第07話「1つの可能性」

『アクセルシュートッ!』

 虹色の球体がそれぞれ意思を持ったかの様に飛び出す。
目標は正面、少し離れた所に居る女性、しかし…

『動きが単調すぎです。放った後止まっては只の的です。パイロシューター』
『!!』

 彼女が放った赤い球体に虹色の球体は全て消され、そのまま回り込まれて

『きゃぁああああっ!』

 直撃して爆発した。

『まだまだですね…』

「うわぁ…相変わらず容赦のない…」

 大人ヴィヴィオは管制室のモニタに映る女性を見て引きつった笑みを浮かべる。

「シュテルは手加減しませんからね~、特に素質があると認めた子には…本気で鍛えるつもりみたいです。」

 ユーリが隣で微笑んで見ている。

 先の事件でヴィヴィオ達のデバイスはそれなりのダメージを受けていた。
 砲撃魔法の直撃を受けた2ndは兎も角、アリシアのバルディッシュもヴィヴィオの転移攻撃の余波を受けて修理に1週間程かかるらしい。
 そこでヴィヴィオは軽微なダメージで済んでいたチェントのデバイス、3rdを持って教導隊を訪れたのである。2ndも3rdも基本構造は同じだから消耗部品を交換すれば模擬戦程度なら十分に耐えられる。
 チェントに渡した直後、早速シュテルとトレーニングルームに入ってほぼ一方的にやられていた。

「シュテル~、疲れたら次代わりますよ~♪」

 ユーリがシュテルに声をかけるのをギョッと振り返る。
 彼女は無限書庫の司書と言ってもそこらあたりの武装隊や局員では相手にならない程強い。これでも全開時の半分にも満たないそうで他の3人曰く『彼女が最強』らしく…あまり模擬戦とかで当たりたくない相手ではある。
 そんな彼女が言うと模擬戦をしたくてウズウズしている様にしか見えない… 

『平気です。それに私の次は…』
「シュテルんの次はボクの番。教え甲斐のある子が来たんだから独り占めしちゃうといくらシュテルんでも許さないよっ!」
(魔法教えて貰うの、母さん達で良かった…)

 レヴィが入ってきて起動させたバルニフィカスを振り回している。
ちょっぴり怪我してて良かったと思う。元気だったら巻き込まれている…間違い無く。

『その様な訳ですので…起きなさい、それ程ダメージは無いはずですよ。』

 爆発で地面に落ちたチェントの前に降りてデバイスで小突く
 彼女は地面をギュッと握ると体を震わせながら起き上がって

『はいっ』

 涙目になりながらもしっかりシュテルを見ていた。

(…あの子もあんな顔するんだ…)

 笑ったり悲しんだり、私と会うと頬を膨らませて顔を赤らめたり怒ったりとそんな顔は見ていたけれど…

「負けず嫌いなところはそっくりですね♪」
「そうですか? まぁアリシアは負けず嫌いですけど…」
「そうじゃなくてヴィヴィオにです。」
「うん、そっくり♪」

 2人に言われて顔を赤くした。

【PiPiPi】

 そんな時、ヴィヴィオの端末が鳴る。

「アリシアからだ。はい、ヴィヴィオです。」
「アリシアだ~♪ オィーッス!」
『レヴィさん、こんにちは。皆さんにご迷惑かけてすみません。ヴィヴィオ、チェントのデバイスどうだった?』
「今のところ問題無いみたい。シュテルさんの特訓受けてるけど…見る?」
『う~ん、今はいい。格好悪いところ見せたくないだろうし…それより2nd修理してて思い出したんだけど…あの子のデバイス大丈夫だったのかなって気になっちゃって。』
「あの子って…あっちの私?」

 小首を傾げる。

『そう、私達から見ても相当無茶してたでしょ。魔力を使い切って倒れちゃうまで…デバイス何も無ければ良いんだけど…』

 言われてみれば異世界の母さんを倒した後、彼女は魔法らしい魔法は使ってなかった。まぁ彼女自身が魔法を使える状態じゃなかったからデバイスまで気を回してなかっただけだけど…

「でも、まぁ何かあっても元の世界に戻ったら直せるでしょ。マリエルさんやプレシアさんも居るんだし。」
『最初は私もそう思ったんだけど…壊れた場所によっては直せないんじゃないかなって…。これカウンタープログラムを入れた時に取ったデバイスのデータ。』

 そう言うと別のウィンドウが横に現れて色んなデータが表示される。ユーリとレヴィも興味があるのか覗き込む。

「わっ、あのデバイスこんな無茶苦茶なスペックだったの!」

 シールドの術式が滅茶苦茶重い。こんなのを入れて動かしたら魔力切れを起こしてしまう。
 これを普通に動かしていた彼女に驚いた。

『そうじゃなくて構成術式はこの際置いておいて…』

 更に画面が変わる。それを見てユーリが声を上げて身を乗り出して来た。

「…こ、これ本当にデバイスですか!?」
「…は、はい異世界の私が使っていたデバイスです。レイジングハートセカンド…RHdって呼んでました。ユーリさんも会ってる筈ですが…10年以上前ですけど。」

 アリシアの代わりに答える。

「これを暴走させずに使うなんて…レリック片をコアにしてメインフレームにジュエルシードって…ロストロギアって言ってもいい位です。」
「!?」

 言われてヴィヴィオも確かめる。ユーリが言った通り無茶苦茶だ。

『わかった? もしコアとメインフレーム…特にコアに深刻なダメージがあったらあっちの世界じゃ修理出来ないかも知れないの。こっちのレリック片も私たちが全部使っちゃったし…』

 3人の同期システム、レリック片同士の連結が根幹にある。 

「でも…壊れていたら動かなくてもっと大事になってるんじゃない?」
『そうよ、もしあっちのヴィヴィオがそんな状態になっていたらこっちにも影響しちゃう。ヴィヴィオ、そっちに行ってすぐで悪いんだけどマリエルさんの所に寄って部品貰って帰って来て。』

 そう言うとリストが端末に送られて来た。
 …これを何も言わずに貰えるとは思えないけど、軽いお説教位は覚悟しよう。

『私は急いで2機を直す。明後日位までに』
「明後日!? 無理無理っ、私の魔力じゃ2人を連れて行っても帰れないよ?」

ストライクカノンの直撃での怪我はある程度治ったけど、リンカーコアはそうはいかない。
 転移魔法くらいなら使えるがスターライトブレイカーどころか戦技魔法なんかまともに使える状態じゃない。これまでの経験から時空転移での往復が出来るまで1週間位かかるだろうと思っていた。
 ヴィヴィオが答えるとアリシアはニコリと笑って

『大丈夫♪、そこはユーリさん達がきっちり仕上げてくれるわ。ユーリさん、レヴィさん、妹をお願いしますね。』

 そう言うと端末はプツンと切れた。

「あっ、アリシア!!」
「切れちゃった…」
「…ユーリさん、さっきのアリシアの話って…やっぱり?」

 恐る恐る聞くと彼女は苦笑して管制室のモニタを見る。そこでは模擬戦中のシュテルとチェント…。

「私たちより容赦ないです…。」

 知らないのは本人だけ…

「頑張れ…ホントに…」

 流石の私も同情した。

~コメント~
 今話はSide-A(Another World)という事で異世界3人の話です。
 彼女達がどんな風に話に混ざってくるのか…はてさて

 

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