「ハァ~…」
ヴィヴィオが異世界に行った翌朝、高町なのはは溜息をついていた。着替えてリビングに入ってきたフェイトは彼女を見て声をかける。
目に隈が出来ている訳ではないけれど1目で元気が無いのが判る程重傷。
「なのはおなよう…どうしたの? ヴィヴィオが心配で眠れなかった?」
「おはよ…フェイトちゃん。大丈夫…じゃないかも…」
「そう、大丈夫……じゃない?」
慌てて駆け寄る。
「うん…これなんだけど、どうすればいいかな?」
『なのは…』
『なのはちゃん…』
『…うん…2人が言ってるのは本当みたい。ヴィヴィオとクリスはジムにいるって』
(ヴァイゼンからミッドチルダへ見知らぬ転移魔法で移動した。小さい方の彼女は以前やって来たヴィヴィオ本人。もう1人の大人のヴィヴィオは誰や?)
はやては2人のヴィヴィオを凝視する。
真っ先に考えたのは彼女が来たのをヴィヴィオがサプライズで驚かせようとした。特務6課で彼女を知っているのは3人だけ…。しかし大人の彼女の仕草を見て違和感を感じたなのははレイジングハートにクリスとヴィヴィオの所在確認をしていて彼女達は今ノーヴェのジムでトレーニング中。
…ということは、彼女の言葉を信じるしかないらしい。
-飛空艇フッケバイン追撃戦から数日が経過-
第3管理世界ヴァイゼン、特務6課の駐留所の1室で端末を動かす人影があった
-その構成員の足取りは依然掴めず捜査は膠着していたが
-特務本部のEC対策と装備、対応人員の強化は確実に進行していた。-
そして…小さな朗報が1つ…
「ただいま~、ヴィヴィオ来てたんだ。」
大人ヴィヴィオ達の話を聞き終えて部屋から出たところでアリシアが帰ってきた。隣で手を繋いでいたチェントがヴィヴィオを見て一瞬眉を細め手を離してプレシアの部屋へと駆け込んでしまった。その様子に2人揃って笑う。
「おかえり、アリシア。」
「平気?」
「うん、なんとか…。それよりフェイトママから話聞いたよ、コラード先生の研修受けるんだって?」
大人ヴィヴィオが異世界から持ち帰ったアンドロイド型デバイスCW-ADXアーマーダイン ラプターのデータ。それには存在矛盾があるらしい。
プレシアはヴィヴィオ達の前に立って話し始めた。
「ラプターに併せて関係しそうな技術を考えましょう。」
「インテリジェントデバイス、あなた達にも馴染みがあるわね。使用者と会話し意思疎通出来るデバイス。」
翌朝プレシアがキッチンに向かうと、そこには大人アリシアとチェントが朝食を作っていた。
2人並ぶ様子を見て頬を緩ませる。きっと数年後、こちらでも同じ様な光景を見られるのだろう。
足下にやってきたリニスにアリシアを起こしてくるよう小声で言った後、キッチンに入った。
「ただいま~なのはママ、フェイトママ」
なのはとフェイトがキッチンで夕食を作っていると玄関からヴィヴィオの声が聞こえた。
「ヴィヴィオっ…えっ!?」
「おかえり~、キャッ!」
「た、ただいま…でいいのかな? こんばんは」
2人でお出迎えしようと出て行くと、ヴィヴィオの隣に大きいヴィヴィオが会釈していた。
「ヴィヴィオ…起きなさい、ヴィヴィオ…」
「ん…ママ…?」
額に当てられた暖かい手が何だか気持ちいい。
きっと私が朝になっても起きてこないからなのはかフェイトが起こしにきたと思いながら重い瞼を開く。
しかしそこには誰も居らず暖かく感じていた額も特に変わった感じがない。
「んっ…」
起き上がろうとする。でも体が酷く重い。
「ここは元の部屋?…どうして?私…!!」
「わ~本当にちっちゃいヴィヴィオだ。」
「かわいい~♪」
「こんな頃もあったのですね。」
「………こ、こんにちは…」
「それじゃ今の私がかわいくないみたいじゃない!」
異世界に来たヴィヴィオは目前で彼女達のやりとりを聞きながら今起きている状況にぎこちない笑みを浮かべていた。
こっちのヴィヴィオに会ってそのまま高町家に来た後、彼女からの連絡を受けてリオとコロナ、アインハルトがやって来ていた。
3人を見て声が出ない程驚いた。
(こんなに変わっちゃうんだ…私もこんな風になれるのかな…)
(えっ! うそ…)
目の前でヴィヴィオがクラスメイトに囲まれている。
彼女から戻ってきたと言う連絡も無かったし、プレシアやフェイト、なのはの顔を見ると彼女達も驚いていて隠していたという訳ではない。
「チェント、プレシアさんそこにいるよ」
「かあさま~」
繋いでいた手を離すとチェントがプレシアに駆けていって抱きついた。それを見てアリシアも我に返ってクラスメイトの輪に入った。
「ヴィヴィオっ!! いつ戻って来たの? 連絡が無かったからすっごく心配してたんだよ。」
「ごめん、少し前に着いたから念話で話すより来た方が早いかなって。また戻らなくちゃいけないんだけど…」
「アリシア、学院祭の準備はバッチリ?」
高町家での夕食の団欒でフェイトに聞かれてアリシアは親指を立てて頷いた。
「うん♪ みんなビックリしちゃうよ。」
「…ビックリってお化け屋敷とかじゃないよね?」
続けてなのはに聞かれて少し笑って答える。
「クスッ、違いますよ。聖祥だったらそれも面白いかなって思ったんですけど、こっちでお化けが怖いって習慣というかそんなイメージ無いですし、真っ先に魔法を使った悪戯だって思われちゃいます。」
(……ここは?……)
(……私は…どうして…あ…そうか…)
暖かさも冷たさも感じず辺りが真っ暗の中で俯瞰している様な感覚だけがある。
その奇妙な状況を奇妙とも思えない自分自身の異常にも気づかない。
『………ん…』
でもその状況が納得出来る理由に思いつく。
(私…あ~あ、どうせならもっといっぱい楽しい事したかったのに…)
「テスタロッサさん~、提出してくれたクラスの企画だけど…」
「えっ、はい。ごめん、先に行ってて」
屋上でリオとコロナとお弁当を食べているとシスターがやってきてアリシアは呼ばれた。
「うん、頑張ってね」
「何か手伝える事があったら言ってね。」
「ありがと~後で色々お願いするね。」
お弁当箱をササッと片付けて駆け足でシスターの所へと向かった。
「本当にお小遣い持ってこなかったら大変だったよ…」
大人ヴィヴィオと別れた後、ヴィヴィオは部屋を出て身の回りの物を買いに出かけた。
彼女達は郊外のマンションの1室を借りたらしい。
着替えや生活に必要な物はそれぞれの部屋にあったけれど、殆ど無かったのが食材。1日程度なら何とかなるけれど数日留守番するには心許ない。
最初は貰った課題を始めたけれど部屋に閉じこもっている訳にもいかず、気分転換の散歩…もとい周りの探索を兼ねて外に出かけた。
それでも持って来たお小遣いで数日過ごすのはかなり無理があるのだけれど…
『ヴィヴィオお帰りっ!』
ヴィヴィオがメッセージを送って数分も経たない内にアリシアから通信が届いた。後ろをにはなのはとフェイトもいる。
『全然連絡が無かったから心配してたんだよ。』
『大丈夫? 怪我してない?』
「ただいま、アリシア、なのはママ、フェイトママ。何ともないよ」
私は昨夜話したばっかりだからそんなに離れていた感覚が無い。でもここでは1週間過ぎている。彼女達との反応の差はその違いだろう。
「ん~気持ちいい~♪生き返る~♪」
大人ヴィヴィオが湯船の中で伸びをした。
「まさかヴィヴィオが来るなんて思ってなかった。もう殆ど魔力も無くなっちゃってたからどうしようか考えてた…ってどうしようもなかったんだけど。」
「大変だったんだよ。突然本を送りつけるんだから、どうすればいいかいっぱい…本当にいっぱい考えて…」
瞼を潤ませるチェント、手に持ったシャワーヘッドが震えている。
「私もビックリだよ。遊びに行ってた世界にチェントは来て倒れてるし、起きたらいきなり私とアリシアを助けてって言われるし…」
「っと…たっ!?」
「キャアッ!」
【バタンッ】
虹の光が消えてヴィヴィオが降りたのは何処かの部屋の中だった。
ベッドの上に2人して降りたものだからそのままバランスを崩して転げ落ちる。
「イタタタ…思いっきりお尻打っちゃった」
「ごめんなさい。前に使った時もこんな感じで…」
チェントもお尻を打ったのかさすりながら謝る。
「ううん、それで…ここどこ?」
「私が待っていた部屋だと…。あっ!」
テーブルの横にあった紙を拾って広げる。
「今から2週間前…私の時間でですが、私はお姉ちゃんとヴィヴィオに連れられて時空転移して異世界のミッドチルダに行きました。お姉ちゃん達その日から調べに行くって出て行っちゃって、私は1人留守番をしていました。」
チェントはプレシアからジュースを受け取って1口飲むと話始めた。
「でも…3日前にヴィヴィオから私宛に荷物が届きました。その荷物を開けたら刻の魔導書と手紙が入っていました。」
「手紙?」
「3人揃ったらやっぱり強いね~」
ブレイブデュエルの中でシュテル・ディアーチェ・レヴィの動きを見てヴィヴィオは思わず呟く。前と比べて連携が凄く上手くなっている。ヴィヴィオとアインハルトがシュテルとレヴィと対峙していてディアーチェはこっちを牽制しつつ2人の援護をしている。
『感心してないでくださいっ』
通信でアインハルトに怒られた。
『ヴィヴィオ、アインハルトさん。支援攻撃行きます!』
アクセルシューターを一気に50個作って放つ。
ヴィヴィオ達が高町家に向かっていた頃
「みんな、グランプリお疲れ様。無事に終わったお祝いに」
「「「「かんぱーい!」」」」
ハラオウン&テスタロッサ家ではグランプリの成功を祝っていた。
プレシアとリンディは疲れを癒やすアルコールを得る口実として、アリシアはフェイトを慰める会としてエイミィと一緒に音頭を取って設けた席だったのだけれど…
「アリシア、司会凄く良かったよ。クロノ、エイミィ手伝えなくてごめんね。」
今までグランプリでシュテルに負けた後はそれなりに沈んでいたから今回もそうだと思っていたのだけれど、いつもと変わらないのを見てアリシアはクロノとエイミィと顔を見合わせる。