なのはとシュテル、フェイトとレヴィの勝敗がついた頃、アリシアは鉱物が展示されているフロアへと向かっていた。
「近くまで来てる筈なんだけど…」
暗くて案内板もよく見えなくて辺りを見回していると…
「「「グァアアアアアアッ!」」」
悲鳴が聞こえた。それも1人じゃなくて複数人のものだ。
声の聞こえた方へと駆け出す。。見えた時、倒れた局員の向こうに見知らぬ女性がいた。
咄嗟に柱の陰に隠れる。
(良かった、負けちゃうんじゃないかって心配したけど…)
城の屋根上で見ていた私はホッと息をつく。
同じバルディッシュでもフェイトとアリシアでは戦闘スタイルが全く違う。ストレージデバイスを使うよりは良いけれどいきなりレヴィとの戦闘で使うのは気になっていた。そして
(プレシアさん、バルディッシュにあんなの入れてたんだ。)
アリシアが普段使っている魔力コアではあのシールドは作れない。魔法力が強すぎて彼女では制御出来ない。だからフェイトとリンディを守ったシールドは彼女が入れたものだろう。
しかしフェイトがレヴィに使った攻撃には驚かされた。まさか槍形態からの砲撃とは…。ヴィヴィオも全く予想していなかった。
対なのはの練習用に考えていたのだろうかと思いながらも他の2箇所に目を向ける。
「遅くなっちゃった。新装備のバルディッシュを持って来た。」
オールストン・シーに1台の車が到着する。
ドアが開きアルフが出てくる。修理が終わったバルディッシュを持って来たのだ。待機状態への切り替え前に持って来たのか起動状態のままで大きめのケースに入っていた。リンディが駆け寄る
「フェイトは?」
「中で犯人の1人を追いかけている。」
「!? それじゃぁ…私が届けてくる。」
「普通の魔法が殆ど通じない相手よ、あなたじゃ危ないわ。私が届けてくる。」
リンディはそう言うとアルフからケースを受け取った。
『そうだ、大切なことがもう1つ。キリエさんが『イリス』って名前を呼んでいたんですがお知り合いでしょうか?』
大部屋から洗面所に戻ろうとしたところ、ヴィヴィオ達の前に2つのウィンドウが現れフェイトとアミタが映し出された。
リンディが見えるようにしてくれたらしい。
そう、ヴィヴィオ達が知らない人がこの事件にはいる。
『はぁ、遺跡版の人工知能ですかね。キリエが調査に使っていました。』
『遺跡版?』
『こちらの世界で言うコンピューターみたいなものでこれですね。小型の端末を持ち出したのでしょう。キリエにとっては子供の頃からの友達みたいな存在でしたから。はやてさんを襲った車もその人工知能が操作していたのだと思います。』
「ねぇ、なのははどうして魔法使い…ううん魔導師になったの?」
「ふぇ? 私?」
アリシアと一緒にフェイトとはやてが出て行くのを見送っていたなのはにヴィヴィオが聞くと驚かれた。
「私は…誰かを助けてあげられる…私の魔法が役にたてたらいいなって。」
「ユーノ君、私が魔法と出会うきっかけをくれた友達、はやてちゃんや八神家のみんな…フェイトちゃん達、アリサちゃんとすずかちゃん…みんなが笑ってると嬉しいの。」
話しながら周りを見回す。
「本当に…失態続きや…」
八神はやてはこれでもかという位沈んでいた。
なのは達とオールストン・シー内にあるリゾートホテルで合流した後、戒める様に呟く。
事件についてクロノから情報を貰っていて、記憶から消える間も無く目の前に容疑者が現れた。
彼女達が夜天の書が目的だったのなら、あの時1人で対応せずに誰かと合流するまで海上に逃げても良かった。リインと合流して騎士甲冑が使えれば、あの少女に助けられなくてもと思う。
そして…全員と合流した後もそれは言えた。
「ウミナリ? ヴィヴィオさんのお母様の故郷ですか…、では八神はやてさんも?」
アインハルト・ストラトスは初めて聞いた名前を反芻した。
「はい、皆さんで帰省しているそうです。」
イクスヴェリアは笑顔で頷いた。
ここはミッドチルダの聖王教会の中にあるイクスの私室。冬休みに入ったアインハルトはイクスヴェリアにお呼ばれしていた。
アインハルトやヴィヴィオ、アリシアが通っているStヒルデ学院は聖王教会系列の学校だから、初等部、中等部、高等部と進学した後にそのまま聖王教会の関連企業に就職したり、従事する者も少なくない。
「…ねぇヴィヴィオ、私達あの事件に関わっちゃったんだよね…」
日が落ちた臨海公園で、該当の明かりが時折白波を照らす。
それを見ながらアリシアが聞いてきた。
「うん…時間は違うけど…そうだと思う。」
アミタ・キリエ達と遭遇して私達がここに転移した。
ヴィヴィオがアミティエと遭遇していた頃、アリシアはというと…
「……何が起きてるの? この世界は何?」
ビルの屋上から目の前の光景を眉をひそめながら状況を見つめていた。
エイミィが居たからフェイトとなのはが居るのは判っていた。でも…
なのはは地中から伸びてきたワイヤーで縛られて動きを抑えられ、フェイトは…
(キリエさんが居るって…どういう状況?)
新宿でエイミィと出会ってしまったアリシアはヴィヴィオと一緒に慌てて電車に乗って他の場所へと行った。
「アリシア…待ち合わせ場所の【ぺんぎん】ってなんのことだったの?」
「え…あっ!」
そう、彼女はこっちでは海鳴市から外に出ていない。図書館で見る機会はあっただろうけれど…流石に知らなかったらしい。
折角なので、駅で聞いて向かったのは動物園。
ペンギンを含めてここの動物を見せられたらと考えたのだ。
そしてそれは大成功だった。
ペンギンは勿論、色んな動物を見て目を輝かせるヴィヴィオ。その様子を見て
「そう言えば初めて雪を見たチェントも同じ顔してたな…」
来て良かったと思うのだった。
【ドンッ!】
何かに突き飛ばされた様に光球から弾き出された。
地面を転がってそのまま木にぶつかって止まる。
「イタタタタ…何?さっきの…アリシア大丈夫…? アリシアっ!?」
抱き寄せた筈のアリシアが見当たらない。ガバッと飛び起きて辺りを見回すが彼女の姿はない。
「アリシア~っ!!」
慌てて叫ぶと
「ここ~…下りるの手伝って~」
翠屋での時間は過ぎてそれぞれが家路について夜が更けた頃、なのははフェイト、士郎、プレシアとリビングに居た。
全員どこかソワソワしている。
そこに
「おまたせ~♪」
桃子が入ってきた。
「久しぶりだったから時間がかかっちゃった。ヴィヴィオ、アリシアちゃんの初お披露目~。入ってきなさい。」
「ヴィヴィオ~、チェント~、凄いよ。外見てみて♪」
「んん…なぁに…?」
翌朝、ヴィヴィオはアリシアの声に重い瞼を開ける。
彼女の方が朝が弱いと思っていたのに最近は起きられる様になったらしい。
布団から出て服を着替えて客間を開くと冷気が入ってくる。昨日は寒くて震えたけれど今日は目の前の光景に目を奪われてしまった。
一面の銀世界、しんしんと降る雪…昨日と同じ場所が全然違った幻想的な雰囲気に包まれている。
「わぁ…綺麗…」
思わず呟く。雪は何度か見ているけれどここまで降り積もっているのは初めて見る。
「ヴィヴィオ、そろそろ起きないと夜眠れないよ」
体を揺さぶられて瞼を開くとフェイトの顔があった
「おはよ…フェイトママ」
「おはよう、ねぼすけさん♪ もうお昼だよ。桃子さんがお昼ご飯作ってたから一緒に食べよう。」
時計を見るとお昼過ぎだった。
「は~い」
そう言って起き上がろうとしたら今度は左腕がやけに重く感じた。見るとリニスが私の腕を抱きかかえるように眠っていた。
「ごめ~ん…遅くなって」
「なのはママ」
「お疲れさん、なのはちゃん。」
翌朝、昨日の夕食のお礼としてはやてと一緒に朝食を作っているとなのはがやって来た。
彼女は教導訓練の責任者だったこともあって教導が終わった後訓練生の評価を行い報告した後で合流すると昨夜ヴィータから聞いていたから少し驚く。
夕方辺りに来るかと思っていたけれど、急いで終わらせて来たらしい。
「フェイトちゃんはまだあっち?」
「ううん、一緒に来たよ。先にエイミィさんの所に行ってからこっちにも来るって。私も手伝うよ。」
「なのはママ疲れてるんでしょ。もう少しで出来るからみんなと待ってて。」
「ヴィヴィオの手作りもあるから楽しみにしててな。」
私の手作りと聞いて彼女は嬉しそうに
「は~い♪」
そう言って厨房から出て行った。
「…全く…あんた達って秘密にするのも大概にしなさいよね。すずかも気づいてたなら教えてくれてもいいじゃない。」
アリサが大きいため息をつきながらぼやいた。それを見ていたヴィヴィオはアワアワと狼狽える。彼女の心の導火線に火が点こうものなら烈火の如く怒られるのは目に見えている。
その様子を近くで何度も見て来た。その矛先が私に向こうものなら…
「でも、先に教えてくれたり私が覚えていたらそっちの方が大変だったわね…なのはがヴィヴィオと会う前に『さっきあなたの子供とお姉さんに会ったわよ』なんてなのはとフェイトに言っちゃったらここにヴィヴィオもアリシアも居なかったかも知れないんだから。すずかみたいに秘密にしておくなんて出来ないもの。」
「わ~っ♪ 何だかお祭りみたい。」
高町ヴィヴィオはその光景を見て胸を躍らせた。
「賑わってるな~。元々は聖誕祭みたいな厳かなイベントやったんやけどな、みんなお祭り好きやからね~。」
ここは第97管理外世界―日本―海鳴市。
ヴィヴィオは商店街を歩きながら隣の八神はやてと話していた。
「その内聖誕祭もこんな感じになるのかな…だったら楽しそうですね♪」
「う~ん、人も違うし文化も違うから…難しいんとちゃうかな。」
「わぁ~すっごく綺麗…」
部屋の窓を開けてベランダに出ると私はその光景に目を奪われていた。
暗い闇の中、色とりどりのビルの明かりと街灯や部屋の光に照らされた白い光が落ちてくる。
身も縮む様な寒さの筈なのに全く感じなくて…いつまでも見ていられそうだった。
「ヴィヴィオちゃん~、そんな格好じゃ風邪ひいちゃうよ。」
「あっちじゃ雪なんて降らんしな~。」
「雪か…思い出すな」
「そうね…」
部屋の中に居た4人はそう言いながら降っている雪を見つめていた。
新暦79年の冬。私、高町ヴィヴィオは海鳴市に来ていた。
戦技披露会が終わって1ヶ月程経った頃、ヴィヴィオは自室で机に向かって勉強していた。
期末試験までまだ少しあるけれど、今回は悠長に構えていられない理由がある。
何せ前回のテストで私の代わりに受けたチェントが全教科満点という結果を残していってくれたのだ。
今までも悪い訳ではなかったけれど、パーフェクトなんて叩き出されたら次の試験結果は注目されるに決まっているし、そこで散々な結果だとズルをしたと思われかねない。
とりあえず今出来ることと言えば少しでも良い結果にする努力。
模擬戦が終わってヴィヴィオはヴィータと一緒に救護テントに運ばれた。
勝ったとは言え満身創痍…歩いて戻れると救護班のスタッフに言ったが逆に背中を強打していたから安静にしているように言われた。
そしてテントで待っていたのは……
「ヴィヴィオ…フェイトママは凄く怒ってます。どうしてかわかるかな?」
ム~っと怒ったフェイトが待っていた。
「え~っと…はい、ごめんなさい」