第37話「シュテルの作戦(後)」

(シュテルのパイロディザスターと同じ魔力値だったから相殺される筈なのに出来なかった。それにクロスファイアシュートを真似されちゃうなんてっ)

 舞台が市街地に移り近接戦から空中高機動戦に変わってヴィヴィオはシュテルの強さに驚いていた。
 必死に飛んで離れようとするが彼女はぴったりと後ろを追いかけてくる。アクセルシューターも全てパイロディザスターに潰されて寧ろ使えば使うほど窮地に陥っている。先にスターライトブレイカーを使う為にアクセルシューターの1個を空に放ったけれど、しっかり潰されてしまった。…しっかり研究・対策されている。
 それに…
(シュテル、なのはママみたい…)

 なのはとフェイトから特訓を受けた成果が今のデュエルなのだから当然と言えば当然で…

「私も負けられないね♪ 行くよシュテル!」

 アクセルシューターを集めてクロスファイアシュートを放つ


「受けて立ちます! クロスファイアシュートっ!」

 シュテルもパイロディザスターを集め集束させ砲撃スキルとして放つ。
 シューター系のスキルを集束させて違うスキルに切り替えられるのはなのはから教わってパイロシューターで練習していたけれどパイロディザスターで出来るかどうかはぶっつけ本番だった。
 気を抜けば消えてしまいそうだがヴィヴィオに勝つにはこれを使い続けるしかない。
 デッキのスキルカードもレヴィがディアーチェ・ユーリと一緒に考えた結果選んだカードだ。
 4人で考えた作戦だからここで失敗する訳にはいかない。

(簡単に落とされる訳にはいきませんから…)



「あらら…ヴィヴィオ、シュテルさんに弱点見破られちゃってるね~」

 グランツ研究所、所長室で見ていた大人ヴィヴィオは苦笑いしながら言う。

「弱点?」
「そんなものがあるのかい?」

 アリシアとグランツが聞く。アリシアは知ってる筈だけれど思い出せないらしい。

「はい、ヴィヴィオと同じ位の頃私も大変だったんです…ヴィヴィオの弱点の1つ、使える魔法が凄く少ないこと。」
「…あっ!」

 思い出したらしい、笑って続ける。

「私やヴィヴィオは母さんやアリシア達と違って使える魔法が限られちゃうんです。ブレイブデュエルはスキルカードを使うみたいだけど慣れてない魔法は使えない。特にシュテルさんみたいに相手を研究・対策してくる相手には。」
「そうか…彼女達はスキルカードをそれ程持っていない。」
「知ってるスキルカード毎に対策しちゃえばいいから…対策しやすい」
「もうアクセルシューターとクロスファイアシュート、紫電一閃だけだと勝てない、セイクリッドクラスターとインパクトキャノンも同じ。あと使えるのはストライクスターズとブレイカーだけど高速戦じゃ使えない。」
「でも…そんな事で諦める訳ないよね? いきなりデアボリックエミッションを使う子なんだから」

 アリシアに笑って頷く。
 その程度で諦める彼女じゃない。だからあの事件が良い形で終わらせられたのだ。

「うん、それはシュテルさんも判ってる。だから勝てる手を1つずつ積み重ねてるし2人とも何かまだ隠してる。面白い模擬戦だよ。」

 ヴィヴィオはそう答えながら自分もブレイブデュエルで遊んでみたいと思う様になっていた。


    
「あのデュエル…すげぇ…」

 激戦が更に過熱する。その映像は八神堂だけでなく各ショップでも中央のスクリーンに映されていた。
 他のデュエルに紛れていたのをエイミィとユーリが映す様にしたのだ。T&Hのほぼ全員がゲームをプレイするのを止め2人のデュエルを見つめていた。
 その中には…

「ヴィヴィオちゃんも…シュテルもグランプリより凄い…」

 なのはが呟く。フェイトから彼女の代わりに手伝って欲しいと頼まれて引き受けたのだが、八神堂でこんなデュエルをしているなんて…

「2人とも楽しそう」

 白熱する中、時々映る2人が本当に楽しそうにデュエルをしているのが嬉しくて自然と笑顔がほころんだ。

一方で…

「アリシア…どうしたの?」
「えっ私? あっ…」

 フェイトがデュエルを見ている中でアリシアを見た時、彼女の頬に涙が流れているのに気づいた。ポケットからハンカチを出して彼女に渡す。 

「ありがと、嬉しいのにちょっと悔しくもなっちゃって、羨ましいっても思っちゃって。アハハ…何言ってるんだろ、私」

 涙を拭って笑うアリシア。でも彼女の笑顔はどこか寂しそうだった。

「…アリシア、私達もみんなを驚かせる位凄いデュエルしよう。」

 フェイトは立ち上がってアリシアに手を差し出す。
 八神堂でもヴィヴィオとシュテルのデュエルを見る為に、皆遊ぶのを止めている。今ならすぐ遊べる。

「うん、ヴィヴィオとシュテルより注目される位凄いのをしよう。」

 彼女がその手を取って立ち上がり2人でシミュレーターへと向かった。



 繰り返される砲撃魔法と射撃魔法と近接戦。しかし2分も経たない内にシュテルのパイロディザスターはヴィヴィオのアクセルシューターに相殺され始めた。
 しかもこちらの奥の手の動きが鈍ってきているのに気づく。彼女も作ったらしい。

(…もう気づきましたか…流石ですね。)

 軽く舌打ちしながらも次の手を出す。

「ルシフェリオン、ライフポイントを削りにいきます。作戦通りに」
【委細承知】
「ロード、雷光一体!」

 起動直後にシュテルのアバタージャケットが赤紫から藍色に変化する。それに合わせてスピードが跳ね上がった。



「リライズしたっ! スピードアップ!?」

 アリサ・すずか・ユーリ・なのはが以前デュエル中にジャケット色を変えていた。シュテルもデッキに入れていたらしい。再び襲い来るパイロディザスターにアクセルシュートをぶつける。
 しかし…ヴィヴィオの放ったアクセルシューターは全て四散した。

「ウソっ! なんで!?」

まっすぐ直撃コースに来たところをセイクリッドクラスターで迎撃しながらセイクリッドディフェンダーを使い防御値を上げる。それでも僅かにライフポイントが減った。息つく間もなく

「ハァアアアアアッ!!」

 上空からルシフェリオンクローで襲うシュテル

「っ! 紫電…一閃!!」

慌てて迎撃、しかし彼女の攻撃値がヴィヴィオの紫電一閃を上回り

【ドォォオオオン!】

爆発の後、吹き飛ばされた。

「パイロディザスター、ファイアっ!」

 立て直す間も許さず追撃される。

「! フォートレス!」

 スキルじゃ迎撃も防御もできないと判断してヴィヴィオはフォートレスの中型シールドを起動させる。
 強い振動を感じるが

「それの弱点は知っています」
「フォートレス、パージっ!!」

 パイロディザスターを受けきるも、再びルシフェリオンクローに貫かれて慌てて取り外し距離をとりながらクロスファイアシュートを放つ。だが彼女は余裕でそれを避けた。

「速度強化だけじゃない? 残りライフポイント半分ないか…、ちょっとピンチだね。」

 そう言いながらも嬉しくて笑みが溢れた。
 

  
「あと半分…ヴィヴィオには申し訳ありませんが…いきます!」

僅かにシュテルの表情が曇る、しかし意を決しヴィヴィオめがけて動いた。

「ロード、ライトニングディザスター」

 ルシフェリオンの先に刃を作り突撃する。
 対するヴィヴィオはフォートレスの小型シールドを持ち、剣を出している、その刃からは虹色の稲妻が見えていた。   

「ハァアアアアッ!」

 フォートレスと紫電一閃と何か他のスキルを組み合わせたらしい。
 その目標はシュテルの持つルシフェリオン。
 ルシフェリオンの刃を紙一重で避けてそのまま振りかぶり

「雷光…一閃!!」

 ルシフェリオンの刃と先端を切り落とした。だがそれは予想通りの行動。

「これで終わりですっ!」
「!?」

 左手に出現させたのはレヴィのバルニフィカス。
 体を高速に捻って遠心力を作り出しその力で刃をヴィヴィオに突き刺した。だがヴィヴィオもとっさの反射して返す刀で刺さった先端を束ごと切り落とす。
それでもヴィヴィオのライフポイントは大幅に減る。
 しかしそれもシュテルの想定内だった。
(これでっ!)
 これで倒せる範囲に入った。
 最後のトリガーを引く。

「ロード、ファントムブレイズ」

 ルシフェリオンがブラスター形状に変わる。 
本来遠距離射撃で使うもので近距離では相手の動きについていけないが、ここまで至近距離でダメージを残していればっ。砲口に光が集まる。

「スターライトっ! えっ!?」

 ヴィヴィオも応戦しようとするが、その直後彼女が集めていた魔力は失われスキルが止まった。

「ファイアッ!」

 貯めていた魔力ゲージを全て使い放った。

【ゴォォオオオオオオン!】

 10メートルも離れていない場所から放たれた砲撃にヴィヴィオのライフポイントは吹っ飛ばされてしまった。

【Winner Stern】

 メッセージを見て、シュテルはフゥッと息をついた。
 

「ヴィヴィオに…勝っちゃった…すごいすごいシュテるん! すごい!!」
「勝っちゃいましたね…」
「うむ、流石我らのエースだ♪」

 その光景を見ていたレヴィは興奮のあまりジャンプしながら喜び、アミタは半ば驚きを隠せず、ディアーチェは満足げに頷いた。
 T&Hでもヴィヴィオが負けたのを見て驚きのあまりステージは一瞬静まりかえった後、そのデュエルの凄さから割れんばかりの歓声で埋め尽くされた。
 そして、八神堂でも…古書店のカウンターで映像を見ていたなのはとフェイト、はやてはフゥっと息をついた。

「シュテルちゃん、凄いね。本当に勝っちゃうんだから」
「うん、ヴィヴィオも凄かった」
「なのはさんもフェイトさんもシュテルが勝つって知ってたんですか?」
「もしかすると…位かな。シュテルちゃんの対策と作戦勝ちだね。ヴィヴィオも勝てるタイミングがあったんだけど。はやてちゃん、さっきの答え合わせする?」
「さっきのって?」
「うん、シュテルがヴィヴィオに勝ってる所♪」

 はやてに聞くと彼女は小さい白旗を振っていた。いつの間に作ったんだろうと思いながらクスッと笑う。

「考えてましたけど全然…降参です。」
「答えは『ブレイブデュエルのプレイ時間』と『持ってるカードの多さ』。どれだけスキルを組み合わせたり現実の能力を持ち込んでも、ブレイブデュエルはブレイブデュエル。シュテルちゃんは何故パイロシューターを使わずにより魔力を使うパイロディザスターを使ったのか? 雷光一体は何の為か? ライトニングディザスターを使ったのもそうだし、ブレイカー系じゃなくてルシフェリオンドライバーでもなくてファントムブレイズを使ったのも…それが理由。」
「ヴィヴィオのスキルに対抗できるスキルを選んだ。ヴィヴィオには辛い経験になったけど力押しじゃなくて相手に適した方法を探すっていうのも大切だからね。」

 パイロディザスターは対ベルカ・対ミッドチルダで攻撃ダメージが2.5倍になる。
 雷光一体は後の攻撃の呼び水であり、攻撃回数毎に攻撃力・防御力が強化される。もしヴィヴィオがパイロディザスターの攻撃ダメージに気づいてもこれで時間は稼げる。
 ライトニングディザスターはACSモードのルシフェリオンとサイズフォームのバルニフィカスが使える。きっとこれはヴィヴィオの弱点を突く為に入れたのだろう。
 そしてファントムブレイズ、スターライトと雷光一体で強化された攻撃力からブラスターを使い、更にヴィヴィオのスキル発動を止める為に選んだ。
 作戦を考え、多くのカードの中から適したカードを選びデッキに入れてきた。

「お疲れ様、シュテルちゃん」

 なのはは色々抱えていた課題を見せてくれた彼女に礼を言った。

~コメント~
 ヴィヴィオとシュテルの対戦は何度かありましたが、シュテルが勝ったのは1度だけでした。今回はシュテル達にとっても大きな1勝です。
 本家イノセントがサービス停止しているので、今回登場したカードはイノセントカードデータベース様を参考にさせて頂きました。

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