ヴィヴィオがプレシアの家にお泊まりした翌朝
「ふぁ~…ルネッサさん、おはようございます」
目覚めて体を回し隣を見ると一緒に寝ていた筈のルネッサの姿が無かった。
「あれ?」
もう起きたのかと思って起きてリビングに行ってみると
「おはよう、よく眠れた?」
「ヴィヴィオ、おはよう」
(ルネッサさん…名前どこかで聞いた気がするんだけど)
プレシア達の夕食の団らんに混ざりながらヴィヴィオは思い出そうとしていた。
チェントの話を聞いて時折笑顔を見せるけれど、ヴィヴィオの視線に気づくと直ぐ強ばった表情に変わってしまう。時折ヴィヴィオやアリシアが話を振っても「はい」とか「いいえ」とか1言で終わって話が続かない。
突然10数年前に連れてこられたら警戒するかもとは思ったし、ルネッサの紹介は以前お世話になっていた人の家族と言っていたから今回の転移についてはアリシアは知らせるつもりはないらしい。
それに…
軌道拘置所の職員である女性はルネッサ・マグナスの支度を調えるのを手伝っていた。
ミッドチルダ出身ではない彼女にとってルネッサが何をしたのかも特に気にとめていなかった。
更正支援専門の局員なら1人1人面会面会もしているけれど、そうでない者が感情移入していてはこの仕事は続かないし、保釈まで10年以上の者には外の世界には縁も無い話だからだ。
互いが決して交わらない位置にいる、それが暗黙のルール。
しかし今隣で衣類をまとめているルネッサにはそのルールを破りそうな程興味を覚えた。
本局提督からの特別措置による保釈…今まで聞いたこともない。一体どんな方法を使ったのか?
さぞ嬉しいだろうと思い彼女の顔をのぞき見る。しかし…
。
「失礼します」
ヴィヴィオがリンディの執務室に入ると彼女は一瞬驚いた顔をしたがその後笑顔で出迎えた。
「いらっしゃい、あら小さなお客様ね。」
10数年経っている筈なのにその姿は殆ど変わっていなくて逆にヴィヴィオが驚かされた。
「たか…じゃなかった。チェント・テスタロッサです。プレ…母様から預かった手紙を持って来ました。」
(チェント…たしか母様、姉様って言ってたよね…)
「本当にいいのね?」
険しい眼差しで目の前の彼女に問いかけた。
『あんなの見せられちゃったら…ね。』
「思いつくものは全て用意したわ、あとは…実行するだけ。」
『なるべくフォローするつもり、お願いね』
「ええ」
深く頷く。
普段から笑顔を絶やさない彼女だけれど、今は終始神妙な顔つきだった。
私がはっきりと覚えているのは小さかった頃の記憶。
家でママが帰ってくるのを待っていた時、知らないお姉さんがやって来てママの所へ連れて行ってあげると言われた。
その後急に眠くなって起きたら少し痩せたママが私を見て抱きしめてくれた。
それからママと知らない世界に行って一緒に暮らし始めて、学校にも通って新しい友達も沢山出来た。
その頃のママは病気で辛そうだったけれど、日が経つに連れいつもの…私の知っている元気なママに戻った。
色々あった夏休みも終わって新学期を迎えた日
「ねぇねぇ、あの子…」
「え~そうかな…」
「あの子…」
「本物じゃない?…」
「……なんだかずーっと誰かに見られてる?」
レールトレインの中でヴィヴィオは変な視線を感じていた。
その視線は登校中のレールトレインに乗った時から始まって、Stヒルデまでの通学から教室に入るまで続いた。その後も授業間の休憩時間、お昼まで視線は消えなかった。
真夏の猛暑が真っ盛りなある日、管理局本局から少し離れた世界で新型のデバイステストをしていた高町なのはは愛機レイジングハートの調子がいつもと違っているのに気づいた。
魔法を使おうとするとちゃんと思った通りの魔法が発動するし、細かな調整も出来るから異常と言うほどのものでもない。でもいつもとどこか違う。
「レイジングハート、どこか調子悪い?」
気になって話しかけると
【Master…】
愛機から予想もしていない答えが返ってきた。
「…ハァ…」
彼女は深いため息をついていた。
そこは聖王教会から少し離れた所にある大きな建物。その中の1室で1人の女性が…
「…ハァ…どうしたものかしら…」
深いため息をついていた。
「プレシア~チェントとお菓子作ったから一緒に食べま…どうしたんです?」
そこにやって来たのはシスター服のセイン。
「ありがとう、今行くわ。」
椅子から立ち上がった。
「これ…本当にヴィヴィオがしたの?」
翌朝、なのははフェイトやルーテシアを伴って昨日の場所に来ていた。薄暗かったからストライクスターズで岩山が吹き飛んで穴が出来ただけだと思っていたけれど…
明るくなった状態で見ると思っていた以上に凄まじい状態になっていた。
巨大なクレーターの中に水が流れ込んで小さな湖になっていたのだ。
周りには岩山だった物の残骸が付近に散らばっていて、放たれた魔法の威力を感じさせた。
当の本人は帰り支度をアリシアと一緒に行っている。終わり次第念話を送って貰って、聖王化を見せる事になっている。
「じゃあ練習に戻ろっか、でも今日は魔法を使わないでね。」
ミウラとの話も終わり、なのははミウラに声をかけた。
「はい♪」
「ミウラちゃんは先に行ってて。私はヴィヴィオと少し話があるから」
ヴィヴィオも一緒に練習に戻ろうと椅子から立ち上がったけれど、彼女はヴィヴィオを引き留める。ミウラはペコリと頭を下げて部屋から出て行った。
「魔力計測値は…Sランク! ヴィヴィオ、プログラムで調整するよ。そのままじゃ魔力量に差がありすぎるから。少し重くなるけど我慢して」
なのははレイジングハートを通してヴィヴィオの魔力量を確認する。
この前は一瞬だけ見ただけだったけど彼女とミウラでは魔力保有量に差がありすぎる。
さっきの質問はこの為だったのだ。
(ヴィヴィオ…さっきベルカ聖王って言った。自分が聖王家の子孫なのを受け入れてるんだ…)
「うん、わかった♪」
こっちの世界に来てから6日目の朝、ヴィヴィオが起きてくるとキッチンではメガーヌとなのはが2人で朝食の準備をしていた。
キョロキョロと辺りを見るがフェイトの姿が見当たらない。
「おはようございます。あれ? フェイトママは?」
「おはようヴィヴィオ、フェイトちゃんは空港まで迎えに行ってるの。練習に参加したいって子がいるから」
誰だろう? 首を傾げる
突然目の前が真っ暗になって、気がついたら全然知らない部屋に私は居た。
「ホホハ…(ここは)」
しゃべろうとしたら口に何か挟まっていて上手く言葉に出来ない。口の物を取ろうとして手も動かず、後ろで何かに固められているらしい。
(何…)
「ヴィヴィオ、起きた? 大丈夫?」
「アヒヒア(アリシア)」
「声を出さないで静かに、わかったら頷いて、違ったらゆっくり横に顔を振って。何処も痛くない? 気分はどう?」
「明日からの練習なんだけど何かリクエストあるかな?」
全員で楽しい夕食の後、お茶を入れながらなのはが聞いてきた。
「チーム戦をするには人数も少ないし、基礎練習と何度か1on1でいいんじゃないかな? 次のインターミドルまで時間はあるからその間に基礎力強化と弱点を克服、得意技を更に強化する。」
こっちのヴィヴィオやアインハルト達が頷く。
そこへ私が手を挙げる。
「ここがカルナージ…」
3日目、ヴィヴィオとアリシアはヴィヴィオ、アインハルト達と無人世界カルナージにやって来た。
魔法を使った模擬戦や練習試合をするにもミッドチルダでは色々制約があり、特にRHdは起動させるだけで問題がある。
(仕方ないよね…)
それなのに先日の誘拐でRHdと悠久の書を使ってしまい、心配性のフェイトが急かした事もあって予定より1日早くカルナージに来ることになってしまった。
「………」
「………ヴィヴィオ……」
「……うん…」
ミッドチルダ地上本部からヴィヴィオとフェイトが誘拐されたと連絡があった。でも私はここに居る…ということは
「リオ、ヴィヴィオ大変! アインハルトさんからヴィヴィオとアリシアとはぐれちゃったんだって!」
通信を終え血相を変えたコロナがこっちにやって来た。
「はい、ヴィヴィオです。」
アインハルトと別れて高町家に戻って来た後、先に戻っていたヴィヴィオと一緒にお風呂に入って3人一緒にヴィヴィオの部屋の彼女のベッドに入り…泥の様に眠った。
異世界でほぼ1日過ごしてブレイブデュエルで戦って、転移魔法を使い、更にここでほぼ1日過ごしたのだから疲れは一気に出て、ベッドの温もりに触れた途端微睡みに包まれた。
「あ~びっくりした。」
はやて達と別れてからヴィヴィオは胸を撫で下ろした。
「会わない所を探したつもりだったんだけど。私もびっくりしちゃった」
ヴィヴィオも内心とても慌てていたらしい。
「ですが、ここでお会いして良かったです。もし私達がトレーニングセンターでデバイスを使っていたら…大変な目に遭っていたでしょうから。」
「ヴィヴィオやアインハルトさんも負けちゃったんだ…」
ストライクアーツの大会、インターミドル。ヴィヴィオもアインハルトもヴィヴィオから見ればかなり強かった。それでも負けたという事にヴィヴィオは少なからず驚された。
「アインハルトさんの対戦相手前回のチャンピオンだったんですよ、負けちゃいましたけど本当に僅差だったんです。」
「私なんてとても…相手選手が強すぎて全く歯が立ちませんでした。全国レベルの強さを思い知りました。」