6話 よみがえる絆

 キャロが機動六課に戻ってきて数日が経った。
 はじめはヴィヴィオや六課で働く局員に対して怯えたり、怖々と接することが多かった。しかしヴィヴィオの人見知りをしない性格が功を奏した様で徐々にうち解けていった。

「どうしたの?フェイトちゃん?調子悪い?」

 ある日ヴィヴィオ・キャロと一緒に食事をしていたとき、なのははフェイトが少し悲しそうな顔をしているのを見逃さなかった。
「う・・うん。あのね・・・もしかして、キャロやエリオに無理させちゃってたのかな・・・って」
「え?どうして?」
「最近のキャロを見ていて、伸び伸びした顔をするようになったから・・・・前のキャロはこんな風に笑った事無かったかな~とかこんな風に泣くこともあるんだ・・って」

 少し自虐気味に微笑むフェイト。

「そうだね~でも、それって近くにフェイトちゃんが居て安心出来てるからそういう顔も出来るんだと思うよ。だって独りぼっちとか知らない人の中にいたらそんな顔出来ないもん!」
「そんなものかな?」
「そういうものだよ、頑張ってフェイトママっ!次の休暇にでもキャロとエリオと一緒に遊びに行けば?2人とも少しは気分転換になるんじゃない?」

 そしてなのははフェイトの肩をポンと叩きながら

「それに・・・もし、色々悩むことがあれば大先輩が近くにいるよね?その人に相談してみれば?」
「う・・うん」

 自らを引き取り家族に迎えてくれた女性、リンディを思い出して今度相談してみようとフェイトは思った。

「はい、キャロちゃんいつもの診察の時間ですよ」
「はい・・・」
「キャロ、待ってるから頑張ってね」
「うん、ヴィヴィオ行ってくるね」

 キャロは怪我が治った後も何日かおきに診察を受けていた。六課ではシャマルが専門医としての資格を持っており、近くの病院や本局まで出向かなくても課内で診察をすることが出来た。

「じゃあ、そのベッドに寝て暫く動かないでね。」
「はい」

 ベッドに寝かされたキャロの周りをいくつかの魔法陣が上へ下へとキャロを中心に回り出す。
 暫くそんな風景を眺めていると魔法陣が霞の様に消えた

「はい、おしまい。キャロちゃん疲れ様。着替えたらヴィヴィオの所に戻ろうね」
「はい」

 キャロが服を着替えている間にシャマルは念話を使った

【はやてちゃん】
【シャマル、キャロの様子はどないや?】
【身体の方は既に完治しています。でもリンカーコアは・・・】
【変化なしってことか・・・ありがとな、また時々教えてな】
【はい】

 シャマルからの念話を切ったはやては1人自室で考え込んでいた。

『今は記憶の無いキャロをルシエ族に返しても悲しい結果になるやろし、フェイトちゃんが保護者だからここで保護しても問題はあんまり無い筈や。しかし、キャロの中に入ったアレがどんな物かもわからん。最悪の場合フェイト隊長にうちが命令できるんやろか・・・』

 じ~っと考え込んでいるとリインが入ってくる。

「はやてちゃん、どうかしましたですの?怖い顔してましたけど」

キョトンと見つめるリイン

「いや、部隊長になってから嫌な方嫌な方へ考える癖が出来てな・・・そんなとこや」

はぐらかす様に言うはやてに

「はやてちゃん、もしキャロに何かあったとしてもはやてちゃんやリイン達みんなで頑張れば絶対なんとかなりますの!諦めちゃダメですの!!だって・・・だって・・」
「そやね、先代リインやなのはちゃん達が諦めんと頑張ったから今のうちらがいるんやものね。」

 はやてはリインの頭を撫でながら

「ありがとなリイン。でも怒ってるのか泣いてるのかわからんな~」

ぷぅ~っとリインは頬をふくらませた

「いいですのっ!そんなこと言うはやてちゃん嫌いですっ」
「ゴメンゴメン」

『事態がそこまで悪化する事もそうそう無いやろ、暫くは2人のママ姿をゆっくり見てよかな』

とはやては外に駆け出すキャロとヴィヴィオを見ながら心の中で思っていた。



 はやてが眺めているとは知らずにキャロとヴィヴィオは何かを必死に追っていた

「待って~・・・それ返して~っ!」
「私のリボン~」

 少し戻って数分前、キャロが診察を終えて戻ってくるとヴィヴィオが涙目で泣きついてきた。

「えっぐ、えっぐ・・・キャロ・・・えっぐ・・」
「ど・・どうしたの?ヴィヴィオ?」

 いきなり抱きつかれたキャロはびっくりしてヴィヴィオを見る

「あのね・・・あのね・・えっぐ・・リ・・りボン」
「リボン?」

 ヴィヴィオの髪を見ると片方のリボンが無くなっている。

「ヴィヴィオ、リボンどうしたの?」

 涙ぐみながら窓を指さしながら

「クスン・・あの子が・・・リボン」

 窓の外には小鳥が一羽とまっている。そしてその口にはヴィヴィオのリボンを銜えていた。

 キャロが近づこうとした時、小鳥はリボンを銜えたまま飛び立ってしまった。

「ウヮーン!!lヴィヴィオのリボン飛んじゃった~!!」

 飛び立った直後に大泣きするヴィヴィオ。困ったようにキャロが

「ヴィヴィオ泣かないで、ね!新しいリボンなのはママに頼んであげるから」
「そんなのいらない~っ、あのリボンがいいの~!!」

 泣き喚くヴィヴィオに困り果てたキャロは宥めるのにちょっとしたウソをついた

「ヴィヴィオ、それじゃ一緒に小鳥さんに返してってお願いしようか?」
「うん・・・・」

 キャロはヴィヴィオが泣きやむのを待って、一緒に小鳥を追いかけはじめた。

「ねぇ小鳥さん、お願い!そのリボン返して。大切な物なの」

 隊舎の近くの木に止まった小鳥にキャロは叫んだ。キャロの声を無視して巣に入る小鳥

「小鳥さん。お願いっ返して~っ!」
「お願いだから~~っ!!」

 木の下で巣に向かって何度も叫ぶ、そんなキャロへどこからともなく声が聞こえた。

(そこまで言うなら取りにくれば?)

 見回すキャロ。半分涙声でヴィヴィオが聞く

「どうしたの?」
「ううん・・多分気のせい・・・お願いだからリボン返して~っ!」
(だから、ここに取りにくればいいじゃない!)

 再び聞こえた声にキャロは小鳥を見つめた。一瞬だけキャロの方を振り向く小鳥

「もしかして・・・あなたが言ってるの?」

その問いかけに小鳥が答えることは無かった。

「ヴィヴィオ、今返してもらってくるからね」
「・・・うん」

 キャロはそう言い残すと木によじ登り出した。

『あれ・・・どうして私こんなに簡単に登れるのかな?』とキャロ自身がそう思っているほど登っていく。そして小鳥の巣まであと少しと言うところまで来たとき

「言われた通り、取りに来たよ。お願いリボン返して」

と巣の方に手を差し出した。その瞬間

(近づくなっ!あっちいけっ!!)

と聞こえたかと思うと、別の鳥が目の前で羽をはばたかせてキャロの視界を遮る

「えっ?ワワッ!キャッ・・」

【ズルッ】という音と共に木の幹でふらつき・・・そして地面が見えた。
『落ちるっ!』
キャロは咄嗟に瞼を閉じた。
【バッ】
【ドサッ】
『あれ・・・痛くない??どうして・・』

 恐る恐るキャロが瞼を開くと目の前にエリオの顔があった。

「ーーーッ・・なんとか間に合った~」
「えっ?キャッ・・ごめんなさいっ」

 エリオの顔がすぐ近くにあった事にビックリしたキャロはバッとエリオから飛ぶように離れた。エリオはふと隊舎から外を見た時、キャロが木に登ろうとしているのを見つけ慌ててやって来た。

「キャロ、大丈夫?怪我はない?」

 エリオは心配そうに声をかける、慌てて

「だっ大丈夫ですっ。」
『前にもこんな事あったような・・・』

 そこに上からヒラヒラと何かが落ちてくる。ヴィヴィオのリボンだ
キャロはリボンを受け取り上を向いて

「ありがとう!ちゃんとお礼持ってくるからね」
「はいヴィヴィオ、大切にしないとダメだよ。ね!」
「うん、ありがと。キャロお姉ちゃん!」

 ヴィヴィオにリボンを渡すと「アイナさんにつけてもらってくる」と言ってそのまま宿舎の方へ走っていった。
 残った2人はヴィヴィオの感情の切り替わりが面白くて少し笑った。

「それじゃ・・僕たちも戻ろうか?」
「はい」
「よっと・・ッ」

 キャロを助けた時の体制のままだったエリオが立ち上がろうとして顔をしかめ、足をかばう。

「エリオさん??・・!」

 エリオが顔をしかめたのを見て左足を見ると膝のあたりが赤く滲んでいた。

「私のせいで・・・ごめんなさい・・・」
「大丈夫、少し擦っただけだから・・・ッ」

 キャロを安心させようと足を動かしたが少し曲げた瞬間激痛が走る。

『ちょっと捻っちゃったかな・・・』

 それでも、立ち上がろうとするエリオにキャロが止める

「立たないで!そのまま・・痛いところを見せて」

 エリオが傷口を見せると、キャロがそこに手を当てた。淡く小さな光が手からあふれ出した。

『あ~ちょっと気持ちいいかも・・・』

 暫く経つとキャロが手を離す。先程まで赤く滲んでいた傷口が綺麗に治っていた、しかも捻った所まで

「キャロ、ありがとう」

 礼を言われたキャロは焦った。傷口を見たところまでは覚えているのに、その後何をしたのかを思い出せなかった。

『えっ・・私、今何してたの?あれっ??えっと・・傷口を見て・・・あれっ?』
「そろそろ戻ろうか?」

 キャロのパニックが落ち着いてきたのを見計らってエリオが言うと

「・・あっ・・はい、怪我大丈夫ですか?」

次こそ足を動かして

「さっきキャロに治してもらったからもう大丈夫」

その言葉にキャロは微笑んで呟いた

「よかった・・本当に」



「あの・・エリオさん?少し聞いていいですか?」
「なに?キャロ」

 隊舎に向かう間にキャロは少し前から思っていたことをこの機会に聞いてみようと口に出す。

「エリオさんもフェイトママがお母さんなんですよね?」
「ちょっと違うけど、フェイトさんは保護者だよ。いつもやさしくしてもらっていて・・」

 頷くエリオ。キャロが少し頬を赤くして

「じゃぁ・・・・・っていい・・ですか?」
「ゴメン聞こえなかった。もう一回お願い」

 キャロは更に真っ赤になりながら

「・・・・あのね、お兄ちゃんって読んじゃダメですか?・・」
「えっ!!!ええ~~っ!」

 ズサーッっと驚いて仰け反るエリオ。

「えっ?どうして??でも・・・僕?」
「エリオさんもフェイトママがママなんですよね?ヴィヴィオもフェイトママって呼んでるからダメですか?・・・」

 エリオは頭から湯気が出るほど真っ赤になっていた。しかしキャロの真剣な眼差しをみて

『キャロ・・凄く真剣だ・・・』
「・・・う・・うん・・キャロがそう呼びたいなら・・」

 エリオが照れながら言った言葉を聞いてキャロはすごく嬉しそうに

「お兄ちゃん~」

と抱きついた。


 翌日、早朝訓練から戻ったなのはやフェイト、スバルにティアナ、そしてエリオとフリードは朝食を食べていた。

「おはよ~ヴィヴィオ、キャロよく眠れた?」
「うん、おはようフェイトママ、なのはママ」

 ヴィヴィオがなのはに抱きつく。キャロもその後ろで少し赤くなりながら挨拶をする

「おはようございます、フェイトママ・・・お兄ちゃん!」
「ヴッ!!」
【カチャーン】
「ブッ!」

 その瞬間、スバルはパスタを喉につまらせ、呆気にとられたティアナは思わず持っていたフォークを落とし、当の本人エリオは飲んでいたスープを思いっきり吹き出した。

「え・・え~と・・・キャロ?その『お兄ちゃん』っていうのは何かな?」

 少し顔を引きつらせてフェイトが聞くとキャロは嬉しそうに答える。

「うん、お兄ちゃんに『お兄ちゃん』って呼んでいいって!」

 本当に嬉しそうに言うキャロになのはも笑いながら言うと

「良かったね~、キャロ!エリオもお兄ちゃんがんばってね」

キャロも元気よく

「はい!」

と答えた。しかし、その後ろの顔を蒼白にして飲み物を探すスバルとそのまま凍り付いたティアナ、そして机につっ伏してるヒクヒクと震えているエリオを、後から入ってきた局員が首をかしげて見つめていた。


 同じ頃、六課の管制室
 はやてとシャーリー、本局のマリイがある映像を見つめている。

「この魔力値は一体?」
「彼女のリンカーコアは収縮しており、現在も回復しておりません。それに伴って魔力も一切使えない状態です」
「それに、この波長は今までのデータとも違います。」

 はやては首をかしげて

「じゃあ、どうしてこの子が使えるん?」
「それは・・・感染型との関係が・・」
「そうですね、本局のデータにも類似した報告はありませんでしたから、無限書庫への依頼を督促するくらいしか・・・」
「ユーノ君頼みか・・・・とりあえず今のデータをまとめて無限書庫に送っといて!」
「了解です」
「暫くは様子見やね、もし何かが動くならもうすぐ起こる・・・か」

 はやてはキャロがエリオに治癒魔法をかける映像を見ながら呟いた。
 はやて自身、キャロに取り付いたロストロギアをあの場所に置いた人物が動かない事にジレンマとまだこの続きがあるのか言うことに不安を感じずにはいられなかった。

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