第06話「もう1つの可能性」

「そっか…」

 その日の夕方、ヴィヴィオからの通信を受けたアリシアは頷いた。魔法の使いすぎと言われては先の戦闘を目の当たりにしていた1人として納得するしかなく、その戦闘が今までと比べられない程無茶をしていて終わった後に倒れていたのだから何かあるかもとは思っていた。
 海鳴に行くと聞いて一緒についていきたいとも思ったけれど

「私も行きたかったんだけど…待ってるね。」

 フェイトとなのはが行くのなら待ってた方がいい。そんな返事に

『え…一緒に来て美由希さんに教えて貰う~とか言うんじゃないかって思ってた』
「ひどーい! 遊びに行くなら私も~って言ったけど流石にね。こっちで待ってる。あっ、でも早く帰ってこないと進級出来なくて私が先輩になっちゃうかもよ。」
『う…うん、がんばる。どう頑張ればいいかわかんないけど…』
 握り拳を作って言う彼女がおかしくて

「冗談だって、先生からの課題明日出しておくし先生から貰ったらすぐに送るから。なのはさんから事情は話して貰ってるんでしょ?」

 アリシアは兎も角、ヴィヴィオはほぼ1ヶ月近く休んでいたから管理外世界である事件に巻き込まれて休んでいると伝えてある。
 管理局に問い合わせされると色々問題もあるけれどそこは彼女の2人の母や関係者に頑張って貰うしかない。

「ノートも取ってるから。あっ!そうだ。お土産期待してるね。」
『お土産って遊びに行くんじゃないけど…うん。』
「じゃあ戻って来たら連絡ちょうだい。またね」
 そう言って通信を切った。
 
「アリシア…いいの?」

 通信を切った後背後から声をかけられる。プレシアが聞いていたらしい 

「うん…言ってたでしょ。私もヴィヴィオの近くに居たいよ。でも今は私が出来る事をしなくちゃいけないから…」
【一緒に行きたい】

 どれだけこの一言が言いたかったか…
 魔法が使えないヴィヴィオと一緒に何かの事件に巻き込まれたら私を守ろうと無理をする。
 魔法が使えなくてデバイスも無いのだからこんな時こそ守らなきゃとも思ったけれど悔しいけれど私じゃまだ足を引っ張るだけだと思い知らされている。
 だから…悔しいけど今はここで待つと決めた。

「でも、ヴィヴィオが元気になって魔法が使える様になって海鳴に行く時は行ってもいいよね。」

 笑顔を作って言うと

「ええ、その時はみんなで行きましょう。」

 プレシアは優しく抱き寄せてくれた。
 その直後、家のアラームが鳴る。誰か来たらしい

「はい、テスタロッサです。え…?」

 ウィンドウが開いた直後、映った者を見て2人は固まった。



 それから少し経って日が暮れようとしていた時、高町家にはやて達がやってきた。

「そんなに大げさにしなくてもいいのに~」
「ヴィヴィオのお見舞いのついででな、はいっ♪」

 そう言ってはやてから2つの大きな包みを渡される。大きさに比べると少し軽い。

「海鳴に行くんやったらアリサちゃんとすずかちゃんに渡して。私からお見舞いのお返しやって」

 お見舞いと言われてヴィヴィオは首を傾げるがなのはとフェイトはそれでわかったらしく。

「うん、わかった。」
「でもはやてが直接持って行った方がいいんじゃ…」
「私が持って行ったら怒られ…なのはちゃんとフェイトちゃんからやったら大丈夫♪」

 その言葉でその場に居た全員が理解する。
 この中には多分あまりよろしくない物が入っているに違いないと…
 シグナムやシャマルも苦笑いしている。

「………」
「……」
「…持って行かない方がいいのかも…」

 フェイトの呟きにヴィヴィオも頷く。

「ちゃんとした物やから、それと…来た来た♪。入ってきていいよ~。」

 はやてが大きな声で言うとザフィーラと一緒に1人の少女が入ってきた。

「お、おじゃまします。」

 ショートカットでヴィヴィオより少し大きい位の少女。なのはとフェイトは誰だろうと首を傾げるがヴィヴィオは彼女を見て直ぐに判った。

「ミウラさん」

 ミウラ・リナルディ。異世界で会った少女…

「えっ? ヴィヴィオ、ミウラを知ってるん?」
「! えっ? えっ? あ、アワワ…わ、私どこかでっ」

 はやては兎も角ミウラを思いっきり動揺させてしまった。
 彼女は私と初めて会うのに私がいきなり名前を呟けば慌てもする。 

「ごめんなさい。前にはやてさんの話で聞いていましたからもしかしてって思って、初めまして、高町ヴィヴィオです。」

 彼女に歩み寄って握手する。

「? 私…ヴィヴィオに話したかな~…?、まぁいいわ。前から会わせたいって思ってたからついでに連れてきた。八神家で…っていうかザフィーラが近所の子を集めて格闘技の練習しててな、ミウラはそこで1番強い子。」

 私なんてとはにかむミウラを見て

(ストライクアーツが無くても…八神家道場はあるんだ…)

 ザフィーラを含め八神家のみんなは教えるのが上手い。異世界の彼女も強かった。

「折角の機会やからヴィヴィオと話出来ればってな呼んだん。なんなら模擬戦してくれてもいいよ。」
「はやて」
「はやてちゃん! 私たちが海鳴に帰る理由知ってるでしょ!」

 なのはとフェイトから集中砲火を食らって苦笑いする。

「判ってるって、アレが見たれたらってちょっと位って思ってたけど…」

 そう言ってニヤッと笑って私を見る。いつもの悪戯かとも思ったけれど目は笑っていない。

(アレ…そっか…知ってるんだ。)
「…いいですよ、少しだけなら。」 
「「「えっ!?」」」 
「ヴィヴィオ、まだ魔法使っちゃだめってシャマル先生に言われてるでしょ。」 
「デバイスも無いんだから無茶しないで。」

 2人の矛先がこっち向いてしまった。

(シャマル先生も…怒ってる…でも。)

 シャマルは怒った顔ではやてを見ているが彼女はそれを見てもさっきの言葉を撤回する気は無い。どうしてミウラをここに連れてきたのかを考えた時、何となく異世界での事を思い出した。
 もしこっちの彼女が異世界の彼女と同じ様な考えを持ってるなら…

「大丈夫。ミウラさん、デバイス持ってますよね? 私のデバイス修理中ですので~」
「あっ、じゃあ軽く…」
「そうじゃなくて、デバイスも使って全力で来て下さい。ママ、シグナムさん、ヴィータさん。もし私かミウラさんが危ないって思ったら直ぐに止めてね。」

 そう言って窓を開けて庭に出た。



『はやてちゃん、何考えてるんですかっ!? ヴィヴィオに今無茶をさせたら本当に魔法が使えなくなるかも知れないのにっ!』

 シャマルから説教が念話で届いた。彼女を看たのはシャマルなのだから当然と言えば当然。シグナムとヴィータ、リインも何を考えているのかと私とヴィヴィオを見ている。
 ザフィーラにだけミウラを連れてくる様に理由を含め話していた。
 
(家長が決まりを破ったら…あかんよな)
『大丈夫、只の模擬戦で直ぐに終わるし、なのはちゃん、フェイトちゃん、私らも見てる。何か異常があったら直ぐ止めさせるよ。』

 家族全員に念話を送って自らはヴィヴィオの背を見る。 
 ヴィヴィオが何も聞かずに頷いたのに驚かされた。

(考えを読めるんやね…ついこの間やったら今は魔法使えないからとかはぐらかそうとしてた筈…本当に成長したな、ヴィヴィオ。)

 疑問を確信に変えられる【機会】はそう何度もない。

「はやてさん…本当にいいんですか? ヴィヴィオさん…デバイス持ってないのに私がデバイス使ったら…」

 ミウラが逆に心配そうに聞いてくる。全員の会話を聞いていたらヴィヴィオに何が起きているのか察したらしい。

「してみたら判るよ。ヴィヴィオも待ってるよ。シャマル結界頼むな」

 そう言うと彼女の背を押してヴィヴィオの後を追いかけさせた。



「…じゃあ…10分だけ。ヴィヴィオ、ミウラちゃんどちらから危ないって思ったら直ぐに止めさせるからねっ、いいね」
「はい」
「おねがいしますっ!」

 バリアジャケット姿のミウラが前に立つ。所々デザインは違うけれどスターセイバーというデバイス名と能力は似ていそうだ。

「私も…」

 瞼を閉じて心を落ち着かせる。
 RHdが居ないのが寂しい。でも、これは使える筈。

「行きますっ!!」

 カッと目を開いた瞬間。
 身体を【鎧】が包んだ。

「「「「!!」」」」

 ミウラが驚く。周りに居たなのは達全員も声をあげられない程驚いている。

「タァアアアッ!」

 助走をつけて思いっきり足を振り上げる。 

「!?」
【ドゴッ!】

 ミウラが両腕でガードし重い音が響いた。それを見て自然を笑みがこぼれた。

「続けていきますっ!」
「はいっ!」

 そう言うと2人の攻防は始まった。



「あれ…」
「うそ…」

 なのはとフェイトは…全員がヴィヴィオの姿を見て驚きを隠せないでいた、得心のいったはやて以外は…。

(やっぱり…)

 ジュエルシードに取り込まれ闇の書となってしまった自身との戦いで彼女が見せた鎧。
 イクスから伝えられた聖王が相手を倒す覚悟をした時に見せる鎧。
 アインハルトが言っていたクラウスの記憶ととても似ている鎧。

 彼女がそれに気づいていない訳がない。

 そして何らかの理由で魔法が使えなくなったヴィヴィオ、なのはやフェイトが慌てたのは当然だけれど本当に慌てないといけない者が皆落ち着いている。
 プレシア・アリシア親子、リンディ、そして…イクスヴェリア。
 プレシアとリンディはデバイスについて何かを調べているし、アリシアは学院に残ると聞いた。そしてイクスは何も動いていない。既に耳には入っているだろうし【彼女】なら魔法が使えなくなった【聖王】の近くに来て守ろうとするだろう。
 それをしないのは…ヴィヴィオが魔法を使えなくても自らを守る方法を持っていると知っているから-即ちそれが彼女が持つ鎧。
 

「ミウラ…良かったな。」

 彼女が求めていたのは同世代で競える相手。
 アインハルトとは違って力を試せる機会が無いこと…ザフィーラやヴィータ、シグナム達はあくまで師匠だから試すというより教わっている。
 ザフィーラ達を通して聞いているヴィヴィオなら…彼女の求めを叶えられる。

「ヤァアアアアッ!!」
「タァァアアッ!」

 2人の模擬戦を眺めながら微笑むのだった。



 それから更に時間が過ぎて翌朝、高町家

「なのは、鍵は全部閉めた?」
「うん。」
 大きなバックを背負うヴィヴィオとそれより大きなケースを横に置いたなのはとフェイトは家を出て来る。
「じゃあ、ちょっとだけ行ってきます。」
 ヴィヴィオが振り返ってそう言うとフェイトが転移魔方陣を広げミッドチルダから飛んだ。

~こめんと~
 最初に、思いっきり更新が滞ってすみませんでした。
 プライベートで色々ありまして…本当にごめんなさい。

 ようやく1章終了とミウラの登場です。
 (Vividメンバーはストライクアーツが無いと登場させ辛いです…)
 
 ASAfterで1番悩んだのはヴィヴィオの鎧についてでした。
 ヴィヴィオの鎧についてはAgainStory3第21話で初めて登場しています。その後もアインハルトやヴィータを1撃で落としたりと時々出てきています。
 何故悩んだかと申しますとオリジナル要素が更に強くなってしまいますが、ミウラの登場が更に後になってしまうのと鎧を知っているはやてならどうするだろう?と考えた結果こんな形で落ち着きました。

 これからの話ですが新しい形で進められないか試作中です。 

 




 
 

Comments

Comment Form

Trackbacks