3話 おかあさん

 シャマルとリインが措置室へ入ってからも刻々と時間が過ぎていった。フェイトはリインから預かった端末の映像を何度も再生し続けている。どうして気づかなかったのか、もしこの時私が近くに居ればと頭の中で繰り返し問い掛けている。

「レリックみたいに危険じゃないって言っててもロストロギアだったんだ・・・もっと注意していれば・・」

 呟くようにスバルが言った言葉がフェイトの心にも突き刺さった

「それなら私がしっかり見てなかった私の責任。自分を責めないでスバル」
「・・・はい・・・すみません」

 その瞬間【バン】と扉を開けてリインが措置室から飛び出してきた。そして

「キャロが!キャロが目を覚ましたですの!!」
 全員の顔に笑みが溢れる。急いでドアの前に立つスバル。そこにリインの後を追うようにシャマルが現れ

「シャマル先生!」
「・・・いいわよ。でも、まだ起きてちょっとしか経ってないから静かにね・・・」

 と言ってスバル・ティアナ・エリオを通した。続いてフェイトとなのはも入ろうとした時、シャマルは2人を呼び止めた。

「フェイトちゃん、なのはちゃん・・・ちょっといい」
「はい?」
「何か?」
「あのね・・・キャロちゃんの事なんだけど・・・」

 措置室に入ると様々な機器が所狭しと並んでおり、その奥に1台のベッドがあった。ベッドからピンクの髪が見える

「キャロっ!!」
「どこも痛くない?って・・・あれだけの被害受けてるんだからそんなわけ無いか・・」
「・・キャロ・・大丈夫?」

 スバルとティアナ・エリオがキャロのベッドの前に来ると一気に話しかけた。3人を見て驚きバッとシーツで隠れるキャロ

「ちょっとキャロ~!人が心配したんだからそれは無いんじゃない?」
「驚かないから、こっちに顔見せってっと!」

 スバルが顔を見せないキャロに対してシーツを引っ張ろうとした瞬間

「いやーーっ!」

 大声でキャロが叫ぶ。思わずシーツを離すスバル・・・キャロはシーツにくるまって震えていた。その瞬間、一同がいつものキャロで無いことに気づく

「・・・キャロ・・?どうしたの?」
「ちょっと、こんな時に冗談やめてよね~」
「キャロ?」

 スバルやティアナ・エリオを見て完全に怯えている。
 騒ぎを聞きつけてシャマルがキャロの側にやってきてキャロの頭を撫でる。

「キャロちゃん、びっくりしたよね~大丈夫だからね~」

 キャロはニッコリと微笑むシャマルを見て【ヒシッ】と抱きつく。それはまるで虐められた子供が母親にすがるように。ショックを隠せない3人に後から来たなのは

「スバル、ティアナ、エリオ・・先に戻ろう」
「え?でも・・・」
「いいから、はやく!キャロ驚かせてゴメンね。またね」

 なのははシャマルの話を聞いて、ティアナに目配せをした。なのはの意を受けてティアナが2人の手を引っ張り病室から出て行く。

「キャロ・・・」

 1人残されたフェイトはキャロを見つめている。

「キャロちゃん、フェイトさん・・あなたのお母さんよ・・」

 シャマルがフェイトの手を取りキャロの目の前に引き寄せる。

「えっ!・・うん・・・キャロ、大丈夫?」

 少し驚きながらもシャマルが目で「話を合わせて」と言っているのが判り、フェイトはベッドに座り端の方で怯えているキャロの頭を撫でた。キャロも触れられた瞬間ビクッっと怯えたが、撫でられる感触に少しだけ警戒を解いた。



「それで、キャロ・ル・ルシエ三等陸士の容体は?シャマル」

 フェイトを残して六課に戻った一同は管制室に集まり、はやてに状況を伝えていた

「打撲や火傷、裂傷については全治2週間程度だと思われます。数日後にも退院できると・・でも、問題はリンカーコアと・・」
「記憶障害?」
「はい・・リンカーコアはほとんど機能しないレベルにまで落ち込んでいて回復の兆しが全く・・詳しいことは判りませんが、ロストロギアの瞬間爆発を一定時間止めるのにかなりの負担がかかった事が原因と思われます。」

 リインがシャマルの言いにくい部分をフォローする。

「それで、記憶の方は?」
「普段の生活には支障がない程度の知識は持っている様ですが、それ以外は・・フリードリヒについても記憶が・・」

 エリオの肩でシュンと項垂れるフリード。場所が場所だけに入ることが許されず、しかも生まれた時からずっと一緒に暮らしてきたフリードにとって「忘れられた」という事が余程ショックなのだろう

「で、ロストロギアの方は?」
「管理局のデータベースにも類似したロストロギアが見つかりませんでした。今は無限書庫に依頼していますが、生憎司書長のユーノさんが発掘中とのことです」

「う~ん」

とはやては少し考えながら

「まぁ悩んでてもしゃーないし。キャロが退院したらうちで暫く面倒みるってことでええかな、保護者が近くに居た方が安心するし、何かの拍子に記憶が戻るって事もあるやろし」
「でも、ここって一応陸士部隊なんだけど・・・いいの?」

 なのはが心配そうに聞く。多分、査察や色々と睨まれている現状で問題の種にならないかを心配していた。

「まぁ・・形式上は職場復帰までの療養って名目で何とかなるし、それに・・既に1人かかえてるしな♪頼めるかザフィーラ?」
「「「「あ!」」」」

 全員が1人の少女の顔を思い浮かべた

「心得た」
「ってことで解散」

 重苦しい空気を払拭させるようにはやてが和ませるように言い、スバル達が部屋を出て行った。残ったフェイトとなのは。

「はやて・・・ゴメンね心配かけて」
「ええんよ、ミスがあったのかどうかはまだ判らんけど・・それとフェイトちゃん、後で捜査資料をまとめて持ってきてくれへん?」
「え?」

 いきなり言われた内容にフェイトが驚く。

「振れる物はギンガとシグナムに入ってもらうから、極力キャロの近くに居てあげて・・・な」
「はやて・・・ありがとう」

フェイトははやての心遣いに心から感謝した。

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