第06話「継ぐもの継がれるもの(前)」

「ヴィヴィオ、週末のミーティング代わって欲しいんだけどいいかな?」

 ある日、Stヒルデに登校して席に着くなりアリシアが駆け寄ってきて言った。
 4月から隔週末の放課後にストライクアーツと魔導研究クラブの合同ミーティングが行われている。主には活動内容と今後のスケジュールについての報告で集まる必要はそれ程無いのだけれど、管理局、聖王教会、民間企業のそれぞれの部署・部門から来ている人が多く、入れ替わりもあるので顔合わせも含まれているらしい。
 アリシアは生徒会長兼2つのクラブのチームリーダとしてミーティングに参加し、クラブメンバーのアンケートや要望をとりまとめて提出していた。

「いいよ、何かあったの?」
「うん、ちょっと海鳴に行ってくる。週末から3日間」
「えっ! あっちで何かあったの?」
 アリシアが海鳴市、管理外世界に行くと聞いて少し驚き何かあったのかと聞き返す。

「そういうのじゃなくて昨日の夜、士郎さんから呼ばれたの。『週末に3日程来られないか?』って。」

 なのはを含む高町家にも私にも連絡が来ていないので、アリシアだけに用があるらしい。

「そうなんだ、あっちまで送ろうか?」

 空間転移を使えば今すぐにでも海鳴の翠屋前や高町家までアリシアを送ってあげられる。すぐに戻れば影響もない。

「ううん、ゲート使って行ってくるよ。リンディさんにも連絡済みだって言ってたし。あっ、そうだ! 士郎さんからヴィヴィオに伝言あったんだ。『昔あげた練習刀、きちんとヴィヴィオ用に合わせるから預かってきて』って。」

 昔ある事件に関わった時、力を使う為に士郎から士郎から白木鞘の短剣を貰っていた。
 練習刀らしく、所々刃毀れしていたりと切れ味は悪いけれど私にとっては力を送る媒介として使うだけなので問題になっていない。

「わかった。じゃあこれ。」

 RHdから出してアリシアに渡すと彼女はすぐにデバイスに入れた。



 そして少し時間が過ぎて週末

「…やっと着いた。」

 アリシアは高町家の前に着いた。
 自宅からミッドチルダ地上本部までは徒歩とレールトレインで2時間弱、そこから立ち入り用のパスと本局への転送パスを受け取って管理局本局へ、そこから管理外世界に行く為に一通りの所持品チェックが行われて転送パスを貰い、海鳴市、月村家の庭に設置されたゲートへと転移する。
 そこでメイドのファリンさんに挨拶とすずか達へのお土産を渡して現地のお金を受け取ってバス停留所へ、30分程待てばバスが来て更に30分かけて駅前に行きそこから歩いて高町家へと向かう。
 ヴィヴィオが空間転移を使う理由がよくわかる。
 流石の魔力コアデバイスでも転移術式みたいな魔力消費が大きい魔法は使えないし、もし無断で来れば犯罪になる。
 空間転移が問題ないのは、管理局で調査不能の術式で魔方陣を使わないから調べることが出来ないからなのだけれど…
 それは兎も角…

「こんにちは~、アリシアです」

 引き戸になった門を抜けて声をかける。
 そうすると中から「は~い」と声が聞こえて玄関のドアが開いた。

「!?」
「…中にどうぞ…」

 顔を見せたのは桃子でも美由希でも士郎でもなく…雫だった。意外な対面に少し驚く

「うん」

 少し睨まれる。まぁ彼女とは色々あるので仕方ないと思い「お邪魔しま~す」と中に入った。


      
「こんにちは」
「いらっしゃい」

 リビングに入るとそこにはさっき出迎えた雫と恭也、美由希が居た。

「急に呼んで悪かったね。」

 キッチンから士郎がトレイにジュースを乗せて持ってくる。荷物をドア横に置いて

「こんにちは。今日から3日間お世話になります。今度も客間を使わせてもらっていいんですよね?」

 ペコリと会釈した後、バッグを持って動こうとする。しかし

「…………」
「…………」

 直後恭也と美由希が怪訝そうな顔をする。

「アリシアちゃん、この後どうするかって聞いてる?」
「いいえ、『今日から3日間こっちに来られないか?』って士郎さんからお聞きしただけなので、何か練習するのかな~とか思ってたんですけど…」
「父さん、アリシアに話してない?」
「あっ、てっきり話していたと勘違いしていた。アリシアちゃん、すまない。今日呼んだ理由を話して良いかな」
「? はい」

 バッグを下ろしてソファーに座った私がジュースを受け取り1口つけたところで士郎が話し始めた。


 士郎、恭也、美由希、雫…そしてアリシア。5人が使う剣術は古くから伝わっているもので昔は多くの門下生が居る流派だった。しかしある事件で皆亡くなってしまい、今はここに居る5人の他に海外に居る士郎の妹だけとなった。
 人数が減ったからと言っても知っているものだけでも残しておきたいと士郎は考えて幾つかの儀式だけ残すことにしたらしい。
 その1つが剣を修めた者が継承者として自身の剣を受け取る儀式。
 それを本家のあった近くの神社で行う。
 その為にアリシアを呼んだのだと言う。

 儀式と言われてStヒルデの礼拝や聖誕祭みたいなものを想像したが何か違う気がする。

「昔、俺と美由希もしたんだ。」

 恭也が頷くと美由希も笑顔で頷いた。

「そうなんですね。じゃあ次は雫さんですね。」

 練習に参加させては貰っているけれど言わば通信教育みたいなものだ。そもそも流派とかそういうものにあまり興味は無いし、今日聞くまで経緯すらも知らなかった。
 あくまで親友と並び歩く為、彼女を支える為、そして彼女が間違った時に止める為に練習に励んでいる。
 士郎達はその儀礼を見せる為に呼んだのだろうと考えた。
 だけど私が言った直後、雫は頬を膨らませ、士郎・恭也・美由希は苦笑している。

「まぁ雫も儀式を受ける1人なんだけど、もう1人…アリシアちゃんも受けるんだよ」
「…えっ? ええーっ! だって、私…そんな流派とか歴史とか初めて聞きましたし、始めたのも通信教育みたいなものですし、そもそも魔法世界に居るんですよっ!」
「知ってるよ。プレシアさんから頼まれて俺と父さんのデータを渡したんだから。」
「でしたらっ!」
「そこまで深く考えなくてかまわないよ。自分の剣を持つ為の儀式だって思ってくれば。雫もアリシアちゃんもまだまだ覚える事は多い。それでも毎日研鑽に励んでいるご褒美だと思ってくれればいい。恭也、車出してくるから準備しておいてくれ」
「うん」

 士郎はそう言うと外に出て行った。

「…私…受けて良いの? 本当に?」

 考えが整理できないまま私は立ち尽くした。

 それから士郎が乗ってきた車に4人は乗る。
 車はどんどん進み、都市部の喧噪と海がどんどん離れて山の方へと向かう。2時間ほど乗ったところで止まった。

「着いたよ。」

 車を降りるとそこは山奥深い場所。恭也達について行ったキャンプ地に少し似ている。ひんやりとした風と共に木々の枝葉が鳴っている。
 大きなバッグを下ろした士郎達の後を自分の荷物を持って後を追いかける。
 敷かれた砂利を鳴らせて坂道を上ると古めの建物が見えてきた。
 建物の前には2人の老人が笑顔で立っていた。

「ご無沙汰しています。」

 士郎が2人に会釈すると2人は頷いていた。
 2人の視線が私に向くとペコリと頭を下げる。士郎が「孫と孫の友人」と言っているから私と雫の事だろうとわかる。
 美由希に神社についてとか士郎と話している2人について聞く。
 1人はここの神主…司祭みたいなもので、もう1人が刀匠…小太刀を作ってくれている人だという。
 
「アリシアちゃん、ヴィヴィオから預かってきてくれたかい?」

 士郎から呼ばれてヴィヴィオから預かった小太刀をバルディッシュから出そうとしてここが魔法世界じゃ無いことを思い出してバッグを下ろして中から出したように見せかけた。

「これです。」

 士郎に渡すと彼は受け取って1度抜いて状態を見た後、鞘に戻して話している刀匠に渡した。

「これをまだ使ってくれていたんだ。懐かしいね。」

 彼は薄目に近い位細目なのに更に目を細めて言った。

「知ってるんですか?」

 つい気になって聞く。

「お嬢ちゃん、これは儂が恭也君位の年に打ったものなんだよ。今見れば粗も多いが先代に任せて貰えて嬉しかった。これはお嬢ちゃんが?」
「いえ、私じゃなくて…」
「今はヴィヴィオ、私の孫…なのはの娘が使っています。魔法を使う時に使っているので怪我しないように刃を落として鞘と束を細めのものに変えて貰えないでしょうか。」
「士郎さんっ!?」

 私は驚いた。管理外世界で魔法関連の話は秘密厳守。だからデバイスから出す時も2人に見られないように隠した。
        
「大丈夫、2人とも知っているよ。リンディさんとプレシアさんとも会っている。」

 いつの間にと思いながら、よく考えてみれば彼がプレシアやリンディに相談せずに私を呼ぶとは思えないので既に2人とも知っていたに違い無い。

「びっくりしました。」
「お嬢ちゃんも魔法を使うのかい?」
「はい」

 宮司に聞かれて頷く。士郎が軽く頷いているので

「バルディッシュ、ジャケットセットアップ」
【Yes Sir】

 ペンダントからバルディッシュを外してバリアジャケットを纏いクルッと回るとジャケットを解除して私服に戻った。
 士郎や離れた所で見ている恭也と美由希は笑みを浮かべているが宮司と刀匠と離れて見ていた雫は驚いていた。



 士郎が宮司と刀匠が雫と話があると言い別れた後、アリシアは恭也と美由希と一緒に泊まる部屋に荷物を置きに行った。

「刀匠のおじいさん、雫さんと一緒に行っちゃいましたけど何処に行ったのかな…」
「小太刀の柄を合わせに行ったのよ。刀身…刃は出来上がっていても持ち手が合わないと指や手首に負担が来ちゃうからね。掌の大きさや指の長さ、持ち方に合わせて選ぶんだよ。私も恭ちゃんも何度か合わせたし…」
「ああ、ヴィヴィオにあげた父さんの小太刀も父さん用に合わせていた。魔法用でもヴィヴィオが使うと負担が手にくるから合わせて貰う様に頼んでいたんだろう。正月に帰ってきた時、父さんヴィヴィオの手の大きさを気にしていた…」

 美由希と襖を向こうの部屋に居る恭也が答えた。

「? 私は行かなくていいんですか?」
「そこは明日のお楽しみ♪ アリシアちゃん、近くにいい温泉があるんだよ。一緒に行かない?」

 美由希がバッグからバスタオルを出して言う。 
  
「え? 練習するんじゃ?」
「ここでは練習しない。俺は父さんを手伝ってくるから美由希とアリシアは行って来たらいい。」
「そういうこと♪ アリシアちゃんも用意して。」
「は、はいっ!」

 トレーニングウェアを出し始めていたので慌てて片付けてタオルと下着を出した。

~コメント~
 前話のスバルとフーカの出逢いから一転、今話はアリシアと彼女の剣術元の話です。
 丁度今年はリリカルなのはのスピンオフ元、「とらいあんぐるハート リリカルおもちゃ箱」が発売されて20周年です。
 私はアニメ「リリカルなのはA's」のDVDが発売されてから見始めましたがゲームで遊んで士郎の生い立ちやなのは誕生の軌跡はグッとくるものがありました。(この辺の想いは文庫版AS0として書かせて頂きました。)
 
 ASでアリシアをヴィヴィオと同じ前面に出させるならどうすればいいかって考えて始めた剣術系の話ですが、ようやくここまで辿り着きました。

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