「ここがグランツ研究所ですか?」
「そうだ。」
研究所の敷地に足を踏み入れたヴィヴィオは周りの光景に驚いていた。建物の大きさもさることながら、周りに幾つもの花壇があって色とりどりの花が咲いている。しかも凄く手入れが行き届いている。
その一角に動く影を見つけた。その影がこちらに気づくと立ち上がって
「こんにちはリインフォースさん、とようこそグランツ研究所にヴィヴィオさん」
「ユーリ遅くなった。彼女はユーリ・エーベルヴァイン、ここで博士を手伝っている。」
リインフォースに紹介されたユーリは頬を赤めて会釈をする。
「こんにちはユーリさん、ヴィヴィオです。」
(やっぱり、ユーリだった。でも…)
「ねぇヴィヴィオ、さっきのデュエル本気じゃなかったでしょ。」
T&Hでアリサとすずかとデュエルをして八神家への帰り道、アリシアに唐突に言われた。
「えっ? 本気じゃなかったって?」
一緒に居るなのはも聞いてくる。1人帰らせるのは心配だからと、家に帰るなのはとアリシアが送ってくれる事になった。
「何て言うか…いつもみたいな感じじゃなくて何か試してた気がして。そうじゃない?」
2人にジッと見つめられたじろぐ。
「どうしてこうなっちゃったんだろ…」
シミュレーターの中でヴィヴィオは呟く。既に日は暮れてT&Hも閉まっている。
「仕方ないっていうかみんなからお願いされちゃったらね…」
隣のシミュレーターでアリシアが苦笑している。
釣られてヴィヴィオも苦笑する。
『ヴィヴィオちゃん、アリシアちゃんもごめんね。』
「いいですよ。お話するより手っ取り早いです。」
「うん。」
アリシアの言葉に笑って頷く。確かに複雑な自己紹介するより簡単だ。
『じゃあいくよ。ブレイブデュエルセット、レディゴーッ!』
(さっきの電話って…アリサだよね?)
T&Hへ戻る最中、ヴィヴィオはなのはとフェイトの後ろを歩きながら考えていた。
アリサからの電話の後2人ともどうも様子がおかしい、時々こっちを見て笑みを返すけれどその後ため息をついている。T&Hへ戻る足取りも重い。
「もしかして、なの…」
「なぁ、ヴィヴィオの世界に私も居るよな? …その…」
ヴィヴィオが聞こうとした時さっきから黙って付いてきていたヴィータが聞いてきた。
「大人の私、シグナムとかリインフォースみたいに大っきいのか?」
「ヴィータ…さっきはやてが聞かない方がいいって言ってたよね?」
「ありがとう~。みんな出かけちゃってサポート私だけじゃ無理~どうしようって思ってたんだ。」
アリシアがうさぎ耳をつけたまま振り返って言う。彼女はデモプレイが終わった後も解説を続け観客を楽しませていた。
「ううん、みんなで遊ぶの楽しいよ。」
彼女の笑顔を見てアリシアも笑って答える。
ヴィヴィオがなのは達と一緒に外に出かけて行った時、アリシアにはここに残って欲しいと頼まれ2つ返事で引き受けた。
「やっぱり1発じゃ全部壊せないか・・・じゃあこれはどう?」
再びクロスファイアシュートの発射態勢をとる。
ティアナの得意魔法、クロスファイアシュートは複数の誘導弾によって空間制圧を目的に組まれたミッドチルダ式の魔法。ショットガンの様に小型の魔法弾殻を多数放つヴィヴィオの魔法―セイクリッドクラスターにとても似ている。しかしこの魔法にはセイクリッドクラスターに出来ないある『特性』がある。
それは多数のスフィア―誘導弾を集束させて砲撃魔法に出来る事。
スフィアの数を変える事で威力を調整出来、更に遠隔操作により離れた場所からでも発射可能、それらを応用すれば1人で相手に対し集中砲撃も出来る。
それらの特性を本能的に知ってか、ヴィヴィオはこの魔法を得意としていた。
それがブレイブデュエルの中で今火を噴く。
「初挑戦で苦も無く19体か・・・流石ショップチームのエースね。」
「次ので最後か・・・最後のって何だっけ?」
「私達が4人で挑んで1度も勝てなかった相手です。」
「多層式のシールドを落とし、新たなシールドを作らせない様にしつづけながら砲撃系を数発入れなければ勝利はありません。魔力総量から見て4人では勝てない相手です。ですが・・・5人なら・・・」
「テストで何度も戦った我らとは違う。あやつ達は初めてだ。まぁ、ここまでだろうよ・・・」
彼女はそう言いながらモニタ画面に映る5人の少女達を一瞥し手元にあったカップに口を付けた。
「え? 私達がフェイトやなのは達と一緒に?」
「いいの?」
ある日の夜、ヴィヴィオは高町家にお呼ばれになっていた。その時にブレイブデュエルの新しいゲームシステムのお披露目にゲスト参加して欲しいと頼まれた。なのはも参加するらしい。
「いいよ~そろそろ練習の成果見てみたかったし、フェイトと一緒に登場したらみんなビックリするよね♪」
楽しそうに言うアリシアとは違い、まだ上手くブレイブデュエルで遊べないヴィヴィオは迷う。
「ん~っ! 気持ちいいね~♪」
晴れ渡った青空と海から来る潮風を感じながらヴィヴィオは伸びをした。
こっちに来てから今日で5日。まだ戻る方法のきっかけすら掴めない。心の焦りが出ていたのかアリシアが「遊びに行こう」と誘ってくれてはやても
「今日はゆっくりしてたらいいよ。天気もいいし海でも行ってきたら?」
と本の整理途中に半ば無理矢理追い出されてしまった。
「八神堂にいらっしゃ~い♪」
(は…はやてさん…)
ヴィータと一緒にやってきたのは八神堂と看板が掲げられた古書店だった。
ヴィヴィオ達が居る元世界とは全然違う世界と思っていたけれど、読書好きのはやてが古書店に居るのはどこか繋がっている気もする。
でも…
「大学卒業して社会人1年生!? ここ…はやてさんのお店!?」
アリシアと2人目を丸くして驚く。
「フェイトちゃんのそっくりさん?」
ヴィータが初心者に負けたと聞いてはやては冷やかし半分励まし半分で声をかけた。しかし彼女から聞いたのは行った先でフェイトそっくりの女の子が居たことだった。
「フェイトちゃんと見間違えたんとちゃう? それかアリシアちゃんかレヴィの変装とか?」
「ううん、ホントにフェイトそっくりだったんだ。ジャケットはライトニングだったけど、レヴィとは闘い方も全然違ってて…後で来たフェイトも驚いてた。あともう1人初心者も…いたけど、白のセイクリッドで見たことない砲撃撃ってすぐぶつかってきて…」
「結構近くでビックリしたね。」
少し大きめのリュックを背負ったヴィヴィオは隣のアリシアに向かって言った。
「うん、でも…そんな建物海鳴にあったかな~?」
首を傾げて答える彼女はリュックが2~3個入りそうな大きなトランクを転がしながら歩いている。
「お店の人からも地図貰ったから、早く言って元の世界に戻る方法さがそ」
「…そうだね。うん♪」
彼女には何か思う所があるらしいが、それでも2人の足取りは軽かった。
「挑戦者、フェイトだったら大ラッキー、他の知ってる人だったらラッキーってとこかなっ♪」
アリシアが上空に見えるウィンドウ目がけて突き進む。
設定ボタンに『挑戦者求む』の項目があったからそれをチェックしておいた。
魔法の無い世界でどうしてゲームの中で魔法が使えるのかは判らないけれど、デバイスホルダーに刻まれたミッドチルダ式のプログラム起動用魔方陣は何かに関係している。
フェイトと間違われ、彼女がロケテストをプレイしているのであれば彼女の友人、なのは達も同じ様にこのゲームで遊んでいる。
だったらただむやみに動くのではなく、彼女達の誰かが気づく様に網を仕掛ける。
「っと、到着。ってあれ?」
トンっと降り立ったヴィヴィオが辺りを見回す。
使ったのは時間移動魔法-【時空転移】ではなく異世界間に存在する刻の魔導書を使い移動する【旅の扉】…の筈なのだけれど…
「ねぇヴィヴィオここ海鳴じゃない? 少しだけ海の香りするし、あっちに見える看板日本語だよ。」
「えっ?」
彼女の視線を追いかけ看板を見つける。確かにミッド標準文字じゃない。
。
世界は必然が積み重なってできている。
いくら偶然と思えようと何か理由があるからそこにある。
必然が連なっているからこそ世界は成り立っている。
例え幾つもの事象が目の前にあっても、選んだ事象だけが必然になる。
些細な事でも重大な事でも変わらない。それが理であり真意。
これはそんな理を築く少女の物語
「ただいま~。あ~疲れた…」
夜も更けた頃、はやては自宅に戻ってきてソファーに寄りかかる様に倒れ込んだ。
「はやてちゃん、毎晩遅くまで何してるんです? 退院して直ぐにこんな調子じゃ体調崩して病院に逆戻りですよ。」
シャマルが怒りつつも湯飲みを持って来てくれた。
「ごめんな…ちょっと本の虫になりすぎて…最終のレールトレインぎりぎりやった…」
「レールトレインって…何処に行ってたんですか?」
「………」
「…………」
彼女の目が怖い。体を起こして彼女に向き合い白状する。
「ん…? ここは?」
目覚めたら見慣れた天井が広がっていた。プレシアの研究所に運ばれたらしい。
「アリシア…良かった…失敗したんじゃないかって…もう起きないんじゃないかって凄く怖かったんだからっ!」
「ヴィヴィオ…」
体を起こす前にヴィヴィオに抱きつかれアリシアは自分に何が起きたのかを思い出した。
「…ごめんね…ヴィヴィオ…」
常にアリシアがヴィヴィオに勝てる可能性はあった。
彼女と彼女のデバイスのリンクを切ってしまえばいい。
融合してしまっているから取り出しようも無いが、そのリンクを一時的にでも阻害できれば…彼女の力は消えてしまう。
でもアリシアはその考えを最初から捨てていた。
ヴィヴィオとRHdは相乗魔力増幅機能を使っているから切った時ヴィヴィオに何が起きるかわからないからだ。
だからと言って彼女を本気に、聖王化させた上で勝たねば意味がない。
「受けてくれない? 私からの挑戦状」
「…じょ…冗談だよね? もーアリシアったら驚かさないでよ。朝から聞いてすっかり目が覚めちゃった。…アリシア…ママ…」
アリシアが私と模擬戦?
朝から驚かそうとしてると思って笑った。しかしアリシアの表情は変わらず、奥で様子を見ていたなのはとソファーでこっちの様子を見ていたフェイトを見ると2人とも静かに頷いた。
ママ達が何も言わないのは既にアリシアから聞いて知っているということ。それはつまり…冗談ではなく…
(本気…なの…?)
。
いつもヴィヴィオSS「Asシリーズ」おつきあい頂きありがとうございます
読み返せば誤字脱字や変な言い回しも多く、読んでストレスを感じられなかったかとヒヤヒヤしています。
先日AffectStory1話のコメントで
Asシリーズの舞台裏というか話について触れさせて貰ったところ、Web拍手で色々コメントを頂きました。
その中で登場キャラクターについての質問が多かったので、AffectStoryのネタバレにならない程度で書かせて頂きます。
(ある意味自虐ネタ・ネタバレもありますので読まれてない方は先に本編の方をどうぞ。)
ということで、その1はヴィヴィオとアリシアの2人です。
※AgainStory3迄の情報を追加しました。(2013/09/29)