「よ~し、きたきた~♪ 直ってきた~♪」
「頑張って下さいね。」
「ファイトです~」
指揮船の中ではレヴィが修復を続けていた。紙片だった欠片は大きさを変え半ページを越える位まで修復されていた。
アリシアはずっと見ていたけれどヴィヴィオとの話が終わったシュテルやリインも興味を惹かれてかレヴィの隣に腰を下ろし見つめていた。
少し離れたところではディアーチェとはやて、そしてヴィヴィオが話している。
まだディアーチェの機嫌は直っていないみたいだけれど、更に追求されなくなったのでその辺はホッとしていた。
そんな時、レヴィがクンクンと鼻を鳴らす。
「これで…こうして…わかったっ!」
眉を寄せ唸っていたレヴィはそう言うと彼女の手に新たな魔方陣が浮かび上がる。
ユーリが渡そうとした夜天の書の紙片からデータを復元させよう試行錯誤していたのだ。
「へぇ~器用だね~。ベルカ式のデータをミッドチルダ式の魔法で修復するなんて…」
その様子をアリシアは隣で眺めていた。
夜天の書はベルカ式のストレージデバイスだから書かれている文字もベルカ式、しかも語彙も複雑で翻訳が難しい古代ベルカ式だ。
魔導書の紙片が普通かどうかわからないけれど、こういったデータ修復には同じ魔法体系ですることが多いから古代ベルカ式魔法を使おうとするのだけれど、レヴィが広げているのはミッドチルダ式魔方陣。
全く違う物を使って紙片の欠けた部分が少しずつ直っていく様子に驚かされていた。
指揮船でヴィヴィオとディアーチェ達の間で険悪な空気が流れていた頃、フェイトはなのはを連れて本局に来ていた。
嫌がるなのはを半ば無理矢理にでも診察して貰うのと自身も怪我をしていたから治療、そして…
なのはが治療を受けている間にマリエルからバルディッシュの能力を教わり、シャーリーからレイジングハートとなのはが行った強化プランについて聞いた。
彼女はアミタ達の世界の技術『フォーミュラー』を取り込んで強化したらしい。
『フェイトさん、すみません…私達が勝手に動いちゃって…』
「ううん、シャーリーを責めてるんじゃないよ。なのはのジャケットとデバイスについて教えて欲しかっただけだから、教えてくれてありがとう。」
「…ん……あれ?」
ヴィヴィオが瞼を開くと、そこは何処かの病室だった。管理局本局の感じは無い。身体を起こすと
「気がついた?」
近くに居たアリシアが振り向いた。
「アリシア、ここ…っ!?」
ここはどこ? 聞こうとした時、彼女の姿を見て驚いた。
「ああ、これ? はやてさんが持って来てくれたの。昔使ってたのだって、動かすの結構難しいね。撮影の時沢山練習したんでしょ~♪」
「ハァアアアアッ!」
ヴィヴィオは両手に魔力を集めてユーリに対して猛スピードで一気に詰めて拳を繰り出す。だが彼女はシールドで防いだ。
(滅茶苦茶固いっ! これじゃあ…っ!?)
瞬間背後に寒気を感じ振り向き様に回し蹴りを放つ。
その先では既にユーリが砲撃でヴィヴィオを狙っていた。放つ直前に足で弾いた事で射線がずれる。ユーリが放った砲撃は海面に突き刺さり水蒸気を伴った大爆発を起こす。
なのはとシュテル、フェイトとレヴィの勝敗がついた頃、アリシアは鉱物が展示されているフロアへと向かっていた。
「近くまで来てる筈なんだけど…」
暗くて案内板もよく見えなくて辺りを見回していると…
「「「グァアアアアアアッ!」」」
悲鳴が聞こえた。それも1人じゃなくて複数人のものだ。
声の聞こえた方へと駆け出す。。見えた時、倒れた局員の向こうに見知らぬ女性がいた。
咄嗟に柱の陰に隠れる。
(良かった、負けちゃうんじゃないかって心配したけど…)
城の屋根上で見ていた私はホッと息をつく。
同じバルディッシュでもフェイトとアリシアでは戦闘スタイルが全く違う。ストレージデバイスを使うよりは良いけれどいきなりレヴィとの戦闘で使うのは気になっていた。そして
(プレシアさん、バルディッシュにあんなの入れてたんだ。)
アリシアが普段使っている魔力コアではあのシールドは作れない。魔法力が強すぎて彼女では制御出来ない。だからフェイトとリンディを守ったシールドは彼女が入れたものだろう。
しかしフェイトがレヴィに使った攻撃には驚かされた。まさか槍形態からの砲撃とは…。ヴィヴィオも全く予想していなかった。
対なのはの練習用に考えていたのだろうかと思いながらも他の2箇所に目を向ける。
「遅くなっちゃった。新装備のバルディッシュを持って来た。」
オールストン・シーに1台の車が到着する。
ドアが開きアルフが出てくる。修理が終わったバルディッシュを持って来たのだ。待機状態への切り替え前に持って来たのか起動状態のままで大きめのケースに入っていた。リンディが駆け寄る
「フェイトは?」
「中で犯人の1人を追いかけている。」
「!? それじゃぁ…私が届けてくる。」
「普通の魔法が殆ど通じない相手よ、あなたじゃ危ないわ。私が届けてくる。」
リンディはそう言うとアルフからケースを受け取った。
『そうだ、大切なことがもう1つ。キリエさんが『イリス』って名前を呼んでいたんですがお知り合いでしょうか?』
大部屋から洗面所に戻ろうとしたところ、ヴィヴィオ達の前に2つのウィンドウが現れフェイトとアミタが映し出された。
リンディが見えるようにしてくれたらしい。
そう、ヴィヴィオ達が知らない人がこの事件にはいる。
『はぁ、遺跡版の人工知能ですかね。キリエが調査に使っていました。』
『遺跡版?』
『こちらの世界で言うコンピューターみたいなものでこれですね。小型の端末を持ち出したのでしょう。キリエにとっては子供の頃からの友達みたいな存在でしたから。はやてさんを襲った車もその人工知能が操作していたのだと思います。』
「ねぇ、なのははどうして魔法使い…ううん魔導師になったの?」
「ふぇ? 私?」
アリシアと一緒にフェイトとはやてが出て行くのを見送っていたなのはにヴィヴィオが聞くと驚かれた。
「私は…誰かを助けてあげられる…私の魔法が役にたてたらいいなって。」
「ユーノ君、私が魔法と出会うきっかけをくれた友達、はやてちゃんや八神家のみんな…フェイトちゃん達、アリサちゃんとすずかちゃん…みんなが笑ってると嬉しいの。」
話しながら周りを見回す。
「本当に…失態続きや…」
八神はやてはこれでもかという位沈んでいた。
なのは達とオールストン・シー内にあるリゾートホテルで合流した後、戒める様に呟く。
事件についてクロノから情報を貰っていて、記憶から消える間も無く目の前に容疑者が現れた。
彼女達が夜天の書が目的だったのなら、あの時1人で対応せずに誰かと合流するまで海上に逃げても良かった。リインと合流して騎士甲冑が使えれば、あの少女に助けられなくてもと思う。
そして…全員と合流した後もそれは言えた。
「ウミナリ? ヴィヴィオさんのお母様の故郷ですか…、では八神はやてさんも?」
アインハルト・ストラトスは初めて聞いた名前を反芻した。
「はい、皆さんで帰省しているそうです。」
イクスヴェリアは笑顔で頷いた。
ここはミッドチルダの聖王教会の中にあるイクスの私室。冬休みに入ったアインハルトはイクスヴェリアにお呼ばれしていた。
アインハルトやヴィヴィオ、アリシアが通っているStヒルデ学院は聖王教会系列の学校だから、初等部、中等部、高等部と進学した後にそのまま聖王教会の関連企業に就職したり、従事する者も少なくない。
「…ねぇヴィヴィオ、私達あの事件に関わっちゃったんだよね…」
日が落ちた臨海公園で、該当の明かりが時折白波を照らす。
それを見ながらアリシアが聞いてきた。
「うん…時間は違うけど…そうだと思う。」
アミタ・キリエ達と遭遇して私達がここに転移した。
ヴィヴィオがアミティエと遭遇していた頃、アリシアはというと…
「……何が起きてるの? この世界は何?」
ビルの屋上から目の前の光景を眉をひそめながら状況を見つめていた。
エイミィが居たからフェイトとなのはが居るのは判っていた。でも…
なのはは地中から伸びてきたワイヤーで縛られて動きを抑えられ、フェイトは…
(キリエさんが居るって…どういう状況?)
新宿でエイミィと出会ってしまったアリシアはヴィヴィオと一緒に慌てて電車に乗って他の場所へと行った。
「アリシア…待ち合わせ場所の【ぺんぎん】ってなんのことだったの?」
「え…あっ!」
そう、彼女はこっちでは海鳴市から外に出ていない。図書館で見る機会はあっただろうけれど…流石に知らなかったらしい。
折角なので、駅で聞いて向かったのは動物園。
ペンギンを含めてここの動物を見せられたらと考えたのだ。
そしてそれは大成功だった。
ペンギンは勿論、色んな動物を見て目を輝かせるヴィヴィオ。その様子を見て
「そう言えば初めて雪を見たチェントも同じ顔してたな…」
来て良かったと思うのだった。
【ドンッ!】
何かに突き飛ばされた様に光球から弾き出された。
地面を転がってそのまま木にぶつかって止まる。
「イタタタタ…何?さっきの…アリシア大丈夫…? アリシアっ!?」
抱き寄せた筈のアリシアが見当たらない。ガバッと飛び起きて辺りを見回すが彼女の姿はない。
「アリシア~っ!!」
慌てて叫ぶと
「ここ~…下りるの手伝って~」
翠屋での時間は過ぎてそれぞれが家路について夜が更けた頃、なのははフェイト、士郎、プレシアとリビングに居た。
全員どこかソワソワしている。
そこに
「おまたせ~♪」
桃子が入ってきた。
「久しぶりだったから時間がかかっちゃった。ヴィヴィオ、アリシアちゃんの初お披露目~。入ってきなさい。」
「ヴィヴィオ~、チェント~、凄いよ。外見てみて♪」
「んん…なぁに…?」
翌朝、ヴィヴィオはアリシアの声に重い瞼を開ける。
彼女の方が朝が弱いと思っていたのに最近は起きられる様になったらしい。
布団から出て服を着替えて客間を開くと冷気が入ってくる。昨日は寒くて震えたけれど今日は目の前の光景に目を奪われてしまった。
一面の銀世界、しんしんと降る雪…昨日と同じ場所が全然違った幻想的な雰囲気に包まれている。
「わぁ…綺麗…」
思わず呟く。雪は何度か見ているけれどここまで降り積もっているのは初めて見る。
「ヴィヴィオ、そろそろ起きないと夜眠れないよ」
体を揺さぶられて瞼を開くとフェイトの顔があった
「おはよ…フェイトママ」
「おはよう、ねぼすけさん♪ もうお昼だよ。桃子さんがお昼ご飯作ってたから一緒に食べよう。」
時計を見るとお昼過ぎだった。
「は~い」
そう言って起き上がろうとしたら今度は左腕がやけに重く感じた。見るとリニスが私の腕を抱きかかえるように眠っていた。
「ごめ~ん…遅くなって」
「なのはママ」
「お疲れさん、なのはちゃん。」
翌朝、昨日の夕食のお礼としてはやてと一緒に朝食を作っているとなのはがやって来た。
彼女は教導訓練の責任者だったこともあって教導が終わった後訓練生の評価を行い報告した後で合流すると昨夜ヴィータから聞いていたから少し驚く。
夕方辺りに来るかと思っていたけれど、急いで終わらせて来たらしい。
「フェイトちゃんはまだあっち?」
「ううん、一緒に来たよ。先にエイミィさんの所に行ってからこっちにも来るって。私も手伝うよ。」
「なのはママ疲れてるんでしょ。もう少しで出来るからみんなと待ってて。」
「ヴィヴィオの手作りもあるから楽しみにしててな。」
私の手作りと聞いて彼女は嬉しそうに
「は~い♪」
そう言って厨房から出て行った。