それから2週間は何事もなくいつも通りの生活が続いた。
ヴィヴィオの方ではユーノから直通ゲートの許可証と彼達の行動予定とヴィヴィオ達が行く日程が届いていた。
アリシアの方でもリンネの和解が成立した。彼女はその前に家族を伴って見学と後に試験を受けに来るらしい
ヴィヴィオはアリシアから彼女について話を聞いていたけれど、彼女に何か考えがあるんだろうと考え特に触れないようにした。
そして予定日の朝…
「ヴィヴィオ、忘れ物はない?」
「うん、大丈夫。」
「それじゃあ遺跡調査にっ」
「「しゅっぱーつ♪」」
なのはが作った転移魔方陣で別の管理世界にある遺跡付近に作られたゲートへと飛んだ。
「ヴィヴィオ~、ちょっと来て~」
ある日の夜、高町ヴィヴィオは自室で課題を進めていた時、1階からなのはが呼ぶ声が聞こえた。
「は~い。」
「なんだろう?」
小首を傾げながら端末を閉じて部屋を出て階段を下りる。
「どうしたの?」
リビングに行くとそこにはユーノが居た。 本局に自宅がある彼が家に来るのは珍しい。
「こんばんは、ユーノさん」
「ヴィヴィオ、久しぶり。」
「司書のお仕事、ずっと休んじゃってごめんなさい。」
頭を下げて謝る。
リインフォースが八神家に来てから2週間後、運用テストの検査の為に彼女がプレシアの研究所にやってきた。
今日がその日だと知らなかったヴィヴィオはプレシアからのメッセージを受けて放課後に彼女の研究所に赴いた。
敷地に入ったところで…
「あれ? ザフィーラ?」
正面出入り口の片隅に子犬モードになったザフィーラが居た。
「どうしたの?」
「アインスの付き添いで来ている。リインが来る予定だったのだが…我が主と仕事でな」
翌朝、日が昇る前に私は目が覚めた。
フローリアン家では休む場所が無かったので、私とアリシア、プレシア、リインフォースの4人は惑星再生委員会近くに作られた居住棟の1部屋を借りていた。
眠っている3人を起こさない様にそっと外に出る。
目を瞑ってリンカーコアの鼓動を感じる。
いつも通り強い鼓動を感じる。疲労はない…。
「本当に…みんなのおかげ…プレシアさん、アリシア、ユーリ、イリス、シュテル、ディアーチェ…レヴィ…」
みんなに感謝してるし、巻き込んでごめんねとも思っている。
それでも…やっとここまで来られた。
「ユーリの魔法と、私の知っている古代ベルカのプログラム、惑星再生委員会が以前夜天の書を調べた時のデータを使って自動防衛システムが管制システムや夜天の書のプログラムと絡み合っている所はわかったわ。」
3人で話している短時間に見つけたことに驚くヴィヴィオとアリシア。
「でも…ここまで複雑に絡み合っていたなんて…1つずつ外したくても防衛プログラムの本来の機能の修復機能が動いて元に戻してしまうみたいなんです。守護騎士プログラムは管制プログラムと繋がっていただけなので切り離すのは難しくありませんが、管制プログラムと防衛プログラムは…」
朝食を食べた後、片付けをシュテルとディアーチェ、レヴィに任せて外にあるテーブルでプレシアが計画の詳細を話した。
「アリシアとヴィヴィオはこれから元世界、闇の書事件直後に行きなさい。防衛システムが破壊された後…はやてがアースラに運ばれた後、アースラにリインフォースと夜天の書を連れて戻ってくる。ヴィヴィオ、あなたは何度か同じ時間に行っているわね? それは『写本』を使っていた頃よね?」
プレシアに聞かれて思い出す。
私がその時間に行ったのは過去に2度
1度目は改変した時間を戻す為、ここで彼女と戦った。
2度目はクリスマスにはやて達に映像を贈る為、彼女に会いに行った。
どちらも悠久の書になる前の写本を使っていた。
ヴィヴィオはアリシアが言った通りイリスに連れられてフローリアン家に戻った。
『アリシアは明朝戻る』と伝えるとプレシアは「わかったわ」と頷いた。
そしてその夜、私はシュテル達のベッドで横になった。
フローリアン家はグランツ夫妻・アミタ・キリエの住居を増築して客間とシュテル・レヴィ・ディアーチェ達3人の部屋が作られている。
彼女達の部屋は個室ではなく、1つの大部屋でその大部分を1つの大きなベッドが占有していた。
時々ユーリが泊まっていくらしく、大きめのベッドにはシュテル達3人と私くらい寝るには十分だった。
横になって木造の天井を見つめながら今日のことを思い出す。
「すぐに行くつもりだったからちょっとびっくりしちゃった。」
「ママの言うとおりだと思うよ。『ヴィヴィオの魔力回復が計画の鍵』なんだから。途中で魔力切れなんて起こしたら大変でしょ。」
「それはそうなんだけど…」
「まぁまぁそんなに急いでもこちらも準備しなくちゃいけませんし、そうですよね所長」
「ああ、ついでに色々見て貰う時間も出来たからね。」
私とアリシアはイリスの運転する車に乗っていた。
助手席にはフィル、後部座席に私達とユーリが乗っている。
舗装されていない道だけれど、車の性能が良いのか車酔いするほど揺れていなかった。
「ヴィヴィオ、早速だけれど私とアリシアをエルトリアに連れて行って頂戴。」
プレシアから言われた通り、ヴィヴィオとアリシアはレールトレインを使って研究所に向かった。着いた時には彼女はバッグを持って出入り口前で待っていた。
「は、はい。」
言われた通り私はアリシア、プレシアを連れて時間軸を飛んだ。
「っと…着いた」
「…リインフォースを…連れてくる? ここの? 闇の書事件から?」
アリシアの問いかけに頷く。
ここに来たのは私だけじゃ彼女に伝えられなくて応援して欲しかったから…
「うん…」
「…ヴィヴィオ、本気?」
「うん…」
アリシアの顔が歪む。
「闇の書を復活させるつもり? こっちに連れてきたらはやてさんは勿論、シグナムさんやヴィータさん、シャマルさん、ザフィーラさん…リインさんだって影響受けちゃうかも知れないんだよ。また闇の書事件が続いて…悲しむ人が沢山出る…そんな未来を作りたいの? 撮影記録のこと忘れたの?」
「あれ? メッセージが届いてる」
私、アリシア・テスタロッサがそのメッセージに気づいたのは中等科の屋内練習場でクラブの練習に参加していた時だった。クラブに来てくれているトレーナーはどれ位魔力コアを使いこなせる様になっているのかや、運動、とりわけ格闘技能に取り入れているのかを定期的にチェックしているそうで、私もその対象に含まれている。同じ様にデバイスもどれ位使っているかを調べている。
私のデバイスは試作機だから練習してる他の人とは少し違っている。だからここでは調べずに研究所で調べて貰ってそのレポートを提出している。
「アリシア~」
私がメッセージに気づいたのとほぼ同時に声をかけられた。
屋内練習場の出入り口近くにヴィヴィオが居た。
「気持ちいい~♪」
湯に入って移動の疲れが湯に溶けていく気がする。
来た坂道を降りて少し歩いた所に露天風呂はあった。
良い泉質の公衆浴場なんだけれど、人里から離れているから隠れた名湯とか秘湯と呼ばれているらしい。
「寒くなると猿や鹿、狸が入りに来たり、怪我した猫が足だけ浸けに来てたこともあったかな~」
横で美由希が言う。そんなことを話していると温泉の反対側の木々がガサガサと鳴って狸の親子が現れた。私達を少し見た後そのまま湯に入って頭だけ出して目を細めた。
かわいすぎて思わず立ち上がる。
「ヴィヴィオ、週末のミーティング代わって欲しいんだけどいいかな?」
ある日、Stヒルデに登校して席に着くなりアリシアが駆け寄ってきて言った。
4月から隔週末の放課後にストライクアーツと魔導研究クラブの合同ミーティングが行われている。主には活動内容と今後のスケジュールについての報告で集まる必要はそれ程無いのだけれど、管理局、聖王教会、民間企業のそれぞれの部署・部門から来ている人が多く、入れ替わりもあるので顔合わせも含まれているらしい。
アリシアは生徒会長兼2つのクラブのチームリーダとしてミーティングに参加し、クラブメンバーのアンケートや要望をとりまとめて提出していた。
「いいよ、何かあったの?」
「うん、ちょっと海鳴に行ってくる。週末から3日間」
「えっ! あっちで何かあったの?」
「成る程な~……」
レールトレインの中、ノーヴェは背を窓に預けながらウィンドウに表示されたテキストを読んでいた。
港湾レスキューの退局が決まったノーヴェはフロンティアジムへの転職迄の1週間をトレーナー資格取得の為の勉強時間に充てていた。
救助要請や事故があれば休みでも呼び出されるのだから彼女の有休は最大日数まで貯まっていた。
本来であれば飛び込みで受かる様な資格ではないのだけれど、元々レスキューとして人命救助や救護で必要な資格を持っていたので免除される内容も多く、実務時間が必要な資格も既にクリアしていて、それ程根を詰めなくても取れると知って転職前に取っておく事にしたのである。
「あれ? はやてさんからメッセージ届いた。」
生徒会室で次の行事の準備をしていると端末の端にメッセージアイコンが現れた。
RHdを起動して別のウィンドウを出すとメッセージが見えた。
「? あっ、私もだ」
アリシアもそう言うと別ウィンドウを開く。
誰だろう?と不思議そうに見ていた他の2人に
「私達の友達…っていうかママの親友の管理局員さん。こっちに来るから帰らずに待っててって」
はやてからのメッセージには2時間後にStヒルデ学院に行くから私達とノーヴェには帰らずに待っていて欲しいと書かれていた。
アリシアを見ると彼女も頷いたから同じメッセージが届いているらしい。
念の為、ノーヴェにもメッセージを送ると「私にも来てる」とすぐ返事があった。
ノーヴェからの返事を見てはやてに対して校門で待っていると送った。
その日、Stヒルデ学院の中でも暴力事件についての話題が飛び交った。
先生やシスター達はStヒルデでも同様の事件が起きないかと気にしていた。
しかし実際に何か出来るわけでもなく、そしてそれは私達も同じだった。
起きた時に【どうすればいいか?】なんて話し合っていたら間に合わないし、起きてもいないのに警戒すればみんなが戸惑う。結局噂に尾ひれが付いていくことを考えて生徒会としては高学年のクラス委員には判っている事を伝えて何かあれば些細な事でも相談して欲しいと連絡し、低学年は先生とシスターに任せることにした。
私とアリシアはその応対に追われてノーヴェの話は全く出来なかった。
「ノーヴェ!!」
生徒会室の戸締まりをアリシアに任せて私は全速力で階段を駆け下りて靴を履き替えグラウンドに居るノーヴェの所に走った。
「おう、ヴィヴィオ。邪魔してる♪」
「邪魔って!! そっちはいいんだけど、どういうつもりなのっ?」
私の剣幕に周りで練習していた生徒達が手を止めてこっちを見ている。
「…ああ、もう連絡が来たのか。あいつら早いな~、とりあえずここじゃなんだから話せる場所ない?」
「うん、それなら…RHd」
みんなの練習を止めてしまったのに気づいて私はデバイスを出してアリシアにノーヴェを校内に連れて行きたいと連絡した。
数分もしない間に彼女からノーヴェの初等科入校許可を取って、生徒会室の隣にあるミーティングルームの使用許可を貰ったとメッセージが来たのでノーヴェを連れて初等科へと入った。
「少し落ち着いてきたかな~」
放課後の生徒会室、窓から見える光景を眺めながら私-高町ヴィヴィオは呟いた。
冷たかった風も最近は暖かくなってきていて窓を通して若葉の香りを届けてくれて心地良い。
窓辺で肘をつきグラウンドに視線を移す。片隅でミッドチルダとベルカの魔方陣が出たり消えたりしている。
運動着姿の初等科・中等科の学生と…青と白の制服とブラウンかかった制服、黒い服を着た大人が数人見える。本局教導隊とミッドチルダの地上本部、聖王教会の誰かが教えに来ているらしい。 少し離れた所に見える白衣の大人は魔導機器メーカーの研究員だろうか…。
私達が落ち着いてからユーリの呼びかけでグランツ博士と数人のスタッフがやって来た。
これから私と美由希さん、なのはさん達の特訓でのデータをみんなで調べるらしい。
「いやはや…これは凄いね。」
グランツ博士が頭を掻きながら笑う。
「…と…戻った…あ…あれ?」
カプセルの中で瞼を開いて外に出ようとすると、足が上手く動かない。バランスを崩して慌てて手でカプセルの壁を掴もうとしたが腕も上がらない。
「な、なに?」
何か言おうとしても上手く話せない。一体何が起きているのか判らず半分パニックになった。
「っと、間に合った。」
プロトタイプから転がり落ちそうになったところを柔らかい感触に受け止められた。
「…ヴィ…ヴィ…オ…?」
「ね、出たらわかったでしょ?」
その時の私は彼女が何を言っているのか全く理解出来なかった。