ、魔法の同時使用も難易度はかなり下がった。高速移動等の魔法は多重で使うと自身と相手に影響があるから限度回数か決められている。

「再戦が待ち遠しいですね。」
「2人一緒にデュエルするのはシュテルでも厳しいんじゃないかい?」
「博士、アミタではありませんが2人一緒ならその分強くなればいいだけです。」
 

『私は私と一緒に居たいからミッド式を勉強してたんだよ。一緒にいて色んな物を共有したい。オリヴィエさんから受け継いだ資質とかじゃなくて私だから、ヴィヴィオだから出来る魔法を2人で作りたいの。その為にはベルカ式だけじゃなくて色んな魔法も覚えられたらきっと…』

 デュエルの後、ヴィヴィオと大人ヴィヴィオが2人で話しているのをシュテルは聞いていた。あの時はどういう意味か判らなかったけれど、一緒に居るというのは多分彼女達は同一の存在だったのではないかと考える様になっていた。
 
「ハハハ、アミタならそう言うだろうね。」
「クスッ、そうですね」

 2人で笑いながら嵐のように過ぎていった2人の少女を思い浮かべるのだった。


~コメント~
もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
イノセントワールド編、ようやく終了です。
第1話が2014年1月2日に掲載しているので約1年…夏休みがとんでもなく長くなってしまい話数も30話を越えていました。
 AddtionalStoryはもう少し続きますが引き続き楽しんで頂けると嬉しいです。


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