「今日は良い天気で良かったね。ヴィヴィオ、フェイトちゃん♪」
「うん。気持ち良いね~オリヴィエさん、どうですか?」
「はい。空気が美味しいです。」
「うん、気持ちいい…」
ヴィヴィオの髪を草原を走ってきた風がなびかせていた。
2日前、ヴィヴィオはティアナに送って貰って帰ってきた。
後で一緒にお風呂に入ろうと言っても「後で入るからいい…」と断られ、翌朝一緒に朝食を食べた時も心ここにあらずという状態だった。
「ヴィヴィオ、昨日は大変だったね。」
無限書庫に来たヴィヴィオは挨拶する前にユーノに言われて驚いた。
「も~っ、ママおしゃべりなんだから…」
先日ヴィヴィオはマリンガーデンでマリアージュ6体と戦った。
市街地区での戦闘魔法や飛行魔法は事前に使用許可が要る。はやてが先に申請してくれたけれど、魔法使用に関しては彼女の管轄外で何らかの使用理由が要るらしい。
港湾警備隊との辻褄もまとめて合わせようという彼女の発案でその夜は八神家での食事会という流れになった。
はやてやザフィーラ、シグナム達と一緒にご飯を食べるのは楽しかった。
「凄い…綺麗…」
マリンガーデンの中に入ったヴィヴィオはその光景を見て言葉が見つからなかった。
寒い季節だから海の中を歩いても何も居ないと思っていたのだけれど、そんなことはなく
上だけでなく左右や下まで数え切れない位の魚がトンネルを作っていた。
これを見たら事件で付いたイメージも消えるだろう。
「凄いね・・・」
「「・・・・・・」」
ヴィヴィオとアリシアはそれぞれオリヴィエとチェントの方を向くと・・・彼女達はその光景に見とれていた。
「ただいま~…え、ええーっ!?
ある調べ物をする為に依頼物を一気に片付けたら帰るのが遅くなってしまった。
鍵を開けて玄関を入りリビングのドアを開けたヴィヴィオの目に入ったのは…
「おかえりなさい」
なんとパジャマ姿のオリヴィエ。
「遅くまでお疲れ様~。教会で言うの忘れてたんだけど、オリヴィエさん今日から暫く居て貰うから。」
「ねぇイクス、イクスは会った事あるの? オリヴィエさんに」
ヴィヴィオはベッドで眠る少女、イクスヴェリアに問いかける。
イクスはマリンガーデン大火災からスバル・ナカジマに助け出された。その時『前に目覚めた時はベルカ聖王家はもう無くなっていた』と言った。彼女が眠ってしまった後で、スバルから教えて貰った。
彼女は永い眠りの中にいる。それが10年なのか1000年なのか・・・それは誰にも判らない。
「あの後、すっごく大変だったんだから! もうあんな事しないでね」
カリムの部屋で入れて貰ったお茶を飲んで少し落ち着いたのかヴィヴィオはオリヴィエ念を押す様に言う。
ヴィヴィオの言葉通り授業が終わる前、彼女達が去ってからはもう大変だった。
2人が校舎に入った直後注目の的になってしまい、魔法制御を教えて欲しいとか虹色の魔法球の作り方を教えてと何人からもお願いされたのだ。
授業後はクラスメイトだけだったのに、放課後になったら他のクラスの子まで押しかける始末。 ヴィヴィオ達の様子を教室から見ていたのか、クラスメイトの誰かから伝わったらしい…
「フーン、そんな事があったんだ。それで朝から何度も欠伸して眠そうなんだね。」
「うん…オリヴィエさんのおかげで…お昼ご飯食べた後だから1番眠いかも。ファアア~…」
アリシアに答えながらヴィヴィオは今日1番大きな欠伸をする。
お弁当箱を枕代わりに今すぐ寝たい気分。
あれからオリヴィエはなのはやはやて達と聖王教会に残った。ヴィヴィオもその場に居て色々聞いて話してみたいと思っていた。
しかし既に朝日は差し込んできていて、学業優先という事で朝から本局へ行くフェイトに連れられ家に戻りそのまま着替えて登校してきた。
「ねぇ、ヴィヴィオ。本当にこの子がヴィヴィオの?」
「確かに似てるって思うけど、ちょっと違う感じもする。それにオリヴィエ聖王女って凄く昔の人でしょ?」
「フェイトちゃん、ヴィヴィオとチェントちゃんも似ているけど違う感じだし、元が同じだって言えばフェイトちゃんとアリシアちゃんと違うんだから誤差みたいな物じゃないのかな」
「なのは、姉さんと私は全部同じじゃ無くて…って話がずれてる。なのはの言う通りヴィヴィオの小さい頃とチェントの今とじゃちょっと違うね。チェントはピーマンも食べるし好き嫌い無いし」
「そうそう♪」
「………」
「…………」
「………………」
「…ヴィヴィオ、さっきからこの子何も話してくれないんだけど…何かわかった?」
暗闇と静寂だけが残された広い部屋、その中央で女性が1人ひざまずいている。
彼女は手を祈るように胸の前で合わせ微動だにしない。
懐中時計の音ですら響くような空間でただひたすらその時が来るのを待つ。
暫くしてその場の様子が変わった。
女性から柔らかな光が溢れ出し、床にしみ出す様に広がっていく。同時に天井にも同様に広がり上下対となる魔方陣を描く。
静かに女性は立ち上がり両手を広げ、そのまま弧を描く様に手を前に出す。
野も山も木々も湖も、辺りが全てセピア色になった世界。
私は気づくとそれらに囲まれた平原に1人立っていた。
でも不安や恐れはない。なぜなら
(ここ…前に来た…世界だよね)
私が「彼女」と会った世界だから。
『…ィオ…ヴィオ…ヴィヴィオ…』
「ここをこうすれば…でも…う~ん」
授業間の休み時間、アリシアがクラスメイトと話していると何かを追いかける様に手を握ったり開いたりするヴィヴィオが視界に入った。
(何かの練習?)
「なにしてるの?」
思わず近くに行って聞いてみる。
「え、あっ、えっとね新しい検索魔法作れないかなって」
「遅くまでごめんね…」
夜も更けた頃、閑静な住宅地の一角にある家のドアが開いた。そこから出てきたのは1人の女性、後を追うように少女が出てくる。そして少女に続き彼女の母と思える女性も現れた。
「ううん、私も一緒にお話出来て楽しかった。ママもそうだよね。」
「ええ、またいらっしゃいフェイト」
「はい。おやすみなさい、母さん、姉さん、チェントにも」
そう、フェイト・T・ハラオウンはテスタロッサ家に遊びに来ていたのだ。
管理局本局で鬼の霍乱(かくらん)が起きている。
当の本人が聞けば言い始めた者は只では済まないだろう。
誰もがそう思っていた。しかしその発生源である張本人
「はぁ…」
教導隊のエースオブエース高町なのはがその話を耳にしてもため息を洩らすだけだったのだから噂を聞いた局員が彼女と会った時2重の意味で驚かされていた。
「…これ、本当にヴィヴィオのデバイスなのよね…」
「ええ、定期メンテナンスだからって今日ヴィヴィオ本人が持ってきましたから。形状もそうですしIDも合っています。」
「そうだよね…」
時空管理局、本局技術部のある部屋では2人の局員が頭を悩ませていた。
「ええ、その結果は明日送ります。あと、先日の追加については後ほど」
「お願いします」
話が終わり端末が消える。その直後
「フゥ…」
椅子の背にもたれかかって背を伸ばすチンクの姿がそこにあった。
ここは聖王教会が運営する研究施設の1つ。
教会より管理局に近い彼女がここに居るのは施設の管理者プレシア・テスタロッサに助手として雇われたからである。
「まさか私がこんな所にいるとはな…」
呟きながら思い出す。
(ここは親友としてしっかりサポートしなくっちゃね!!)
拳を握りしめて密かに思う少女の姿がそこにはあった。
「テスタロッサさん、次読んで下さい。」
「えっ、は、はい!! えっと…どこ」
「…176ページです。次からはきちんと授業を聞いてくださいね。」
「はい…ごめんなさい」
(それどころじゃないんだけど…)
先生が聞けばこってり絞られる様な事を思いつつ、ヴィヴィオの方を見るアリシアだった。
ある日、時空管理局統括官リンディ・ハラオウンが自室に戻ってくると1通のメッセージが入っていた。
「フェイトから、何かしら?」
端末に触れ開いてみるとメッセージの差出人は娘のフェイトからだった。
ミッドチルダで同居している彼女の親友高町なのはの母、桃子が交通事故に巻き込まれたらしい。幸い怪我も軽く暫く静養すれば治る位で済んだのだけれど、気になって家事も手に付かないなのはとヴィヴィオと一緒にお見舞いに行ってここには帰りに寄ったらしい。
「騎士カリム、少しよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
その声に気づいた部屋の主、カリム・グラシアは手元にある書類にサインをしてペンを置いた。
「シャッハ1人で歩けますからっ。そんなに強く掴まないで」
「でしたら早く入りなさいっ」
扉の向こう側から揉めている声が聞こえる。
「アリシアさん、今日は1人で帰るのかしら?」
「はい。そうです」
放課後バッグを持って教室から出ようとした時、アリシアは先生に呼び止められた。
「近所で見かけない人がいるそうだから、気をつけて帰って下さいね。」
確か先生も近所に住んでた筈…思い出して
「ありがとうございます。先生、ごきげんよう」
ペコリと頭を下げて教室を出て行った。
「アリシア、ヴィヴィオごきげんよう。ねえ聞いた?【コア】の話」
ある日Stヒルデ学院に登校してきたアリシアとヴィヴィオにクラスメイトが駆け寄ってくる。
「コア?」
「そう、魔力…なんとか結晶体、通称【コア】。パパが言ってたんだけどもうすぐテストが始まるんだって。成功したら私達も空を飛んだり転移魔法が使えるんだよ。」
「そ、そうなんだ。凄いね~」
アリシアは一瞬ヴィヴィオを見て微笑んで答えた。
「アリシア、コアって…アレでしょ?」
「うん、ママの研究」
そう言いながら数日前の事を思い出す。