第38話「変わりゆく関係」

「………」
「………ヴィヴィオ……」
「……うん…」

 ミッドチルダ地上本部からヴィヴィオとフェイトが誘拐されたと連絡があった。でも私はここに居る…ということは

「リオ、ヴィヴィオ大変! アインハルトさんからヴィヴィオとアリシアとはぐれちゃったんだって!」

 通信を終え血相を変えたコロナがこっちにやって来た。
(全くもう…巻き込まれ体質なのはどっちなんだか…)
「ええーっ!」

 慌てて叫ぶリオの口を押さえる。

「目立っちゃうからリオ、コロナそこの本棚の影に行こう。」

 口を押さえられたままリオはコクコクと頷いた。



「多分だけど、ヴィヴィオとアリシアは誰かに誘拐されちゃったんだと思う。」
「「!!」」   

 驚くリオとコロナ。

「管理局に連絡しなきゃ。」
「私達も急いで戻らなきゃ」

 誘拐と聞いてかなり動転しているらしい。

「リオ、コロナ、とりあえず落ち着いて。管理局には誘拐したって連絡入ってるし、私達が急いで戻ってどうするの?」
「私とフェイトママがここに居るのはさっき確認されたから知られてる。誘拐した犯人から次に連絡があっても管理局は悪戯だと思っちゃう。」

 人違いと気づかれるとまずいけど、もう時間の問題になってる。
 クリスを見る。
 クリスがここに居るからヴィヴィオは魔法を使えない。それにフェイトの魔導師ランクを知っていて誘拐したということはそれなりに【魔法】に対して対策をしているのも予想出来る。
 リオとコロナを見る。
 そんな状態に彼女達を連れて行くのは危険すぎる。さっきの動揺でそれがわかる。

 それよりも一番気がかりなのは…

「コロナ、アインハルトさんに連絡お願い。」
「う、うん」

 コロナはすぐ端末を出して通信を繋げた。
『すみません、ヴィヴィオさん達とはぐれてしまって。』
「さっきコロナから聞きました。ヴィヴィオとアリシアは誘拐されちゃったみたいです。管理局に犯人から連絡があったそうです。」
『ゆ、誘拐!?』

 見るからに動揺するアインハルト

「落ち着いてください。連絡があったからまだ2人とも無事だと思います。何かあっても私が何とか出来ます。それよりも近くに私が知ってる場所はありませんか?」
『? 昨日ヴィヴィオさんがトレーニングウェアを買ったお店が…』

 あそこかと思い出す。

「じゃあその前で待ってて下さい。」
『わ、わかりました。』

 そう言うと通信が切れる。

「ヴィヴィオ?」
「リオ、コロナ、これからなのはママかフェイトママの所に行って今の事直接話してきて、その時に私がゲートを使わずにミッドチルダに戻ったって伝えて。」

 強ばった顔の2人に笑って続ける。

「あと、これ2人で食べてきてね。私達の分も買っておいてくれると嬉しいな。クリスおいで」
「?」
「ヴィヴィオ?」

 右手でデバイスから1冊の本を取り出し広げ、左手でクリスを抱きしめる。

(空間転移、転移先は昨日のお店の前へ…)

 ヴィヴィオの体を虹色の光が包み、光が消えた後彼女の姿は無かった。



「っと…」

 転移したのは昨日来た店の前だった。
 運良く人通りもなくてトンと足を着く。

「アインハルトさんは…と居たっ♪」

 辺りを見回すと小走りでこっちに向かってくるアインハルトを見つけた。

「ヴィヴィオさん?」

 さっきまで無限書庫に居た筈が今目の前に居て彼女は驚きの声をあげた。



「ここでアリシア達とはぐれちゃったんですね」
「はい」

 店が並ぶ通路から少し離れた場所までヴィヴィオはアインハルトに連れられて来た。

「クリス、ヴィヴィオの居る場所はわかる?」
「……(フルフルと首を振る)」

 思った通りAMF系の魔法を使っているらしい。だとすると…

「早く見つけないと危ないよね…急ぎましょう」
「はい!」

 アインハルトが頷いた直後、近くに見えたビルから爆発音が聞こえた。

「!(耳を立てて手で方向を指す)」

 クリスが直ぐさま反応する。AMFが無くなったのだろう。

「ヴィヴィオさんっ!」

 駆けだしたアインハルトをヴィヴィオも追いかけた。



「ううっ……」
「…………」
「ガッ………」
「足がっ…足がっ」

 ビルの中に駆け込んで爆発のあった階に行くと、そこには大柄の男性が4人悶絶していた。

「ヴィヴィオさんっ! アリシアさんっ!」

アインハルトが駆け込むと

「は~い、ちょっと待っててください。その辺色々落ちてるから怪我しちゃいます。よし取れた♪」
「アリシアさん?」

 呆然と立ち止まったアインハルトの横からクリスが飛んで入り、続けて私も中に入った。

「アリシア、ヴィヴィオも大丈夫?」
「ヴィヴィオ遅いよっ!」

 ヴィヴィオの口に巻かれた布と、手首のロープを解いたアリシアはこっちに向き直って笑顔で言った。

 そう、私が気がかりだったのは正にこの状況。
 犯人達はフェイトとアリシアを間違えて誘拐して管理局に連絡している。つまり犯人は昔のフェイトの情報しか持っていない。更に魔導師は魔法が使えない状況になると無力になる。そしてストライクアーツを学んでいるヴィヴィオもあくまで競技者だからむやみに拳を振わない。
 でも彼らは大きな過ちを犯していた。誘拐した中に既に何度か事件に巻き込まれた経験を持ち、魔法が無効化された環境でも特定の道具さえあれば問答無用に圧倒出来る術を練習している者…アリシアが居るのに気づかなかった。
 状況を把握すれば彼女は躊躇わない。手近にあった棒を使って全員倒したらしい…
 ヴィヴィオも少しだけアリシアとヴィヴィオの心配はしていたけれど、どちらかと言えば犯人が無事かどうかを気にしていた。

「この人達が犯人さん?」
「うん、手加減するつもりもなかったから。全員怪我はしてるけど無事だよ。何本か骨は折れちゃってるかもだけど」 

 不意打ちを含めて魔法文化の世界であんなリアル剣術を見せられたら…倒れて悶絶する様子を見て少しだけ同情する。

「ヴィヴィオ、はやてさんかリインさんに連絡出来る? 私達の事知ってる人じゃないと…」
「クリスお願い。」

 十分後、はやてから連絡を受けたシグナムがやって来た。彼女は私達を見るなり

「確かに似ているな。」

 少し笑うが私達の拘束魔法で縛られ転がった犯人達を見て

「本当は誘拐の現行犯だが都市部での違法魔法使用といったところか…後処理は了解した。だが、周りは人だかりになっているぞ。」

 窓から覗くと野次馬と警備隊の車も見える。あれだけ大きな爆発があったのだから仕方ない。ここから出て行けば誰かしらに見られてしまう。でも流石にこの人数で移動するのは…

「う~ん…仕方ないよね。このまま家に飛びます。RHd」
【StandbyReady】

 バリアジャケットを纏って悠久の書を取り出し

「みんな私に掴まって」

 ヴィヴィオ、アリシア、アインハルトが掴まったのを確認して高町家に転移した。

「…主の言われた通り、面白いな…さて」

 残った4人を警備担当に引き渡すべくシグナムは端末を開いた。



『も~っ無茶するんだから。リオとコロナに聞いてびっくりしたよ。』

 家に戻ったヴィヴィオ達を待っていたのはなのは、リオ、コロナからの通信だった。
 出来ればもう少し早く連絡した方がとも思っていたのだけれど、あの場所で連絡して犯人に聞かれるのもまずかったし、連絡してヴィヴィオとアインハルト、アリシアの緊張が解けるのも怖かったので転移するまではと思っていたのだけれど…。

(メッセージだけでも先に送った方が良かったかな)

そう思いつつも、なのはは私達を見て

『一緒に帰るからお話はその時ね。でも…何にもなくて良かった。』

 その後、シャーリーとユーノ、シグナムから事情を聞いたフェイトにアリシアは怒られ心配され、泣かれてその日の間ずっと後を追いかけられるのだけれど、それはまた別の話。



 高町家のダイニングでヴィヴィオ達が楽しく話していた頃、八神はやての家でも

「魔法が使えない場所で女の子が大人4人を倒しちゃったんですか?」

 少女が興奮して席を立つ。

「席を立つな、食事中だぞ。どんな風に倒したのかは見ていない。聴取では少女が棒を持った後見えなくなって何回か強い痛みが走ってそのまま気絶したそうだ。」
「おっかねーな…」

 シグナムの話にヴィータが突っ込みを入れる。

「怪我した人いたんでしょう?」
「ああ、容疑者が骨折と打撲で地上本部の病院に隔離されている。誘拐された2人は無傷だったらしい。」

 彼女がこれほど多く話すのは珍しい。表情や口調から見ても。  

「嬉しそうやね、シグナム。」
「粗削りですが久しぶりに良いものを見せて貰いました。剣技を直に見られなかったのは残念です。」
「それでな、ミウラ。明後日からその子達がある世界で魔法練習するみたいなんやけど…行ってみる気ない?」
「特訓ですか?」
「ううん、そんな堅いものやのうて、腕試し…ってとこかな。きっと本戦でも役立つと思うよ。本物のベルカの王様との練習とかな♪」
「えっ?」
「我が主、今何と?」
「はやてちゃん?」
「はい、行きます! 行かせて下さい!」

 シグナム、ヴィータ、シャマルの声を抑えてテーブルに乗り出す勢いで手を挙げたのだった。



 その頃…

「気持ち良かった~♪」

 お風呂から出てきたヴィヴィオはリビングへ入る。今はヴィヴィオがお風呂に入っている。先にお風呂から上がったアリシアが何だか神妙な面持ちで待っていた。

「ねぇヴィヴィオ、ちょっといい?」

 コクリと頷くと

「フェイト、なのはさん。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみ」

 2人にそう言ってヴィヴィオの部屋へと移動した。

「どうしたの?」
「今日はありがと、それと…ちゃんとヴィヴィオに謝ってなかった。ごめんなさい。」
「え?」

 礼を言われるのは判ったけど謝られる理由が判らない。

「あっちの世界の事…ヴィヴィオにちゃんと話してなかったから。ねぇ覚えてる、チェントが時間を変えちゃってた時の事。」

 そう言ってアリシアは話始めた。

「ゆりかごの中で私がチェントに襲われそうになった時の事覚えてる? ヴィヴィオが倒されてもう駄目だって思った時、目の前に黒いジャケットのヴィヴィオが現れたんだ。その子はとっても強くてチェントを蹴り飛ばしてゆりかごのコアを怖そうとしたの。その間に居たスカリエッティともう1人の女の人も一緒に…。『あなた達がそのつもりなら私もそうする』って」
「………」
「あの時、ゆりかごの周りにはフェイト達が来てたし、なのはさんとヴィータさんはコアを壊しに船の中央に向かってた。そんな場所でヴィヴィオだったら誰かを巻き込む砲撃魔法は使わないでしょ、でもその子はコア目がけて躊躇いもなく撃っちゃった。私は慌ててヴィヴィオに抱きついて止めようとして…怪我しちゃったんだけどね。」

 苦笑いする。

「その時知ったんだ。もし時空転移が誰かに知られちゃって、ヴィヴィオに無理矢理使わせようとするなら1番効率の良い方法は家族や友達を盾にとって脅す。」
「私がその中で1番弱いから。それで…もし私が死んじゃったり怪我させられたら、ヴィヴィオがまた黒いヴィヴィオになっちゃうんじゃないかって。」
「それでブレイブデュエルの中で聖王ヴィヴィオに会った時私がお願いしたの。ヴィヴィオが来た後で私を撃ってって。あの場所でなら怪我もしないし死なない。そんな事があってヴィヴィオが黒いヴィヴィオにならないように…って。」
「でも…はやてさんやシュテル、フェイト、なのはにその話をしたら怒られちゃった。1番肝心な事を忘れてるって。」
「肝心な事?」
「ヴィヴィオはそんな事とっくに気づいてる。それなのに私達がした事はヴィヴィオを信用してないって言ってる様なものだって。…そうだよね、私が1番しなきゃいけなかったのはヴィヴィオを信じる事だったんだもん。」
「だから、私はこれからヴィヴィオを信じる。もうあんな事はしない。だから…絶対に黒いヴィヴィオにならないで」

 アリシアの話を聞いてヴィヴィオは微笑んで頷く。

「アリシアを怪我させたのが私だったの…後でプレシアさんから聞いて知ってたよ。」
「え?」
「時空転移の魔法が知られちゃったら…きっとそうなるんじゃないかって私も思ってる。その時の為に強くならなきゃって…ちょっと遠回りしちゃったかも知れないけど、アリシアこれからもよろしくね。」

 手を差し出す。

「うん、こちらこそ♪」

 その手を彼女はギュッと握るのだった。

~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはVividの世界にやってきたら?
 魔法文化の弱点とも言えるAMF、でもそんなAMFにも弱点があるとすれば? 
 イノセントの世界を経験したからこそ思えるヴィヴィオとアリシアの関係でした


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