戦技披露会が終わって1ヶ月程経った頃、ヴィヴィオは自室で机に向かって勉強していた。
期末試験までまだ少しあるけれど、今回は悠長に構えていられない理由がある。
何せ前回のテストで私の代わりに受けたチェントが全教科満点という結果を残していってくれたのだ。
今までも悪い訳ではなかったけれど、パーフェクトなんて叩き出されたら次の試験結果は注目されるに決まっているし、そこで散々な結果だとズルをしたと思われかねない。
とりあえず今出来ることと言えば少しでも良い結果にする努力。
模擬戦が終わってヴィヴィオはヴィータと一緒に救護テントに運ばれた。
勝ったとは言え満身創痍…歩いて戻れると救護班のスタッフに言ったが逆に背中を強打していたから安静にしているように言われた。
そしてテントで待っていたのは……
「ヴィヴィオ…フェイトママは凄く怒ってます。どうしてかわかるかな?」
ム~っと怒ったフェイトが待っていた。
「え~っと…はい、ごめんなさい」
「ハァアアアッ!」
「ダァリャァアアアッ!」
地上と空中で激突する虹色と赤色の光。その軌跡と激突音と衝撃、そして2人の声が会場中に響き渡る。
ヴィータのラケーテンハンマーをヴィヴィオが虹色の刃で弾く、しかしその勢いを乗せて更に打ち込むヴィータ。そこにヴィヴィオの腕から放たれた槍がぶつかる。
爆風で2人の姿は消える。そのまま上空に飛びそこで至近距離から互いの拳と槌が何度もぶつかる。
それぞれ数発の直撃を受けるが1歩も引かない。
「全部潰すか…おもしれぇ」
シュワルベフリーゲンを全部壊されたヴィータは笑みを浮かべて突進、真っ正面からヴィヴィオとぶつかった。
今度はカートリッジ1個を使ったラケーテンハンマーだ。
【ガキッ!】
堅い激突音がしてヴィヴィオは腕のハードシェル装甲で受け止めた。火花が散る。
普通のバリアジャケットで耐えられる攻撃じゃない。
シールド系の魔方陣も出ていないから何かある。
「何を隠してる、ヴィヴィオ!」
「秘密です。ここまでは手加減してました。でも…ここからは本気でいきます。ベルカ聖王としてそして…ヴィータさん達へ託された想いを持つ者のして。」
「何をっ」
「手加減しないで本気出来て下さい。じゃないと…直ぐに落とします。」
パンっと腕を弾いた瞬間ゾワっと背筋に寒気が走り一気に後ろへ引いた。
「わ~…すごい人」
戦技披露会の会場へは先にミッドチルダ地上本部に行ってそこから専用の車で向かう。去年まではスバル達と合流してレールトレインで行くのだけれど、今回は観戦ではなく参加するからでなのは達も一緒だ。そこから参加者用の専用の駐車エリアから会場に入ったところで
「私達は他に用事もあるから待機室で待ってて、扉にヴィヴィオの名前がある筈だから」
なのはに言われてヴィヴィオは向かうと高町なのは様 高町ヴィヴィオ様と書かれたパネルを見つけて中に入った。
それから2日後の夜
「ヴィヴィオ、戦技披露会の対戦相手決まったよ。ヴィータちゃんだって。」
夕食時になのはから話があった。
「試験の時と違ってヴィータちゃんも全力で来る。大丈夫?」
「うん、コラード先生から多分ヴィータさんじゃないかって聞いてたから。なのはママ、フェイトママ、ママ達はいつ管理局に入ろうって思ったの? 入る前になりたいことってあった?」
急に話を振られて2人とも驚いている。
「ヴィヴィオ、もうすぐ戦技披露会だけど準備は進んでるの?」
ある日、無限書庫で調査依頼の内容を調べているとユーノが来て言った。
「準備ですか?」
「うん、準備が大変なら司書の任務を少し休んでも良いよ。無限書庫のスタッフが戦技披露会に出るなんて初めてだからね。みんなで応援しようって決めたんだ。」
周りのみんなを見るとみんな笑顔で頷いている。
「ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えて準備を始めたら少し時間貰えますか?」
「うん♪」
ある日の帰り道、家に向かっていると
「ヴィヴィオ~」
「?」
どこからともなくヴィヴィオを呼ぶ声が聞こえた。足を止めて振り返ると1台の車が近づいてきて窓が開いて中から少女が手を振った。
「久しぶり♪ ヴィヴィオ」
呼んだのはこのまえの撮影でなのはを演じていた少女。
「うん、ホントに久しぶり。こんな所でどうしたの?」
ある日、授業が終わり、アリシアは迎えに行ったチェントと一緒に研究所へ帰っていた。その途中で
「…あ……」
「ごきげんよう、アリシア、チェント」
「ごきげんよ~♪ おりう゛ぃえ」
「ごきげんよう…イクス」
イクスヴェリアとバッタリ遭遇してしまった。
そのまま会釈をして別れようと思っていたのだけれど彼女から
「イクスですよ~、アリシア、チェント少しお話しませんか?」
RHdのテストも終わり、慌ただしかった日常がようやく落ち着きを取り戻した頃、ヴィヴィオはアリシアと一緒になのはの故郷、海鳴市に来ていた。
本当は家族全員で来たかったところだけれど、なのはとフェイトは任務中でプレシアはチェントも居るのでと2人での帰省になった。
ヴィヴィオが来たかったのはこの前に来た時のお世話になったお礼の為と…桃子に料理を教わりたかったからである。
ブレイブデュエルの世界で八神はやてに料理を教わった時に褒められたのもあったけれど、その後でなのはやフェイトに作ったら美味しいって言われたのが嬉しかったから。
だったらヴィヴィオの知る中で1番料理が上手い桃子に教わりたいと考えた。
ヴィヴィオはアリシアと少し打ちあった後、データを取る準備が出来たて次はヴィータと模擬戦をした。
ただそれはさっきの模擬戦とは違って全力全開という風ではなく、マリエルから色々魔力の量を調整したデータが欲しいと頼まれた。
転移戦法はデバイスの増幅機能で増幅された魔力を使う。
でも戦技魔法の様にはっきりデータは取れない。細かなデータが必要だから次の模擬戦では転移を控えてクロスファイアシュートメインの戦法に切り替えた。
クロスファイアシュートは元になるシューターの数が多ければ多いほど制御力が必要になる魔法。逆に言えば制御力があれば魔力量と威力を調整するには丁度いい。
なのはがヴィータを対戦相手に指名したのも近接線主体のシグナムより、中距離向きな戦闘スタイルでかつ同じ教導隊所属で必要なデータを伝えやすかったからだと考えた。
「動きはいいけど、レパートリーの少なさが致命的か…」
大人アリシアは2人の模擬戦を見て子供ヴィヴィオの欠点が思った以上に深いことに気づいた。
条件次第で使える魔法に制約がありすぎる。
そうは言っても今のセイクリッドクラスターは1発でもAAランクの砲撃や防御魔法程度簡単に潰してしまえる程強化されているのだけれど…
『ハァアアアッ! 紫電一閃』
手刀を横薙ぎにするがヴィヴィオは見て避けている。カウンターで反撃できるタイミング、でも彼女はあえてそれをしていない。
まるで見定めているようだ。
テスト対象がヴィヴィオなのだから攻撃して何かあった方が危険だと考えているのかも知れない。少し遅れてセイクリッドクラスターで牽制しながら距離を取る。
『アリシア、ブーストはどう? もう少し上げられる?』
「特に問題なし、チェントへの負担もまだ無いわ。ペースアップするね。」
「戦技披露会か…凄いね」
ヴィヴィオは話が終わったらそのまま露天風呂に行ってしまった。
大人ヴィヴィオはさっきまで彼女が居たソファーを眺めながらリビングから外にでた所にあるベランダにもたれかかっていた。
「お前は出たことがあるのか?」
シグナムに声をかけられて振り向く。
呟いていたのを聞かれたらしい。
ヴィヴィオや異世界の自分達がデバイスのテストをしている間、アリシアはチェントと一緒に遊んでいた。滅多に見られない自然豊かな場所で彼女も楽しいらしく膝下位までのせせらぎに入ってキャッキャと声をあげているしプレシアも笑って私達を見ている。
(私とあっちの私もそうだけど、チェントも違うんだ…)
改めて実感する。
Stヒルデに通い始めてすぐ、迎えに行ったら妹は泥だらけになって走って来た。プレシアと一緒に目を丸くして驚いたけれど怒ることはなかった。輝かしいばかりの満面の笑みでかあさま、ねえさまと呼ばれたら怒る気も失せてしまったからだ。
気になって翌日虐められたりケンカしたのかと思ってシスターに聞いたら全くそんなことはなく、活発で誰とでも楽しそうに話すからクラスの人気者になっていると聞いて胸をなで下ろした。
アリシアがここに来たのは寂しがらせた妹や家族と遊びたかったからだ。
あんな事件に巻き込まれたからこそ、今の一時が宝石の様に輝いている。
30分程遊んで、身体が冷えてきたのを感じて2人でプレシアの所に戻った。
プレシアからタオルを受け取って濡れた髪を拭う。
「っと、到着!」
トンっと地に降りた私はふぅっと息をついた。
突然決まったカルナージでのRHdのテスト。
色々準備も大変だったけれど、ここで問題なければ魔法を使っても良くなる。不安もあるけれどこの際置いておいて私は楽しみだった。
試験用の機器についてはマリエルが用意してなのは、フェイトとヴィータが本局から持ってくるらしい。みんなと地上本部から定期航行船でこっちに向かっているけれど、異世界の私やアリシアは船に乗れないので私が空間転移で連れてきた。チェント…大きい方の彼女には私の代わりに乗って貰っている。
「凄い…デバイスなしで1回で来るなんて」
「時間の誤差も殆どない…。使いこなしてるんだね。」
海鳴から戻った数日後、夕食を終えた高町家にある者が訪れた。
「こんばんば、ヴィヴィオ」
「マリエルさんっ!?」
出迎えたヴィヴィオは思いっきり驚いた。
「ふぅ~…やっとただいまだよ~」
私、高町ヴィヴィオは自分の部屋に入るなりベッドにダイブした。
久しぶりの主をベッドはポフッと音を立てて出迎える。
この感触が懐かしい。
「RHd、帰ってこられたね♪ 調子はどう?」
ころんと寝返って胸のペンダントを出して話しかける。
【I`m pretty good.】
返事を聞いてニコッと笑う。
「…こ…は…すかっ!」
その時リビングから声が聞こえた。
海鳴経由で戻って来てはやてに戻ったのを伝えた後、フェイトから何か大切な話があるから部屋に戻るように言われたけれど、声からして何か怒っているような気がする。
「うわ~…すごい~!!」
目の前に広がる断崖絶壁の大地
ヴィヴィオが八神家を訪れてから2週間後の休日、ヴィヴィオはシグナム達とミッドチルダから遠く離れた世界にやってきていた。
「こんな世界があるんだね~」
隣でアリシアも驚きの声をあげていた。
夕食を食べてお風呂に入った後
【ガチャ】
ヴィヴィオは自分の部屋に戻ると明かりも点けずそのままベッドに座り目を瞑った。
どうして私は紫電一閃を選らんだのかな…
「シャマル先生、私…シグナムさんを怒らせちゃったんでしょうか…」
ヴィヴィオは家までの間、隣で車を運転するシャマルに聞く。
「はやてちゃんが言ってたけれど私もシグナムは怒ってないと思うわ。それよりもヴィヴィオに感謝してると思う。」
「私に感謝?」
「ええ、この前の闇の書事件の撮影で…ううん、本当の闇の書事件でもヴィヴィオやなのはちゃん、フェイトちゃんに任せちゃったでしょう。私達は主を守る守護騎士なのにはやてちゃんを助けられなかった。それにね、私達はプログラムだから誰かに私達の魔法を伝えていきたいって思ってる。」