「………」
「…………」
「………………」
ヴィヴィオ達が帰ってから少し時間が経ったグランツ研究所の居住スペースのダイニングでは
「………」
夕食の一時を静かな…重い空気が部屋を包んでいた。その理由はというと…
「…………」
【Master.Call me】
相棒の声にヴィヴィオは強く頷く。
「うん、いくよレイジングハート、セェエエットアーップ!!」
右手を天に掲げ叫んだ直後ヴィヴィオの身体は虹色の光に包まれた。
「博士…ヴィヴィオのジャケットが変わりました。名前は…えっ? セイクリッド?」
「名称は同じですが、セイクリッドとは細部が違います。」
「そうだね似ているが…エクセリオンの上位派生か?…これは一体…」
「……行ったわね」
「…行きましたね~」
「行ったな」
「行っちゃいましたね」
虹色の光が消えるのを見送りプレシアとマリエルはフゥっと息をついた。マリエルの肩に乗ったリインとアギトはん~っと両腕を上げて伸びをしている。
4人が出来ることは全てした。
後は任せるしかない。
でも心配はしていない。何故ならプレシア自身が消えずにここに居るのだから。
「虹の橋、それがヴィヴィオの使ってた魔法?」
「うん。時空転移じゃなくて私の願いを鍵として魔導書同士を繋いで転移するみたい。」
ヴィヴィオとの練習は1勝1敗1引き分けで終わった。
ヴィヴィオが前より良い顔をしていたのがわかったから私も嬉しかった。
ヴィヴィオ達がシャワーで汗を流している間に休憩しているアリシアにさっきの事を話した。
「イメージを送る方法が違うのかな…」
「わからないけど、みんなが戻って来たらここから飛ぼう。」
「連続転移になると辛くない?」
「今なら出来る気がするんだ。大丈夫!」
「……スゥ……スゥ…」
私が瞼を開くと彼女の顔が目の前にあった。
「……ん…あ、眠っちゃったんだ、私…」
「おはよう、ヴィヴィオ」
瞼を擦りながら上半身を起こすと、マリエルの声が聞こえた。声をかけながらも視線は端末に向いていて手は高速でキーを叩いている。
「あ…すみません…寝てしまいました。」
「いいよまだ寝てて、転移魔法使ったから疲れてたんでしょ。」
時間を見ると既に日は変わってもうすぐ陽が昇る。6時間近く寝ていたらしい。
『ヴィヴィオ君、何か違和感はあるかい?』
デッキに入れたスキルカードを使ってみて前とは少し違う感触に戸惑う。
「前とは少し違った感じがしますけど…でも慣れれば使えると思います。」
「じゃあ早速次のテストだ♪」
「私達とのデュエルです。」
ブレイブデュエルでスキルは使える様になったけれど、実際のデュエルで使っても大丈夫かは別問題。それを見る為にレヴィとシュテルはマスターモードで待っていた。
「ヴィヴィオ、こっちのボクはいつもと違うから全力で来てよ。」
「マスターモードは管理権限が使える他に全ての能力値が強化されています。魔法力は減りませんしので手加減は不要です。」
「ええーっ!それってズルくない?」
「はい、ですからこの姿で会った最初に言いました。『ズルです』と♪ では始めましょう」
ニコリと言うより冷淡な笑みを浮かべる2人を見て軽くテストを受けたのをちょっぴり後悔した。
休日なのも相まってグランツ研究所には多くのデュエリストが集まり始めていた。
グランツは所長室の窓からその様子を眺めていた。
「走らないでくださ~い」と遠くからアミタの声が聞こえる。
面倒見も良く皆を纏めてくれるから助かっている。
このままブレイブデュエルが広がっていってくれたらと顔をほころばせる。
「さて…」
だが笑ってばかりもいられない。自席の端末を広げる。
そこにはスタッフから1通のメッセージが届いていた。先日ヴィヴィオがプロトタイプシミュレーターでスキルが使えなかった時のデータ調査が終わったらしい。
添付されたレポートを見る。
ブレイブデュエルの世界に来た翌朝、ヴィヴィオは早く起きてはやての朝食を作るのを手伝っていたら
「おはようございます~」
アリシアがやってきた。パタパタとスリッパを鳴らせ玄関に行く。
「おはよ、どうしたのこんな早く」
「恭也さんと美由希さんと朝トレ行くんだけど、ヴィヴィオもどうかなって。」
「へっ?」
「魔法使えなくても体力作りは大切でしょ。」
「それはそうだけど…いきなり言われても…」
「こんな位でいい?」
その日の夜、ヴィヴィオは八神家のキッチンに立っていた。
フェイトとなのは、アリシアとチェントは高町家に行った。
急に押しかけたお詫びと前に来た時のお礼、アリシアは練習に参加するつもりだそうだ。ヴィヴィオも一緒の方がと思ったが5人でしかもそっくりな2人が揃うと色々大変そうだと思って、T&Hではやてに話すと2つ返事で迎えられた。
ただお世話になるのは申し訳ないので、はやてが作る夕食を手伝っている。
「うん、ええ感じ♪ このまま弱火にしてな。ヴィヴィオちゃん料理上手やね、家でもしてるん?」
「あ…あんまり…」
時々お菓子を作る事はあるけれど、ご飯はなのはが作ってくれるからあまりというか殆どしていない。
Weeklyイベントも終盤になった時、八神堂のはやての携帯に連絡があった。シャマルからだ。オペレーションルームで操作中の為、ヘッドマイクを繋いで彼女の電話を取った。
「はい、はやてです。」
『シャマルです。教授から専門の教授に連絡取って頂いて話を聞いてきました。なのはさん、フェイトさんに代わって貰えますか?』
彼女が話を聞いてくれたらしい。だけど…
「今2人ともグランツ研究所に向かってる最中でな。ちょっとこっちで色々あって…」
グランツ研究所でブレイブデュエルを見ていたヴィヴィオはある事に気づいた。
(同時に魔法使える子…結構居るんじゃ…)
デュエルでは相手にバインドをかけて砲撃したデュエリストが居た。しかし砲撃を受けたデュエリストは2重に防御魔法を使い相乗効果もあってか完全に防いでいた。
「ユーリ、みんな複数の魔法使えるようになってるの?」
「そうですね、ミドルレベル以上のデュエリスト2つ、エースレベルになると3つ使える人も居ますね。シュテル達も4つまで使える様になってます。」
「みんな凄いね。それであのジャケットなんだ。」
スキル1つを代わりにして新たなジャケット。戦略的に弱くなる場合もある。
「さーてなのは、何を隠してるのか話して貰うわよっ!」
「きゃっ! アリシアちゃん!! ど、どうして知ってるの!?」
4年1組の教室で授業が終わって放課後、バッグにノートを入れていた時、なのはは背後からアリシアに飛びつかれた。
クラスも学年も違う彼女が来たのにも驚いたがそれよりも何故隠してるのを知ってるのか思いっきり驚かされた。
「…ごめんね、なのはちゃん…」
「ごめん、なのは…」
「いいのっ! 隠してるなのはが悪いんだから」
彼女の妹、フェイトから話が漏れたのかと考えたがすずかやアリサもアリシアに話していたらしい。
ヴィヴィオ達がブレイブデュエルの世界に行った頃、大人ヴィヴィオと大人アリシアはミッドチルダ地上本部の転送ゲートからヴァイゼンに飛んで再び特務6課へと赴いた。
着いた頃には日が暮れかけておりはやては2人を特務6課の隊舎、八神家で使っているプライベートフロアへと案内した。
「ごめんなさい…ヴィヴィオの問題は解決出来ませんでした。」
大人ヴィヴィオは頭を下げて、彼女から聞いた心の問題について話した。
アリシアが子供の頃に変身して大人モードのヴィヴィオを怒りのまま倒してしまった事は流石に言えなかったけれど、彼女自身が答えを見つけるしかないだろうと伝えた。
「ユーリ、こんにちは~」
「はーい、えっ!? ヴィヴィオっ!?」
「あーっ! ヴィヴィオだ、アリシアもいるっ!」
グランツ研究所の前まで来るとユーリが花壇に水をあげているのを見つけて声をかけた。
彼女の声に近くに居たのかレヴィと一緒に駆け寄ってきた。
「今日はもう1人のヴィヴィオは居ないんですか?」
「うん。こっちには来てるんだけど八神堂に行ってるよ。いきなり帰っちゃって何も話せなかったでしょ。だから」
「よし、じゃあデュエルしよっ! あれからいっぱい練習して強くなったんだ。もう負けないよ~っ!」
私とアリシアがノーヴェと話していると【コンコン】とドアがノックされる音が聞こえた後少女がカップを持って入ってきた。
ここに来た時、最初に会った少女だ。
「紹介するよ、アルバイトのチーフリーダーのユミナ、DSAAでセコンドもしてくれてる。こっちは私の知り合い、オリヴィエとエレミア…ってなってるけどまぁ見たとおりだ。」
ここで彼女に嘘をついても仕方ない。
「高町ヴィヴィオです。」
「アリシア・テスタロッサです。」
「ユミナ・アンクレイヴです。…お2人はやっぱり…」
「…ん? ここは?」
私が目覚めるとそこはベッドの上だった。
朝からぼんやりして熱っぽかったからベッドで本の続きを読もうとして…その後は…覚えてない。見慣れた部屋の筈なのに何処か違和感がある。
「?」
ベッドから起き上がる、体が今朝と比べて軽い。熱っぽさもなくなっていた。
熟睡して楽になったと思った時、ガチャッとドアが開く音が聞こえて
「あっ、起きたんだ。おはよヴィヴィオ。」
トレディアのラボでレリック完全体No14は見つかった。早速戻ってとヴィヴィオは席を立って入り口に向かう。しかし端末を触っていたアリシアが
「もう少し調べていい? 面白い物が見つけちゃった♪」
何を見つけたのだろうと思いつつ空間転移で再びヴァイゼンに戻るには残りの魔力じゃ心許ない。一応洞窟の周りにセンサーを仕掛けてラボに戻り手近な机の上の埃をこれも手近にあった布で拭き寝転んで瞼を閉じた。
「お待たせ。ヴィヴィオ起きて」
再び瞼を開いたのはアリシアから呼ばれた時だった。起き上がると結構身体が楽になっている。
「ごめんなさい、遅くなって。」
シャマルが転移先にしたのは高町家の庭だった。
そのまま玄関を回って家に入ると
「ありがとうございます。遠くまで…、ヴィヴィオ?」
士郎がリビングから出てきた。
「違います、ちょっと事情があって似ていますが別人です。」
そのままヴィヴィオの部屋に案内された。
海鳴市に来て数日間は色々とイベントがあってあっという間に過ぎた。
なのはとフェイトが戻って来ているのを聞いて2人の友達が遊びに来たり、ヴィヴィオはヴィヴィオで月村雫が相手しろと言って押しかけてきたり、エイミィに呼ばれてハラオウン家に行ってエイミィやリエラをお喋りしたりと普段とは違う生活に慣れようとして魔法が使えなくなっているという不便は全く感じなかった。
1週間経ったある日
「ヴィヴィオ~行くよ~」
フェイトが朝のジョギングに出かけるのに彼女を呼んだ。
ヴィヴィオとアリシアはオルセアの丘陵地帯にある洞窟に来ていた。
特務6課に行った後、アリシアははやてにティアナと一緒に軌道拘置所に行きたいと言った。
何をするつもりなのか判らず首を傾げたヴィヴィオ達に
「ルネッサ・マグナス元執務官補と面会させて貰えませんか? 聞くのは1つだけなので5分もあれば…」
と言い唐突に出てきた彼女の名前にその場に居た全員は驚いた。
その後、面会は直ぐ許可が下りないが通信で良ければと言われてティアナに通信を繋いで貰った。
そこでアリシアは本当に1つだけを聞いた。
「ルネッサさん、ルネッサさんが『思い出の地』って言われたら何処を思い出しますか?」