7話 心の拠り所

「お兄ちゃん~、一緒にお散歩いかない?」
「お兄ちゃん~、ご飯一緒に食べよ♪」
「お兄ちゃん~、どこにいくの?」
「お兄ちゃん~、あそぼ♪」
「お兄ちゃん~・・・」

 ヴィヴィオと良く遊ぶ様になってキャロも六課の雰囲気に馴染んできていた。特に喜んだのはヴィヴィオで、少し前迄は1人か守り役のザフィーラを過ごす事しか無かったのが、いつもキャロと一緒に居られる事で姉の様にキャロを慕い出していた。
キャロもそんなヴィヴィオを妹の様に接していた。そしてキャロが兄の様に接したのがエリオで、ヴィヴィオがなのはやフェイトと一緒に居る時やお昼寝している時等の時間を見つけてはエリオを捜してベッタリとくっついたり、どこかへ行こうとするエリオの後ろをず~っとついていったりとその熱の入れ様は尋常ではなくかった。

 数日程経つと『お兄ちゃん~』というキャロの声は六課の中で風物詩、時報の様になっていた。
 丁度その日もエリオは隊舎の中を歩いている。しかしそれは

【ソロ~リ・・ソロ~リ】

とまるで気配を消すかの様だ。後ろからやって来たスバルとティアナは首をかしげて呼び止める。

「おーい、エリオ!何やってる・・んぐ」
「シ~~~、静かに・・・ハッ!」
「・・・ング・・ちょ・・ちょっと!何?」
「エリオ?何?どうしたの?」
「いいから、急いでっ!」

 慌ててエリオはスバルの口を押さえ、近くにあった部屋に2人を押し込み自らもその部屋に入った。そして部屋のドアを閉める

 その直後

「お兄ちゃん~~♪??あれ?声がしたと思ったんだけど・・・・お兄ちゃん~~」

 ドアの隙間から廊下の様子を窺うエリオ、足音と『お兄ちゃん』という声が遠ざかったのを確認してふぅ~と息をついた。

「・・・なるほどね・・・」

 ティアナはエリオの一連の行動からある程度何かを察する。

「で、どうしてキャロを避けるわけ?同じライトニング隊でしょ?」

 キャロを常に警戒する隊舎よりはとティアナはエリオを自分の部屋に呼び込んだ。

「逃げてる訳じゃないんですけど・・・最近のキャロは時間を見つけては僕を捜してるみたいで・・・最初は寂しいのかなと思ってたんですが・・・」

「エリオ、そういや1日何回くらい呼ばれてるの?『お兄ちゃん』って?」

 ちょっと気になったスバルが聞くとエリオは疲れたように片手をパーにしてあげた

「5回か~それくらいなら普通じゃない?」

首を横に振るエリオ

「まさか50回?」

コクンと頷く

「最初はロストロギアの事とか記憶の事もあって、キャロを通じてヴィヴィオの事も少しは色々聞けるかなと思っていたんですが、それが報告書を書いてる時とかも横にくっついちゃったり、通路で出会ったらいきなり腕組んだりとどんどんエスカレートしちゃって」

 ため息をつくエリオにティアナが笑いながら

「キャロも心細かったんだよ、ヴィヴィオがなのはさんと一緒にいるときは独りぼっちの事多いでしょ、フェイトさんも捜査で外に出てる事多いし」
「僕もそう思ってたんですが・・・ティアナさん、昨日一昨日の訓練中の映像ってあります?」
「うん・・あるけど?」
「少し見せてもらっていいですか?」

 的を得ないエリオの注文にティアナはクロスミラージュを操作して訓練映像を出した。映像を見つめるエリオ

「これでいいの?」
「はい・・・あっ!ここ拡大してもらえますか?」

と一点を指さす。

「ここね・・・え??・・まさか・・・」

 再びため息をつくエリオ、その映像にはピンク色の髪の少女の姿が木陰から見えていた。

「「キャロ!!」」

ビックリするスバルとティアナ

「気づいたのは一昨日の早朝訓練だったんです。最初は見間違いかなと見過ごしていたんですが、隠れて入ってきたみたいで・・・それにどうやら夜間訓練にも・・・」

 その言葉に併せて夜間訓練の映像を引き出すティアナ。見づらいが廃屋の影に同じピンク色の髪の女の子が隠れていた。

「それに・・・3日前くらいから寝ようとしたら枕を持って部屋に入ってきて『暗くて怖いから一緒に寝てほしい』って、その時はフェイトさんが遅く帰舎していたのでフェイトさんにキャロを連れて帰って貰ったんです。それで、入れないようにすれば諦めて戻るかなってパスワード入れてみたのですが、寝るときに部屋に入って来ちゃうんです。」
「それはすごいね・・・」
「それで、パスワードとかセキュリティレベルをドンドン上げてみたんですが、それでも何故か入ってくるんです!!」
「・・・アハハハハ・・・」

 もはやカラ笑いしか出ないスバルとティアナ。ここまで来るとある意味才能かなと考え始めていた。

「それに・・」
「え、まだあるの?!」
「はい、昨日みんなで風呂に入ってたら・・・」
「まさか!・・・」

思わず問い返すスバルに首を縦に振る

「みんな本当にビックリして男湯(こっち)の方は大混乱でした。幸いキャロもタオルを巻いていましたし、騒ぎを聞きつけてシグナムさんが外で声をかけてくれたので後をお願いしましたが・・」

・・・スバルとティアナは笑みを引きつらせてもう言葉がなかった。
ある意味一緒に入っていた局員は余程衝撃だっただろう。

「流石に今朝フェイトさんが注意してくれたと聞きましたので、大人しくなるかと思っていたのですが・・」

三度ため息をつく

「・・・・なんて・・言うか・・・凄い・・一途・・」
「の一言だね・・・本当に」


 
 局員宿舎の各局員の部屋にはパーソナルキーが設定できる。パーソナルキーは生体認証や魔力波長などの個人特有の鍵になるため、大概の局員はそれをキーロックとして使用していた。
 それを解除できるのは部隊長以上の権限が必要であり、この機動六課では八神はやてのみが可能である。
 それをキャロは何度も解除したのだ。

「ここまで来ると・・・愛?」
「冗談じゃないですよ!!」

 からかったスバルに対してエリオが悲鳴を上げた時、ドアがガチャリと開いた。そして

「あっ!ここに居たんだお兄ちゃん。アイナさんがおやつを作ってくれたんだ。一緒に食べよ♪お邪魔しました~スバルさんティアナさん」
「う・・うん・・」

 キャロが入ってきてエリオの腕を組むようにして部屋から出て行った。残された2人

「ねぇティアナ・・・私達の部屋の鍵って・・」
「魔力波認証・・鍵はかけてたわよ・・・・」
「じゃぁ・・・キャロが?」
「でしょうね・・・」

 スバルとティアナは違った意味でキャロに恐怖した。彼女が本気になれば隠し事は出来ないと

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