「ヴィヴィオ、どこに行っちゃったんだろう?」
なのは達に今までの経緯を話した後、彼女は忽然と姿を消してしまった。
何時に行けば良いかも判らないし、今日1日は休む様にシャマルからも言われているから他の時間に行ったとは思えないし…
「アリシアちゃん、ヴィヴィオ見なかった?」
「なのはさん? 私も探してまして」
施設の中をうろついていると、なのはから声をかけられる。
「そうなんだ、ヴィヴィオ見かけたら私が探していたって」
「わかりました」
そう言うと、なのはは休憩室の方へ歩いて行った。
「遅いぞ~ヴィヴィオ」
「待ってたッスよ♪」
ヴィヴィオがアリシアと共にロビーに顔を出した時、ロビーには椅子が円状に並べられていた。手前に空いた席が2つ、ここに座れと言うことらしい。
「ごめんなさい。プレシアさんの所に寄ってたから…」
「かまへんよ。ヴィヴィオ…教えてくれるか? ここで何が起きてるか」
はやてがそう言った時、全員の視線がヴィヴィオに集まった。
(向き合う為の最初の1歩…)
「ヴィヴィオっ!!」
「なのはママっ」
小1時間後ヴィヴィオがウェンディ達と話しているとなのはが駆け込んで来た。
肩で息をしている。余程急いできたらしい。
ヴィヴィオの声を聞いて再びこっちに走ってきたけれど、あと2、3歩のところで立ち止まってしまう。
「ヴィヴィオ…」
見せたくない格好…ヴィヴィオの姿を見てなのはも痛々しそうに顔をしかめた。
「ここは…あれっ?」
クラナガンにあるショッピングモールで高町なのはは気がついた。
「私…どうしてここにいるの」
何かを買いに来たと思うのだけれど、何を何処に買いに来たのか全然思い出せない。
ど忘れにも程がある。
「レイジングハート、私ここに何しに来たか覚えてる?」
【Sorry I don't understand it, too.There's an omission in my memory partly】
ずっと一緒のレイジングハートも判らず、記録が混乱している。
「レイジングハートも?」
2人…1人とデバイスは顔を見合わせて首を傾げていた。
(本当にフェイトちゃんそっくり。)
子供の頃のフェイトにそっくりな女の子。
バルディッシュによく似たデバイスを持っていたし、何かのフィールド系魔法を使っていたみたいだった。
「奥にまだ人がいるんです。先に助けてあげて」
と言った後、呼び止める間もなく彼女はそのまま走っていってしまった。
追いかけようとも考えたけれど、彼女の言う通りまだ救助を待っている人がいる。それに彼女の向かった方にはレスキューも入ってきている。
そんな時、指揮所で情報統括・指揮をしているはやてから通信が届く。
「こんなに火の周りが速いなんて…」
さっきまでの雑踏が嘘のよう。
声の代わりに炎の燃えさかる音が四方から聞こえ、黒煙も相まって本当にここが空港だったのかと思うほど周りが見えない。
聖王の鎧のおかげでヴィヴィオは炎に包まれた空港の中でも何とか歩き回れる。
鎧越しに届く熱はヒリヒリと肌を焦がす様で今すぐにでも逃げ出したい。でもスカリエッティとチェントがこの時間に来たのなら必ずここに来るという確信があった。
歩き回りながらチェントを探す。
その時炎で壊れていく物音の中に声が聞こえる。
「ここは…空港・・・だよね?」
ヴィヴィオ達が来たのは人が行き交っているエリアだった。
大きな荷物を持って行き交う人々や職員が誘導していたりと雑踏めいている。
他管理世界行きの転送ゲートへの案内表示や近隣世界との定期運行船、奥には管理局艦船の姿も見える。
「空港…でもこんな空港あったかな?」
初めて見る空港の様子に少し戸惑う。遠くに見える山や海岸線はどこかでみた覚えがあるけれど、それがどこで見たのか思い出せない。
「ヴィヴィオっ!」
ぼう然としていたヴィヴィオは呼ぶ声が聞こえ振り向く。
そこにいたのは
「アリシアっ!? どうして」
「あっちで服見てたらいきなりこんな風に変わっちゃうし、みんな居なくなっちゃうし…何が起きているの?」
(他にも残ってた…私以外にも…)
「アリシア…アリシアぁぁあああっ!!ワァァァアアアアッ」
1人になった寂しさ、それ以上にこんな状態にした辛さに耐えきれずアリシアに抱きついて泣きじゃくった。
アリシアが高町邸に身を寄せて数日が経った。
ヴィヴィオも新たな家族に慣れてきた頃、高町家ではちょっとした問題が起きていた。
「アリシアっ!! 起きて、もう朝だよっ!!」
「…あと5分…」
普段は持ち前の明るさや誰にでも優しくて同学年や低学年に人気がある彼女
でも…
「朝ご飯食べられなくなっちゃうよ」
「…じゃあ…あと1時間…」
「1時間って、遅刻しちゃう!! アリシアってば!」
「―――」
陽が沈み辺りが夕闇に染まった公園に1人の少女が立っている。
彼女は瞼を閉じ、祈るような姿勢をとったままピクリとも動かない。それだけであれば誰も気に留めなかったであろう。
だが通りかかった人は足を止めて彼女を見つめていた。
彼女の胸元で輝く虹色の光球はそれ程美しかったのである。
「そうそう、集中してイメージをデバイスに流し込む感じで…」
少女の近くに立っている女性が言う。
「ハイッ!」
「気を散らさないで。集中しながら違う事を考えるの。一流の魔導師はみんな同時に幾つもの事を考えてるんだよ」
「はい…」
彼女の声で再び瞼を閉じ集中する少女。
「うん、じゃあそれを的に向かって行く様にイメージして」
「―――」
やがて虹色の光球は女性が言った通りの軌跡を描き、数メートル先に置いてあった空き缶に直撃した。
「上手上手♪ すごいじゃないヴィヴィオ!」
「…ふぅっ…ありがと、なのはママ♪」
そう私こと高町ヴィヴィオは魔法の練習を母、高町なのはに見て貰っていた。
「ヴィヴィオ、いっぱい勉強して魔法も覚えるよ。」
「それで、ヴィヴィオがいつか…」
「そっか、楽しみだな♪」
それはまだ私が『高町ヴィヴィオ』になったばかりの頃に交わした約束。
世界は必然が折り混ざって成り立っている。
それがどんなに偶然と思われようと、必ず何か理由があるからそこにある。
もしそんな必然を変える力があったなら…
もしそんな力を手にしたとき…
あなたならどうしますか?