第03話「再会・そして」

「ここはこんなところかしら。あとは…」

 海鳴市にあるマンションの一室でリンディ・ハラオウンは1人荷物の整理に追われていた。
 数日前、フェイトの裁判が終わり話がしたいと言うことで管理外世界に住む高町なのはに連絡を入れようとしたところ何らかの妨害で通じなかった。慌ててアースラで向かったものの、襲撃を受けていたなのはだけでなく助けに向かったフェイトまで怪我を負わせてしまった。
 更に悪いことに襲撃したを全員取り逃がす不始末。
 加えてアースラを整備中に無理矢理出した影響で整備期間が暫く延びるだろうとレティより聞いた。

(せめてあと1人、もしヴィヴィオさんが居てくれたら…)
 初動の判断を誤っていたのはリンディも判っている。
 彼女がもしあのまま海鳴に居てくれたら事態は好転してかも知れない。
 管理局の任務で【もし】や【かも】なんて言っていたら切りがないが、流石にこの事件だけはそう思いたかった。

(あのロストロギア…闇の書…因縁よね、クロノにも、私にも…)

 管理外世界で再びロストロギアが見つかった。それもリンディやクロノにとっては因縁としか思えないロストロギア【闇の書】

「アレックスとランディに頼めばよかったかしら…」

 リンディは途中で頭を切り換えた。
 これ以上考えてもしょうがないし、この部屋を今日中に使える様にしなければ【海鳴に来た意味が無い】のだから。
 それにしても荷物の量が多い。今からでも2人に連絡を入れて手伝って貰おうかと考えたが、なのはとフェイトが喜ぶ顔を思い浮かべてもうひと頑張りしようと続きに取りかかった。

その時、呼び鈴が鳴る。
【ピンポーン】

「誰かしら?…誰にも伝えていないのに、」

 この部屋を知っているのは管理局でも数人しかいない筈。
訝しげに思いながらリンディがドアを開けると

「ごきげんよう、リンディさん。」
「ヴィヴィオさんっ!?」

 居てくれたらとついさっき願っていた少女、ヴィヴィオがそこに立っていたのだ。


「ヴィヴィオさんっ!?」
「ごきげんよう…リンディさん」

 素っ頓狂な声をあげたリンディにヴィヴィオは再び会釈をした。
 以前なのはとフェイトに連れられてハラオウン家を訪れた時、ママのママだからとある呼び方をしたところ、彼女は硬直しその後それはもう凄く悲しそうな顔でヴィヴィオを見つめた。
 それ以降、ヴィヴィオはこの呼び方にしている。    

「どうしてここに、元の世界に戻れなかったの?」
「ううん、戻ってまた来ました」

 ヴィヴィオの言葉に何か思い当たったらしく

「また? まさか、今の事件に…」

 答えられない。今はヴィヴィオも何が起きているのか殆ど判らないし、知っていても迂闊に話せない。今度はヴィヴィオの世界でも既に過去が違っているのだ。

「…ごめんなさい…」
「そう…折角来てくれたんだから中に入って。まだ片付けている途中だけど」
「ううん、リンディさん…お願いがあるの。私、ここでやらなくちゃいけない事があるの。でも…なのはやフェイトに会えない…だから。」
「ここ? こっち世界で?」

リンディの問いに今度は頷いて答えた。
 【前の事件】の後、ヴィヴィオは「ジュエルシード事件の後、ヴィヴィオに会ったのを覚えているか?」となのはとフェイト・ユーノに聞いた。しかし3人とも無いと言っていた。
 だからもう3人の前に姿を見せられない。
でも、このまま遠くで見ていてはザフィーラが消えてしまう未来を変えられない。それと、事件解決までヴィヴィオと一緒に来たなのは達と暫く身を寄せる所が要る。

「…そうね、でもヴィヴィオさんが1人で置いておくのは危険だわ。あのロストロギアはきっとヴィヴィオさんも狙われるわ」
「それは大丈夫。ヴィヴィオよりロストロギアについて詳しい人達も一緒だから」

 闇の書は高ランク魔導師の魔力を狙う。
 ヴィヴィオ達4人がここに来るのは予想出来ない筈なのに突然襲われた。
 なのは達はそれを直ぐに察知し、はやてはヴィヴィオを助ける代わりに1人魔力を奪われた。
 ヴィヴィオがさっきなのはとフェイトの念話を聞いて彼女なりに考えた答え。
だったらなのはとフェイト、そしてヴィヴィオ自身も狙われる。

「そう…もし良ければその方達に会えないかしら? 私達もまだ何も判らないから上手く力を合わせられると思うの」
「えっ、でも、それは…」
「クスッ、冗談よ。」

 リンディは狼狽えるヴィヴィオを見てクスリと笑って、近くのテーブルに置いてあった鍵をヴィヴィオに差し出した。

「はい、アースラスタッフ用に用意していた部屋だから少し狭いけれど…こっちの世界で行くところ無いんでしょう」
「あ、ありがとう。私も出来るだけお手伝いするから」
「いいのよ。これはヴィヴィオさんが私達を手伝ってくれたお礼。お礼を言って無かったわね、ありがとう」

 微笑むリンディにヴィヴィオは頭を下げてから踵を返しその場を後にした。



「本当にいい子ね。さて…1番広い部屋を渡しちゃったから…配置組み直さないと」

 ヴィヴィオが見送ってから部屋に戻り、残った2本の鍵を見つめてリンディは呟いた。
 その後、アースラスタッフ全員の配置が組み直された結果、ヴィヴィオの世界で暮らす従弟妹が生まれる事に繋がるのだが、ヴィヴィオは勿論本人達も知る由が無かった。



「…う…ううん…あれ? ここは?」

 ベッドに寝かせられたはやては起き上がって辺りを見回した。
ベッドもそうだが部屋も天井も見たことが無い。

「はやてさん」

 ヴィヴィオの声が聞こえ振り向く。ずっと側に居てくれた様だ。

「ヴィヴィオ、ここは?」
「なのはママ~フェイトママ~はやてさん起きたよ」

 はやてがヴィヴィオに聞こうとした時、ヴィヴィオは2人を呼びに部屋から出て行ってしまった。どうやらなのはとフェイトも一緒らしい。暫くしてヴィヴィオがなのはとフェイトを連れて戻ってくる。

「はやてちゃん大丈夫?」
「うん、まぁ…平気や。でも…」
「魔力を取られちゃった?」
「多分な…あの手はきっと」

 ヴィヴィオの周りに結界を作って1人離れた時、目の前にザフィーラが飛び降りてきた。反対側へ逃げようとはやてが振り向いた瞬間、腹から手が現れた。
 その手がリンカーコアに手を伸ばすのと同時にザフィーラの魔法によって身動きが取れず、そのまま魔力を奪われてしまった。
 奪ったのはきっとシャマルだろう。

「それでねはやてちゃんが気を失っている間に、ヴィヴィオに頼んでリンディ提督にこの部屋を借りて貰ったの。臨時捜査本部が立つ直前だからきっと私も一度取られている頃だと思う。」
(と言うことは、私がすずかちゃんの家に遊びに行った頃か…ん?)
「今頃私達は管理局で検査を受けてる最中じゃないかな」
「なのはママ、フェイトママ、はやてさんが起きたから」
「そうだね。ヴィヴィオに後で話すって言ってたよね。いい?はやてちゃん」
「ああ、うん、ええよ」

 何処かで何かが引っかかっている感じを覚えながらもはやてはヴィヴィオにこの世界で何が起きているのか話す事にした。



 この世界で一体何が起きているのか?
 つい半年程前にロストロギア「ジュエルシード」がこの世界に散らばった。でもジュエルシードを中心に巻き起こった事件はもう解決している。
 しかし今、再び魔力を持ったこの世界のなのはは既に魔力を奪われ、目の前のはやても奪われている。

「捜索指定遺失物【闇の書】。これがこの世界に今あるロストロギアや。主を変え時を彷徨いながら主のリンカーコアを浸すだけじゃなく、膨大な魔力を集める能力も持ってる。そしてその【闇の書】と主を守り、主の命令を遂行する為に作られた人格プログラムがシグナム達…なんや」
「!? じゃあその【主】って」

 ヴィヴィオの問いにはやてはコクリと頷く。

「そう、主は八神はやて…私や」
「でもはやてさん魔力も…身体も」

 闇の書が【主のリンカーコアを侵す】ならばはやても無事では済まない。

「そう、私はなのはちゃんやフェイトちゃん、ユーノ君やクロノ君、リンディさんやみんなに間一髪のところで助けて貰ったんよ。シグナム達にも…な。助けて貰えなかったら、今頃どっかの世界で氷漬けかあの世や」
「そんな、はやてちゃんはあの時何も知らなかったんだから…」
「うん、【闇の書】は何処の誰に転移するか管理局でも追跡出来なかったんだ。はやても…」
「事実や、気にせんでいいよ。ヴィヴィオ、私が古代ベルカ式の魔法を使える理由これでわかったやろ。話を戻すけど、シグナム達は私を助ける為に魔導師と魔力を持つ別世界の生物から魔力を集めてる。」
「どうして?」
「【闇の書】は主が魔力を集めるのを拒否し続けてると、主のリンカーコアや身体を蝕むんよ。おかげで私はヴィヴィオと同じ位まで車椅子生活やった。」

 懐かしそうに思い出ながら言うはやて。でも内容はそんなのんびりした物ではない。

「じゃあ早く魔力を集めちゃえば…私のも使って」
「闇の書は魔力を…ジュエルシードみたいに色んな用途で使えないんだ。集まった魔力は破壊しか使わない。シグナム達はその記憶をロストロギアに消されてるんだ。」

 ヴィヴィオの思いつきを残念そうに否定するフェイト。

「だからこの世界のシグナムさんやヴィータちゃん、シャマルさん、ザフィーラは必死なの。主のはやてちゃんを助けようと」

 合点がいった。高ランク魔力保持者が4人も現れたら、今の彼女達にとってその魔力は喉から手が出る程欲しいだろう。

(あれ? なんだろ?)

 そこまで聞いて、何かがヴィヴィオの頭の隅をかすめた。

 この感じは前に覚えがある。
 あれは前に過去へ行った時…ジュエルシードを初めて封印した時…。

(魔力を集める…魔力を奪われる…闇の書はどうして…)
「どうしたの、ヴィヴィオ?」
「………」
「何か私変な事言った?」
「ヴィヴィオ?」

『この世界はなのはだけじゃなくてみんなの未来も変えちゃうんだ。気をつけなきゃ』
『もう一度…もう一度、元に戻そう、私の知ってる歴史に。なのはママとフェイトママが一緒に笑ってくれた日に』
 ヴィヴィオの脳裏に前に来た時の記憶が蘇る

「未来や過去なんて言われてもよくわからないけれど、一つだけ言えるなら…ヴィヴィオさんはあまりあの世界に関わらない方が良いと思うの。もし、ちょっとした物事が変わっただけで、未来では凄く大きく変わるんじゃないかしら?」
 リンディがアースラの中で言った言葉が呼び起こされる。

(もし…はやてさんの魔力分だけ…早く集まっちゃったら…っ!!)

「はやてさん、魔力っ!!」
「魔力?」
「ヴィヴィオ、今はやては魔力を取られちゃって魔法は暫く使えないよ?」

 なのはもフェイトもヴィヴィオが何を言っているのか判らず首を傾げている。しかし、はやては違った。

「魔力…そうか! 私の分!!」
「そうだよ。」
「どうしたの、はやてまで」
「ヴィヴィオが言いたいのはな、なのはちゃん、フェイトちゃん。『私の魔力が闇の書に取り込まれた分だけ闇の書の完成が早まるって事や。そうやな?」
「うん。」
「元々こっちに来た私達はイレギュラーな存在。でも、私達の魔力が闇の書に取り込まれたらそれは…」

 つまり未来を大きく変える事になる。



(流石、その年齢で司書になれる訳や)

 はやてはある意味ヴィヴィオに感心していた。なのはやフェイトが気付かずはやて自身にも何か引っかかっていた部分をヴィヴィオは言い当てた。
 だが、今の事態を冷静に考えてみると凄く危険な状態だというのが判る。
 はやての魔力ランクは総合SSだ。それが闇の書に渡ってしまえば一体どれ位完成が早まるのだろうか?

「なのはちゃん、フェイトちゃん。お願いがあるんやけどいい?」
「何かいい方法あるの? 魔力を取り戻す方法。」
「ううん、ちゃうよ。魔力を使わせる方法はシャマルが教えてくれた【魔力爆撃】っていうのを使わせればいいけど、使う時に主か守護騎士の命令が必要やから今は無理やと思う。でもな、集めるのを妨害…ちゃうな、高ランクの魔導師や魔法系生物から集めさせへん様にすれば少しは完成を遅らせられる。だからな」
「シグナムさんとヴィータちゃんの後を追って、その世界で先回りして生物には結界を張って…」
「魔導師は逃げるか隠れるかして貰う」
「そう、頼めるか?」
「「もちろん♪」」
「ヴィヴィオは?」
「ヴィヴィオはこの世界に居て欲しいな。私は暫く魔法も使えんし、この時代のなのはちゃん、フェイトちゃんにバッタリあったら何が起こるかわからん。その間だけあの子達に見つかっても判らん様に魔力だけ制限かけさせてな。」
「うん…」

 はやてはそう言いヴィヴィオの頭を撫でた。



 頭を撫でられている間ヴィヴィオの中でもう1つ引っかかっている事があった。
(主を代え時を彷徨う魔導書…何処かで読んだ様な…どこだろう?)
 

~~コメント~~
 もしヴィヴィオがなのはAsの時代にやって来たら…というのがこの話のコンセプトです。なのはAsの時間で言えば2話~3話の間あたりでしょうか

 読書好きの人の中で時々突拍子も無い話をされる方がいます。最初は全く関係が無いように思えるのに、実は後で凄く的を得ていたり。なのはシリーズの中でもヴィヴィオや幼少期のはやて・すずかは読書好きな部類に入るでしょう。
 今回はそんな話に触れさせて貰いました。

 物語の骨子は出来上がっているので、あとはその通りにヴィヴィオやなのは達が動いてくれると良いのですけど、きっと私も予想のつかない方向へ進んでいくのでしょうね(苦笑) 

Comments

Comment Form

Trackbacks