第10話「向き合う時」

「…ねぇヴィヴィオ、私達あの事件に関わっちゃったんだよね…」

 日が落ちた臨海公園で、該当の明かりが時折白波を照らす。
 それを見ながらアリシアが聞いてきた。

「うん…時間は違うけど…そうだと思う。」

 アミタ・キリエ達と遭遇して私達がここに転移した。
 転移前、キリエは管理局の布陣から逃れる為に【システムオルタ バーストドライブ】と叫んでいた。
 一時的に全能力を上げる手段だったのだろうと思う。ヴィヴィオとアリシアは勿論、なのは達も予想外だったらしく彼女の速度についていけなかった。
 ヴィヴィオは初めて見た能力にアリシアを護りながら防御態勢を取った。アリシアの高速移動とは根本的に違うらしく近づく感覚がわからず目の前に現れた時には直ぐには動けなかった。
 しかしそれを弾いたのは後ろに居たアリシアだった。現れた直後にバルディッシュで1撃目を受けた後、蹴られた様に見せかけて

「一旦離脱っ!」

 2人はそのままキリエに蹴られてビルにぶつかる瞬間、空間転移し臨海公園へと戻ってきたのだ。


「…どうする? このまま帰っちゃう?」
「そんな事できないよ…。私達のせいでもう未来は変わっちゃった後なんだから…」
「だよね…無責任すぎるよね、やっぱり…」

 苦笑いするアリシアの髪が波風に揺れている。
 
「あの事件がまとめて来ちゃった感じ…だよね?」

 あの事件というのは異世界で経験した2つの事件

【闇の欠片事件】
 闇の書に残った再生プログラムが動き出し、闇の書のマテリアルが現れてはやてを再び闇の書の主として起動させようとした事件。
 なのは達の因子を使って生まれたマテリアル達をヴィヴィオは倒し、なのはとシュテル、フェイトとレヴィ、はやてとディアーチェと魔力共有契約を結んで貰い3人を残した。
 
【砕け得ぬ闇事件】
 闇の欠片事件の後に起きた事件、夜天の書の中にあった永遠結晶エグザミアを求めて異世界から来たキリエとアミタによって起こされた。
 2人が時間に干渉したことで異世界のヴィヴィオとアインハルト、トーマとリリィが巻き込まれ複数の時間軸が衝突しかけた影響でアリシアとプレシア、リニスが消えかけた。
 ヴィヴィオは永遠結晶を守る紫天の盟主、ユーリと直接戦って彼女を動かしていたアンブレイカブル・ダークを吹き飛ばし、エグザミアの再封印に成功した。

 この時間軸の未来には、何度も助けられた大人のヴィヴィオとアリシア達が居る。


 でもここのなのはやフェイト、はやて達の様子を見ている限り前に起きていないと辻褄が合わない【闇の欠片事件】は起きていないように思える。
 そう思えるのは…

(はやて…「リインが」って言ってたよね…) 

 2つの事件共、リインことリインフォースツヴァイが生まれる前に起きていて当時は初代リインフォースアインスが居た。
 そうなるとアリシアが言うようにまとめて起きたというのは当たっているのかも知れない

「だったら…大変だよ…すっごく…」

 2つの事件は本当にギリギリだった。
 生き残れたのは本当に奇跡だったと思える。あれから少しは強くなってると思うけど、まとめて起きたら…自信はない。

「ごめん…私が遊ぼうって言ったから…」
「ううん、アリシアのせいじゃないよ。あの時転移で何かにぶつかってここに来ちゃった。もうその時から決まってたんだと思う。それにここに来たのも必然だったのかも。」

 謝るアリシアに笑顔で言う
 時空転移の干渉…考えられるのはアミタかキリエの転移がヴィヴィオの空間転移とぶつかった可能性だ。あの時点から巻き込まれていたのなら私達には避けようがなかった。
 不幸中の幸いで悠久の書もRHdも無事だし魔法も使える。

「…ありがと。でも…これからどうする? このまま帰…れないよね。」
「私達だけで事件解決♪ …って出来たらいいんだけど流石に難しいね。前みたいにママ達が全員居てくれたら何とかなると思う。実際に連れてくるっていうのも出来るけど…何も話さないまま動いたらここのママ達が知らないまま未来を変えちゃう。それだけはしたくないな…。」

 砕け得ぬ闇事件ではなのはやフェイト、はやてだけでなく元機動6課のフォワードチームやチンクやセイン達も巻き込んでいた。
 1度戻って連れてくる方法はあるけれど、前と違って時間軸の衝突の前兆はないから彼女達は本当に無関係だ。それに…

「未来に私達が居るかも知れないしね。」

 アリシアに頷く。
 この時間軸の未来に高町ヴィヴィオが居て時空転移に目覚めてくれていればここに来る可能性が高い。
 寧ろ来てくれた方が何をどうすればいいか判るから助かるのだけれど、今は見えない未来に縋る訳にはいかない。

「今考えてもどうにもならないからリンディさん…かクロノさんに私達の事を話して協力しようと思う、連絡を取ってみよう。きっと今頃私達のことを探してる筈だし。」

 アミタのアクセラレイターも驚いたが、キリエのアレは制御を超えていた。もしあの場から逃げ出せたとしても相応のダメージを負っていて直ぐには動けないだろう。その間になのは達も体制を整えている。

「そうだね、じゃあ驚かせに行きますか。ここのみんなを」
「クスッ、そうだね。」

 笑って彼女の手を取ると2人で臨海公園を後にした。



 それから私達は相談して高町家へと向かった。
 管理局のサーチャーにわざと引っかかるという方法も考えたけれど、それだと他の管理局員に先に見つかってしまう。最初にリンディかクロノと連絡を取りたい。
 そこで高町家の誰かからリンディかクロノと直接連絡を取って貰おうと考えたのだ。
 幸いこっちにはアリシアが居る。アリシアにフェイトになりきって貰う。途中でバレても問題はない。2人に連絡が取れたら直ぐにバレてしまうから。
 家に向かうと運良く士郎と恭也・美由希が居て、なのはと桃子がオールストン・シーのホテルに居てリンディやフェイト、はやて達も一緒だと聞いた。 


『君達は何者だ?』

 オールストン・シーのホテルの1室、ヴィヴィオとアリシアはリンディに招かれてここに来た。
 ヴィヴィオとアリシアが座る椅子の前にはリンディが、モニタ向こうにクロノとエイミィが映っている。

「私達は違う時間軸の未来から来ました。ここから10年位未来です。来たのは本当に偶然です。」
「何をしているのか?とか未来はどうなっているのとかは答えられません。それと…今起きている事件も判りません。」
『…しかし何も話せない、答えられないのでは僕達も君達を信用出来ない。違う時間軸の未来から来たと聞いたが意図はわからないが誰かが変身魔法で君達の姿になっているという場合もある。』

 クロノに言われて、それはそうだろうと思う。

「…じゃあ、私達の名前だけ答えます。きっとそれで私達がどうして言えないのかもわかるから…」

 察しのいいリンディやクロノなら気づいてくれるだろう。
 そう思ってヴィヴィオが答えると

「それで納得して貰えないんでしたら、私達は私達だけで動きます。事件解決に協力しようと思ってましたけど、それ以上未来を変えたくないので。」

 更にアリシアは踏み込んでクロノ相手に駆け引きに出た。
 はやてとフェイトから私達の事は聞いているだろう。それを踏まえての言葉だった。

「…………」
「…………」
「…………」

 暫く沈黙の時間が流れる。ここはアリシアに任せようとヴィヴィオは黙ってクロノをジッと見る。 

「クロノ支局長、彼女達の提案を受け入れましょう。今の状況で彼女達を見過ごせないし、対応出来るだけの人員は居ないわ。それなら2人に事件解決まで協力して貰った方がいいのではなくて?」

 リンディが先に折れてくれた。

『…わかりました。では約束通り君達の名前だけ教えて欲しい。偽名はなしで頼む。』
「はい、私は高町ヴィヴィオといいます。」
「アリシア・テスタロッサです。」

 私達が名前を告げるとリンディとクロノ、エイミィが目を見開いて驚く。

『…10数年後の未来…そういうことか…』
「「………」」

 沈黙で答える。

『君達はなのはとフェイトの…いや、何でも無い。何故言えないかも理解した。ヴィヴィオ、アリシア、事件解決に協力してほしい。こちらで必要な人員や情報があればリンディ所長か僕、エイミィに言ってくれ。所長もそれでいいですか? エイミィもそれで頼む』

 思った通り気づいてくれた。でも…

「多分…私をフェイトの娘だって思ってるよね」

 アリシアが呟いたのにクスッと笑う。

「そうかも、今はそれでいいんじゃない?」
『所長、そちらで情報の共有をお願いします。僕達も事件の捜査を進めます。』

 そう言うとモニタは切れた。流石に少し緊張していたのかフゥっと息が洩れた。

「じゃあ、ヴィヴィオさん、アリシアさん行きましょうか。」

 リンディがそう言って立ち上がる。

「え?」
「隣の部屋でみんな待っているの。事件解決まで協力するのだから顔合わせもしないで連携は出来ないでしょう? フェイトもはやてさんもあなた達に助けて貰ってお礼も言えなかったって言っていたわ。」

 事件に巻き込まれた以上何度も顔を会わせなければいけないのだし

「今更だしね♪」

 アリシアもそのつもりだったらしく

「はい、わかりました。」

 私も笑顔で頷いた。

~コメント~
 舞台はなのはRefrectionの世界へ。今まで2人は色んな事件に巻き込まれましたが【似た事件】を体験したことはありませんでした。
 でも今回は先に2つの事件を知っています。その上でどう動けば良いか?
 少しだけ成長したヴィヴィオとアリシアをお楽しみ下さい。

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