第40話「アリシアの目的」
- リリカルなのは AdditionalStory > 第5章 夏休みの成果
- by ima
- 2015.01.25 Sunday 23:55
「明日からの練習なんだけど何かリクエストあるかな?」
全員で楽しい夕食の後、お茶を入れながらなのはが聞いてきた。
「チーム戦をするには人数も少ないし、基礎練習と何度か1on1でいいんじゃないかな? 次のインターミドルまで時間はあるからその間に基礎力強化と弱点を克服、得意技を更に強化する。」
こっちのヴィヴィオやアインハルト達が頷く。
そこへ私が手を挙げる。
全員で楽しい夕食の後、お茶を入れながらなのはが聞いてきた。
「チーム戦をするには人数も少ないし、基礎練習と何度か1on1でいいんじゃないかな? 次のインターミドルまで時間はあるからその間に基礎力強化と弱点を克服、得意技を更に強化する。」
こっちのヴィヴィオやアインハルト達が頷く。
そこへ私が手を挙げる。
「ルールーにも話してたんだけど、私、使える魔法が少なくて…ヴィヴィオみたいにハイブリッドで魔法を使えるようになるにはどうしたら良いか教えて欲しいの。」
「魔法の種類が少ない?」
「念話や無限書庫で使う検索系魔法とか普通に使う魔法を除いたら少なくて…。セイクリッドクラスターとインパクトキヤノンとバインド、あとはティアナさんのクロスファイアシュートとなのはママのスターライトブレイカーくらいだから…全然バリエーションが…?」
「…………」
「………」
「……………」
「………………」
全員が唖然としてこっちを見ている。
「ヴィヴィオの天然さん…」
理由を知っているアリシアがだけがお茶を飲みながらボソっと呟いた。
「た、確かにレパートリーが少ないかも知れませんね。殆どが必殺技級ですが…」
アインハルトが引きつった笑みで答える。
「クロスファイアシュートとスターライトブレイカーくらいか…」
お下げのリボンごとシュンと落ち込むヴィヴィオ
「ヴィヴィオも得意な魔法あるじゃない、ねっ?」
フォローするフェイトの言葉で地雷を踏んでしまった事に気づいた。
「えっと…そんなつもりで言ったんじゃなくて…ごめん」
「じゃあミッド系で使えそうな魔法、一緒に探してみよっか。今になってユーノ君やエイミィさん、クロノ君が魔法使う度に驚いてたのが判った気がするよ。」
ヴィヴィオの話が終わったのを見計らって続けてアリシアが手を挙げる
「私もいいですか? フェイトにお願いがあるんだけど…」
「私?」
「うん、魔力出力が少なくて私に合った魔法を教えて欲しいなって、私魔法資質凄く弱いから…」
そう言って話し始めたアリシアにヴィヴィオを除く全員が言葉を失って聞いていた。
「あなた達の世界…本当に何でもありね」
話を聞き終わった後ルーテシアが呟いた言葉にここだけ話せば私もそう思うと心の中で頷くのだった。
夜も更け皆が寝静まったアルピーノ邸のある部屋では端末を広げるなのはとフェイトの姿があった。なのはがん~っと伸びをしてフェイトに言う。
「向こうの私達、凄く大変なんじゃないかな」
「そうだね…」
ヴィヴィオは時間移動だけじゃなく、幾つもの時間軸に移動出来る魔法を使う。そのせいなのかは判らないけれど、魔法のバランスが偏り過ぎている。流石に昔のなのはでもここまで偏ってなかった…と思う。
ミッドとベルカのハイブリッドなヴィヴィオの魔法を見てここでなら新しい魔法を覚えられると来たのは判ったけど、どんな魔法を教えたらいいかさっぱり判らない。
「古代ベルカ式ってほとんど固有スキルだもんね…」
「そうだね…」
「フェイトちゃんはどう?」
「そうだね…」
「…フェイトちゃん聞いてる?」
「そうだ…え? ちゃんと聞いてるよ。」
「そう?」
ジト目で見る。
「……ごめん、聞いてなかった。アリシアの魔法を考えてたから。」
アリシアは先天的に魔法資質が弱い。だからそれを補填する為にプレシアが作った魔力コアを魔力コア専用のデバイス『バルディッシュ・ガーディアン』に入れて使っている。
こっちの世界にはプレシアは居ないから魔力コアなんて物は存在しないし、ましてやその専用デバイスが有る訳がない。
バルディッシュの処理能力がどれ位あるのかわからないから難しい。
戦技魔法を入れたデバイスを持つと言う事は日常より非日常へ足を踏み入れる事であり、最悪命を落とす可能性が高まるという事である。だからプレシアはアリシアにどんな形であってもそんなデバイスを持たせないと考えた。でも、戦技魔法が使えるデバイスを彼女に持たせたという事は…既にヴィヴィオと一緒に色んな事件に巻き込まれていて彼女が彼女自身を守る為に必要と考えたのだろう。
向こうのフェイトも彼女の葛藤を知っているから…アリシアも彼女には話せないのかも知れない。
「向こうの私達、凄く大変なんじゃないかな…」
「それ、私がさっき言ったよ」
「え? そうだった?」
「そうだよ」
2人とも難題を押しつけられて考え込んでしまっていたらしい。
「そうだ、フェイトちゃん。あのね…」
なのはがフェイトにあるアイデアを話した。
こうしてカルナージの夜は更けていくのだった。
こっちに来て4、5日目はみんなで練習したり、湖で遊んだりカルナージの森を探検したりした。
ヴィヴィオとアリシアもなのはとフェイトが考えてくれた練習プランで魔法の練習をしつつ、1on1、2on2の模擬戦にも参加した。
でも…
「ディバインッバスターッ!」
ヴィヴィオとヴィヴィオ1on1の模擬戦。ヴィヴィオがディバインバスターを放った直後の硬直時間を狙ってセイクリッドクラスターとインパクトキャノンを放つ。しかしクリスのセイクリッドディフェンダーはそれらを彼女に当たる前に消してしまい、逆にヴィヴィオの接近を許してしまう。
その後はヴィヴィオの猛ラッシュでライフポイントを削られて…
「そこまでっ!」
負けてしまった。
「ヴィヴィオさん、調子が良くないのですか?」
「ううん、調子いいよ♪ ヴィヴィオが強くなっててびっくりしちゃった。」
精彩の欠いた模擬戦にアインハルトが私の目をジッと見る。
「本当ですか?」
「ヴィヴィオ、また何か試してるんじゃない?」
「アリシア?」
そこにリオと練習していたアリシアがやって来た。魔法使用回数が限定されている彼女はその回数をなるべく新しい魔法練習に使う事にしていて、魔法無しでも組み手が出来るリオが練習相手になってくれていた。こんなタイミングで来なくてもいいのにと心の中で突っ込む。
「試す?」
「ヴィヴィオがなし崩しに負けちゃったり、普通避けると思った魔法に当たったりする時って何か別の事を試してるんだよね~。」
「…………」
「そうなの?」
ヴィヴィオもやって来て会話に混ざる。2人の視線が痛い…
「な、何にも試してないよ。」
「………」
「………」
「………」
「わかりました。次は私と練習しましょう。試す余裕を作らせる程覇王流は甘くはないです。」
どうも火を付けてしまったらしい。断れる状況でもなく
(アリシアのバカ…)
心の中で呟きながらアインハルトに対し構えるのだった。
「ヴィヴィオ、何を試してたの?」
アインハルトとの模擬戦が終わって休憩しているとアリシアが近づいてきた。
「アリシアのせいで酷い目にあったよ。」
本気になったアインハルトは流石に強い。バリアジャケットでの魔法は全部叩き落とされた。まさかクロスファイアシュートを打ち落とす技があるとは…
でも彼女との練習で目指すものは間違ってないのを再確認出来た。
「自業自得♪ それで何を試してたの?」
アリシアは私がしている事に気づいているらしい。
「ブレイブデュエルでシュテルとデュエルした時使った魔法、こっちでも使えないかなって…」
ブレイブデュエルのスキルカードと魔法世界での魔法、似ている所もあるけど決定的に違う所がある。
スキルカードはブレイブホルダーを通せば意識しなくても起動するけど、実際の魔法はプログラムを構築して魔力を流し込んで起動しない限り効果は発揮しない。だからブレイブデュエルの中で同じスキルを10回以上同時に使っていたヴィヴィオも魔法は幾つも同時に起動出来ない。RHdを使ってもリソースが足りない。
そこで相手との距離を測りながら少しずつずらして起動させ、負荷を減らしつつ1点に集中出来ないかと考えていた。
ストライクスターズ程制御に集中する必要もなく、スターライトブレイカーの様に反動や身体の負担も無い。それでいて状況に応じて威力調整が可能なクロスファイアシュートを組み合わせれば相乗効果も期待できて魔力消費も少ない。
「それで、みんなとの模擬戦で距離とタイミングを測って魔法使ってたんだけど…難しいね。」
苦笑いする。
「……呆れた…そんな事考えてたの? でも折角こっちに来たのに本気で対戦しないんじゃみんなに悪いよ。」
手を抜いていると思われてしまったら、ヴィヴィオやアインハルト達の気分を害するのは判っている。
「うん…でも、ヴィヴィオの記憶封鎖があるから…」
「あ…そっか…」
ヴィヴィオも本当は全力でアインハルトやヴィヴィオと競い合いたい。でもそうすると彼女の記憶封鎖が解けてしまう。
チェントの話だけでプレシアとアリシアの記憶封鎖が解けたのだ。曖昧にしている分記憶の封印より弱い。
無い物ねだりでは無いけれど、プレシアから記憶封鎖のカードを借りてくれば良かったと思った。
ヴィヴィオとアリシアが話していた頃、
「アインハルトさん、私…ヴィヴィオとアリシアに前にどこかで会った気がするんです。」
ヴィヴィオに言われてアインハルトは首を傾げる。
「はい、ヴィヴィオさんが居なくなった時に…」
「そうじゃなくて、もっと別の世界で…昔のなのはママやフェイトママに似た女の子達と…」
(…記憶封鎖が解けかけている…)
「ヴィヴィオさん達の話を聞いてそう思ってるだけです。私達も練習しましょう。」
それ以上思い出させない為にアインハルトは話を切り上げさせた。
「アリシアちゃん、ちょっといい?」
練習を終えて汗を流そうとした時、アリシアはなのはに呼び止められた。
「はい? みんなは先に行ってて」
何だろうと思いながらもヴィヴィオ達が居ると出来ない話だと思い先に行って貰った。
「アリシアに少し教えて欲しい事があるんだ。アリシアとヴィヴィオが誘拐された時なんだけど…どうやって4人を倒したの?」
なのはと一緒に残ったフェイトが聞いてきた。
「フェイトちゃんにみんなを送って行って貰った後でシグナムさんから連絡があったんだ。怪我した誘拐犯について『全員どこか骨が折れていて打撲していた』って…」
「魔法が使えなくされて、念話も通信も出来なくなったから手近にあった棒で倒しちゃったんですが…怪我酷かったんですか?」
「ううん、治癒魔法で治る程度だったし、悪いのはあっちだからそれは気にしないでいいよ。それよりね…打撲箇所がみんな急所で、こっちではあんな見事に倒されたのは初めて見たって。油断していても1人の少女がここまで出来るなんて信じられない。シグナムさんはそう言ってた」
「それでね…今日練習見せて貰ったけど、アリシア…あの技どこで教えて貰ったの?」
そこまで聞かれてなのはとフェイトが聞きたい事が判った。
「バルディッシュ、ブレイズフォームの剣だけ出して。」
【Yes Sir】
ペンダントに付けていたデバイスを外し、2本の短剣状に切り替えた。
「2本の剣? 2刀流?」
「昨日相談したけど、私の魔力資質って弱いからフェイトのザンバーみたいに大きな剣は使えないんだ。魔力消費も激しいし、大振りになっちゃって防御が弱くなるし。」
「それでママが考えてくれたのが2本の短剣。なのはさん、日本じゃ『小太刀』って言うんですよね?」
「そうだね、その位の長さなら小太刀…2刀」
そこまで答えた時なのはの顔が驚きに変わる。
「そうです。魔法が弱いなら別の何かで補えばいい。バルディッシュの中にはある剣術のアシスト機能が入っています。身体強化というよりその動きを補助する感じです。それと、私達がこっちに来る前に魔法が使えない世界に行ってました。そこで私はある練習に加わってたんです。」
「なのはさんの家族、士郎さんや恭也さん、美由希さんがしている剣の練習に」
驚くフェイトの顔を見て彼女も気づいたらしい。
2人から離れて
「バルディッシュ、アシストしなくていいよ」
そう言うと教えて貰ったのを思い出しながらバルディッシュを振る。
刃から発した水色の光は彼女と遊んでいるかの様に舞った。
「シグナムさん『こっちではあんな見事に倒されたのは初めて見た』って言ってたんですよね。続けてこう言われませんでしたか? 『昔、なのはさんの家で見た剣技に似ていた』って。」
「うん…」
「まだ練習を始めて少ししか経ってないんですけど判っちゃうんですね。」
「アリシア、その剣は凄いと思うよ。でもね…」
「わかってるよ。あの時はAMFの中で油断してくれてたから偶々うまくいっただけで、普通ならバリアジャケットも壊せないんでしょ。」
防御を貫通する衝撃だけを伝える剣術もあるらしいけれど、そんなレベルなんてまだ先の先。そもそも使えるとは思っていない。
「これはあくまで私が私を守る為だから…今日教えてくれた魔法も含めて。」
「え?」
「どうして?」
「フェイト、なのはさん…もし、ヴィヴィオが時間移動魔法を使えるってみんなに知られちゃったらどうなると思いますか? 過去や未来に行きたいって思わない人は居ません。そんな中で心ない人が無理矢理ヴィヴィオに魔法を使わせようとしたら? 狙われるのは家族や友達です。でもヴィヴィオの家族、なのはさんは教導隊のエースでフェイトは執務官だし、ママも含めてみんな高ランク魔導師か凄い魔法を使えます。そんな中で1人だけ資質も弱い子が居たら? 私なら絶対私を捕まえちゃいます。」
2人は少し躊躇いながらも頷く。
「今日の練習ではヴィヴィオは魔法の練習していて本気を出してませんけど、出したら本当に強いです。だから私はヴィヴィオが助けに来てくれるまで私が私を守る為の魔法が欲しいんです。」
彼女の一緒に歩くのなら、いつか来るその時の事を考えなきゃいけない。
それがアリシアが彼女と手を繋いで歩く為の覚悟だった。
~コメント~
もしヴィヴィオがなのはVividの世界に行ったら?
AdditionalStoryの発端「Vividの世界に遊びにいく」と言い出したのはアリシアでした。
今話ではアリシアがどうしてVivid世界に行きたいと考えたのかという話です。
「魔法の種類が少ない?」
「念話や無限書庫で使う検索系魔法とか普通に使う魔法を除いたら少なくて…。セイクリッドクラスターとインパクトキヤノンとバインド、あとはティアナさんのクロスファイアシュートとなのはママのスターライトブレイカーくらいだから…全然バリエーションが…?」
「…………」
「………」
「……………」
「………………」
全員が唖然としてこっちを見ている。
「ヴィヴィオの天然さん…」
理由を知っているアリシアがだけがお茶を飲みながらボソっと呟いた。
「た、確かにレパートリーが少ないかも知れませんね。殆どが必殺技級ですが…」
アインハルトが引きつった笑みで答える。
「クロスファイアシュートとスターライトブレイカーくらいか…」
お下げのリボンごとシュンと落ち込むヴィヴィオ
「ヴィヴィオも得意な魔法あるじゃない、ねっ?」
フォローするフェイトの言葉で地雷を踏んでしまった事に気づいた。
「えっと…そんなつもりで言ったんじゃなくて…ごめん」
「じゃあミッド系で使えそうな魔法、一緒に探してみよっか。今になってユーノ君やエイミィさん、クロノ君が魔法使う度に驚いてたのが判った気がするよ。」
ヴィヴィオの話が終わったのを見計らって続けてアリシアが手を挙げる
「私もいいですか? フェイトにお願いがあるんだけど…」
「私?」
「うん、魔力出力が少なくて私に合った魔法を教えて欲しいなって、私魔法資質凄く弱いから…」
そう言って話し始めたアリシアにヴィヴィオを除く全員が言葉を失って聞いていた。
「あなた達の世界…本当に何でもありね」
話を聞き終わった後ルーテシアが呟いた言葉にここだけ話せば私もそう思うと心の中で頷くのだった。
夜も更け皆が寝静まったアルピーノ邸のある部屋では端末を広げるなのはとフェイトの姿があった。なのはがん~っと伸びをしてフェイトに言う。
「向こうの私達、凄く大変なんじゃないかな」
「そうだね…」
ヴィヴィオは時間移動だけじゃなく、幾つもの時間軸に移動出来る魔法を使う。そのせいなのかは判らないけれど、魔法のバランスが偏り過ぎている。流石に昔のなのはでもここまで偏ってなかった…と思う。
ミッドとベルカのハイブリッドなヴィヴィオの魔法を見てここでなら新しい魔法を覚えられると来たのは判ったけど、どんな魔法を教えたらいいかさっぱり判らない。
「古代ベルカ式ってほとんど固有スキルだもんね…」
「そうだね…」
「フェイトちゃんはどう?」
「そうだね…」
「…フェイトちゃん聞いてる?」
「そうだ…え? ちゃんと聞いてるよ。」
「そう?」
ジト目で見る。
「……ごめん、聞いてなかった。アリシアの魔法を考えてたから。」
アリシアは先天的に魔法資質が弱い。だからそれを補填する為にプレシアが作った魔力コアを魔力コア専用のデバイス『バルディッシュ・ガーディアン』に入れて使っている。
こっちの世界にはプレシアは居ないから魔力コアなんて物は存在しないし、ましてやその専用デバイスが有る訳がない。
バルディッシュの処理能力がどれ位あるのかわからないから難しい。
戦技魔法を入れたデバイスを持つと言う事は日常より非日常へ足を踏み入れる事であり、最悪命を落とす可能性が高まるという事である。だからプレシアはアリシアにどんな形であってもそんなデバイスを持たせないと考えた。でも、戦技魔法が使えるデバイスを彼女に持たせたという事は…既にヴィヴィオと一緒に色んな事件に巻き込まれていて彼女が彼女自身を守る為に必要と考えたのだろう。
向こうのフェイトも彼女の葛藤を知っているから…アリシアも彼女には話せないのかも知れない。
「向こうの私達、凄く大変なんじゃないかな…」
「それ、私がさっき言ったよ」
「え? そうだった?」
「そうだよ」
2人とも難題を押しつけられて考え込んでしまっていたらしい。
「そうだ、フェイトちゃん。あのね…」
なのはがフェイトにあるアイデアを話した。
こうしてカルナージの夜は更けていくのだった。
こっちに来て4、5日目はみんなで練習したり、湖で遊んだりカルナージの森を探検したりした。
ヴィヴィオとアリシアもなのはとフェイトが考えてくれた練習プランで魔法の練習をしつつ、1on1、2on2の模擬戦にも参加した。
でも…
「ディバインッバスターッ!」
ヴィヴィオとヴィヴィオ1on1の模擬戦。ヴィヴィオがディバインバスターを放った直後の硬直時間を狙ってセイクリッドクラスターとインパクトキャノンを放つ。しかしクリスのセイクリッドディフェンダーはそれらを彼女に当たる前に消してしまい、逆にヴィヴィオの接近を許してしまう。
その後はヴィヴィオの猛ラッシュでライフポイントを削られて…
「そこまでっ!」
負けてしまった。
「ヴィヴィオさん、調子が良くないのですか?」
「ううん、調子いいよ♪ ヴィヴィオが強くなっててびっくりしちゃった。」
精彩の欠いた模擬戦にアインハルトが私の目をジッと見る。
「本当ですか?」
「ヴィヴィオ、また何か試してるんじゃない?」
「アリシア?」
そこにリオと練習していたアリシアがやって来た。魔法使用回数が限定されている彼女はその回数をなるべく新しい魔法練習に使う事にしていて、魔法無しでも組み手が出来るリオが練習相手になってくれていた。こんなタイミングで来なくてもいいのにと心の中で突っ込む。
「試す?」
「ヴィヴィオがなし崩しに負けちゃったり、普通避けると思った魔法に当たったりする時って何か別の事を試してるんだよね~。」
「…………」
「そうなの?」
ヴィヴィオもやって来て会話に混ざる。2人の視線が痛い…
「な、何にも試してないよ。」
「………」
「………」
「………」
「わかりました。次は私と練習しましょう。試す余裕を作らせる程覇王流は甘くはないです。」
どうも火を付けてしまったらしい。断れる状況でもなく
(アリシアのバカ…)
心の中で呟きながらアインハルトに対し構えるのだった。
「ヴィヴィオ、何を試してたの?」
アインハルトとの模擬戦が終わって休憩しているとアリシアが近づいてきた。
「アリシアのせいで酷い目にあったよ。」
本気になったアインハルトは流石に強い。バリアジャケットでの魔法は全部叩き落とされた。まさかクロスファイアシュートを打ち落とす技があるとは…
でも彼女との練習で目指すものは間違ってないのを再確認出来た。
「自業自得♪ それで何を試してたの?」
アリシアは私がしている事に気づいているらしい。
「ブレイブデュエルでシュテルとデュエルした時使った魔法、こっちでも使えないかなって…」
ブレイブデュエルのスキルカードと魔法世界での魔法、似ている所もあるけど決定的に違う所がある。
スキルカードはブレイブホルダーを通せば意識しなくても起動するけど、実際の魔法はプログラムを構築して魔力を流し込んで起動しない限り効果は発揮しない。だからブレイブデュエルの中で同じスキルを10回以上同時に使っていたヴィヴィオも魔法は幾つも同時に起動出来ない。RHdを使ってもリソースが足りない。
そこで相手との距離を測りながら少しずつずらして起動させ、負荷を減らしつつ1点に集中出来ないかと考えていた。
ストライクスターズ程制御に集中する必要もなく、スターライトブレイカーの様に反動や身体の負担も無い。それでいて状況に応じて威力調整が可能なクロスファイアシュートを組み合わせれば相乗効果も期待できて魔力消費も少ない。
「それで、みんなとの模擬戦で距離とタイミングを測って魔法使ってたんだけど…難しいね。」
苦笑いする。
「……呆れた…そんな事考えてたの? でも折角こっちに来たのに本気で対戦しないんじゃみんなに悪いよ。」
手を抜いていると思われてしまったら、ヴィヴィオやアインハルト達の気分を害するのは判っている。
「うん…でも、ヴィヴィオの記憶封鎖があるから…」
「あ…そっか…」
ヴィヴィオも本当は全力でアインハルトやヴィヴィオと競い合いたい。でもそうすると彼女の記憶封鎖が解けてしまう。
チェントの話だけでプレシアとアリシアの記憶封鎖が解けたのだ。曖昧にしている分記憶の封印より弱い。
無い物ねだりでは無いけれど、プレシアから記憶封鎖のカードを借りてくれば良かったと思った。
ヴィヴィオとアリシアが話していた頃、
「アインハルトさん、私…ヴィヴィオとアリシアに前にどこかで会った気がするんです。」
ヴィヴィオに言われてアインハルトは首を傾げる。
「はい、ヴィヴィオさんが居なくなった時に…」
「そうじゃなくて、もっと別の世界で…昔のなのはママやフェイトママに似た女の子達と…」
(…記憶封鎖が解けかけている…)
「ヴィヴィオさん達の話を聞いてそう思ってるだけです。私達も練習しましょう。」
それ以上思い出させない為にアインハルトは話を切り上げさせた。
「アリシアちゃん、ちょっといい?」
練習を終えて汗を流そうとした時、アリシアはなのはに呼び止められた。
「はい? みんなは先に行ってて」
何だろうと思いながらもヴィヴィオ達が居ると出来ない話だと思い先に行って貰った。
「アリシアに少し教えて欲しい事があるんだ。アリシアとヴィヴィオが誘拐された時なんだけど…どうやって4人を倒したの?」
なのはと一緒に残ったフェイトが聞いてきた。
「フェイトちゃんにみんなを送って行って貰った後でシグナムさんから連絡があったんだ。怪我した誘拐犯について『全員どこか骨が折れていて打撲していた』って…」
「魔法が使えなくされて、念話も通信も出来なくなったから手近にあった棒で倒しちゃったんですが…怪我酷かったんですか?」
「ううん、治癒魔法で治る程度だったし、悪いのはあっちだからそれは気にしないでいいよ。それよりね…打撲箇所がみんな急所で、こっちではあんな見事に倒されたのは初めて見たって。油断していても1人の少女がここまで出来るなんて信じられない。シグナムさんはそう言ってた」
「それでね…今日練習見せて貰ったけど、アリシア…あの技どこで教えて貰ったの?」
そこまで聞かれてなのはとフェイトが聞きたい事が判った。
「バルディッシュ、ブレイズフォームの剣だけ出して。」
【Yes Sir】
ペンダントに付けていたデバイスを外し、2本の短剣状に切り替えた。
「2本の剣? 2刀流?」
「昨日相談したけど、私の魔力資質って弱いからフェイトのザンバーみたいに大きな剣は使えないんだ。魔力消費も激しいし、大振りになっちゃって防御が弱くなるし。」
「それでママが考えてくれたのが2本の短剣。なのはさん、日本じゃ『小太刀』って言うんですよね?」
「そうだね、その位の長さなら小太刀…2刀」
そこまで答えた時なのはの顔が驚きに変わる。
「そうです。魔法が弱いなら別の何かで補えばいい。バルディッシュの中にはある剣術のアシスト機能が入っています。身体強化というよりその動きを補助する感じです。それと、私達がこっちに来る前に魔法が使えない世界に行ってました。そこで私はある練習に加わってたんです。」
「なのはさんの家族、士郎さんや恭也さん、美由希さんがしている剣の練習に」
驚くフェイトの顔を見て彼女も気づいたらしい。
2人から離れて
「バルディッシュ、アシストしなくていいよ」
そう言うと教えて貰ったのを思い出しながらバルディッシュを振る。
刃から発した水色の光は彼女と遊んでいるかの様に舞った。
「シグナムさん『こっちではあんな見事に倒されたのは初めて見た』って言ってたんですよね。続けてこう言われませんでしたか? 『昔、なのはさんの家で見た剣技に似ていた』って。」
「うん…」
「まだ練習を始めて少ししか経ってないんですけど判っちゃうんですね。」
「アリシア、その剣は凄いと思うよ。でもね…」
「わかってるよ。あの時はAMFの中で油断してくれてたから偶々うまくいっただけで、普通ならバリアジャケットも壊せないんでしょ。」
防御を貫通する衝撃だけを伝える剣術もあるらしいけれど、そんなレベルなんてまだ先の先。そもそも使えるとは思っていない。
「これはあくまで私が私を守る為だから…今日教えてくれた魔法も含めて。」
「え?」
「どうして?」
「フェイト、なのはさん…もし、ヴィヴィオが時間移動魔法を使えるってみんなに知られちゃったらどうなると思いますか? 過去や未来に行きたいって思わない人は居ません。そんな中で心ない人が無理矢理ヴィヴィオに魔法を使わせようとしたら? 狙われるのは家族や友達です。でもヴィヴィオの家族、なのはさんは教導隊のエースでフェイトは執務官だし、ママも含めてみんな高ランク魔導師か凄い魔法を使えます。そんな中で1人だけ資質も弱い子が居たら? 私なら絶対私を捕まえちゃいます。」
2人は少し躊躇いながらも頷く。
「今日の練習ではヴィヴィオは魔法の練習していて本気を出してませんけど、出したら本当に強いです。だから私はヴィヴィオが助けに来てくれるまで私が私を守る為の魔法が欲しいんです。」
彼女の一緒に歩くのなら、いつか来るその時の事を考えなきゃいけない。
それがアリシアが彼女と手を繋いで歩く為の覚悟だった。
~コメント~
もしヴィヴィオがなのはVividの世界に行ったら?
AdditionalStoryの発端「Vividの世界に遊びにいく」と言い出したのはアリシアでした。
今話ではアリシアがどうしてVivid世界に行きたいと考えたのかという話です。
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