「…うん、そうや。私ももう治ったからな、検査結果送ったやろ?」
「……ええよそれくらい。帰りに買うから。シャマルまた後でな」
アリシアがはやての所に見舞いに来た翌日、知らせを聞いて病院に駆けつけたシグナムとヴィータが目にしたのは私服に着替え衣類や小物をバックに詰め込むはやての姿だった。
シャマルが念話で引き留めようとしたものの軽くあしらわれてしまった。
「はやて、まだ寝てなくちゃ…」
「ヴィータ、丁度いいわ。これ持って。アリサちゃんとすずかちゃんからもろた見舞いや。帰ったら一緒に鉢へ植え替えような。」
「う~ん…ユーノ君でもきついか…」
ユーノにある調査を頼んで2日後、はやては彼から届いたメッセージに目を通していた。
ヴィヴィオに関わっているのを気づいているのか、古代ベルカ関係を主に調べてくれたらしいがかすりもしないらしい。
「…やっぱりヴィヴィオやったんかな?」
端末を切ってベッドに寝転ぶ。
成長したヴィヴィオだと決めつけてしまえばそれまでなのだが、どこか引っかかる。
ヴィヴィオのRHdの解析結果が欲しいが、権限が奪われている今はこの映像しかとっかかりがない。
「ママ、チェント、レヴィ…お願いがあります。」
テスタロッサ家での夕食の一時の後、アリシアから出た言葉。
「…ヴィヴィオとの模擬戦で私が勝つ方法を一緒に考えてください。」
「ヴィヴィオとの模擬戦に勝つ方法?」
彼女は強く頷いた。
プレシアは何かの冗談かと思ったが、聞き間違いではないらしい。
ヴィヴィオとケンカでもしたのか?
「じゃあ私、無限書庫に行かなきゃいけないからまた明日ね~」
「うん、ごきげんよう」
「ごきげんよ~」
教室を出て行くヴィヴィオを目で追いかける。出て行った瞬間「ハァ…」とため息を漏らした。
「大丈夫? 授業終わってから調子悪そうだけど…」
「先生のところ、行く?」
コロナとリオが心配そうに声をかけてきてくれた。
「ううん、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから。私も行くところあるからまた明日、ごきげんよう」
そう言うとアリシアも彼女の後を追うように鞄を肩にかけて小走りで教室を出た。
「ん~っ」
ベッドで目覚めて伸びをする。
レヴィの朝は早い。
早く起きて何かするわけではないけれど寝ていては勿体ないと考えるのが彼女だったりする。
「シュテル、王様、ユーリ、朝だよー…そっか」
部屋内で眠る3人を起こそうと声をかける。しかしその声に応える者は誰も居なかった。
皆出かけてしまったからだ。
「こっちも同じです。」
看板を見ながらユーリは迷わず着いた事に喜んだ。
数日前、ディアーチェが会わなければならない人が居ると言って居候中のテスタロッサ家から離れた。翌日シュテルも何か想いがあったようで高町家に行くと離れた。
そしてユーリもこっちに来てから行きたい場所があるとプレシアに伝えた。
翌日、プレシアから移動方法とパスを貰い幾つかの交通機関と転送ゲートを使いその地へ向かった。
「全く…手間取らせおってからに…」
古ぼけた教会の前に立ったディアーチェはため息混じりにぼやいた。
ここに辿りつくまで酷い行程だった。
3日前、プレシアに頼み移動方法を教えて貰い、管理局、聖王教会のパスを受け取ってテスタとっさ家を離れた。
八神はやてに話をすれば簡単だったのだろうが、まだ彼女と顔を会わせる気になれなかった。だがそれが思わぬ影響を及ぼした。両方とも巨大な組織だからなのか経由世界まで話が通っていなかったのだ。
住宅地の郊外にある公園で、1人の少女が目を瞑って立っている。
彼女の近くには女性が2人いるだけで周りには人気がない。
公園一帯が何重もの強力な結界にも包んでいるからだ。
そして公園中央に居る少女の頭上には彼女の背丈程もある虹色の光球が浮かんでいた。
光球の周りでは何かが微かに煌めき、光球に吸い込まれていく。
その様子を女性達は静かに見守る。
やがて光球は徐々に小さくなり霧散した。
「フゥ…どうだった?」
少女は瞼を開き2人を見る。女性の1人がもう1人の方を見ると
「うん、良い感じだけど、まだ魔力を集めきれてないかな」
「う~ん…」
「でも前より凄く良いよ。少しずつ集められるようになろう♪」
「うん♪」
そう、私高町ヴィヴィオはなのはママとフェイトママに魔法の練習を見て貰っていた。
「こんにちは、はやて」
「フェイトちゃん」
はやてが病室のベッドで本を読んでいるとドアがノックされた後フェイトが入ってきた。
「入院って聞いたけれど、大丈夫?」
心配そうにこっちを見る彼女。どうも入院したという話は聞いていても事情までは聞いていないらしい。
「心配してくれてありがとな。入院って言うても検査入院やしみんな揃って私を休ませようってしただけなんよ。」
「そ…そうなんだ。良かった…私、てっきりはやてがなのはの時みたいに怪我しちゃったんだって思って…」
「…本当にいいの?」
「構わん。」
目の前の彼女が頷くのを見てヴィヴィオはそれ以上言えなかった。
色々あった闇の書事件の記録映像撮影が終わってから数日後、ヴィヴィオはプレシアの研究施設へとやって来ていた。
その理由はというと撮影中にあった事件で併行時間、異世界から来て貰った闇の書のマテリアル達、シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリを元の世界へ送る為だったのだけれど…
「我らは暫くここに滞在する。帰る時になれば呼ぶ。」
「はい、その時はよろしくお願いします。」
「シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ、リインお疲れさん。アギトも色々ありがとな」
本局広報部が用意してくれた車で送って貰ったはやては家に着くなりドサッとソファーに倒れるように身を預けた。
撮影が進む中でリインフォースに会いたいと思う気持ちは強くなっていた。それがまさかジュエルシードを発動させるとは…身につけていたのにも気づかないなんてロストロギア管理の専門部署責任者が聞いて呆れる。
(暫くクロノ君に話のネタにされそうやな)
記録映像が公開された時、私達はどんな目で見られるのだろう?
厄災を止めた者?
記憶が蘇り悪意の目を向けられる?
…出来れば今までと同じ様に見て貰いたい。でも私を含め家族の境遇を知って貰えれば色んな所からの風当たりも和らぐだろう。
(まぁ良かったんとちゃうかな…)
アクシデントのあった無人世界の撮影が終わって
翌週、撮影の舞台は変わってミッドチルダ、クラナガン郊外にヴィヴィオ達の姿はあった。
「私はなのはちゃんとフェイトちゃんの後輩やね…」
八神邸のリビングで、この家で撮る最後のシーン。
戦闘シーンを取る前にあったミッドの撮影スケジュールに入っていたシーン、でも全部の撮影した後の方が気持ちが伝わるだろうという思いからか、いくつかのシーンは後で撮影されることになった。
クロノとリンディがクラウディアで広報部局員と話していた頃、無人世界では準備が整い撮影が再開されていた。
今から撮影するのははやて扮するリインフォースとフェイト、なのはの激突シーン。
はやてはヴィヴィオとの戦いで相当なダメージを受けていてシャマルを含む医療班や撮影スタッフから代役を立てるという提案もあった。しかし…
「私は大丈夫です。全面協力するって言ったんですから代役頼んだら全面協力とちゃいますよね。」
意識を失ったはやてはそのままクラウディアの医務室へと運ばれた。半日後、クラウディアのあてがわれた部屋で休んでいたヴィヴィオは目覚めたはやてに呼ばれ医務室へと行った。
「ごめんな、迷惑かけてしもて…ありがとな。」
「うん…」
経緯はなのはかフェイト、シャマル達から聞いたのだろう。いつもみたいに冗談やからかいもせず何ともいえない表情の彼女にヴィヴィオもそれ以上何も言えなかった。
(…何をしているの?)
クラウディアとアースラの通信士はサブモニタを見て首を傾げていた。現地で指揮を執っていたハラオウン執務官と高町教導官が揃って奇妙な行動を取り始めたからだ。
その行動とは…
「ディバインバスターッ!」
桜色の光の筋が伸びて海から伸びた岩に直撃し粉砕する。
続けて同色の魔力弾が残った岩を砕き何本もの水柱を作り出した。
「トライデントスマッシャーッ!!」
水柱から少し離れた岩塊に金色の光が伸び消滅させた。
辺りの岩塊が見当たらなくなったら2人はその場を移動し進行方向の岩塊を壊していく。
「全く…」
「命令無視もここまでされると気持ちいいわね。」
クロノとリンディは揃って嘆息した。
リインフォースとヴィヴィオの戦闘は激しさが増していて手の出しようがない。現地にいるエースオブエースと執務官が手を出せない状況に武装隊を入れても何も出来ないとわかっている。
結界を張った少女の前へクラウディアに居た筈のシグナム達が転移してきた。
「エイミィ、今から起きる事全てをアースラ、クラウディアから全て破棄してくれ。」
『えっ? 何? 何かあったの?』
クロノはエイミイの個人端末を呼び出す。彼の代わりに調査をしていた彼女はあまりに突然の事で事態がわからず聞き返してきた。
説明しようとするがクロノ自身にも状況を説明出来る程把握手来ている訳ではない。
1時間後、はやてがバッグいっぱいの食材を買ってきて用意していると、シグナム達が帰ってきた。
「…誰だ?」
「…はやてちゃんのお友達かしら?」
「……ヴィヴィオ?」
「あっ!」
4人ともヴィヴィオの顔を見て誰だろうと一瞬怪訝な顔をするがその後思い出す。
「リンディ提督、失礼する。」
リンディがランチルームでエイミィと少し遅れたお弁当を食べているとディアーチェがレヴィを連れ入ってきた。
「いらっしゃいディアーチェちゃん。珍しいね。どうしたの?」
エイミィの言葉に頷く。闇の書のマテリアル、闇統べる王としての記憶もあるのか彼女は他の3人とは違いアースラスタッフや管理局と一定の距離を取っている。
そんな彼女が何用だろうか?
「ん? 何か音が聞こえなかったか?」
コトッと何か落ちる音が聞こえリビングから寝室へと行くと床に本が落ちていた。分厚い本だ、図書館で借りてきてまた寝る時に読んでいたのか…
「借りた本は丁寧に扱え、寝る前に読むなとあれほど言っているのに…全く、あやつは」
ブツブツと呟いていると甲高い電子音が聞こえた。
「うむ、洗濯機が止まった様だな。ユーリすまないが手伝ってくれ。」
「は~い。今いきます」