第39話「弱点という優しい心」

「アリシア…滅茶苦茶強くない?」

 グランツ研究所の所長室でデュエルを見ていた大人ヴィヴィオは驚き頬を引きつらせながらら隣に居る大人アリシアに聞く。

「うん、あっちのヴィヴィオを奮い起こさせる為に言ったつもりだったんだけど…アレは凄いわ。でも…流石にセーフティは要るんじゃないかしら。あんな模擬戦…じゃなかった、デュエルをしたら…疲労も凄いわよ。」
「「えっ?」」

 グランツと大人ヴィヴィオが驚いたのと同時に八神堂のポッドからアリシアとフェイトは出てこられず、ヴィヴィオとシュテル、レヴィ、ディアーチェの肩を借りて出てきた。

 
「ふむ…対策を考えなければならないね。それは今後の課題として、ブレイブデュエルのシステムについてだったね。」 

 そう言いながら幾つかのファイルを開き見せ始めた。



「アリシア…フェイト…大丈夫?」

 見るからに疲労困憊のアリシアとフェイトを支えながら古書店の2階に連れてきた。

「アハハハ、ちょっとあっちではしゃぎ過ぎちゃった。」
「私も…」
「まったく…もう少しペース配分を考えて下さい。」

 そう言いながらスポーツドリンクを渡す。2人はそれを受け取って半分くらい一気に飲むとフゥ~っと息をついた。

「ペースを考えてたら負けちゃうかなって…」
「それで倒れちゃったら大変だよ。2人もそうだしブレイブデュエルもっ」
「そうだね…ごめん。」

 素直に謝るフェイト

「私も気をつける…あっ!ヴィヴィオ、私達が運ばれたのみんな知ってる?」
「? 知ってるんじゃないかな…でもディアーチェやレヴィがフォローしてくれて…」
「フェイト、デバイスっ!」
「デバイス? 携帯のこと?」

 ポケットから携帯を取り出すと

「わっ! 着信が30件…」

 と言ってる間に再び携帯が震えた

「は、はいフェイトです。…う、うん、大丈夫…」

 立ち上がってそのまま部屋の隅に行く。

「どうしてデバイスって?」

 ヴィヴィオがアリシアに聞くと彼女は恥ずかしそうに顔を少し赤らめて

「こっちのママ、親バカ…じゃなくてすっごく心配性なんだって。ブレイブデュエルで倒れたの知ったら…ね。私のママも…だし」

 思いっきり納得する。
 ここのプレシアの事はよく知らないけれど、彼女の母の方は思いっきり知っている。

「ヴィヴィオのSonicMoveで上限回数を設定しましたがもう少し下げた方が良いですね。白熱したデュエルで盛り上がってくれるのは嬉しいですが倒れられては意味がありません。幸い10回使えるのもヴィヴィオとアリシア、フェイトの3人しか居ませんし…」
「待って、それより自分で気づく様にした方が良いんじゃない? 私達がフラフラになるまでなっちゃったのってブレイブデュエルの中で疲労に気づかなかったからだからで、これ以上動くと危険っていうのを見せればいいんじゃない? 例えば視界が赤くなっていくとか…」
「なるほど…博士に相談してみます。アリシア、次はレヴィとデュエルしてみますか?」
「私?」
「それともヴィヴィオがディアーチェとデュエルしますか? きっと下では2人ともデュエルしたくてウズウズしているでしょう。」

 アリシアと顔を見合わせる。        

「4人ともだ~め♪ お昼過ぎまでデュエルは禁止。」

 話を聞いていたのかなのはが階段を上がってきて言った。

「なのはママ」
「4人とも凄かったよ。凄いデュエルだったからこそ休憩しなくちゃね。ヴィヴィオとアリシアはわかるよね? 現実で同じことをしたらどれだけ疲れるか。ブレイブデュエルの中でも頭は同じ位…それ以上に疲労は溜まるの。じゃないとポッドの中から出られないなんてならないよね? しっかり休憩をとるのも大切な練習だよ。」
「は~い」
「そうですね…ヴィヴィオ、先に下りて2人に伝えてきます。アリシアとフェイトも少し休んで下さい。特にフェイトは…」
「うん」
「ありがとう」

 シュテルはそう言うと階段を下りていった。



「ねぇ、なのはママ? なのはママも私の弱点に気づいてたの?」

 シュテルの居た場所になのはが座るのを待ってヴィヴィオが聞く。

「ヴィヴィオの弱点?」
「そんなのあったんだ…」

 アリシアとフェイトは驚く。話そうかどうしようか少し迷うが、話したところで影響はないだろう。 

「うん、私の弱点。相手を直接攻撃せずにデバイスを壊そうと無駄な動きがあるんだって。シュテルとのデュエルでシュテルはそれに気づいて私に勝ったって言ってた。あっ誤解しないでね。デュエルで弱点を攻めるのは勝つ為に必要だと思ってるし、私も気づいてなかったのを後で謝って教えてくれたんだから。」
「…そっか…言われてみれば…」

 アリシアがなるほどと頷いた。

「ねぇ、なのはママも気づいてたの?」

シュテルをフォローしつつ再びなのはに聞く。

「知ってたよ。でも弱点なんて思ってないよ、あれはヴィヴィオの優しさだって、私もフェイトちゃんもそう思ってるの。模擬戦でも、本当の…実戦でも魔力ダメージで倒そうとしたら相手にもノックバックが起きるよね。空中戦で魔法を直撃させて相手が気絶しちゃったらそのまま落ちちゃうでしょ。誰かが助けないとそのまま地面や水面に叩きつけられて怪我しちゃう、怪我で済めばいいけど…そういうこともあるよね。」
「でもデバイスが動かなくなれば魔法が使えなくなって相手は負けたと思っちゃう。大きな魔法は使えなくても浮遊魔法位は使えるし、使えなくても動けるし声も出せる。無傷で終わる可能性がグンと上がるの。」
「ヴィヴィオ、アリシアも思い出してみて、今までヴィヴィオと戦って大怪我した人…いる?」

ヴィヴィオは思い出す。
 ジュエルシード事件でのフェイト、闇の書事件でのリインフォース、チェントやマテリアル、異世界のなのはとフェイトやヴィヴィオ、ユーリ…

 アリシアは思い出す。
 チェントの事件でヴィヴィオが黒いジャケットを纏った時、彼女は迷わずスカリエッティとウーノを消そうとした。間に入ったチェントですら無残な姿になっていた。

「シュテルちゃんが見つけた様に弱点になる時もある。でもママは強い力を持っても優しい心を忘れないで欲しいって思ってる。だから言わなかったの。」
「強い力…優しい心…」

 自分の手を見る。   

「そうよね~、それ位弱点無くちゃ誰も勝てないわよ。そんな最強最悪の聖王様なんて誰も望んでないもの。」
「ん~っ! 最強最悪って…酷くない?」

 頬を膨らませアリシアに突っ込みを入れる。

「私達のヴィヴィオはそうじゃないでしょ。聖王でも高町でもあるんだから♪」

 ウィンクしながら言う彼女にヴィヴィオは心の中にあったモヤモヤが消えた気がした。

「アリシアも人ごとじゃないよ。ママ、アリシアの弱点も知ってるよね?」
「勿論♪ アリシアだけじゃなくフェイトちゃんやシュテルちゃんもバッチリ♪」
「嘘っ!!」
「わ、私もっ!? 教えて下さい!!」
「私も!!」

 テーブルに前のめりになるアリシアとチェントを見ながら私は

(ママ大好きっ!)

 なのはとフェイトがママになってくれて良かったと思うのだった。



 それから時間が経って日も暮れた頃

【カラカラーン】
「いらっしゃいませ~、ってお姉ちゃん、ヴィヴィオ、なのはさん、フェイトさん」

 喫茶翠屋にヴィヴィオ達はやって来た。その理由は

「お待たせチェント。帰ろう、私達の世界に」
「もういいの?」
「うん♪」

 チェントを連れて、また遊びに来ますと士郎と桃子、美由希と別れて…

「やっと来た!」
「来ないんじゃないかって待ちくたびれたわよ。」

 先にグランツ研究所に来ていた大人の私達と合流した。

「このまま帰って…本当に良いのですか? ヴィヴィオは…」

 シュテルが私に心配そうに聞くのを遮る。弱点をそのままにして帰るというのを気にしてくれているらしい。

「うん、今は遊びに来た訳じゃないから。戻ってみんなに元気になりましたって言わなくちゃ。シュテルから聞いたこと忘れてないよ。次に来た時はお願いします。」

 ペコリと頭を下げる。
 今度のことで色々気づかされた。
 聖王のゆりかごを見た時から私はオリヴィエの背中を見ていた気がする。でもそうじゃない、私も沢山の人に支えられているのだということを。

「あっ! 1つ忘れてた。シュテル、ユーリ、プロトタイプで私とアリシアとデュエルしたいんだけどいい?」
「「「はい?」」」

 声を揃えて首を傾げるシュテルとユーリ、アリシアが可笑しくてクスッと笑った。



「ヴィヴィオ、何するつもり?」

 グランツ研究所の中を移動する途中でアリシアが私に小声で聞いてきた。

「う~ん…ちょっとしたお願いかな。アリシア、こっちに来て最初に貰ったカード持ってる? テストカードだったかな。」     
「あの変わったライトニングのジャケットの? 持ってるけど。」
「うん、それでフェイトとのデュエルみたいに全力でSonicMove使って恭也さん達から教わったアレと一緒に。魔力を固定してもらうから思いっきりやっちゃって」
「いっ!? 絶対見えないよそれ」
「大丈夫♪」

心配そうに言うアリシアに笑顔で答えた。


「さて、今度は何を見せてくれるんだろうね。」

 ユーリからヴィヴィオの話の相談を受けて了承し、グランツ自身も興味津々にプロトタイプシミュレータルームにやって来た。彼女のことだから何かに気づくか新しい可能性を見せてくれる気がした。グランツが部屋に来ると既にヴィヴィオとアリシアはポッドの中に入っていて、ヴィヴィオとアリシアがアバタージャケットを着ていた。アリシアのはテスト中のジャケットだ。

「博士」
「遅くなってすまない、始めていいよ」
『いくよ、ヴィヴィオ』

 そう言うとアリシアが早速SonicMoveと高速移動使った。その速度は恭也と美由希が叩き出したスピードを更に超えた。

『いつでも♪』
『フォートレス!』

 ヴィヴィオはフォートレスを起動し、小型シールドを腕につけて振り返って構えた。
 直後目の前からアリシアが現れ構えた所に攻撃した。ガキッと音がしてアリシアのダンシングソードとシールドがぶつかる。

『!?』

 驚くアリシアは直ぐに離れて今度はSonicMoveを10回使って攻める。
 アリシアが使う高速移動の技はヴィヴィオに見破られているからスキルだけに切り替えたのだ。しかしヴィヴィオはその動きをジッと見つめ右に構えた。目の前にアリシアが現れ攻撃するが再びシールドに防がれた。

『ウソっ!』
『アリシア、もういいよ。ありがと。ユーリ、データ取れた? これが私が見せたかったものです。SonicMoveを連続で使われた時の対策。プロトタイプじゃなくても出来るけどこっちの方が調べやすいですよね。』

 うまくいったと安堵の息をつきながら見ているであろうユーリ達に言った。

 

「ヴィヴィオ、何をしたの?」

 一緒に来たレヴィの問いかけになのはやフェイトは勿論誰も答えられなかった。

「何のスキルを? …スターライトブレイカーです。」

 ユーリの声が驚きの余り裏返っている。

「スターライトブレイカーでどうして…集束する為の収集でしょうか?」
「判らない。私達への宿題といったところかな? だがアリシア君とフェイト君が見せた高速戦を見て練習する者もいるだろう。まったくデュエルにならないということにだけはならないようにしなければね。」

 グランツは頭を掻き苦笑いするしかなかった。       
  


「ねぇヴィヴィオ、さっき何をしたの?」

 ポッドから出るなりアリシアが聞いてきた。

「内緒…っていうより私も思いついただけでどうして出来たのかわからなくて、シュテルとデュエルした時に何となくそんな感じがしたから。」
 どう言えばいいのか判らず苦笑いしながら答える。


 この方法を考えたのはアリシアがフェイトとデュエルしている時、アリシアの高速移動は彼女か高町家の3人しか使えない。なのはも知らないのだからこれからも使える人は限られる。
 でもSonicMoveを含めた高速移動スキルの同時使用はフェイトが10回まで使えた様にシュテル達を含め複数のスキルが使えるデュエリストは使い始めるだろう。
 追いかけられない速度でのデュエルが増えるとどれだけスキルが使えるかということがアドバンテージになってしまう。
 発端を作ったヴィヴィオとしては対策の1つでも残したかった。

「思いついたって何のスキルを使って?」
「それは…これ♪」

 ブレイブホルダーから1枚のカードを出して見せる。それはスターライトブレイカーのスキルカード

「SonicMoveを同時に何度も使うと魔力をいっぱい使っちゃうでしょ。スターライトブレイカーのスターライト…集束スキルの一部を使ってどう動いたのか読めないかなって。」
「スターライトの集束スキルで?」
「うん、見えるところまで出来ればよかったんだけど、私も追いかけるのが精一杯であとはアリシアならどう動くか考えただけ。プロトタイプの画面出してなかったからほんとギリギリだった。あとは博士達に調べて貰うしかないかなって」
「それを…あの一瞬に? してたの?」

 呆れたとばかりの顔で言うアリシア。

「ヴィヴィオ…ほんとに凄いよ。全然追いつけないんだから…」
「ウン、追いつかれないように頑張るよ、行こう♪」
(アリシアが居たから出来たんだよ。) 

 彼女の手を取ってみんなの居る場所へと走っていった。


~コメント~
 5月に変わってGWも行楽客で賑わっているというニュースを見ています。
 いつか休みを取って遊びに行きたいなと思っていますが、連続した祝祭日にお仕事すると代休以外に特別手当が出るので…ゴホゴホ

 今話はアリシア戦の復習とその課題についてヴィヴィオが残したかったものを伝える回でした。
 AdventStoryでヴィヴィオがなのは・フェイトを連れてきたのはブレイブデュエルの可能性を広げながら危険性を知ってもらう為であり、更にヴィヴィオが思いっきり遊べる場所にしたいと思っていたからです。
 なのはとフェイトはそれを理解してシュテル達に特訓して能力を底上げをしたおかげで対等以上の相手になりました。
 
 ようやく次回は…

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