第36話「エレミアの手記」

「あ~びっくりした。」

 はやて達と別れてからヴィヴィオは胸を撫で下ろした。

「会わない所を探したつもりだったんだけど。私もびっくりしちゃった」

 ヴィヴィオも内心とても慌てていたらしい。

「ですが、ここでお会いして良かったです。もし私達がトレーニングセンターでデバイスを使っていたら…大変な目に遭っていたでしょうから。」
「うん」

 アインハルトの言葉に頷くアリシア。ヴィヴィオも頷く。

「ルールーの所だったら大丈夫だよね。遊びに行っていいかメッセージ送ってみる。でもそうなったらスケジュールを考え直さなきゃ」

 端末を広げてルーテシアにメッセージを送ろうとした時、なのはから届いているのに気づいた。

「うん。あれ? ママからだ。夕食みんなで食べようねって」
「じゃあ、買い物済ませて早く帰ろう。また誰かに見つかっちゃうと大変。」

 リオの提案に全員が頷いた、ヴィヴィオも特に後半の部分に強く頷いた。



 その後、ヴィヴィオとアリシアの練習着等を買ってからヴィヴィオ達は急いで帰宅した。
 家に帰るとフェイトが目を赤く腫らしていてヴィヴィオは慌てたが、アリシアだけが理由を知っていたらしくあえて見ない振りをしていた。
 そして

「はやてちゃんと会っちゃったんだ。私にもメッセージが来てた。ヴィヴィオとアリシアのデバイスが未登録になるの気づかなかった。」
「はやて、よく気づいたね、一緒にトレーニングに行ったら私達も大変なことになってたよ。」

 夕食時、なのはとフェイトが笑いながら言っていたけれど、どう考えてもそれだけでは済まないのはヴィヴィオも判っていて…。

(前に来た時何も言われなくて良かった…)

 引きつった笑みを浮かべた。

「それでね、前に練習で使わせて貰った場所を使いたいってルールーに聞いたらいつでもいいって、それよりヴィヴィオとアリシアに早く会いたいって言ってた。」
「いつからにする? 私とフェイトちゃんは明日と明後日、週末は行けないけど…」

 滞在期間は1週間、みんなで魔法練習するのもいいけど4日間連続は流石にきついし、別世界に来てるのにもったいない。

「船も使えないから転移魔法で行くことになるし…3日後でどうかな?」

 次元航行船に乗るにしてもヴィヴィオとアリシアは色々と手続きが要る。しかしフェイトの転移魔法を使えば気にしないで次元世界間の移動ができる。自身の空間転移魔法を応用すれば同じ事ができるかも知れないけれど、異世界で試す程度胸はない。

「うん、それがいい」
「私も。せっかくこっちに来たんだから練習だけじゃなくてみんなで遊びたいよね♪」
「じゃあルールーに連絡するね。ご飯食べたら何処に遊びに行くか相談しよ♪」

 その後も高町家の食卓は賑やかだった。
 


「ヴィヴィオさん、少し寄り道しませんか?」

 楽しく夕食を食べ終えてからヴィヴィオ達は明日と明後日のスケジュールを作った。スケジュールとは言ってもヴィヴィオがよく行く場所を回るのだけれど…
フェイトとヴィヴィオがリオとコロナを送って行くのと一緒にヴィヴィオとアリシアはアインハルトを送って行ったのだけれどその時彼女からそんな事を言われた。

 彼女の後をついて行く。川沿いに作られた庭園まで来るとアインハルトは振り返った。

「ヴィヴィオさん『エレミアの手記』という本を知っていますか?」
「エレミアの手記…ですか? いいえ」
「エレミアの回想録…みたいな本ですか?」

 聞いた事がない本だ。手記や回想録は余程有名でない限り一般に出回っている本でもなさそうだけれど…

「無限書庫に保管されています。」
「こちらには私やヴィヴィオさんの様に昔の記憶を持っている人が居ます。私が対戦し負けた相手…チャンピオン、ジークリンデ・エレミアもその1人です。彼女の先祖が書き残したのがエレミアの手記です。」
「本の中には…イングヴァルトやオリヴィエの事も書かれています。」
「!!」

 驚くヴィヴィオ。まさかそんな本があったとは…

「アインハルトさんはどうしてその話を私達にしたんですか?」

 1歩前に出るアリシア。私に関係する話なのは判ったけれど彼女の意図が見えず警戒している。

「その本にはオリヴィエがクラウス…イングヴァルトの家に来てエレミアと会った頃から始まっています。3人の関係はとても良好でした。」
「アインハルトさん?」
「アリシア、黙って聞こう…」

 質問に答えないアインハルトに対しアリシアが再び聞こうとするがヴィヴィオはそれを制した。アリシアは頷いて彼女の方を向き直る。

「ですが当時の悪化する世界情勢の中では3人は散り散りになり、オリヴィエは聖王のゆりかごを使い世界を平定します。」
「聖王のゆりかご…」
「エレミアの手記には聖王家に生まれた者は直後に聖王核という物を埋め込まれ強い身体と強大な魔力を持ち、その中でも資質に優れた者だけが王となりゆりかごの玉座に座る事が出来たと書かれていました。オリヴィエも聖王核を持っていて聖王のゆりかごの動力源として玉座に座ったそうです。」
「聖王核…」
「ヴィヴィオさんやリオさん、コロナさん達は気にしていませんでしたが、手記を読んであなた…ヴィヴィオさんを思い出しました。強大な魔力を持っているヴィヴィオさんは聖王核を知っているのではありませんか?」
「私とヴィヴィオさんが飛ばされた異世界で見たあの力は聖王核だったのではないですか?」

 実際にヴィヴィオがゆりかごに入ったのはJS事件とチェントの時、どちらもヴィヴィオかチェントがそれを体内に入れていた。

(レリック…が聖王核なんだ…)

 RHdのコアはレリック片、セットアップしてバリアジャケットを纏うと相互魔力増幅機能により強力な魔法が使えるようになる。更に魔力を解放して騎士甲冑を生成し、別の完全体レリックとユニゾンする事で更に強大な魔力を得られる。

「それと…エレミアの手記には私達の資質やあの魔法については触れられていませんでした。あの魔法の資質は何処から来たものなのでしょうか?…私がお話したかったのはそれだけです。遠くまで誘ってすみませんでした。途中まで案内します。」

 時空転移の資質はオリヴィエが持っていてそのクローンであるヴィヴィオやチェントにも引き継がれている。でもここではヴィヴィオにはその資質が受け継がれておらず、覇王イングヴァルトの子孫、アインハルトが資質を持っている。
 それに時空転移の魔法を使えば聖王のゆりかごを使う迄もない。
 例えば敵対する王家があるなら、時空転移で過去に行き王家そのものが続かないようにすればいい。
 過去と現在の整合性「時間のゆがみ」さえ気にすれば、それ程むずかしい事ではない。
 でもオリヴィエは聖王のゆりかごを使った。
 明らかに矛盾している。
 
 その事実を告げ、暗闇の中該当に照らされたアインハルトの表情が酷く儚げに感じるのだった。 

~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはVividの世界に行ったら?
 Vividで登場した過去回想録「エレミアの手記」はヴィヴィオにとって避けて通れない話です。
 Vividのアインハルトと今話のアインハルトでは若干違う点があります。
 アインハルトは刻の移り人の記憶改変を受けていないのでオリヴィエ本人と話したのを覚えています。その上で「エレミアの手記に書かれた最終手段『聖王のゆりかご』を使わなくても『時空転移』を使えば戦乱そのものを鎮められたのでは?」という疑問をもってしまっています。


 さて、東京ではコミックマーケットが始まりました。職場の隅で涙を堪えてエアコミケを楽しんでいます(苦笑)
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・魔法少女リリカルなのはAdditionalStory :0話~22話と書き下ろし収録 260ページ 1000円
・魔法少女リリカルなのはAdditionalStory2 :23話~最終話と書き下ろし収録 260ページ 1000円

 スペースは3日目西ゆ-07b 「鈴風堂」です。

 季節感はまるで違いますが、ヴィヴィオ達の夏休みを是非楽しんで下さい。 

追加:Web拍手が少し変わりました。こんな風に作ってるんですね。
コメントは全部読んでます。

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