第05話「私達ができること」

「それは…私でも難しいわね…」
「あなたならって期待していたのだけれど、残念ね。」

 プレシアは冗談交じりで目の前に居る彼女に言った。


 フェイトから話を聞いた昼過ぎ、チンクから通信が届いた。

『プレシアに会いたいと来客だがどうする?』

 今日は誰かと会う約束はしていない。何処かの研究機関か民間企業から来たのだろうか?
聖王教会や管理局を通さずには危険過ぎると考えた。
「今手が離せないのよ、用事を聞いて必要があればメッセージを送るって伝えて頂戴。」

 チンクの手前無碍に断れないと考えてあえて用事を作って言うと

『プレシア、わざわざ会いに来たのに冷たいんじゃない?』
「リンディ!」

 端末に映った彼女の笑みを見てしてやられたと思った。



「急にどうしたのよ? あなたがこんな所に来るなんて。」

 部屋に通して貰った後、彼女の前にお茶の入ったカップと山盛りになった角砂糖の器を乗せたトレイを渡す。判っているといった風に微笑みながら山になっていた白い塊は3分の1程をカップに入れた。目の前で見ると流石にひく。

「ええ、久しぶりに会いたいって思って来たの。チェント、毎日元気に学院に行ってるそうね。友達の家に遊びに行ったり…あなたが母親になってくれて良かったわ。」

 彼女の耳にも色々入ってるらしい…フェイトあたりから聞いたのだろうか?

「おかげさまで、毎日新鮮な体験をしているわ。アリシアもフェイトも泥だらけになって帰ってくるなんて無かったから、こんなことならもっと早く行かせてあげたかったわね。」

 チェントは幼いながらもある事件を起こして保護観察対象になっていて学院には行けなかった。理由は兎も角、家族になった後も不安定な魔力発動を見ていたから保護観察は正しかったと思っている。しかし一方でアリシアが帰ってくるまで1人で遊ぶ彼女を見ていたからもっと率先してStヒルデに行かせてあげたかったとも後悔していた。

「そうね…生まれはヴィヴィオと同じでも、別人なのよね」

 リンディが言ったのを聞いて彼女が何を考えて来たのか察した。

「あの子はヴィヴィオじゃないわ、チェントよ。私の娘でアリシアの妹、外見は似ているでしょうけど別人。」

 少し強めに言う。  

「…うん…。やっぱり…そうよね。」

 彼女の表情が曇った。
 何故このタイミングでリンディ・ハラオウンが来たのか?
 それはヴィヴィオのデバイスの状況を知ったからだ。レイジングハートセカンド-通称RHdのコアである【レリック片】と可変可能なフレーム素材となっていた【ジュエルシード】、それらが失われRHdは修理出来なくなっている。唯一同じ【素材】を持っているプレシアにRHdを修理する為に譲って貰えないかと訪ねて来た。

「ごめんなさい、母親だからじゃない…アレはもうあの子達のものよ。ヴィヴィオも知っているわ。」

 同じレリックの欠片だから今までと同じ様に使えるとは限らない。あの欠片は既にチェントの意思を受けている。だが逆にリンディがプレシアの所に来たと言うことはそれ以外に有効な方法が無いということ…。

「JS事件やその前後で回収したレリックと幾つかのジュエルシードは保管されているわ。でも…それをデバイスの修理には使えない。ヴィヴィオが持っているレリックも同じ…。管理局は自らロストロギアを作る訳にはいかない。」
「私も同じよ。…でも、方法を見つけないと未来が変わってしまう。私とアリシアが居ない未来に…。リンディ、あと1つ位隠し持ってないの? イミテーションと本物を入れ替えたり出来ない?」
「それは…私でも難しいわね…」
「あなたならって期待していたのだけれど、残念ね。」

 空気を和ませようと冗談のつもりで言ったら彼女も理解したらしく、話題を変えた。 

「…ヴィヴィオは暫く海鳴に連れて行って魔法から離れさせて回復を待つつもりらしいわ。」

 もしある日突然魔法が使えなくなったら? 周りが全員魔法を使えるのにと焦りは生まれるだろう。それを考えるとミッドチルダを含めた管理世界より管理外世界に居るのも方法の1つだ。海鳴であれば彼女も気分転換できるだろう。

「なのはさんとフェイトも休暇申請の調整をするそうよ。なのはさん、昔魔法を使いすぎて落ちて酷い怪我をした事があるの。ヴィヴィオはまだ気付いてないけれど、もしこのまま魔法が使えなくなったらっていう不安は誰よりも感じている筈。」
「そうね…アリシアも行きたいと言うでしょうけれど、止めておくわ。」

 アリシアが行けばヴィヴィオは彼女を守ろうとする。魔法が使える時であれば兎も角、今は危険すぎる。フェイトとなのはもヴィヴィオが焦って何をするか判らないから心配でついて行くのだろう。

「行方不明になっているジュエルシード…伝手を使って探してみるわ。でも…」
「わかった、その時は…」

 ヴィヴィオが回復し、RHdが必要になった時。直さなければならない。
 管理局では直せない。でも…ここにもデータは残っている。
 プレシアは仕方ないわねと苦笑いしながら頷くのだった。

 

「ヴィヴィオのリンカーコアが止まってRHdは直すパーツが足りん…と、なのはちゃんとフェイトちゃんは休暇取ってヴィヴィオと一緒に海鳴か…」

 はやてはシャマルから連絡を受けた後、直ぐにヴィータに伝えた。

『親子揃ってそんなとこまで似なくていいのにな。』

 なのはが墜ちた時、間近に居て彼女の苦悩も知っているからヴィヴィオが同じ様になってしまってなのはがどう思っているのか判るのだろう。冗談を言える分だけまだ余裕があるのははやてとしても少しだけホッとしている。

「はやてちゃん、私達も何か出来ませんか?」

 リインが肩に乗って聞いてくる。
 RHdに入っていたのと同じレリック片とジュエルシードを持ってる人は知っているがはやてから彼女にそれを言っても無意味だろう。何故なら既に同じ情報を得ているだろうし、その上で動かないのは他に理由があるから。
「私が異世界転移か時間移動出来たら方法はあるんやけどね~。」
「何をするんですか?」
「PT事件とJS事件の時に行ってレリック回収されなかったレリック片とジュエルシードを持って帰って来るかな…あ、でも私が時間移動出来たらアインス助けようと必死になってるかも知れんね…」

 自分で言った言葉の可笑しさに自嘲する。
 はやてが時間移動魔法を使える筈が無いし、ヴィヴィオの様に冷静に時間経緯を見られないのは判っている。ヴィヴィオが魔法を使えない今、この方法が使えるのはチェントだけだが幼い彼女にそこまで無理はさせられない。

「私はあの子みたいになれんよ…」
「そんな、はやてちゃんは頑張ってますっ! 悲しい事言わないで下さいです。」
「ありがとな、リイン。私が今できるんは…」

 窓から空を見つめる。まだ出来る事はある。

(私以外、リンディ提督やプレシアさんも私と同じ情報は持ってる、2人ならジュエルシードやレリックを見つけてくる。その後は…)

 元遺失物管理部機動6課部隊長、遺失物管理のスペシャリストとして管理局の法の目をかいくぐる方法を探す。

(何か方法がある筈や…何か…) 

 このまま黙って見ているつもりはなかった。
 


 ヴィヴィオが検査を受けている間、なのはは桃子にヴィヴィオの療養で少しだけ戻ると話した。
 桃子はヴィヴィオと一緒に少しだけ戻ると言うと眩しい位の満面の笑みを浮かべたが、ヴィヴィオの療養と聞いて流石に喜んだのを申し訳なさそうに顔を曇らせた。でも

『自分の家なんだからいつでも帰って来ていいのよ。』

 そう言ってくれたのがなのはには嬉しかった。桃子との通信を切った後、続けてヴィヴィオの研修をしているコラードに連絡を入れた。先の事件の間は用があってと誤魔化していたけれどヴィヴィオが回復しないと魔導師ライセンスとレリックを返上しなければならない。そうなるとコラードの研修そのものが消えてしまう。
 流石に事件については話せないので言葉を濁したが、コラードはなのはの顔を見て 

『そう…何があったのかは聞かないけれど、なのはも思い詰めないでね。あなたも魔力が戻ったのだから暫く静養すれば必ず治るわよ。自慢の娘なんでしょう? もっと自信持ちなさい。』
「ありがとうございます。コラード先生」
『帰って来たら連絡して頂戴。この機会にたくさん親孝行してきなさい』
「はいっ♪」

 言われて瞼が潤み、手で拭った。 

「なのは、どうだった。」

 フェイトが聞いてきた。

「お母さんはいつでも帰って来て良いって。それとコラード先生に言われちゃった。自慢の娘なんだからもっと自信持ちなさいって。」
「そっか…、私もプレシア母さんとリンディ母さんに連絡した。ヴィヴィオの事は私達に任せるって。母さん達はRHdの方が気になってるみたい。」

 ヴィヴィオが魔法が使える様になってもデバイスが壊れたままじゃ意味がない。

「RHdの事はプレシアさんとリンディさんに任せよう。もし私達が知っていたらヴィヴィオも気づいちゃうかも知れないし。」

 何か出来るとは思うけれど、今は知らないようにした方がいい。何かあれば連絡が来るだろう。それよりも…

「フェイトちゃん、お休み取れそう?」
「うん。任務の続きをティアナとシャーリーにお願いした。報告書だけならあっちでも出来るから、なのはは?」
「隊長に相談しようと思ってる。流石に今すぐ抜けられない…」

 ミッドチルダでなのはを含む数人の教導隊員が参加している。
 個人の都合で休める様な任務じゃない。隊長に話せば都合をつけてくれるだろうが、話を大きくしたくない。
 そう思ってると新しいメッセージが1通送られて来た。

「? ヴィータちゃんからだ。」

 開いてみると1文だけのメッセージ。

『私達の事は気にすんな、おまえはおまえしか出来ないことをやれ。』

 少し驚く。どうしてと思った時、シャマルから状況を聞いたのだろうと気がついた。

「なのは…」
「うん」

 大人になって守られる側から守る側になったって思っていたけれど… 

「後でいっぱいお礼言わなきゃね。」
「うん、ヴィヴィオと帰ってこよう。もう1度ここへ。」

 みんなに支えて貰ってるのを知って笑顔で頷いた。



 検査を終えたヴィヴィオがなのはとフェイトの所に戻ってくると2人から大切な話があるんだと言われて訝しげに思いつつ頷いた。
 それは…

「海鳴市に行くの? 治るまで? ママ達と一緒に?」
「うん、RHdも修理に暫くかかるみたいだし、それまで気分転換しようかって。」

 突然海鳴に行くと言われても…つい先日まで異世界の海鳴市に行っていたし、魔法が使えないと言われても実感もなく元気なのだから何時もの様に気をつけていればいいだけだと思っていたけれど… 

「魔法を使わないようにすれば平気だよ? それにママ達、お仕事は?」

 今までもシャマルから魔法の使用禁止を何度か言われていたし、学院で魔法を使わなくてもそれ程支障もない。無限書庫での調査依頼があれば…そこはごめんなさいって謝らないといけないけれど、先にユーノ司書長や何人かに伝えておけばいい。わざわざ管理外世界に治るまで居るというのは…

「ママ達の事は気にしないで。最近帰ってなかったから丁度いいかなって。ほらっゲームの世界でお母さんやお父さんに会ったけどこっちじゃ全然話してないでしょ。」
「この前もユーリを通してしかアリサやすずかとも話してないし…」

 何度も過去や他の時間軸の士郎や桃子達に会っていたけれど現在の2人やアリサやすずかには会っていない。

「だからね。」

 何かあるような気がするけれど、そこまで2人が言うなら…

「うん。」

 笑顔で頷いた。

~コメント~
 リンディ、プレシア、はやて、なのは、フェイトがヴィヴィオの事を聞いた結果どうするかなと考えました。

 

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